第15章 勇敢な心
こんにちは こんばんは おはようございます
本当にお待たせしました。第15章を投稿いたします。
いや本当に投稿ペースを戻さないといけないのに、
仕事が忙しくて執筆ができない!
なんとか二週に一回は投稿して、最終的には
毎週投稿まで回復させたいです!
第15章 勇敢な心
真っ黒な自動ドアの向こうの人物には、確かに見覚えがある。
「あ……レッドブルの……」
突然現れた僕たち同士は、お互いの距離の近さに驚き、どちらも瞬時に一歩引いた。
「エンゼル兄弟の……パーカーさん……」
「パーカーさんって……。あ、そうか。名乗ってなかった……」
確かにそうだ。僕も言われて初めてそれに気が付いた。我ながら失礼だったと思う。
「私はエンゼル兄弟の、クロエ-アモウ……。スキンヘッドの方は私のアニキで、シロエだ……」
「僕はヒロム-アラシヤマ。えぇっと、よろしくでいいかな?」
「うん……。よろしく……」
……気まずい……。いきなり尋ねられて、なんの準備も出来なかったと言うのもあるし、今が今までスキンヘッド……もといシロエとしか話したことが無かったので、何を話せば良いのか分からない。そもそもなんの意図でここにクロエが来たのかが分からない。僕は素直にクロエに目的を聞くこととした。
「えっと……ここへはどうして?なんかの用事かい?」
「良かったら……散歩でもどう?歩きながら話したいんだ……」
少し不思議に思ったけど、口調から察するに他の人に聞かれたくない内容なんだろうか?戸惑うように散歩に誘うクロエに少し興味と好意が湧いてきた。僕はクロエの提案に乗ることにした。
二人横並びに、まだ日差しで白く輝いている砂浜をゆっくりと歩き出した。
クロエはいつものようにパーカーのフードを深く被っていて、夏の強い日差しで生まれる濃い影に、その顔のほとんどが覆われている。表情どころか、鼻から上が全く見えないのだ。
クロエがワンテンポ間があってから頷いたように見えたがそのまま無言だ。さっきの喋り方からも感じたけど、この人は口下手なのかも知れない。更に間を置いてクロエが話し始めてくれた。
「その……レッドブルにお礼が言いたくて……」
やっと聞こえたクロエの回答に、僕は少し戸惑った。
「お礼って……。いやいや、お礼を言うのはこちらの方だよ。レースに負けたのに僕たちの参戦を認めてくれたのはキミたちエンゼル兄弟のお陰なんだから」
「ううん……先に助けてくれたのはキミたちだよ」
さっきまでとは違い、クロエがすぐに、被るようにして僕の言葉を否定すると更に言葉を続けた。
「あの時、キミがロボットでアニキを受け止めてくれなかったら……。私はきっと大怪我を負っていたと思う。それに、車内のアニキも無事じゃなかったはず。キミは……私たち全員の命の恩人なんだ……」
少し詰まりながらも、はっきりとした口調でクロエはそう言ってくれた。まさか対戦相手からこうも褒められるとは思っていなかった僕は、思わずクロエの方に顔を向けたが、クロエはまだフードを目深に被り顔を少し俯き加減だったので、どんな表情で今の会話を続けていたのか窺い知れなかった。
「そう言って貰えると僕も嬉しいよ。争奪戦のことも含めて、改めてありがとう」
僕はクロエへ向けた顔はそのままで改めて礼を言った。自然と右手が出て、握手を求める格好になった。
クロエはそれに気付いてくれたらしく、右手をパーカーの脇で擦り、ノロノロと僕の右手を握った。
「こういうのは……苦手なんだけど……」
なんとか聞こえた文句を聞こえないフリをしたまま、僕はしっかりと握手をした。思った以上に細い手だったけど、返す握手がそれに応えるように力強く握り返してくれた。相変わらず視線は正面の地面を見たままだったけど。どうやら年季の入った人見知りらしい。一時とは言え新しい仲間の気持ちが見えて、僕は少し満足をした。
「ところで……合同でロボットバトルの練習をしたいと……思っていんるだけど……どうかな?」
「もちろんだよ!僕らもまだ慣らし運転すらして無い状態だからね」
「うん……そうだと思ったけど、場所が無くって。どこかに良い場所ないかな……?ここだとスレイプニールに情報をあげることになるでしょ?」
たしかにクロエの言う通りだ。対戦を前にこちらの情報をタダであげるわけにはいかない。
「わかった……。僕らの方でも、なるだけ早く探してみるよ!」
「うん!そ……その……何かあったら電話メールをするよ……!番号交換……してもいいかな?」
おずおずとアドレスを差し出すクロエに、僕は二つ返事でアドレスの交換を行なった。その頃には日が沈み始め、涼しい海風が僕たちの頬を撫ではじめていた。
クロエをミヤザキ氏の海に家に送って戻ろうとしかけた頃には、日がずいぶん沈み、砂浜も海原もオレンジ色の光に満たされていた。
ミュートに帰宅の連絡メールを送り砂浜を歩きながら、両親からもらったメールの内容を再確認した。特に剣撃モーションの部分だ。
資料によればレッドドラゴンのロボットモードでは、今まで使っていたレッドブルと同様の操縦方法らしい。
つまり、同調システムを使用し僕の体と同じ動きをすると言うことだ。そうなると、僕自身がこの剣撃モーションを再現出来ないといけない。
レーサーとして体力や腕力のトレーニングなどは日課としても続けちゃいるけど、剣術なんてやったことがない。そもそもどこで剣術なんて教えてくれるんだ?剣道場にでも修行に行けばいいんだろうか?
やらなくちゃいけないことが多すぎる。ヤバい、チョット挫けそうになってきたぞ……。
「で……!今まで対戦相手のエンゼル兄弟の片割れと一緒に仲良くお散歩していたって事ね!」
両親から送られてきた剣撃モーションのデータを見ているときに、ミュートの電話が強引に割り込んできた。音声のみの通話になっているけどミュートの甲高い声を聞いて、顔を真っ赤にして画面に迫っている彼女が容易に想像できた。
「なに怒っているんだよー。それにクロエ達は対戦相手じゃないだろ?」
「そ……そーね!もと対戦相手ね!何にしてもこんな時間まで私一人に作業させて、二人仲良く浜辺でお散歩デートするのね!ロムは!」
「デートって……。あのねぇ、一人で作業したいって言ったのはミュートだろ?それに、クロエにはお礼を言われたり、一緒にロボバトルの練習をしたいって言われたんだけど……」
「れ、練習⁉︎二人っきりで何の練習するのよ!」
「バトルだよ、バトル!それにみんなでやらないと……」
「み……みんなでクンズホグレズの集団バトルの練習……へ、変態じゃないのアンタは!」
「おいおい……一体何を想像して……」
「こんな事してらんないわ!ちょっとそこで待ってなさい!すぐ私も行くから!」
勝手に何かを想像してエキサイトしたミュートは、一方的に通話を切り、どうやらこちらに来るらしい。
日はどんどん沈んで行き、少し肌寒さを我慢しながら、僕は砂浜に10分ぐらい座って待っていた。こういう所は非常に従順な自分がちょっと情けない。
夕暮れ時の10分ってのは、周りの景色が目まぐるしく変化してゆく。
真夏だと言うのに海からの風はどんどん冷たくなるし、吹いてくる方が雲変わる。まん丸だった夕陽は水平線でバターの様に下から溶けて、今やてっぺんのほんの少しを残すだけとなってしまった。
そんな少し物寂しい周囲の風景をぶっ壊す「モノ」が空から僕を目がけて、文字通り飛来した!
「おいおい……」
風を切り裂く様に現れたのは、夕陽よりも紅い巨大な「モノ」だ。横一直線の影に見えたそれは、時々V字になったりしている。そいつが大きな翼で羽ばたいているとわかった頃には、真紅の表皮が夕陽に照らされてギラギラ光っているレッドドラゴンだとわかった。
レッドドラゴンの背中には仁王立ちしてマントを……いやジャケットか何かを旗めかせている人……逆光でよくは見えないがもう誰かは想像がついている……ミュートが乗っている!
レッドドラゴンがデータに戻され、光の粒になり消えると当時に、ミュートがスーパーヒーローよろしく砂浜に着地した。いわゆるヒーロー着地ってやつだ。
余りのかっこよさに僕は小さく歓声を上げ拍手する。
「……おおー!じゃないわよ!」
近寄られて分かったんだが、ミュートはこの気温の中で、初日に着ていたブルーのビキニに白いブカブカのパーカーを羽織っていた。パーカーは前を閉じていないのでビキニが丸見えで目にやり場に困る。
「な……どうしたんだよ一体!何を怒ってるのか分かんないんだけど」
「私、一人で作業してたんだけど!ロムが剣撃モーションも組み込みたいって言うから、それも組み込んでいたんですけど!」
「そ……そうだね。お疲れさま……」
「そうね!めっちゃ疲れました!あとスレイプニールとの交渉も一人でやりましたけど、こっちも大変でした!」
「あー……お、お疲れさまでした……」
「えぇ!すっごい疲れました!お疲れさまです!」
「えー……ごはんとか……食べに行きますか?ほらエネルギーを使ったでしょ?」
「すっごい使いました!エネルギーが……ロムトロンエネルギーが足らないのですよ!」
口を開くたびにズイズイと僕に迫るミュートは、ついには僕の胸に引っ付き、僕を睨み顔で見上げている。
両手を腰に当てて仁王立ちのまま胸を張って迫ってくるので、彼女の胸は僕の胸の下に押し付けられ潰れ始めている。
「わかったから……ロムトロン?そいつを補給すればいいんだね?」
そう言うと、ミュートの表情が一気に弛みニヤケ顔になる。
「うん!ロムトロンを補給する!こっち来て!」
そう言うが早いか、彼女は僕の手を強引に引っ張り浜辺へ駆け出した。
必死に僕を引っ張るミュートの迫力に無言でついて行くと、岩場の影に着いた。以前みつけた小さなプライベートビーチだ。
彼女はいそいそとシートを広げて僕を手招きする。彼女に言われるままにシートに腰を下ろし仰向けに寝そべるとすでに日は沈み、空には星が瞬き始めていた。
思わず広がり始めた夜空に目を奪われていると、視界の下の方……僕の胸の方からサワサワと筆の様なもので撫でられる感覚があった。仰向けになっている僕に、ミュートが覆いかぶさる様に抱きついているからだ。
海風にそよめく金髪が、薄着の僕の胸元や首筋をサワサワとくすぐり、それに加えて彼女の熱い吐息。
まさかいつも理性的な彼女から強引に誘われるとは……イヤイヤ、どちらかと言うとこう言うことに関しては結構積極的だったかも知れない。
あっという間にシャツを下からはだけさせられた僕の胸や腹、首筋を彼女の唇で念入りにキスで埋め尽くされつつ、未だ僕は理性を保っていた。
「どうしたの……その……積極的だね……」
体に走るむず痒さを我慢しながらミュートに聞いた。
「だってさ……こっちに来てからずっと……他の人と仲がいいもん。昨晩は一緒に寝れなかったし……」
キスで途切れ途切れになりながら器用にミュートが答えた。彼女が話しにくそうなのは、キスの嵐以外にも原因があるみたいだ。
「えっと……やきもちって事でしょうか……?」
「な……!私がやきもちですって⁉︎アイズの私が⁉︎」
びっくりした様にミュートが上半身を飛び起こす。じっと僕の顔を見下ろしたかと思ったら、そのまま振り返り海を見たまま僕の傍で膝を抱えて座ってしまった。
何かヤバいことを言ってしまったらしい……シャツを元に戻して、僕も座る事にした。
「え……なんかゴメン……」
「ううん……そうじゃなくてさ……」
「いや……その寂しかったって事なのかなーって」
「うん。寂しかった。ロムが他の人と仲良くなって、私のことを一人にしてたし……」
「そんなに僕のこと……」
「うん……でもね……コレってアイズが持たない感情だって、知ってた?」
「え……?」
「アイズってね、その持ち主の幸せを第一に考えるようにプログラムされてるの。だから持ち主が他の誰と仲良くなろうと、その人が望んだ事なら普通は納得するものなのよ」
膝に埋めたままの彼女の顔が全く見えないけど、心なしか声に震えが感じられる。
「持ち主への独占欲なんて……もっての外なのよ」
「でもさ……うちの両親だってホラ……やきもちぐらい妬いていたし……」
「ううん……あれって言わばお芝居なの。心の中じゃそんな事思っていないわ……」
「そうなの……?」
「うん……すごく本気の、見分けがつかないレベルのお芝居。でも、私のこの感情は違うの!」
やっと顔を上げ、僕を振り向いたミュートの顔は困った様な、笑っている様な……でも月明かりを反射する頬の光の粒を見て……泣いているってのが僕のも分かった。
「どうしよう!私、ロムが大好きなの!あなたを独り占めしたい!あなたに抱かれたい!あなたに私だけ見ていて貰いたい!でも……コレってアイズが持っちゃいけない感情なのに……」
あぐらで座っていた僕の胸に、彼女が素早く飛び込んできた。
「どうしよう!故障なのかな!バグを抱えているのかな!そんな事になったら……ロムとお別れなんて……耐えられない……!」
震える彼女は子供みたいで、いつもとは違い儚くて、触れている部分はあったかいのに、なんか氷細工みたいに触れたら粉々に砕けてしまいそうだ。
それでも僕は彼女の体を抱きしめた。震えが止まる事を願って。そして僕は彼女の耳元で感情のまま……いや、確固たる意志を持って答えた。
「結婚……しようか?」
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます!
やっと第1章の冒頭シーンの回収ができました。
長かった!投稿ペースの乱れも加わって長かったー!
さてさて、次回からはバトルシーンにつながってゆく
流れになるそうです。出来ればシルバーウィークの
暇つぶしに読んでいただける様なタイミングで投稿
できたら…あーフラグになりそうなんで辞めとこ!
もし次回も期待して頂けるのなら幸いです!
高評価ブックマークも是非お願いします!
コメントなんかも下さい!モチベーションになります!




