第23章 龍が浜陸橋
こんばんわ こんにちは お久しぶりです!
2ヶ月!長いことお休みさせて貰いました。
ちょっと仕事の上で色々ありまして、やっとこさ
続きを投稿できました。
もう言い訳すまい!私は筆が遅いんだなぁ。
スンマセン!
第23章 竜が浜陸橋
「いいなぁ……あれ」
独り言のつもりで言ったのだろうけど、僕はミュートのその言葉をちゃんと覚えている。
銀河竜バーンとシルバーンとの戦いはあっけない形で終了した。結局のところ、彼らを倒さなくてもミッションコンプリートとなったのだ。
猫の姿のミュートが発動させたスキル「ニャンルーバリアー」により、シルバーンの必殺技を完全に無効化したあと、当のシルバーンは攻撃の手を止めた。そして、銀河竜バーンと共に消えてしまったのだ。
全員があっけにとられて放心していると、ミュートにミッションコンプリートのメッセージと共に、プレゼントアイテムと動画メッセージが着信した。
「こいつを見ているってことは、うまいことミッションを達成したってことだな!」
動画に映っていたのは、ヤヨイさんの旦那さんの生前の姿だった。
「キーワードの意味を理解してくれているのなら、お前さんがシルバーンを継ぐのに相応しいと思っている。まぁ、素人が作ったミッションだ。文句はあるかもしれんがね……」
全員がそれぞれのコックピットで無言で動画を見ているんだけど、ヤヨイさんだけはすぐさま音声通信を切ってしまったようだ。
「シルバーンはヒーローだ。身を挺し、命を懸けて人々を守るヒーローだ。俺はせっかくこの装備をこの世界で再生したが、最後までそんな使い方はできなかったよ」
旦那さんはちょっと自嘲気味な顔を見せて、さらに言葉をつなげた。
「シルバーンの装備をお前さんがどんな使い方をしても、俺にはもう文句を言うことは出来なくなっているはずだ。レースでもバトルでも、シナリオイベントでも無類の強さを発揮してくれるだろう」
「だがもし、お前さんに正義の心があるのなら、この力を人助けのためにも使ってほしい。それが初代シルバーンとしての最後の願いだ」
画面が不意に暗転した。真っ黒な画面が続き、沈黙を保ったままになってしまった。
「私がシルバーンの二代目にゃの……?」
ミュートが通信を入れてきたと同時に、暗転した画面が再び光をともした。動画の続きが始まったらしい。
「あー、ヤヨイちゃんがシルバーンを引き継いでいればいいんだけど、もし別人が引き継いでいたら悪かったなぁ。そいつをサポートしてほしい。あとだな……」
一瞬の沈黙の後、旦那さんは恥ずかしそうに言葉をつなげた。
「君は最高の女性だ。愛している」
旦那さんが画面越しでも分かるぐらい赤面しつつも、画面を真正面に見据えてゆっくりとメッセージを送った。数秒そのまま続き、画面が再び暗転した。「動画を再生しますか?」と画面にメッセージが出たところを見ると、完全に動画が終了したのがわかる。
通信をつなげたままのミュートが僕に話しかけてきた。
「これ……私がもらっちゃっていいのかしら……?」
ミュートの感じた気まずさはもっともだった。こんなメッセージを添付されて、ミュートがシルバーンの装備を入手するってのは何とも気まずかった。
「なんか申し訳ないね……。うちの旦那の詰めが甘くって」
ミュートやほかのメンバーたちとも相談したのだけど、やはりこの装備はヤヨイさんこそが持つべきものだと全員が納得した。
あの動画のこともあるが、エンゼル兄弟の思惑は別のところにあるようだ。
「あのなぁ、お前らがこれ以上戦力UPなんて頷けるハズが無えだろう!」
シロエが相変わらずでかい声で意見というか文句を垂れる。隣のクロエも無言で首を縦に振った。
「アイズの私が持っていても、ゲームじゃ使えないしね。正に『猫に小判』ってことにゃ」
「本当にありがとう、何から何まで。この争奪戦はもちろん、君たちのピンチには絶対駆けつけるからね!」
アイテムボックスを受取ったヤヨイさんは、すまなそうな顔をしながらも嬉しそうだ。そりゃそうだよね、亡くなった旦那さんの一番のプレゼントなんだから。
「早速装備してみるわ!」
ヤヨイさんが画面に表示されたボタンを押すと、彼女の左手薬指がまばゆく光った。それはみるみる収束してゆくと、光の環……飾り気のない銀の指輪となって彼女の指に収まった。
「へぇ……これがねぇ……」
バトルステージの窓から見える宇宙を背に、頭上に挙げた左手に輝く銀の指輪。宝石こそはまっていないが、傷一つないきれいな表面は照明を反射し、まるで星のように瞬いていた。
「いいなぁ……あれ」
その時に僕の胸に抱きかかえられていたミュートの独り言を、僕は忘れないように心に刻んだ。
「まぁおめでとうって言っておくかね」
相変わらず客のいない海の家。にも関わらずキッチンで何やら忙しそうにしているミヤザキ氏は、一人で入ってきた僕に気付くとそう声をかけてきた。
銀河竜バーンとの戦いの次の日、僕はミュートに断ってここに来たんだ。理由は……。
「今日はどうした?一応結果の方はシロエ達から聞いているが……」
そういうとミヤザキ氏はいつの間にか淹れていたコーヒーを、カウンターに座ろうとした僕に差し出した。
「少し聞きたい事がありまして……。『百花繚乱』の事なんですが」
ミヤザキ氏は僕にコーヒーを差し出したそのままの格好で数秒の間静止した。
「懐かしい名前だな……。お前みたいなガキが知っているとは。どこからその名前を?」
「両親です。『竜王夫婦』って言えば分かるといっていました」
静止したミヤザキ氏は、今度は素早い動きでエプロンを外し、そのままの勢いでタバコに火をつけた。
「ふぅ……そういう事か。お前がねぇ。全く気付かなかったよ」
たばこの煙越しに僕を見るミヤザキ氏は、昔を懐かしむような口調でこそあったけど、その目は僕を値踏みするような鋭さだ。
「証拠……なんてものがあるわけないか。『竜王夫婦』なんて名前が出てくること自体が証拠のようなものだな、ふむ」
ミヤザキ氏は大きく煙を吐くと、カウンターの下にあったんだろう、椅子に腰かけた。
「で、その名前まで出して何を知りたいんだ?」
それを言われて僕はハッとした。特に何も聞くことがないのだ。
「ドラゴンハンター」の剣劇モーションは手に入っていて、ミュートがレッドドラゴンにインポートしているし、飛行機酔いも銀河竜バーンとの戦闘でどうにかなったようだ。エンゼル兄弟の協力も問題ないし……
「いや、特に何もないんですよ。昔話でも聞けるのならいいなぁぐらいで」
それを聞くとミヤザキ氏が少しむせこんだ。僕の回答に吹き出してしまったみたいだ。
「まー、そうだわな。あんな前世紀の、素人ゲーム集団なんて知ったところで何も得は無いわな!」
そう言いつつも自分のコーヒーを注ぎだすあたり、多少話したり無いんだろう。
「俺もアイズだ。当時『百花繚乱』のナンバー9『ハンマーヘッド』の記憶を受け継いでいる、いわばコピーだ。情報は正確かもしれんが、その時の雰囲気っていうか……空気の感じ方は、オリジナルとはずれているかもしれんがね」
タバコを消し、僕を正面に見据えたミヤザキ氏の昔話は、コーヒーを三杯ずつ飲み干すのには十分なほどたっぷり語ってくれた。
「面白いチームだったさ!」
ミヤザキ氏の開口一発の言葉が、その後のすべての内容を総括していた。
「チームだなんて言っているけど、単にゲーム好きが集まっただけのお友達集団だったよ」
「でも、当時のトップグループですよね」
「好きこそものの上手なれ……ってことだな。ゲームだからこそ真剣に取り組んでいた。百人もの実力者が集まったんだ、怖いものなんてなかったさ」
「仲が良かったんですね」
「悪くはなかったな。全員が全員仲良しって訳じゃなかったが。特にトップ4は仲が良かったさ。
『ブルースマッシャー』『ロデム』が1位を取り合っていた。『コメット』と『サイレントナイト』がその下の3位を取り合っていたんだ。この4強は最後までベスト4を独占していたな」
「うちの両親は?」
「ロデムがお前の親父で、コメットがおふくろさんだ。ブルーとサイレントは恋人同士だったな。カップル二組でベスト4を独占していたんだ」
「ブルーとサイレントの二人は、両親からは特に聞いてないですね」
「そっか。結構オフで会っていたりしたらしいけどな。まぁ何せ古い話だ。俺も『百花繚乱』の名前が出てくるまで、ちょっと忘れかけていたな」
「でも、この竜が浜の先にある竜が島は「ドラゴンハンター」をモチーフにしている。それほどはまっていたゲームだったんじゃ」
「だよな……俺も年なのかもしれんな。子供もおらず一人で暮らしているとこんなもんなのかもしれんな」
そう言いつつも、ミヤザキ氏はゆっくりと思い出話をしてくれた。写真を見せたら、両親の結婚式の話もしてくれた。なんだかんだ言いつつも「ドラゴンハンター」が大好きなんだろう。ゲームを取り巻く環境がFゲームに移り変わったとしても、若いころに熱中したその想いは冷めることはなかったようだ。
「おっと……もうこんな時間か。俺もエンゼルの二人と夕飯を食いながら作戦会議の予定があるんだ。そろそろお前も帰ってもらおうか」
「あ!ごめんなさい。長居でしたね」
「追い出すようで悪いな。ところで、このデータってお前さんのチームメンバーじゃないか?」
ミヤザキ氏がウィンドウを広げると、何やらショッピングサイトの画面が映っていた。
「この店のアイテム販売の画面なんだがなぁ。この商品のカートが入れっぱなしなんだよ」
確かにその商品のカート内に「1」の文字が。カートに入れたアカウントを見ると「ミュート」の名前もあった。
「買うのか買わないのか早めに決めてもらうよう、彼女に伝えてもらいたいんだが……」
僕はしばらく考えた後「僕が購入しますね」と言って、カートに入れなおしたその商品を即決即納で購入した。
「せかして悪いね。ページの更新がこのせいで出来なくてちょっと困っていたんだ」
「こちらこそすみません。彼女には僕からも言っておきますので」
そういった矢先に、先ほどの商品が僕のアイテム棚に届いた。
「まぁ、そういうモノは男からプレゼントした方がいいだろうしな」
「そうですよね!そう思って購入しました」
取っつきにくいと思っていたが、それほどミヤザキ氏は人づきあいが悪いわけではないと感じた。
僕は少し日が落ち始めた砂浜をあるき、自分のホテルへと向かった。足取りは軽い。早くこのモノをミュートに見せたいと、少し気が焦るを感じながら。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
なるべく次章は早くupしたい…と思ってはいるんですよ。
あぁ、時間が欲しいー!




