第26章 想定外
こんばんは、こんにちは、おはようございます。
人生のすったもんだがありまして、半年近くお休みしていましたが
やっとこさ更新できました。
2024年、始まっちゃったじゃんよ。
第26章 想定外
銀色の巨大円盤ドラン号は、砂浜の波打ち際に突き刺さっていた。
その背後には、ドラン号を盾にしてダグのフレイムダガーとシロエの白いティンガーロボが小銃を構えて応戦している。
僕の仲間に攻撃を加えているのは海岸線から飛来した三機の戦闘機だ。
ワルキューレ。
僕たちが乗り込んでいるこの宇宙船が地球から飛び立つ前に地球のテレビで放映されていたアニメに登場する、地上でも宇宙でも戦闘行動ができるマルチロールファイターだ。
登場するアニメでは、人間の10倍も体が大きな巨人と戦い、彼らの乗る超巨大宇宙船を単機で轟沈させることのできる戦闘力を持っていると言われている。
このバトルゲームではその戦闘力がどこまで再現されているかは分からないけど、強力な兵器であることは間違いないみたいだ。
その証拠に奴らが絶え間なく放つミサイルは、文字通りドラン号の装甲を徐々に削っているのがここからでもよくわかる。
「ロム!お手柔らかに……ううん、思いっきりお願い!」
ついさっきそう言い残して飛び立ったクロエのティンガーロボのさらに先、ドラン号とダグたちの圧倒的不利な状況の防衛線には、ひときわ大きな火柱が上がっていた。
「ナパーム弾って所なのにゃ……」
深紅のドラゴンの体となった僕の、人間で言うとうなじあたりに腰かけているミュートが独り言ちた。
ミュートの顔に向けられたカメラが、彼女の険しい表情を映し出す。
一瞬だけ彼女の顔を見たけど、僕はすぐに視線を防衛線の方へ向け直した。そろそろクロエが防衛線に到達する頃だ!
銀河竜バーンと、シルバーンの装備を手に入れたミッションのあと僕たちは、スレイプニールとの戦いに備えて「連携技」を何個か編み出していた。
今ティンガーロボをレッドドラゴンのブレスで打ち出す技もその1つだ。飛行能力のないティンガーロボを目標地点まで急速で放つ連携技……。
「ティンガーロボ・ダイナマイツが間に合えばいいんだけどにゃ」
ミュートが独断で命名したその技は、現状僕たちの生命線になるかもしれない。
「えっと……やっぱりその名前にするの?」
「何を今さら言っているのにゃ?」
「いやなんか、この後ティンガーロボが爆発四散しそうな感じがして……」
「え?違うの!?爆弾を抱えたティンガーロボが敵地のど真ん中で大爆発。敵味方もろとも、あたり一帯を焼け野原に……」
「しないってば!そんなことしたら僕たちの負けになるじゃないか!」
「にゃによ、つまんなーいにゃ」
「縁起でもないことを言わないでよ。ってか、見てみてよ!クロエの大技なんだから」
僕はカメラを望遠モードにして、防衛線に駆け付けたクロエのティンガーロボにズームした。
超加速をしたティンガーロボは、正に黒い弾丸だ!
真っすぐに三機の戦闘機の背後に向かっていった。
直撃コースかと思われたけど、相手も百戦錬磨の航空機チームだ。すぐにそれを察知して急上昇した。
ミサイルか何かだと思ったのだろう、三機の戦闘機はいずれもチャフやフレアを発射し、対比行動に移っていた。
しかし、背後から迫っていたのは誘導弾ではない!
クロエの描く回転の弧が、一瞬でググッと広がった!
ティンガーロボが内蔵している長柄のバトルハンマーを取り出したんだ!それと同時に背面と脚部からジャンプ用ブースターに火がともる。
未だ距離のある僕からは、漆黒の巨大ねずみ花火か、はたまた火花を散らす回転のこぎりの刃のようにみえた。
クロエは変化した遠心力と、サポートナビが計算したブースターのベクトルを組み合わせて、急上昇して逃げてゆく戦闘機の一機の背面に取りつき始めた!
戦闘機はコックピットの下に設置された機銃を使い、クロエを迎撃するも、クロエもハンマーの先端を使い迎撃弾を跳ね返してゆく。
「嘘みたいにゃ……。どうやって計算しているのにゃ」
アイズのミュートですら驚く、完璧に計算されたクロエのモーションパターンに驚愕したのは見た方の僕たちだけじゃないはずだ!
クロエに狙われていない二機の戦闘機ですら、クロエの獲物を逃がすための援護行動を取れないほどだった。
「必殺!絶・天狼ティンガー牙!」
辛うじて繋がっていたクロエのコックピットマイクから、彼のド迫力の叫びが聞こえると同時に、クロエの漆黒の刃が戦闘機を捕らえた。
「まるで三枚おろしなのにゃ……」
爆発する間もなく、尻から頭まで上下に切り分けられたスレイプニールの戦闘機ワルキューレーは、クロエの刃が機体を完全に通過した後になって、思い出したかのように爆発四散した。
そしてその爆発のはるか上空で、飛行機雲をたなびかせて海上へと引き返す二機の戦闘機の機影が見えた。
竜が浜争奪戦の第一波は、どうにかして生き残ることが出来たみたいだった。
「被害状況の確認をするのにゃ」
浜辺に到着した僕のうなじから飛び降りたミュートは、ダグのファイヤーダガーの足元にいるミカに駆け寄っていった。
逆にファイヤーダガーからダグが降り立ち、僕の方に小走りでかけてきた。
「何とか間に合ってくれたか!」
ドラゴンから降りた僕は、ダグに手を振り彼を迎えた。同じようにエンゼル兄弟もこちらに歩いてきている。
「間に合ったと言えば、そうかもな」
ドラン号へもたれ掛かるようにして立っている白いティンガーロボを見て、エンゼル兄弟の長兄シロエがスキンヘッドの後頭部を搔きながら僕たちに近寄ってきた。
「相手のミサイル攻撃が強力過ぎだ!たった1回の戦闘でティンガーロボをお釈迦にするところだったぜ」
シロエのティンガーロボは、見るも無残な姿になっていた!
胴体部の装甲が剥がれ落ち、内部メカが所々露わになっている。右脚部からは煙が噴き出しオイルが流れ出ている。
「まぁ、あの連携技が1回ぐらいは出せるぐらいの余力は残っているがな」
そう言うとシロエは僕の肩をドンと叩いて、ウインクした。
「僕もまだまだ戦えるよ、ロム」
シロエの隣に並んで立ったクロエが僕に笑いかけ、自機に目を移す。
クロエの漆黒のティンガーロボも、先ほどの連携技でダメージを負っていたのにやっと気づいた。
長柄ハンマーは先端が大きく曲がり、次の戦闘では使えないほどだ。胴体部にも何個も穴が開いているのが見て取れる。捌き切れなかった機銃を受けたものだと分かった。
それを見た僕の表情を見て感じ取ったんだろう、クロエが僕の左手を両手でぐっと握ってくれた。
「兄さんの言う通り、あの連携技は1回ぐらいは出せる見込みだよ」
クロエの顔はやる気に満ち溢れていた。
「大丈夫だよロム!僕たちがついているよ!」
クロエの握る力が少し強まったのに、少し嬉しくなった。
「状況が把握できたわよ、みんな」
ニャンルーのアバターを着たミュートを赤ん坊のように抱えたヤヨイさんが、ミカと一緒に僕らへ近寄ってきた。
抱えられたミュートは、すぐ目の前に出現させたウィンドを小さな肉球で突っつきでデータを読み取っている。ミカはお盆に飲み物の入ったグラスを人数分用意して持ってきてくれているようだ。
「まずはドラン号からね」
ヤヨイさんがそう言うと、ミュートはウィンドを皆が見えるように大きく写しだした。
「装甲の約半分が破損したわ。レーザー機銃は七割が使えない。幸いなのはエンジンには被害が無いから、空中を航行して囮になる事は可能よ!」
続けてミカが口を開いた。
「フレイムダガーはほとんど被害がありません。戦闘や合体も問題ありませんが、エネルギーが不足しています。現状での最大稼働時間は5分程度でしょうね」
それを聞いたダグが肩を落とす。
「勇者ロボって言っても、長時間戦闘が出来ないんじゃーな。スーパーパワーがおいそれと発揮できるわけじゃないって事か」
「当時のアニメを見て、なんで必殺技をすぐに使わないのか疑問に思っていたが、こう言う事だったんだな」
シロエも釣られて、ダグと一緒に大きなため息をつく。
「僕たちのティンガーロボなんて、例の連携技が1回出せるかどうかなんだから、こっちの方が被害は大きいよ」
それを聞いたシロエの肩が、さらに下に落ちた。
「で、ロムは現状をどう思う?」
ダグが険しい表情で僕に聞いてきた。それに答えた僕の言葉に、その場の全員は少し息をのんだ。
「これは……想定外だと思っている」
海面からの高度を取り、かなり上空を飛行する僕とミュートは他のメンバーに通信チャンネルを開いた。
「こちらレッド。ドラン号の調子はどうだい?」
「こちらフレイムダガー。航行には問題ないが、時々船体から煙が出ているな」
いつもよりもトーンの落ちたダグの口調が、彼の不安さを表していた。
「ですが、作戦には問題はありません」
逆にミカははっきりとした口調だ。
「こちらシロエ。現在も修理作業をしているが、所詮は応急処置だ。あれをやれるのは一発だけだからな」
「兄さん、不安をあおらないでよ。ロム、本当に一発だけでいいんだよね?」
「あぁ、クロエの言う通りだよ。ミュートの立てた作戦なんだ、問題ないよ」
この数日でクロエも随分と兄に言うようになったみたいだ。頼もしいチームメイトだと改めて感じた。
「またミュートかー。ホント、ロムはミュートの事が大好きなんだね」
「他人を冷かす暇があったら、少しでもティンガーロボを修理するのにゃ!」
クロエの言葉にミュートが間髪入れずに反応する。この二人のそりが合わない理由が僕には理解できないんだけど……。
「ヤヨイさん、そちらはどうですか?」
「こっちも問題ないわよ!風が気持ちいいわー」
音声のみだけど、ヤヨイさんの順調そうだ。
第一波をしのいだ僕たちは、ミーティング後すぐに反撃作戦に移っていた。今度は僕たちのチームが攻めるターンだ。
僕たちは3つのチームに分かれていた。
僕とミュートはレッドドラゴンでの単機で敵母艦に接近中。左翼を預かることになる。
右翼には真っ赤な空飛ぶサイドカーに乗ったヤヨイさんだ。銀色のコンバットスーツを身にまとい、攻撃力だけで言ったら僕のレッドドラゴンに匹敵するほどだし、運動性は僕よりもはるかに高い。
左右に1キロほど離れた僕たちの後方には、サポートAIで自動航行のドラン号。その内部デッキでギリギリまで修理中の2機のティンガーロボ達。ドラン号の上にはダグの操るダガーマシーンたちが陣取っている。
三角形のフォーメーションを組んだ僕たちは、静かに波立つ海面を見下ろしながら一直線に敵のホームにどんどんと接近していた。
「そろそろスレイプニールのセンサー範囲内にゃ」
ミュートの言葉に合わせるように、応急修理の済んだティンガーロボのマーカーが『ロールアウト』に変った。修理デッキから出て、ドラン号の天面に登ったのだろう。
「さぁ、敵さんはどう出てくるかな?」
「時間からして、撃墜した戦闘機は全部リスポーンしていますね」
「アレが4機とも全部来られると、流石にきついな」
「それに、未だ姿を現さないリーダー機……。スメラギとか言ったな、あのレディーは」
全員が一斉に喋るものだから、数秒間スピーカーが混雑してしまった。
しかし、その中でもミュートの甲高い叫びは全員に伝わった!
「熱源接近!レーザー砲が撃たれたにゃ……」
ミュートの叫びが終わらない内に、僕の右前方が鋭く光った!そうかと思った瞬間、まるで光のヘビのようなものが、僕の右側をあっという間に通過していってしまった。
「こいつは……」
ダグの言葉はそこで途絶えた。スピーカーは無音のままだ。
ビーッ!
レーダーに真っ赤な光がともるとともに、脳内に直接警告音が鳴り響いた。
「ドラン号……ロストにゃ……」
大音量の警告音の中聞こえたミュートの報告は、とても小さかったけど僕にははっきりと届いていた。
更新が停滞していたにもかかわらず、お待ちいただいた読者の方々。
大変お待たせいたしました!第26章を投稿いたしました!
ホント、ラストまでもう少しってところで長い時間が空いてしまい、
申し訳なかったです!!




