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Fゲーム2nd  作者: 塚波ヒロシ
13/26

第13章 153の歌

こんばんは、こんにちは、おはようございます!

ざっと2週間ぶりの更新となってしまいました。

お待たせしてごめんなさい!


早速ですが第13章始まり始まりー

第13章 153の歌


 良くても悪くても、夢を見てそこから覚める時って、すこしの間いま自分はどこににいるのか分からない時ってないかい?

 今の僕はまさにそれだった。今さっきまで見ていた夢の内容はどんどん忘れていって、その代わりに見慣れないと感じていた周囲の風景や状況が頭の中で整理されてゆく。脳みその処理が見ている現状に追いつき始めているのを実感する。

 僕が寝ていたのは、ヤヨイさんの経営するホテル「バンドラン」の自室のベッドだ。ダブルベッドを独り占めして寝ていたようだ。

 いつも傍にいるはずの彼女……人工知能体アイズのミュートは居ない。その代わり、ベッドの外の右側に窓を背にして誰かが椅子に座っている。座っていると言っても、上半身は僕の寝ていたベッドに突っ伏している。自分の腕を枕代わりにうつ伏せの状態だ。顔は僕の足の方に向いていて誰だか分からないが、薄ぼんやりした部屋の明るさでも、ミュートと髪の色が違うのはわかった。

 ウィンドウを立ち上げて時間を確認する。もうすでに早朝と言って良い時間となっていた。レースをした時間から計算して、ざっと7時間ほど経っている。

 そうだ……!僕はレースをしていたんだ!

 まるで早送りした動画を見ているかのように昨日の晩のレースの状況が思い出された。宙を舞うレッドブルのコックピット、ミラーに映るスキンヘッドの白い車の天井、後ろを振り返りながら何かを叫んでいるミュート達……。僕が最後に見たものは、コマのように回転しながら飛んでくるスキンヘッドの白い車体と、真っ赤な装甲に包まれた僕の両腕だった。

「ムニ……オハヨウ……」

 起こすつもりは無かったけど、何かに勘付いたのか、ベッドの脇の人物がゆっくりと上半身を持ち上げた。

 彼方を向いていた顔を正面にやり、まだ眠そうに両目を両手で擦る。その手で顔を覆っているし、外からの光がちょうど逆光になっているので顔はよく分からない。

 その人物が気怠そうに音声入力で部屋の明かりを灯す。まぁ、さっきの眠そうな第一声で何となく予想はついていたんだけど。

「おはようロムくん。調子はどうだい?」

 起きたばかりでハッキリとしない発音で、ウミ-アズマさんが僕に挨拶をしてきた。あくびを我慢し、まだ半開きの瞳で僕を見ている様子からは、とても年上だという雰囲気は微塵もない。

「……えっとおはようございます。今って……」

 彼女よりも随分と覚醒している僕は、寝起きの所申し訳ないと思いつつ、気になる事を立て続けに聞こうとした。

「今は……レースに次の日の朝だね。結構寝られたんじゃないかな」

「はい。しっかりと寝ました。体力的には問題ないみたいですよ。いきなりなんですが、あのレースの最後に何があったんですか?」

「覚えてないみたいだね。結構な大立ち回りをしたんだよ、君は!」

「対戦相手が最後のジャンプ台でミスをした。奴の車がコントロールを失って、ゴールライン付近の観客目掛けて飛び込んでいった。そこまでは覚えているんですけど」

「問題はそこからだよ。君は……アイズの協力なしにロボットモードに変形させたんだよ、レッドブルをさ」

「レッドブルを変形させた……。一人でですか?」

「そう。一人ででね。そして飛んできた対戦相手の車体を全身でキャッチ。しかも観客を守る為に一瞬とは言えバリアーフィールドを展開したんだ」

「そんな機能はレッドブルには……それより観客に被害は無かったんですよね」

「うん。全く無かった。まぁ逃げる時にもみくちゃになって軽傷を負った人はいたけどね。君のチームメンバーはもちろん、あの場に居合わせた人達に怪我は一切無いよ」

 それを聞いて、僕は大きな安堵の息をついた。よかった。本当に良かった!でもそこで逆に新たな疑問も生まれた。

「ところでミュートは今何処に?」

 ウミさんがさっきまで起こしていた上体を、またベッドの脇に突っ伏した。

「キミは本当にミュート第一なんだね。ちぇ!」

 ベッドにうつ伏せしているので顔は見えないけど、ウミさんの声に不機嫌さが浮かび上がった。

「大丈夫だよ!怪我ひとつないんだから。ただあの後キミが気絶してしまったのを見て、彼女も寝込んでしまったみたいだよ。よっぽどショックだったんじゃないかな?」

「そうですか。あ、それでウミさんがここで看病してくれていたんですね」

「そうだよ!全く、キミはボクにまずお礼を言うべきなんだからね!」

「すいませんウミさん。有難うございます!」

「まぁ……良いけどさ。あと、コチラもお礼を言わないとね。ボク達スターチャート主催のレースでこんな事になってしまって申し訳なかった。キミの行動が無かったらとんでも無い事になっていたと思う。ありがとう、ロムくん」

 うつ伏せになりながらも、首だけ動かして彼女が僕をチラリと見る。鼻から上の一部しか見えなかったけど、表情は笑っているように見えた。

 でも、その表情は一瞬で険しいものになった。

「もう一つキミに伝えなければならないことがあるんだ……」

 のそりと上体を起こした彼女の表情は険しいままで、その目はしっかりと僕の両目を見ている。恐らく言いにくい事なんだろう。次の言葉が中々聞こえない。

「レースの規定により、君達チームブレイバーは失格だ。ボク達スレイプニールの対戦相手はチームエンジェル兄弟になった……」


「ええ、私達は龍が浜防衛線の参戦権を失いました」

「なんで……!」

「お前を責めるわけじゃ無いが……。レース中にロボットモードに変形したのが原因だ」

「だけど!観客に被害が出たかも知れないんだぞ?」

「分かってるさ、そんな事!だから今ミュートが交渉に行ってるんだろ?」

 ホテルバンドランで唯一食事が取れる場所、居酒屋 烈空で僕ら三人は落ち合った。長卓を挟んで、ダグとミカが隣り合って腰を下ろしている。ミュートとヤヨイさんはここには居ない。

 二人は今、ウミさんらの所属するチームスレイプニールの航空母艦イスカンダルにいる。目的は僕たちチームブレイバーの参戦権の復活だ。

 龍が浜ビーチ、このビーチは五人の資産家の共同出資で作られた、マリンスポーツを楽しむためだけに作られたプライベートビーチだ。

 ほぼ個人的な目的で作られたビーチだったのだが、数年前からスターチャートカンパニーというスポーツ用品メーカーがビーチの購入を打診してきた。

 元々出資の手伝いをしてきたスターチャートなのだから、購入しようとする動き自体を咎められる事はない。金額も妥当以上の好条件だった。

 ただ、龍が浜の五人のオーナーが頑固だっただけだった。自分達の好き勝手に作ったビーチを、せめて自分達の眼の黒いうちには手放したく無いと言うだけだったんだ。

 何か待てない理由が他にあったのかも知れないが、スターチャートは引き下がらなかった。この龍が浜がバトルステージ扱いだと言うのを逆手にとって、龍が浜の所有権をめぐる大掛かりな対戦を申し込んで来た。

 龍が浜出資者サイドもこの対戦に応える事となった。すでに五人の資産は随分心もとなくなっており、この対戦の勝利で得られる資金、権利、宣伝効果は非常に魅力的だったんだ。

 龍が浜の五人のオーナーの一人ヤヨイ-シロガネさんは、その対戦に参加するために、この数ヶ月レースで名を上げ始めた僕たちチームブレイバーを雇ったのだった。

 しかし事前の打ち合わせが少なかったせいなのか、他の出資者の一人ミヤザキ氏も独自にレーサーを雇っていた。それがエンゼル兄弟。僕らチームブレイバーも数回やり合った経験がある、実力も人気もあるレーサーチームだ。

 僕らとエンゼル兄弟は、龍が浜争奪戦への参戦権の所在をハッキリするべく、昨夜レースで対戦をした。

 その戦いで、僕たちチームブレイバーは「失格負け」をしてしまったのだ。それは僕の行動のせいなのだった。

「交渉って……ミュートとヤヨイさんが、ミヤザキ氏に掛け合っているって事かい?」

 僕はさっきまでの言葉の勢いを緩め、ダグに慎重に聞いた。

「そうだよ。確かに今回お前はレッドブルをロボットモードに変形させた事で失格になった。だがその事で観客どころかエンゼル兄弟にスレイプニールの面々にすら被害が出なかった。言わば全員の命の恩人って訳だ」

「まぁ……そんな大それた事をしたつもりは無いけど……」

「嫌らしい話お前のおかげで他のチームは、命も金も社会的信用も失わずに済んだんだ」

「コチラもビジネスがかかっているんです。コチラが有利なうちに……。と言っていたのはミュートなんですけどね」

 そう言うとミカとダグはすまなさそうに僕を見た。

「正直なこと言うと、俺たちはミュートを止められなかったんだよ。全部押し付けちゃったんだよ、面倒臭くて悪者になる交渉ごとをさ!」

「彼女もショックで寝込んでしまっていたのに、起きたらすぐにヤヨイさんを誘って、こんな時間にイスカンダルに乗り込んで行ってしまったんです」

「じゃぁ今からでも僕もイスカンダルに……」

「いやいや、もう遅いな……」

 席を立とうとする僕を、ダグが片手で制した。

「ミュートから着信だ。交渉が終わったらしいな」


「ミュート!」

 ヘリのタラップが降り切る前に、僕は巻き起こされている強風に逆らいながら駆け寄った。

 風に吹き乱れる長髪を鬱陶しそうに抑えながらミュートと、その後ろからヤヨイさん、エンゼル兄弟のスキンヘッド、そしてスレイプニールのスメラギさんが降りてきた。スキンヘッドはタラップの中腹でさらに後から降りてきたミヤザキ氏に手を差し伸べる。強風に押されて、ミヤザキ氏の足取りは少し危なっかしかった。

 タラップに足を掛けはしなかったが、僕もスキンヘッドに倣ってミュートに手を差し伸べた。彼女は髪を抑えている手とは逆の手で僕の差し伸べた手に自分の手を添える。

 ミュートは思っていたよりも強く僕の手を握り、体重を少しかける様にして、タラップの最後の一段を降り切った。

「ありがと。取り敢えず話すことが沢山あるわ」

「ならば海の家で腰を下ろそう。茶ぐらいは出すぞ」

 ミヤザキ氏はふぅと一息ついた後に、僕らを見渡してそう提案してきた。ミュートは僕を見ながらゆっくりと頷く。僕にも特に断る理由は無かった。

 ミヤザキ氏は海の家に着くや否や、音声入力で管理ソフトに命令し、ブラインドを下げさせた。

 この海の家は三方の壁は無く、屋内を全て晒しているのだけれど、これからのミーティングの重要度からして流石に開けっぴろげにはできない内容らしい。

 海の家には今回の関係者のほぼ全員が腰を下ろしていた。

 エンゼル兄弟はカウンターに設置されている、背もたれのない回転椅子に並んで座っている。カウンターにはミヤザキ氏が立って、湯を沸かしている。エンゼル兄弟はミヤザキ氏と対面しているのだけれど、僕たちの顔を見るために半身を見せるよう、椅子を回転させている。

 さっき閉められたブラインドに一番近い座敷席には、スレイプニールの面々だ。当然、先ほどまで僕に部屋にいたウミさんの姿も見える。全員がいつの間に着替えたのか、揃いの軍服の様な白いフォーマルな出立ちだ。確か彼女達の母艦イスカンダルの中でもこの格好だった。恐らくスレイプニールとしての公式な場にはこの姿なんじゃないだろうか。

 僕らチームブレイバーとヤヨイさんは、ちょうど彼らに挟まれる形だ。丸いガラス天面の白いテーブルと、同じく白い椅子。僕とミュートとヤヨイさんが同じテーブルにつき、ダグとミカがその隣のテーブルに腰を下ろした。

「さて、まずは先日のレース。皆さんお疲れ様でした」

 スメラギさんが座敷席からコンクリの土間におり、皆に声をかけた。どうやらスレイプニール主導でミーティングが進むらしい。

「今回、結果としては怪我人なくレースを終えたのですが、その事について先ずはスターチャートを代表してお詫び申し上げたい。安全管理面で我々に不備が有り、そのフォローのためにチームブレイバーに尽力を頂き、多くの人たちの命を救っていただいた。感謝しても仕切れないほどだ」

 スメラギさんが少し間を置いた。僕は隣の席のダグをチラリと見たが、ダグは腕を組み目を伏せていた。

「しかしながら、チームブレイバーのレッドブルが緊急事態に対応するために、レースのルールを破り失格となってしまう事態になった。我々主催者側としては、非常に心苦しい結果となってしまった」

 スメラギさんがここでもまた言葉を切った。しかし今度は腰の後ろに回していた手をミヤザキ氏の方に上げた。カウンターでポットから湯を注ぎながら、ミヤザキ氏はゆっくりと話し始めた。

「そこで、一つ提案なんだが……」

 ミヤザキ氏は、スメラギさんとミュートを見遣りながら、勿体ぶる様にして言葉を続けた。

「我ら2チームで共同戦線を貼ろうと思うんだが、どうだね?」

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


結構ガッツリ目の体調不良と、仕事の追い込みが

重なってしまいました。

気をつけます。ほんと辛かったー!


今回からちゃんと毎週更新いたしますので、まだまだ

お付き合いくださいませ!

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