第16章 サイとアム
こんばんは おはよう こんにちは!
第16章を投稿致します。
早いものでもう10月ですかぁ。
ここん所投稿が停滞気味だったので、予定ではもう終盤に差し掛かっているはずだったのになぁ。
とは言えなんとか一週間内での投稿ペースに戻して
行こうと考えております。
第16章 サイとアム
電子レンジで惣菜パンを温めた事ってあるよね。カレーパンだったり、焼きそばパンだったり。
あれって、時間の調節が難しいよね。温めすぎると袋がパンパンになり、しまいには「ぱん!」と大きな爆発音を出してビックリする事がある。
何が言いたいかって、僕がミュートにいわゆるプロポーズをした瞬間、僕の胸の上でそんな音がしたんだ。ご丁寧に白い煙まであがって!
ビックリしたよ!僕の口からついて出た言葉だったとは言えプロポーズをし、それを自覚した瞬間、心臓がバクバクと鼓動が早くなるし、夜風が冷たいのに全身から生暖かい汗が吹き出し始めた。数秒の間にだ。その瞬間に例の爆発音がした。僕の心臓が爆発したかと思ったよ。
実際に爆発音を出した正体はミュートだった。
肘をつき上半身を起こした僕のヘソあたりでミュートが真っ裸で呆けていた。本人も何が起こったか分かっていないらしい。
爆発で吹き飛ばされた彼女の水着は宙を舞い、ヒラヒラと僕の頭の上に落ちてきた。着ていたパーカーは肩からはだけて、僕の足元に落ちている。
「にゃ……ニャンだコリャー!」
ミュートが自分の両腕やブラが取れた胸を見てまさに絶叫した。そりゃそうだよね。
ミュートは、全身毛むくじゃらの生物に変身していたんだから!
改めて説明するけど、この世界は宇宙船の中に造られた、擬似的な世界だ。
人類が地球以外の、人類が移住可能な惑星を見つけるために、宇宙の端々に向けて旅をしている宇宙船の、そのコンピューターが作った電子の世界。
急造品なので、搭載しているデータ量には限りがあり、人間が暮らすのに不要と思われるデータは真っ先にその候補から外れた。
文化に言語、娯楽に趣味……徹底的に削除され、人類が生存に必要な最低限のデータ量しか搭載できなかったんだ。
その中には……人類以外の生物のデータも削除の対象とされたんだ。
図鑑やイラスト、動物園のデータとしてはなんとか生き残っているけど、あくまでコンピューターの作り出したデータ。自我のないアイズみたいなもんだった。
観客が、閲覧者が見ているときは表示されて、だれも見てない時には表示されていないただのデータ。僕らの世界での「動植物」ってのはそう言うものなんだ。
だから僕たちは「動植物」を見ても、その種類や名前が直ぐにはわからないって事が多い。レッドブルのエンブレムの雄牛の事だって随分調べたんだからね。
さてなんでこんな小難しい話をするかって事なんだけど、結論を言えばミュートが「ネコ」に変身していたんだ!毛むくじゃらで、ヒゲと耳がピンと立っている。何より「ニャー」と鳴いているから間違いないはずだ!「イヌ」なら「ワン」と鳴くはずだし!
「ネコ」と思われるその生物は、クリーム色の毛に全身を覆われ、鼻の周りと頬のあたりが焦げ茶の毛になっている。ピンと立った耳も焦げ茶の毛だ。
少し吊り上がった大きな瞳は青色が濃くなり、じっと自分の両手の平を見てキョロキョロしている。
驚きのあまり半開きになった口からは小さく尖った歯が見えていた。
ただ僕の記憶と違い、非常に人間臭い動作をしていた。
この時点では、僕はこの「ネコ」が「ミュート」だとは思っておらず、この毛むくじゃらの生物が腹の上でただ震えているのを「カワイイ」と思ってしまった。
「ミュート……どこに行っちゃったんだ?しかも裸で……」
そう言いながらネコの脇に手を入れ抱き寄せた。こんな毛むくじゃらの生物に触れた事がなかったんだけど、きっと肌触りが良いと直感したんだろう。そのまま抱え上げ顔の近くまで引き寄せた。
「にゃ!私よ!ミュートにゃにょよ!ちょっと……!」
短い手足をバタつかせているネコの瞳に吸い込まれる様に、そのほっぺにキスをした。毛はふわふわ柔らかくてヒゲは逆にチクチクする。
「ふにゃーん……」
今まで騒がしかったネコは急に大人しくなり、今度はネコの方から僕の頬や唇を舐め始めた。
ざらりとした舌の感触がちょっと痛いけど、くすぐったくもある。
「ロムー。私よ、ミュートにゃにょよぉ〜……」
ネコはどうしても自分がミュートなんだ言いたいらしい。舌足らずにはなっているが、言っていることはわかった。
「これって新しいアバターか何かなの?」
「エンゼル兄弟と約束した罰ゲームにゃ。予定より早く変身したにゃんて、明日にでも文句を言うにゃ!」
ネコのミュートは僕に抱えられながら腕を組み憤慨する。手足が短いから手がちゃんと組めていないのがいちいちカワイイ。
「取り敢えず帰るにゃ!」
ミュートが脱ぎ散らかした衣服を拾い、ミュートを抱え、僕らは浜辺を後にした。
……結局プロポーズをしたのはうやむやになってしまったわけだ。
自分としては口をついて出てしまい、熟考して出した言葉ではない。だからといって良い加減な気持ちでも無い。
ミュートが変身した衝撃でちゃんと聞いて居なかったのは残念と言うか、ほっとしたと言うか、僕の中では複雑な心境だった。
朝食を摂りつつヤヨイさんが僕らにウインドウを開いて見せてきた。
「コレなんだけど……どうかしら?」
「にゃ!すごいにゃ!コレにゃらチーム練習にうってつけにゃ!」
ヤヨイさんの見せてくれたデータとステージの全景に、ミュートが興奮し勢いよく立ち上がる。それを見たミカの表情がパァーっと綻んだ。
エンゼル兄弟との合同練習をする場所を皆んなで探していた訳だが、案外近場に使えそうなステージが見つかった。
この浜辺はヤヨイさんの旦那さんやその仲間が作ったものだが、その仲間っていうのがゲーム「ドラゴンハンター」で結びついたメンバーだったんだ。
「ドラゴンハンター」は彼らの中で特別なゲームだったらしく、アイズになっても、いい歳のオッサンになっても楽しみたかったらしい。
そこで彼らは昔からの妄想……「ゲームの中に入りたい」を実現しようとしたわけだ。
そこで作られたのが、この浜辺の先に見える孤島だ。
先日のレースで作られた橋の反対側に接続している、木々が鬱蒼と乱立しているこの島こそ限定バトルステージ「龍が島」だ。
一見するとほとんど整備されていない小さな島なんだけど、いざバトルステージとして降り立つとそこはドラゴンや巨獣の住む異界の孤島となる。
「そして……ダンナの装備が秘宝として眠っているわ」
「ご主人の装備品ですか……?」
ミカが隣の席の僕からミュートを呼び寄せ、膝に乗せながらヤヨイさんに聞く。
「ソレってあれか?ゲームに出てきた鎧とか武器かい?」
ダグの質問にヤヨイさんは首を振った。
「ゲームでも使えたんだけど、本来は違うわ」
そう言うとヤヨイさんは一台のマシーンのデータを呼び出した。
「コレ、分かるかしら?」
「コレは……レースで使ったバイクのデータですね」
「そう。本来はこのバイクはある特撮ヒーローの装備の一部なのよ」
そう言いながらヤヨイさんが動画を再生してくれた。恐らく本編の映像を切り抜き、BGMをつけて編集されたものなんだろう。勇ましいインストゥメンタルにのせて戦うヒーロー。
映像の大元はずいぶん古いものなんだろうけど、その白銀に輝くボディースーツは力強く、神々しく見えた。
「銀河刑事シルバーン……これがウチの旦那の別名よ」
「でも実際にはこのヒーローそのものじゃ無いんでしょ?」
「そう思うでしょ?本当に本物なのよ!ウチの旦那はシルバーンなの!」
そう言ってヤヨイさんがウィンドウに映し出したのは番組のエンディングの画像の切り抜きだ。みんなに種明かしが出来るのがよほど嬉しいのか、操作をしている彼女の目がキラキラしている。
彼女の映し出した静止画はシルバーンがビルの上からジャンプしている画像だった。古い映像らしく画面の左右が切れて真っ黒になっている。今と昔の標準的なテレビ画面の縦横の比率が違うからだ。
シルバーンの姿を避けるように、画面の右に寄せて番組制作スタッフや協力会社の名前が書き連ねてあるが、ヤヨイさんがカーソルを使って一人の演者の名前をポイントする。
「スーツアクター 白銀 五郎」
漢字こそ読めなかったが、翻訳ソフトを通してでもヤヨイさんの言っている事が理解できた。
「ウチの旦那の最初で最後の主演作なんだー。まぁその後直ぐに腰を壊しちゃったからアクション俳優は引退して事務職に転向。そっちの方が向いていたらしく、そこの芸能事務所の社長になったってわけ」
「旦那さん、俳優だったんですねー!」
「そう。アバターになってここに来た時も、腰が痛く無いからまだアクションとかやってみたいなんて言っていたのよ?年齢的に無理なのにね!」
ヤヨイさんは画像を眺めながらも、またあの時みたいに遠い目をしていた。
「えっと……ここからが本題ね。ダンナはこの世界でもシルバーンを復活させたくって、相当な資料をデータ化して持ち込んだんだけど、金額を換算してビックリしていたわ。そこで、データのほとんどをこの島に封印したのよ」
「封印……言うと?」
「あのバイク以外の装備品……ヒーロースーツ、戦闘車両、そして宇宙船の全部にデータを入手するには、この島の主である巨大ドラゴンを討伐しなくちゃならないのよ!」
「うわぁ……ニャンと面倒臭い……じゃなくて用意がいい……」
「面倒臭いでしょ⁉︎あの人、自分に息子が出来たら一緒にクエストするつもりだったのよ?んもぅ、子供作らずに死んじゃうなんて考えが無かったんだから!」
「となると……入手したらどうするんですか?売りに出して新装備を揃えるには時間が……」
「もちろん、私が使うわ!」
「「「「えぇー!」」」」
「なぁにぃ?私が戦えないとでも思ってたの?一応私も運動に関しては自信があるんだけど?」
腕を組み僕らをふくれっ面でヤヨイさんは見渡す。
「そうは言ってにゃいですが……。入手してみにゃいと分からにゃいか、こればっかりは」
ミュートがミカの膝の上で、タダでさえ撫で肩なのにさらに肩を落とす。ヒゲまで垂れ下がるのがいかにもアバターらしい。
「そうと決まれば早速エンゼル兄弟も呼ぼう。クロエにメールを送っておくよ!」
そう言って僕が作成画面を呼び出すと、ミカの膝の上からミュートが僕の膝の上に移動してきた。
「ほんと仲がいいのね!私をネコにしたのはアイツらにゃんだけど」
「クロエと仲が良くってもいいだろ?ダグと仲良くやっていてもこんなにイライラしてないじゃん。ダグと彼の何か違うの?」
「ち……違わないわよ。んもぅ!さっさとあのフード男とスキンヘッドに連絡すれば良いにゃ!」
そう言いつつもミュートは僕の膝の上にチョコンと座り、器用に皿の上のトーストをつかみムシャムシャと食べている。
なんかで見たんだけど、ネコって生物はかなり気まぐれだったらしい。この数日のミュートも気まぐれと言うか、感情が読めないと言うか……。ちょっと距離感みたいなモノを感じるようになってしまった。
……プロポーズ、したんだけどなぁ……
ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます。
少し長い前振りでしたが、バトルシーンの前章になります。
一応モチーフはあるんですが、シルバーンって分かります?
必殺技がダイナミックな宇宙刑事ですよ。
さて次回も週末に間に合うようには投稿したいと考えております。




