第22章 よろしく勇気
こんばんは こんにちは それともおはようございます?
なんだか投稿に時間がかかる塚波です。
最新話 第22章を投稿いたしました。
もう少し話を盛り込みたかったのですが、なかなかそうはいきませんね。
残りの展開と、ちょっとしたエピソードを足して23章として
アップしようとおもいます。
第22章 よろしく勇気
「口の中にいるシルバーンを何とかすれば良いんだろうけど……」
「ヤヨイさん……何か思いつくことはありますか?」
「ごめんなさい。全く分からないわ……」
折角ダグが時間を稼いでくれたにもかかわらず、僕たちは次の一手に何を打つかを
決めあぐねていた。
「分からないなりにやってみるしかないわね。私としては、あれが旦那の残留思念なんだとしたら
話しかけてみたいわね」
「取り合えず、それで行ってみますか……」
「ここに来てしまらねぇな!まぁ、ほかにいい考えもねぇけど……」
方針が煮え切らない僕たちをみて、シロエが愚痴を言う。ただ、なんだかんだ言いつつも、変形できないクロエの機体を起き上がらせ、ゆっくりとティンガーロボに武器を構えさせているところを見ると、一応やる気にはなってくれているようだ。
「ミュート、機体のコンディションはどうなっている?」
「概ね良好よ。むしろほかの機体ばかりが傷ついていて、私たちばかり無傷ってのが悪いぐらいね」
「最後のとどめはロム君に任すね……」
「ありがとう、クロエ……」
わざわざ画像通信を送ってきたクロエに答える。画面の中のクロエは少し顔が赤くなっているように見えた。もしかしたらさっきの戦闘でクロエ自身にダメージが入っているのかもしれない。
「そっちは大丈夫かい?顔が赤く見えるんだけど……」
それを聞いたクロエはどういうわけか何かを焦っているような態度をとる。
「だ、大丈夫だよ!いざ戦闘ってことで、ちょっと興奮してきただけだよ!」
「そ、そうなんだ……。怪我でもしたのかと思って心配したよ」
「あ……ありがとう……。ロムはほんと……そういう所……かっこ……」
「ロム!あまり時間がにゃいわよ!フォーメーションを決めにゃさい!」
相変わらずニャンルー喋りのままなので、緊張感のあるセリフでもそうと感じさせられないミュートが割って入ってきた。それと同時にクロエが回線を切断してしまった。何か言いかけていたようにも見えたんだけど。
「分かったよ。今やるべきことは『ヤヨイさんをシルバーンと接触』させることだ」
「そうなると、それまで奴の口を開けたままにしておかないと、だな」
シロエの言葉にクロエが音声だけで同意する。
「だとすれば、こんな作戦が一番いいんじゃないかな……」
僕の視界にクロエが言った作戦の画像が映し出された。
「作戦内容っと……ってなんでわざわざ2ページもあるんだよ……」
僕が次のページを見た瞬間、白と黒のティンガーロボが空き缶モードですっ飛んでいった。目指す先はいまだ立ち上がれないカイザーフレイムダガーのその先の、鎌首をもたげ威嚇姿勢をとったままの銀河竜バーンだ!
「僕と兄貴がバーンの口に入ってつっかえ棒の代わりになる!ロムはヤヨイさんの援護に回って!」
「ミュートさん!レッドのサポートをお願いします!この手がダメでも、あんたら二人が健在なら何とかなるでしょ!」
止める間もなく、エンゼル兄弟の2機がミサイルのようにすっ飛んでいった。バーンも彼らの突撃に何かの脅威を感じたのだろう、近づかせまいと例の落雷攻撃を放つ。戦闘フィールドがあっという間に電撃の柱が乱立する雷の森林となった。
それでも対処法を知っている2機はその足を止めない。光の柱を掠めるように避け飛び続ける白と黒のミサイルはあっという間にカイザーを追い越し、バーンの口まであと一歩というところまで迫っている。
「……ヤヨイさん……行きますにゃ……」
ミュートが静かに通信を開く。音声のみの通信だ。
「……わかったわ……いいわねぇ、若いってことは。よかったのミュートちゃん?」
「良くないにゃ。こんなの……」
女性二人で僕にはピンとこない会話をしたかと思うと、ヤヨイさんの真っ赤な空飛ぶサイドカーが天井近くからバーンに向けて発進するのが見えた。その瞬間、ミュートが僕に通信を入れてきた。
「私たちも行くにゃ。できればこれで決めるにゃ!」
「うん!行こう、僕たちも!」
僕は体を深紅の飛竜に変形させ、一度大きく叫び声をあげる。戦闘開始の咆哮は僕を奮い立たせるには十分なほどだった。
銀河竜バーンの落雷攻撃は、その勢いが弱まることはなかった。
「だからって、当たるわけにはいかないんだけどにゃ」
風の音と共に、ドラゴンモードの僕の首にまたがっているミュートの音声通信が届いた。
「このまま奴の口に突入するわよ。援護をよろしくね」
同じくらい風の音でノイズだらけとなっているが、ヤヨイさんの音声も拾うことができた。
数秒だけ先行していたエンゼル兄弟のティンガーロボは、銀河竜バーンの上下のあごそれぞれに食い込んでいて、バーンが口を閉じようとするのを必死で食い止めているのがモニターで分かった。
どちらのティンガーロボも空き缶モードで、スラスターを全開に噴射している。上顎のシロエの機体は、両腕を出し、がっちりとあごの先をホールドして押し上げている。
変形機能が芳しくないクロエの機体は、左右に揺れながらもなんとか下顎が持ち上がるのを押しとどめている。
「そんなにもたない!早く突入を!」
クロエから入る通信が、焦りの色の染められつつある。間に合うのか?
いや、間に合わないのが目に見えていた。
シロエの機体と違い変形ができないクロエが、不安定な態勢なのはわかっていた。バーンもただ顎を上下に閉じるだけではなく、下顎を絶妙なリズムで横に振ったのだった。
暇つぶしでやった事がないかな?手のひらの上で箒や長い棒きれでバランスをとる遊び。正にあれの失敗するときの光景だった。
横にスライドした下顎の動きについてゆけないクロエの機体は、スラスターを全開していたこともあって、横倒しになった瞬間僕の視界を横切るようにすっ飛んで行ってしまった。
「しまった!」
クロエの短い悲鳴は、機体の噴射煙のようにあっという間に散っていった。
「まだまだー!」
クロエが居なくなり自由になりかけた下顎は、それでも閉じることはなかった。
「お前まで来て、どうするっていうんだ!」
僕の頭上で踏ん張っているシロエが通信で怒鳴り声を上げる。
「これしか思いつかなかった……」
シロエの機体のお尻を掴みながら、僕は謝罪のような言い訳をしてしまった。
そう、瞬時にロボットモードに変形した僕は、シロエの機体の下に潜り込み、全身を無防備にさらしながらバーンの上下の顎の間に挟まっていた。喉奥にいるシルバーンの真正面でばんざいをしているような格好だ。しかも、頭上に挙げた両手でシロエの機体が落ちてくるのを支えていて、非常にみっともない格好だ。
「これで次の手が無くなっちまったな……」
「ヤヨイさん!早く突入を!」
視界に映し出されるヤヨイさんの真っ赤なサイドカーが、スラスターを勢いよく噴射し突入態勢に入ったのが見えた。これで決着できなければ……。
だけど、そんな僕たちの必死の抵抗をあざ笑うように、目の前のシルバーンのゴーグルから怪しい光が漏れ始めた。
「おいおい……冗談じゃねぇぞ!」
上顎を支えているシロエからも見えたようだ。
銀河刑事シルバーンは顔の正面に真っ黒なバイザーが横断している。通常の戦闘時には、まるで大きなサングラスのようだが、「ある時」だけその奥に忍ばせている真っ赤な両目が輝くんだ。
……必殺技を放つときだけ……
今が正にその時だったようだ。
真っ赤な、それこそバーンそっくりの吊り上がった双眸が輝くのと当時に、全身を駆け巡っている漆黒のラインが脈動する。両目と同じ真っ赤なそれは、まるで人体の血管にも見える。
胸や頭部を中心に配置されているセンサーパネルは一気に点滅し始める。この状況で無ければ、まるでイルミネーションのような煌めきなんだろうけど、今目の前にするそれは、死刑宣告のカウントダウンにしか見えなかった。
シルバーンがゆっくりと構える……。いや僕にはスローモーションに見えたその動作は、的確かつ素早いものだったはずだ。
胸の前に突き出された両手が左右に離れ始めると、何もなかったはずのそこには光の線が生み出された。
両肩口まで手のひらが離れると、シルバーンは右手でその光の線をガシリのつかみ、静かに地面にむける。
これは……剣だ。真っ白な光の、光だけで作られたレーザーソードだ!
「シルバーン……」
必殺技よろしく、回線が開いてないはずのシルバーンの低く、静かな音声が僕に聞こえた。
「ダイナミック!」
地面すれすれからレーザーソードが振り上げられる。そしてその切っ先はシルバーンの頭上に至ると、取って返して鋭く振り下ろされた!
真正面で光の軌跡を見ていた僕には、それが空間に突然生み出されたバカでかいエックスの文字に見えた。
やられた……。避けることも守ることもできないのが一瞬で分かった。ただただ迫りくる巨大なエックスの文字に飲み込まれ、おそらく体を四等分される未来まで見えていた僕には、すでに何も抵抗する意思がなかった。正義の味方の必殺技を受ける悪役怪人の気分を悟ってしまった。いや、正しく言うのなら「僕だけは」だ……
「うちの旦那をやらせないにゃ!」
突然の通信からの叫び声と共に、僕を飲み込もうと迫るエックスの文字の丁度中心点に、小さな小さな黒い影が現れた。
うちの旦那……ヤヨイさんかと思ったその声は、その小さな小さな黒い点から発せられたのに気付いた。
逆光で見難いが、人間にしては小さすぎる。頭の上に三角形の耳が二つ生えている。よく見れば尻尾のようなものも……
「ミュート……」
僕は彼女を追いやることも、攻撃の身代わりになることもできず、ただただその名前をつぶやくことしかできなかった。僕はそれほどまでに諦めに近い悟りの境地にいたようだ。
『ランダムスキル発動……ニャンルーバリアー』
今更映し出されるスキル発動ウィンドウに目をやることはなく、ただただ光に飲まれるその小さな小さなミュートの体を僕は眺めているだけだった。
するとどうだろう、その小さな小さなミュートの前に、突然巨大な真っ黒な円盤のようなものが現れたじゃないか!
巨大なエックスの前に瞬時に現れたその黒い円盤は、僕ら二人を守るように巨大なエックスの進行を食い止め始めた。
エックスが一番初めに当たった円盤の中心はみるみる熱を帯びた赤色化し、どんどんそれが広がっていく。黒い円盤の外円部からも、光のエックスとの衝突の余波なんだろう、火花のような光の雫が噴出しているのが見て取れた。
「あれ……なにコレ?」
シルバーンの必殺技を受けようと、体を大の字にして立ち塞がっていたニャンルーは、小さな指でほっぺたをポリポリと搔きながら僕を振り返った。
勢いよく飛び出したものの、ちょっと気まずそうだ。謎のスキルが発動したためか、僕の胸あたりで足場もないのに空中で留まっている。
そのミュートを下から支えるようにヤヨイさんのサイドカーが浮上してきた。
「とりあえず……攻撃が止むまでここに隠れさせてね!」
ヤヨイさんが僕を見上げてウィンクするのだったけど、僕は一気に緊張がとけて力が抜けてしまった為か無言で頷くだけだった。
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