第24章 指輪物語
こんばんは、こんにちは!
ひーーーーーーっさびさの更新です!
前置きは置いておきます。
それではどうぞ!
ホテルに戻った頃には夕日は殆ど沈んでいて、肌を撫でる海風は冷たさを幾分かはらんでいた。
ロビーではダグとミカがウィンドウを見ながら会議中だ。
僕の帰還に気付いたダグが、手を挙げて迎えてくれた。
「おーい、そろそろ飯にするぞ!部屋のミュートも呼んできてくれ!」
「分かった!部屋にいるんだね?」
「はい。彼女、マシーンの調整をしているはずですよー」
ダグとミカがそれぞれ説明してくれた。僕がミヤザキ氏の海の家に出かけてから、ミュートはかれこれ三時間ぐらい篭っているみたいだ。
僕はポケットの中の小箱を確認しながら、部屋に通じる階段へ向かった。
果たして、部屋の中には間違いなくミュートが居たのだが、その姿はあられもない物だった。
昨日と違いニャンルーの姿ではなかったのだけど、ソファーで横になるその寝相はニャンルーそのものだった。
どこから持ってきたのかえんじ色のジャージ上下に、頭にはタオルで作ったハチマキ。黒縁の丸メガネまでかけている。
前にミュートに見せてもらった昔のアニメに出てくる、締め切り直前のイラストレーターの姿にそっくりだ!
ソファーで横になっているといったけど、仰向けの体はかろうじて上半身がソファーの座面に食い留まっていて、下半身はだらしなく床に落ちてしまっている。
ジャージの上着の裾は、下半身が滑落した摩擦で胸のすぐ下までずり上がってしまっていた。
いつもの僕なら、見えそうになっているミュートの胸を見ない様顔を真っ赤にするところだけど、彼女がいつもは見せたがらないだらしない姿に、僕の恥ずかしさは吹き飛んでしまっていた。
「よっこいせっと……」
彼女に覆いかぶさる体制になった僕は、彼女を正面から抱きかかえてソファーの上に彼女の体を全部乗っけてあげようとした。
体重の軽い彼女の体を抱き上げるのは楽勝だと思っていたけど、つるつる滑るジャージに思いのほか苦戦してしまった。
ミュートの上半身をソファーの上に直した瞬間、僕は体勢を崩して彼女の胸の上に倒れこんでしまった。
丁度胸のふくらみの間に顔をうずめる形になってしまった。しまったと思った瞬間、その衝撃でミュートが起きてしまったらしい!
「ふにゃ……おはようにゃ……」
フワフワとした寝起きの言葉と共に、僕の頭はミュートの胸にもっと押し付けられる形になってしまった!
「ロムは本当におっぱいが好きなのにゃー。しょうがないにゃー」
昨日までのニャンルー言葉が抜けていないミュートは、僕の頭を抱きかかえながらもぞもぞと上半身を起こし始めた。
寝ぼけているのか、ミュートはまるでトラバサミの罠のように、僕の上半身を抱きしめ始めたんだ!
慌てて僕は、彼女のハグから抜け出そうとソファーに座りなおす。その隙を見逃さないミュートは、ソファーに座った僕に覆いかぶさる体制をとり始めた。
「よっこいせっと……」
ソファーに座る僕の膝の上で、僕に対面する格好で座るミュート。トロンをした彼女の眼は潤んでいるように青くキラキラしている。
「ちょっと待っててねー、ちゃんと見せるからねー……」
ミュートはそう言うと、至って自然な行為のように、ジャージのジッパーを下げ始めた!
「わわわ!待った待った!そうじゃなくて!」
ミュートのジッパーは、胸の下あたりでやっと降下を停止してくれた。
「こっちじゃないの?じゃぁコレだー……」
そう言うが早いか、僕の顔に向き直したミュートが、どんどん接近する。顔が僕の視界一杯になったかと思うと、僕の頬にキスを一回。そしてそのままの距離で、僕の鼻の頭や両のほっぺた、口の端と顔のいたるところをぺろりぺろりと舐め始めたのだ!
「こらぁミュート……寝ぼけてないで、ちゃんと起きてよー」
ぺろぺろの合間を縫って、やっとミュートに話すことが出来た僕は、残念だったけど彼女を引きはがすことに成功した。
舌を出したままのミュートは、僕の顔と自分の姿を交互に見やり、なにかに気付いたような表情になった。
「今はニャンルーじゃ無かったんだ……はっずかっしー……」
僕の膝に座ったまま顔だけを見せまいと、ミュートは無理やり上半身をひねってそっぽを向いてしまった。
そんなミュートが急にいじらしくなったので、僕は彼女を抱き寄せてハグをした。
「うー、今のは無しよ!見なかったことにして!」
必死に両手で顔を隠すミュートは更にかわいい!こんなに幼い態度のミュートは初めて見た。
「昨日までのニャンルーの癖が残っているのよ……。どうかしていたのー」
「いや……すっげーかわいかった……」
「止めてよ、もう!からかわないで」
一瞬のスキをついて僕の腕から逃れたミュートは、洗面所へと向かって言った。去り際に
「ロムも顔がべたべたになっちゃったんだから、顔を洗っておいてよね!」
と、恥ずかしそうに僕に指示をしていった。誰のせいだよ、まったく!
やっとの事で洗面所から出てきたミュートは、既に着替えを済ませていた。薄いグリーンのキャミに、ひざ下ほどのデニムのハーフパンツだ。
「あ、そうだ……。夕飯後はどうするの?」
「うーん、ダグとミカ次第だけど?」
それを聞いた僕は、改めてポケットの中の小箱を再確認した。箱はポケットの中で出番は未だか未だかと、ソワソワしているようだ。
「それじゃぁさ……ちょっと散歩しないかな?二人でさ……」
髪をブラシですいてたミュートの手が止まった。
「い……いいけど……。なーに?さっきの続きでもしたいの……?」
いじわるな口調の割にはミュートは僕に目線を合わせようともしない。その反応が余計にかわいく見えてしまい、僕はさらに追い打ちをかけることにした。
「そうだよ……。ミュートとちょっとしたデートをしたいんだ!」
ポケットの小箱が、行け!そこだ!と言っているようだった。自分でも珍しいほどカッコつけてミュートにそう答えた。
「そうよねー、ずっとほったらかしだったもんね!たまには私に構ってくれるんだー!」
相変わらず僕の方には振り向かないミュートだけど、急にブラッシングを再開し始めた。さっきよりもスピードが速い。
それを見ながら僕は無言でソファーを立ち上がり、ミュートの方へ歩み寄った。
そっぽを向くミュートの頭を撫でると、やっと彼女は振り向いてくれた。
彼女の顔は真っ赤になり、ブラッシング中の長い髪の束を所在なさげに指でくるくるといじっている。
「なによー、デートしてあげるって言ってんのよ……」
真っ赤な顔で上目遣いになる彼女を見て、僕は「アレ」をもう一回挑戦する覚悟を決めたんだ!
階下に降りてダグ達に挨拶をするついでに、僕は少し出かける旨を伝えた。
夕飯までの貴重な30分を貰えて良かった!
この時間を使って、ミュートにこの小箱の中身を渡せられるだろうか。
渡したところで、ミュートはどう答えてくれるか……。
ホテルを出て砂浜を歩きながらも、その事で頭は一杯になっていた。
「どこまで歩くの?」
ホテルの明かりが小さくなり、月明かりしか届かなくなってからミュートが僕に声をかけた。
「なんか話があるんでしょ?」
僕の左隣で立ち止まったミュートが、不思議そうに聞いてきた。
ココらが頃合いだろう。僕はミュートの正面に向き直って、ポケットの木箱を弄った。
いよいよ出番が来たとわかったのだろう、小箱はすぐに指先に当たった。
落とさないよう慎重に木箱を取り出し、僕は砂浜にひざまづいた。
僕の突然に行動にびっくりしたミュートは、僕を見下ろしながら、立ったまま固まっている。
恭しく小箱を掲げ、ミュートの前で開く。
長時間僕のポケットの中で揺られていたけど、中身はしっかりと収まっていた。
中身は指輪だ。
シルバーの指輪で、イルカが跳ねているデザインが付いている。
イルカの目には小さいながらも青い宝石が付いていて、アクセサリーとしてもしっかりした物だと思う。
僕はそんなに詳しくはないけど……。
これは、さっきミヤザキ私のお店で購入したペアリングの片割れだ。
ミュートがカートに入れっぱなしにして、購入し忘れていた例の指輪である。
ソレを出されたんだから、ミュートもびっくりしているだろうし……その、当然それ以上の意味もある。
「僕のお嫁さんになってほしい……」
そう、有耶無耶になってしまっていたプロポーズを、僕は今再度口に出したんだ!
驚きの表情のまま固まっているミュートは動こうとも話そうともしない。
彼女の沈黙がもどかしい。イエスか?ノーか?
「前にも言ったけど、私はアイズよ……?」
「知ってる」
「今までロムにしてきた行動とかって、よく出来たお芝居かも知れないわよ……?」
「知ってるよ」
「絶対にロムより長生きよ?あなたが亡くなった後、きっと他の男性といい仲になっちゃうわよ?」
「それは……ちょっと嫌かも……」
「嫌なんだ」
「そりゃそうだよ!僕もミュートを独占したい訳だし……」
「そっか……し、しょうがないなぁ」
視線こそ指輪を見たままだけど、首から上はそっぽを向くミュート。
ココからじゃ彼女の表情を窺うことはできない。
「私としては……しょうがないから貰ってあげるけど。
ちゃんと両親には言ったの⁈」
「成功したら言うつもりです!」
「じゃぁ……今夜にでもメールしておいてね。
あ、電話はだめよ?きっと私にも根掘り葉掘り
聞いてくるだろうから!」
その言葉の意味を少し考え、僕はハッとなった!
「という事は……⁈」
「オッケーだって言ってるの……!
皆まで言わせないでよ、もう!」
そう言いながらも、ミュートは緩やかに広げた左手を、僕の目の前に突き出しようにして伸ばしてきた。
「おかえりなさい……あらあら!」
ロビーで僕ら二人を出迎えてくれたミカが、僕らの姿を見て、口を押さえて笑うような仕草をした。
彼女のリアクションも分からないでもない。
何故なら、ミュートが僕の左腕にピッタリとくっ付いていたからだろうな。
腕を組むなんて生やさしいものじゃない。
僕の腕を抱え込み、肩にピッタリと頭をもたれ掛からせているミュート。
そして、そんな彼女の顔を恥ずかしくてみられない僕。
そりゃミカにしてみれば非常に滑稽だったんだろう。
今にも上擦りそうな声を頑張って押さえて僕は聞いた。
「遅れてごめんね。夕飯は?」
「もう出来ていますよ。ダグもオーナーも居酒屋で待っていますよ」
ニンマリとしながら、ミカは茶化さずに答えてくれた。
「行こっか?」
「うん……」
ぽーっとした表情のミュートは、居酒屋に着いた瞬間のダグやヤヨイさんにどれだけ冷やかされるのか分かっていない様子だ。
いやいや、もしかしたらもう覚悟しているのかもしれない!
僕は……なんだか考えるのはよそう。
どうせこの先もみんなに聞かれる事だし、婚約したのが何が悪いってんだ。
僕もこの状況に慣れていかなきゃ!
お待たせしました!
すっごく仕事と、新たに始めた副業に追われて
こちらを蔑ろにしておりました!
楽しみにしていた方には申し訳ありません!
次も早めに更新したいなぁ!




