第18章 あばよ涙
こんばんは!とんでもない時間の投稿ですね。
第18章をお届けいたします。
いや本当、最近のこの不定期投稿を何とかしないと!
第18章 あばよ涙
「にゃーにゃーにゃー!ワタシは〜元気〜♪」
ガションガションガション……
「歩くの〜大好き〜……」
ガションガションガション……
「ミュートさんや……」
「何?気持ち良く歌っている所なのに?」
「歩いているのは僕なんだけど……」
「実際にはレッドドラゴンが!でしょ?」
「確かにそうなんだけど、同期しているんだから、感覚としては僕自身が歩いて、ミュートはその肩に乗っかっているだけなんだけど」
大小様々な4体のロボットは先ほどのベースキャンプから、島の中央部に見える塔に向かって歩き出していた。
ロボットモードで一番身長の高いレッドドラゴンを先頭に、ティンガーロボが横並びに2体続き、一番最後にフレイムダガーが歩いているので、真上から見るとダイヤの形の隊列となる。
レッドドラゴンの肩にはネコミュートが腰かけている。ただあまりにサイズが違うので、人間サイズに直すとまるで肩の上に消しゴム人形が乗っかっているようなぐらいのサイズ比だろうか。
ヤヨイさんはティンガーロボの平な頭部の上にアグラをかいてるし、ミカもフレイムダガーの腕に抱えられている状態だ。
幸い塔までは未舗装ながら森が道のように開いているので大した苦労もなく着くことが出来そうだ。飛んで行くことも出来たんだけど全員の足並みが揃いにくいので止めにした。
目的地である塔に着くためには、森を抜け、川を渡り、また森を抜けて行くことになった。
当然その道中にはモンスターが襲ってくることもあった。
二本足で、ニワトリとトカゲが合わさったような青い鱗のモンスターが集団で襲って来たり、幼稚園バスぐらいの巨大イノシシに突進されたりと、「ドラゴンハンター」のゲームではお馴染みのモンスターたちの突然の襲撃があったんだ。
当然、これが通常の「ドラゴンハンター」のゲーム内ならば、プレーヤーたちは武器を抜き必死に応戦するんだろうけど、僕たちは「普通のプレーヤー」では無かった。
襲って来たモンスターよりもさらに巨大で強固な金属の塊の体の前には、さしもの血に飢えたモンスターさえも小さなか弱い生き物でしか無かった。
僕たちは武器すら抜くのが鬱陶しいと言わんばかりに地面ごと蹴り飛ばし、首を掴んで放り投げたりと、少し弱いものイジメをしているようで気が悪くなった。
こうなって来ると、目的地の塔に巣食うモンスターも、僕たちの練習相手になるほど苦戦しないのかも知れない。
ミュートの陽気な歌声も相待って僕らの探索は、ただのピクニックになってしまったのだ。
「案外楽勝だったな」
ダグがミカを地面に下ろしながら上を……上空まで伸びる塔を見上げた。
塔……のように見えたそれは、今まで見て来た自然豊かなこの島の雰囲気には全くの異質な物だった。
草木の蔓や苔に覆われてこそいるけど、その表面は金属製で、所々に薄ぼんやりとゆっくり点滅するライトやモニターの様なものがいくつもあった。
僕たちロボット軍団の中でも一番体が大きなレッドドラゴンですら外壁に沿ってぐるりと一周するのに5分ほどかかったので、床の広さも相当な物だ。少し歪だけど、ほぼ円を描いているようだ。
問題はその高さだ。さっき見上げたダグが思わず後ろによろめくほど仰け反っても全く天辺が見えない。
空に雲が無いので、塔の高さが以上だと言うのがよく分かった。
「これ……塔と言うよりは……軌道エレベーターじゃ無いかな……」
クロエのティンガーロボが、口が無い代わりに目をピカピカ点滅させて僕に話しかけて来た。
「軌道エレベーターって……なんだっけ?」
どこかで聞いたことがあるんだけど。僕は左肩にちょこんと座っているネコのミュートに聞いてみた。
「ほら、よくSFモノのアニメとかに出てくるでしょ?衛星軌道まで伸びているバカでっかいエレベーターの事よ。物資、人員をロケットの代わりに宇宙ステーションまで運ぶための物よ。まぁこんな巨大な代物、ゲームやアニメの世界でしか見たことは無いけど」
「これに乗って最上階まで行くわよ」
いつの間にかヤヨイさんがダグのロボットの手に乗って僕の隣にいた。彼女は手で合図をしている。今度は僕のロボットの手に乗るらしい。
指示に従い手に乗せ替え、今度は僕のロボットの胸あたりまで上昇させる。
丁度幾つものモニターとようなものが並んでいて、ちょっとした足場が外壁から飛び出ていた。
彼女が足場に飛び渡り易いように手を寄せ、ヤヨイさんを安全に送り出す。彼女はモニターを前にして、どうやら電話をかけているらしい。
「どうですか?分かりましたか?」
「やっと着いたか。危うく昼寝をしそうだったぞ……」
スピーカー状態で話しているため、僕たちにも相手の声が聞こえて誰と話しているのかすぐに分かった。ミヤザキ氏だ。
「『若さ』とは?と聞かれていますよ」
モニターに映った文字をなぞりながらヤヨイさんがミヤザキ氏に聞く。確か調べ物をするとか言って来なかったミヤザキ氏だったんだけど、きっとこのエレベーターの起動にはパスワードが必要なんだ。それを調べるためにミヤザキ氏は残ったんじゃ無いかな。
「『振り向かない事』じゃな」
ヤヨイさんがモニターに向かってゆっくりと「振り向かない事」と声に出して応えたのが分かった。
ピコンと電子音がなり、ヤヨイさんの数メートル左の壁面がスライドし始めた。塔自体が振動したので心配になり、ヤヨイさんが足場から落ちない様レッドドラゴンの手を添えたけど、何事もなくてよかった。
壁面は昔の家屋の「フスマ」の様に中央から左右に開き、壁の中に収納された。横も縦も相当な幅で開き、レッドドラゴンが余裕で立って入れる程だった。
ヤヨイさんが足場から塔の中に一歩入ると、内部から光が漏れた。恐らく照明がついたんだろう。
壁に手を添え、ヤヨイさんが僕たちを招き入れる。心なしか嬉しそうだ。
よじ登る様にしてレッドドラゴンを塔に入れた僕は、その機械的な照明に照らされた内部を見て、少し驚いた。
「おーい、俺たちも早く引き上げてくれー」
ダグ達が僕に手を振り、催促を始める。人間の顔にそっくりフレイムダガーに比べて、大きな一対の目だけで構成されているティンガーロボ2体は、短い手をパタパタと振り、大きな目を点滅させているものだから、まるで子供が遊んで欲しいと急かしているようでちょっと可愛く思える。いや……可愛いぞこれ。
「おいレッドの!早くしやがれ!」
いかんいかん、中身はスキンヘッドのオッサンなんだった。
「全く何にも無いんだが……」
塔の中の空間には壁以外何一つ物がなかった。恐らく正方形の部屋なんだろう。あるのは壁と天井の照明だけだった。
「そりゃそうよ、エレベーターなんだから」
「なんだか拍子抜けだな」
「最上階に行ったら嫌でも戦闘よ。少し時間があるから休んだらどう?」
「それもそうだな……」
そう言うと、シロエのティンガーロボはクルリと体を右回転させたかと思うと「あの形態」に変形して、それっきり動かなくなってしまった。
「アニキのやつ、寝ちゃったよ」
同じく変形したもう一体のティンガーロボの前に緑に光る半透明の円柱が現れ、その中から弟のクロエがあゆみ出てきた。
ダグと僕も機体を降りて、皆んな何となくヤヨイさんの周りに集まった。
レッドドラゴンから降りて更に実感したんだけど、このエレベーターは相当なデカさだ。
人間用じゃないのは分かっていたんだけど、それでもエレベーターと言うには大きすぎる。床の広さだけで言ったらスレイプニールの所有する空母イスカンダルの飛行甲板の半分ぐらいだろうか。
ゲームの設定では太古の先進文明とかが作った物なんだろう。少しくすんだ白い床に白い天井。天井の照明は目立った突起物はなく、天井のパネルそのものが充分な光量で光っている。何処もかしこも埃一つなく、まるで今さっき出来上がったばかりかの様な真新しさだ。無人島に立っている古代の塔の中にはあまりに似つかわしくない光景だ。
「頂上まで大体2時間って所らしいわ」
ヤヨイさんがウィンドウを見ながら僕たちに教えてくれた。恐らくヤヨイさんのみがこのエレベーターの管理システムとリンクしているんだと思う。僕たちからは左右反転しているウィンドウの裏からでも分かった事だけど、もうすでにエレベーターは上昇していた。
大きな上向きの三角形が点滅していて「到着まで1h50m」と表示されている。
「ゲームだとスキップできるんだけどね。そうもいかないわ」
ヤヨイさんは用意して来た大きなクッションを出現させた。ソファーぐらい大きなクッションに包まれてこの2時間を過ごすらしい。
「皆んなも休憩したらいいわ。こんな所で大してやれる事も無いんじゃない?」
そう言うとヤヨイさんはウィンドウを出し、動画再生ソフトを起動させた。
「んじゃ、俺らも休むとするか。お前らもあんま騒がしくすんなよ?」
ダグとミカも、カーモードに変形させたフレイムダガーに乗り込み静かになってしまった。仮眠でも取るんだろうな。
「ロ……ロム、良かったらお話しでも……」
「ロム!ドラゴンモードでの戦闘ってイメージ出来てるの?」
クロエが何か言いかけたみたいだったけど、ミュートが小さな身体で僕の胸に飛び込んできて、毛むくじゃらの顔を近づけて捲し立てて来た。
「え!あぁ、そう言えばそっちはあんましだな……」
「そんなに時間が無いけど、本家のレッドドラゴンの動いている映像があるから見ましょ?イメージを出来るだけでも力にはなるわ」
急かすかの様にミュートはレッドブルを出現させ、僕の手を引いて運転席の乗り込ませようとした。
「あ……じゃぁまた後で……」
乗り込む瞬間に見えたクロエの後ろ姿は、僕を運転席に押し込むミュートの顔と同じ様に、少し寂しそうに見えたのは気のせいだったんだろうか。
「じゃぁミュートの今の姿は本物の猫じゃなくって、ゲームのキャラクター『ニャンルー』なんだね」
「そうみたいにゃ。人間みたいに二本足で歩く方が楽だし、物を握るのも人間みたいに出来るにゃ」
「あ!この動画みたいに戦闘も出来るんだね」
「そうかも知れにゃいけど、私はゴメンだにゃ!」
「ヘェ〜。大砲を出現させて攻撃できるんだ!」
「だから!戦闘なんてしたく無いにゃ!私はあくまでサポートにゃんだから!」
「えぇ〜、見たいなぁ大砲!」
「だから……うにゃ……戦闘は……ふにゃ……ふにゃ〜ん♪」
レッドブルをの座席を目一杯後ろに倒し、天井にウィンドウを出現させる。低く狭い車内だけど、小さなミュートを胸の上で抱えてもずいぶん楽な体勢で動画を見る事が出来ている。
「しかし……こんな付け焼き刃の戦闘練習でどこまで戦えるんだろう」
「そりゃ相手はしっかりした戦闘訓練を受けているんだから、まともに戦ったらダメにゃ」
僕に顎の下を撫でられて気持ち良さそうなミュートは、あんなに大きな瞳を補足して案外真面目に分析し始めた。
「奇襲に不意打ち、隠し球に奥の手。こちらの情報はスレイプニールには殆ど渡ってにゃいんだから何だってするにゃ!」
「あとはこのチームでの連携だね。機体が統一されていないんだからそれぞれに得手不得手がある。どれだけ個々の特徴を生かすことが出来るかって事か」
「そう言うことにゃ!えっとそろそろ頂上に到着するかにゃ?」
そう言うとミュートが動画のウィンドウを消す。その奥に展開したままだった時計がカウントダウンを表示している。
『到着まであと5分』
僕たちは少し急いでレッドブルをしまい、改めてレッドドラゴンに乗り込んだ。
レッドドラゴンを立ち上がらせると僕とレッドドラゴンが同期システムでリンクする。僕は真っ赤な鎧に身を包んだ巨大な戦士となった。
実際には僕にしか見えないんだけど、視界の右手にダグ、エンゼル兄弟の2人との通信画面が計3つ現れた。みんなも準備ができた様だ。
エレベーターの出入り口である巨大な扉の前にロボット4機がダイアモンド陣形で並ぶ。トップにダグのフレイムダガー。少し後ろの白と黒のティンガーロボが2体横並びで。最後尾は最も上背の高い僕のレッドブル。
カウントダウンはあと1分を切った。
鋼鉄の戦士達はそれぞれの獲物を手に取った。ハンドガンにハンマー、そして剣と盾。
振動もなくエレベーターが止まった。音もないのでわからなかったけど、目の前の扉が左右に開き始めて初めてそうだと気付いた。
半分も開かないうちに全機とも扉の向こうの、少し薄暗い先へと進み出す。
僕は権を握る機械に手に力を込めた。コイツの性能をどこまで生かすことが出来るのか……。
不安とわずかな恐怖は、目の前のアレを見た瞬間、一気に膨れ上がる事になった。
ここまで読んでいただいで有難うございます!
やっとこさ投稿出来ました。
次回からバトルシーンなんですが、できれば今週末には投稿したいんですよねー。仕事の都合になっちゃうんですが。
ただ、絶対に完走致しますので、多少の不定期投稿にはご容赦を下さいませ。




