第17章 ネコでごめん!
こんばんはこんにちは、おはようございます。
大変お待たせいたしました。
第17章をお届けいたします。
仕事の事もありますが、ちょっとストーリーの展開を
再考して書き直しに時間を取ってしまいました。
ともあれ、なんとかupしましたのでお楽しみください。
第17章 ネコでごめん!
宇宙船サジタリウス号……
西暦2000年代に地球の統一政府主導のもと、12隻作られた地球脱出……いや地球型惑星探索用超大型移民船の1隻だ。
勘のいい人なら分かるんじゃないかな?サジタリウス……つまり射手座で、同型艦が12隻。
そう、12隻の船にはそれぞれ星座の名前が付いているんだ。
タウルスにジェミニ、ピスケス、レオ……。
それぞれは地球の赤道から12の方角に一斉に飛び立ったんだ。100年も昔に。
光の速さで100年も跳び続ければ、互いの距離もものすごく離れる。もう今や何光年と離れているんだろうな。「すぐ隣」を飛んでいる船とでさえタイムラグなしには通信出来ないほどの距離となってしまっているらしい。まぁそもそも民間レベルでそんな事をする人はもう居ないみたいだけど。
そんな貴重で重大な通信は、数年に一回程度「バルゴからの通信が入りました」とか「アリエスも元気に飛んでいる」とかの情報はニュースなんかで流れ、その時は世間が少し盛り上がるんだ。けどね……。
けどね、いつもニュースの最後は同じセリフで締め括られる。
「未だ新天地は見つけられていないようです」
100年経って見つけられない新天地に僕たちは少しずつ興味が無くなっていく事って、やっぱり悪い事……なんだよね。
「198……199……200!」
「よーし、ちょっと休憩しよっか!」
「ふぃー!ロボットに乗っていてもさすがに疲れるぜ」
「あぁ、全くだ。車でタイムアタックを200回やらされるよりも堪えるんじゃないか?」
「……うん。ロボットだとまさに全身を使っているから……疲れる」
「ハイハイ、疲れたアピールはもう充分だにゃ」
「冷たい麦茶がありますよー!」
ドッスンと4体の鋼鉄の巨人が一斉に地面に腰を降ろしたものだから、遠くの岩が転がり落ち、周りの木々が揺れ、尻の下の地面に大きなヒビが入った。
乾電池のような円柱に細く短い手足と、まん丸な二つの大きな目をつけた白と黒の2体のロボットは「ティンガーロボ」という名前だ。それぞれにエンゼル兄弟の兄シロエと弟クロエが乗り込んでいる。
どちらもその身の丈よりも長い柄の先に巨大な円柱が付いているハンマー状の武器を持っている。
彼らが貯金を叩いて手に入れた戦闘ロボット「ティンガーロボ」は、その可愛らしい外観とは裏腹に宇宙空間も含めた全領域での活動が可能で、手にしたハンマーを力込めて振るえば、巨大な宇宙戦艦も一撃だと言う。
ただ、一つ問題がある。
このティンガーロボはあるモノに変形が可能なんだ。
ティンガー。円柱……とは言っても、所々に「握りやすく」するためのくびれが付いている。また、変形した円柱の底面には大きな「穴」が空いている。ティンガーロボの場合は推進用ブースターとしてデザインされているが、本物のティンガーは「柔らかなヒダがいっぱいの穴」が空いていて……そのなんだ……男子が一人で使う……ま、いわゆるジョークグッズだったんだ、ティンガーロボは!作りはしっかりしていて頑丈だし、パワーだけで言ったら他のちゃんとしたロボットとも遜色なしだ!
ミュートはその姿に顔を真っ赤にしてたけどね!搭乗しているクロエも恥ずかしいらしく、カネを貯めたらもっとまともなマシンを購入したいと息巻いていた。
それよりも一回りぐらい小さいけど、バランスの取れたシルエットの、真っ赤なボディに包まれたロボットは「フレイムダガー」でダグのロボットだ。
僕のレッドブルによく似たロボットで、スポーツカーをベースにしたポリスカーから変形する。
西洋の甲冑というか……ゲームの勇者のようなデザインとスポーツカーの細身のシルエットが合わさって、いかにも「アニメロボット」ってデザインがカッコいい!
しかもだ、どうやら秘密の機能がさらに有るらしい。まぁあの救急車と消防車、それと全部を格納できる巨大輸送飛行機を見れば、どんな機能なのかはおおよそ想像はつくんだけどね。
フレイムダガー自体はその細身のシルエットから想像出来るけど、身のこなしが軽い。武器はハンドガンが一丁だけとシンプルだ。あとは右手から直に発生するビームソード。まるで右手が真っ赤な光の剣そのものに変化する。これらを使って、どちらかと言うと相手を翻弄して戦うようだ。まぁ「この姿では」と言う事だろう。本人も僕たちまでも驚かしたいらしく、まだ色々秘密にしていたいらしい。しょうがないから僕もワザと気付かぬフリを続けている。
さてさて、ここからは僕の自慢の機体、レッドドラゴンの説明なんだけど……、確か前のも説明したんだっけ。
僕のレッドドラゴンは変形ロボットだ。人型形態は、ゲーム「ドラゴンハンター」に登場する火炎竜の素材で出来た全身鎧を纏った騎士の姿によく似ている。本来は竜の鱗や牙などを材料に作っているのだけど、僕のレッドドラゴンは完全に金属のみを使用した、いわゆる超合金ロボットとしてアレンジしたデザインとなっている。
この形態での武器は、両手持ちの大剣と、そこから変形した片手剣と盾だ。これもレッドドラゴンの……と言うより、元になった玩具の独自アレンジだ。
そしてこの姿から、本来は敵である火炎竜型ロボットに変形が可能なんだ!
こちらの姿では剣も盾も使えないけど、火炎放射や体当たり、そして高速飛行が可能となる!
さっき一度飛んでみたけど、この爽快感はクセになりそうだ!心配していた飛行機酔いも全く感じられなかった。自分でも思っていた以上に楽しくて気持ちよくて、何より空を飛ぶことが自由自在だった。ダグの評価でも、飛行機酔いさえしなければ空中戦の才能があるんじゃないか?とまで言ってくれるほどだった。今まで飛行は完全に忌諱していたけど、なるほどコレは楽しくてしょうがない!自分が一番驚いているぐらいだ。
僕たちは今朝、まだ日が高くない時間にはこの龍が島バトルステージに全員集合していた。
もちろん面子は、チームブレイバーの4人にチームエンゼル兄弟の2人、そしてヤヨイさんの7人だ。ミヤザキ氏は、ヤヨイさんから何やらお願い事をされたらしく、それを片付けてから来るとのことだ。
龍が島はバトルステージになった瞬間、全く違う様相となった。
自動車道も街灯も、駐車場も消えてしまい、現れたのは人の手がほとんど入ってない、亜熱帯地域の無人島の様だった。
巨大な樹木が自由気ままに立ち並ぶ森、見たこともない植物、地面を這う甲虫。威嚇するように声を上げる極彩色の鳥に、小型車ぐらいのサイズの謎の動物……。
「これがドラゴンハンターを再現した、言わば真の姿の龍が島よ!」
ヤヨイさんが僕らに、どうだ!と言わんばかりに胸を張って見せてくれた光景は、まさに異世界だった。
「で、何かい?ここでオレたちにドラゴン退治でもさせようってのか?」
エンゼル兄弟の兄シロエが、ワイシャツの襟で顔を仰ぎながらヤヨイさんに聞いた。Tシャツ一枚の僕でもさっきから汗が止まらない暑さなのに、彼はワイシャツにベストと、カジノにディーラーかそれともバーテンダーかと言うようなちゃんとした姿なので、そりゃ余計に暑いはずだ。剃り上がったスキンヘッドも汗でギラつき始めている。
ヤヨイさんはそれとは逆に、この湿度も温度も高い状況を気にせず、むしろ涼しげに「そうよ」と言った。
「午前中は機体に慣れ、手持ち武器に慣れるため、しっかり練習してもらうわ。午後からはそのドラゴン退治をして貰うわね!」
「え……本当なの?」
「そうよ。空中を飛ぶドラゴンを相手して、スレイプニール達への対策を立てて貰うわ!」
エンゼル兄弟の弟クロエは驚き隠せないようだった。
「それににゃ!」
ヤヨイさんに抱き抱えられたネコの姿のままのミュートが短い手を伸ばす。
「この島の主を倒すことができたら、ヤヨイさんの強力な装備が手に入るにゃ!修行ができ、戦力も大幅アップと一石二鳥なのにゃ!」
すっかりネコ姿が板について来たミュートは、ヤヨイさんの腕から地面に飛び降りると、二本足で器用に歩き、エンゼル兄弟に喋りながら近づいてゆく。
「そもそもにゃ、あんた達エンゼル兄弟がワケの分かんにゃいケンカをふっかけてこにゃければ……ってにゃー!にゃんで抱き抱えるにゃ!や……やめ……なでなでしない……にゃーん」
自然な動作で弟クロエに抱き上げられたミュートは、体の至る所を撫でられ、頬擦りされ、彼の腕に埋もれてしまった。ミュートはミュートで恍惚の表情でただただ無抵抗に撫でられている。
「ヤヨイさんの……例のシルバーンの劇中装備ですね。大型ロボットは無さそうでしたが、あの変身スーツは小回りがきいて奥の手として使えるかも知れないですね!」
僕はヤヨイさんとの会話を続けながら、クロエの腕からミュートを摘み上げると、僕の腕の中にしまい込んだ。あ、ヤキモチじゃないです、決して!
「そうそう。あ、あと装備を手に入れれば分かることなんだけど、決して決定力が無い訳じゃないから。まぁ開けてビックリ玉手箱って事で」
今度はヤヨイさんがミュートを摘み上げようとしたけど、僕は柄にもなくそれを素早く阻止した。あ、ヤキモチじゃ無いですよ、これ!
たっぷりと体を動かしたため、昼食はスイスイと口の中に収まっていった。
僕たちが4体のロボットで運動していたエリアを、ヤヨイさんは「ベースキャンプ」と呼んでいた。ちょうど先日にレースでは折り返し地点のロータリーがあった、島の入り口に当たる場所だ。
ここは森が無く、大きめの運動場ぐらい開けていて、地面も舗装こそされていないがしっかりと土と細かい石で平らにならされている。
脇には人間サイズのテントが3つ並んでいるし、簡易的なカマドもあるので、文字通りここは島の探索に向かうための前線基地となるわけだ。
昼食はヤヨイさんとミカ、そしてネコのミュートがカマドを使って色々と作ってくれていた。
いつの間にか運び込んでいた大量の食材を使って、肉や野菜の炒め物、温かいスープやご飯、果ては例のソーキソバまである。
とても屋外で作ったとは思えない量と質の料理に全員が舌鼓を打った。そして何より……
「にゃはー!にんじんしりしり、出来上がりにゃ!」
短い手足で鍋を振るネコミュートを全員が蕩けそうな表情で見ていた。
いつの間にかあつらえた割烹着で鍋を振るネコ……癒される……!
しかもそのネコミュートの愛らしさは止まることを知らない!
フォークで角煮を器用に食べ、今度は熱そうにソバを啜る。両手で持ったおにぎりをムシャムシャ頬張り、最後には舌で口の周りについた汁をなめずる。その一挙手一投足に全員が目を離せなくなっていた。
「クロエ……なんでミュートはネコにされたんだ?」
昨晩からずっと疑問だったことを、僕はクロエに投げかけた。当然ネコミュートから視線は外さない。
「シロエ兄の趣味なんだ。ボクはネコ……いやニャンルーには興味は無かったんだけど、これがダメだ。とんだ破壊力だ……」
「だろ?いやな、ドラゴンハンターに所縁のある場所だって聞いていたから用意したアバターだったんだが。コイツは想像以上だった!流石は俺の惚れた女だ……」
「そっかそっか……って、えー!」
「お前のアイズだってのは知ってるが、お前の女って訳じゃないだろ?」
「いやいや!ミュートは僕のアイズで恋人です!」
「でもヨォ、俺がいい所を見せりゃ俺に鞍替えするって事もあるよなぁ!」
「え……キミとミュートって恋人同士なの?」
「なんだよクロエも?そうだって、ミュートは僕の彼女だし、僕はミュートと別れませんから!ね、ミュート!」
「へー、どうだか……?ロムくんはモテモテですもんにゃー。スレイプニールのお嬢様がたにえらく人気だったし」
「いやいや……ちょっとミュートさん……?」
「ワタシはロムさんに尽くしているんだけどなぁ……」
「オレ……いや自分は惚れた女性には尽くされるよりも、自分から尽くすタイプの男っすよ!」
「そうなんだ!」
「レースで初めて会った時……あの風になびく長い髪としなやかな脚……あの時から惚れてました!」
そう言うとシロエは一輪の薔薇よろしくフォークに刺さった唐揚げをサッとネコミュートに差し出した。
「この戦いで自分、頑張りますから!」
ネコミュートは素早く唐揚げを口に頬張り、意味ありげに僕を睨め付ける。
「ロムもいい所、見せてくれるにゃんだよね?」
「そ……そんなぁ……」
僕はガックリ肩を落として情けない声を出した。慰めようとクロエが僕の肩を叩き、角煮を差し出してくれた。
「大丈夫……最悪ボクが居るし……」
何が最悪なのかよく分からないけど、角煮はしっかりと食べておいた。それを見たネコミュートはプイッとアッチを向いてしまった。
改めまして、お待たせいたしました。
第17章です。
1stと同じくらいの分量にしようと思ったのですが、
もう無理だと諦めました!間違いなく増えます。
その分、皆様を飽きさせないストーリーにしようと
思っています。ご期待に添えれればこれ幸いです!
是非とも最後までお付き合いくださいませ!




