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Fゲーム2nd  作者: 塚波ヒロシ
11/26

第11章 一分間の英雄

こんにちは!こんばんは!

今回もお世話になります、塚波です。


第11章を投稿いたします。


「アスファルト」ってレースゲーム

面白いっすよね!


第11章 一分間の英雄


 もっと早く気付いていれば、ダグやヤヨイさんにアドバイスを出来たんだろうけど、そうもいかなかったのが残念だ。せめてアンカーの僕が勝つ事で良しとしてもらおう。

 このシステム……大昔のレースゲーム「アルファ ファスト」で使われていたシステムは、いわゆる「かっ飛ばしレースゲーム」の最たるものだった。

 レースゲームには「リアルドライビングシミュレーター」「パーティーゲーム」そして「かっ飛ばしレース」の三種類で大体分けられる。まぁ、名称は僕が勝手につけたんだけどね。

 「リアル……」系は、本当に実車を運転しているような挙動で走るレースだ。ゲームによってはエンジン音までに実車からサンプリングしていたようだ。今じゃ貴重なデータの塊の為、どれだけ大金を叩いても手に入れることが出来ないだろう。

 「パーティー……」系は、おおよそレースゲームとは名ばかりの、どちらかと言えばアクションゲームに近い作りだ。アイテムを投げ合い、ライバルをスピンさせ、ゴールを掻っ攫ってゆく。テクニックは必要だが、実車のそれとは全く違うテクニックが要求される。

 「かっ飛ばし……」系は、その中間に位置するレースゲームだ。リアル系ほど実車の挙動に近くは無く、むしろドリフトなどは比較的簡単に行える。パーティー系ほどアクション要素は取り入れていないが、アイテムを取ることでニトロブーストのゲージを溜めたり、体当たりで敵を弾き飛ばしたり出来る。

 僕がFゲームのレーサーになるキッカケが、まさにそれらのテレビゲームだった。

 父さんのコレクション……と言っても、だいぶ新しいもの……だったり、古いゲームデータを現在のシステムとグラフィックでリバイバルした新作ゲームだったり。

 今回のレースは、年齢的にそして金銭的にFゲームが出来なかった当時の僕が夢中になって遊んでいたレースゲームの、まさにその中の一つ「アルファ ファスト」のシステムそのものだった。結構昔のゲームだったから思い出すのに時間がかかった。

 「アルファ ファスト」の特徴は、ジャンプ台でのアクションや、ライバル車両を破壊する事で溜まる「ニトロゲージ」だ。危険な運転をする事でより多くのゲージを溜め、それを使い爆発的な加速を行える。

 僕のやっていた最新版は、オリジナルデザインの車両ばかり登場していたが、地球で遊べた頃では、有名な実写で遊べていたらしい。

 ともあれだ、僕の今のアドバンテージは「このゲームシステムをスキンヘッドより理解している」事に他ない。アイツがシステムに気付く前にゴールしてしまえば僕の勝ちだ!

 ロングストレートの後のジャンプ台ももちろん水平ロールを使い、ニトロゲージを満タンにする。スキンヘッドは単にジャンプをしただけなので、システムをまだ理解していないようだ。

 僕は彼にバレないように一瞬だけニトロを使い、着地時の減速をキャンセル。トップスピードを維持しながら次の直線コースに突入した。

 スキンヘッドの白い車体が、ミラーの奥でまた遠ざかる。彼にしてみると何が起きているのか全くわからないはずだ。現在の差はザッとだけど僕が3秒ほど早いはずだ。

 僕はなるべく彼にヒントを与えない為に、前半の残りを普通にクリアーする事にした。ニトロゲージは満タンを維持しているし、3秒のアドバンテージは早々覆されないと踏んだからだ。

 前半が終わり折り返し値点が見えてきた。沖合の島に繋がっているこの橋は、そこで一旦途切れる。僕はそこからつながるロータリーにドリフトをしながら突っ込んだ。

 レッドブルがロータリーを廻り、反転した所で白い車体がほぼ正面に見えた。まだまだ僕には追いつけないようだ。

 少しホッとした。後半はもっと落ち着いて走れる。そう思った瞬間だった。

 白い車体が飛び上がり、スピンをしてしまった。僕に追いつこうと焦ったのか、ロータリーでドリフト中に縁石に乗り上げ、空中で一回転してしまった。

 僕からもその光景が見え、事故かと一瞬ヒヤリとした。レッドブルを停めようかと一瞬思ったが、スキンヘッドも腕のあるレーサーだ。難なく車体を操り、一瞬止まりこそすれ、そのままコースに復帰した。

 僕は復路に既に入っていたのでそこからは見ていないが、そこで何かが起きたらしい。

 オープンチャンネルになっているギャラリーたちの歓声が一際大きくなった。そしてそれと同じくして、ミラーの中の白い車体も!

 白い車体の後部から、青白い光が煙のように立ち上っている。あれはニトロの炎だ!

 いつ気付いた!

 僕は相手がどこまで差を縮めて来るのか様子見をする為、ニトロを使わずにコースを進んだ。

 1秒……。僕とスキンヘッドの差はそこまで縮まったようだ。

 どこでニトロの再チャージに気付いたんだ?最初からか?わざと再チャージしなかっただけなのか?いや……違うな。さっきのロータリーでのミスの時か!あれで偶然ニトロが少しチャージされたんだ!そこでスキンヘッドが気付いたんだ!ジャンプ中にスピンターンをすればニトロが再チャージ出来る事を!

 ならばまだ付け入る隙はある!僕は丸々残っているニトロに点火した。全身を覆う圧力に、骨が軋む。テレビゲームなら問題ないが、ほとんど現実に近い感覚のFゲームの中ではそうも言ってられなかった。こう何度も高加速と空中浮遊を繰り返すと、内臓がひっくり返すかえり、口の中から飛び出してきそうだ。

 ニトロ点火中の揺れるレッドブルの中で必死にステアリングを切り、そのまま次のジャンプ台に突入する。サイドブレーキを使い、車体を無理矢理ドリフトさせる。今度は体が左に吹っ飛ばされそうになる。大したもので、遊園地のコーヒーカップみたいに回転するレッドブルの中からスキンヘッドの白い車体が一瞬だけ確認できた。

 ミュートが乗っていれば正確に分かるんだろうけど、おそらくまだ1秒は僕の方が早いようだ。それに相手は別のジャンプ台を使ったみたいで、体当たりされそうにもない。

 僕は着地すると同時にニトロを点火する。一瞬遅れて、右後方からも甲高いエンジン音がしている。ミラー越しに相手を確認したが、差は広がりも縮まりもしていない。

 なるほど、レッドブルを倒す為に用意した車だけのことはある!車体の性能だけならほぼ同じって事か。

 ドライバーテクニックならどうだ。相手は百戦錬磨のラフプレイヤーだけど、奴を何回も打ち破ってきたはずだ。ミュートが居なくたって!


 折り返してすぐのジャンプ台。2台が並んで跳べる幅になっていて、そこにレッドブルはニトロを点火したまま飛び込む。当然水平ロールをしながらだ。

 スキンヘッドの白い車も同様なアクションをする。もうニトロ再チャージのシステムはバレているのがわかった。

 ならばこれはどうだ!

「オーバーブースト!」

 ブーストゲージの色が変わった所で、もう一度ボタンを押し込む。コースはジャンプ台こそないが、途中で大きな穴が空いている。ここは下り坂になっていて、階下のコースに移動できるはずだ。

 当然ここでも水平ロールの操作を忘れない。対空時間と回転数が少ない為、ゲージは半分しか回復しない。オーバーブーストのゲージ回復量はゼロだ。

 ミラーには奴の車体は映らない。上のコースをそのまま進んだらしい。

 このレースのコースが「アルファ ファスト」のコピーならば、ここには「アレ」があるはずだ。

 階下コースは上のコースと違い、未だ工事中という設定らしく、バリケードや三角コーンが至る所に散乱している。しかし僕はそんな事に構わず……いいやワザとニトロに点火。文字通りそれらを吹き飛ばしながら疾走する。

 階下のため、薄ぼんやりとした一直線のコース。レッドブルのフロントからヘッドライトがニョキっと迫り出して、薄暗いコースを照らし出す。

 ドンドン背後へと流れてゆくコースを素早く確認し、「アレ」を探した。

 すると、前方の二つ目の上り坂……上のコースに復帰する上り坂に、黄色い光を放つ看板のようなものが見えた。

 僕はきっとニヤリと笑ったんだろう。思わず「よし!」と声が出てしまった。

 これこそが必勝のアイテム!まさに勝利の鍵だ!


 黄色の光のツブがフロントガラスに映り込む。例のアイテムを入手できた証拠だ。

 レッドブルはそのまま上り坂を勢いよく登った。登った先が未確認な事と、スキンヘッドの車の現在地をしっかり確認したかったので水平ロールはしなかった。

 夕日はほとんど沈んでいたので、開かれた橋の上でも既に夜の帳が降りていた。橋の欄干にはオレンジに近いイエローのライトが点っていて、コースの外縁を形作っている。結構な光量なんだろうけど、レッドブルのガラスが自動的に眩しくない程度まで抑えてくれていた。

 その光に点されて、何人かの観客の姿も見える。ほとんどの観客はスタートかゴールの位置で、僕らの登場を心待ちにしているが、何割かのファン……カメラを構えているのをみると、結構コアなファンか、それとも地方紙か雑誌の記者なのかもしれない……が必死に顔を突き出して僕らを見ているのがよくわかった。

 彼らの目線はほとんど同じ方向を見ている。小さなジャンプ台を跳びながら水平ロールをし、丁度着地をしたスキンヘッドの白いトランザムと、その前方5メートルほどの階下から続く坂を勢いよく登りコースに飛び出した真紅のカウンタックだ。

 5メートルなんて時速100キロを超えるスピードのレースだと、観客にすれば差が無いように見えるだろう。しかし、僕とスキンヘッドにしてみればこれはかなり大きな差だ。

 しかも僕にはさっき取ったアイテム「ブーストゲージ拡張」がある!

 たった10%の拡張に過ぎないけど、リードしている僕にとっては必殺のアイテムだ。

 レッドブルが着地したのと同時に、背後のトランザムのエンジン音が甲高い叫びを上げる。ニトロ点火時の独特の音だ。

 僕もハンドルに付いているボタンを押し込む。急加速と共に視界の端の景色が歪んだ。思わず食いしばった奥歯がギリリと口の中で気味の悪い音を出す。

 右のミラーの中の白い車体は大きくも小さくもなっていない。僕のニトロ点火はベストのタイミングだったようだ。

 それならばこの残り数百メートルになったこの勝負は間違いなく僕の勝利だ!「アルファ ファスト」をやっていた僕には確信があった。ここまで来たら多少のアクシデントが有ったとしても負ける筈がない。

 レースも残り数百メートル。前方に見えるジャンプ台を越せばゴールだ。ゴールテープの上に設置されたネオンの看板も薄らと見えてきた。

 問題があるとすれば、その最後のジャンプ台だ。今までの物とは明らかに大きさと、その形が全く違う。

 今までのジャンプ台は、ただ平坦な板で出来た物だった。大きさや角度に違いがあったとしてもだ。

 けど最後のジャンプ台は全く違っていた。そもそもの形が平坦じゃないんだ。

 本来は水平に持ち上がっているジャンプ台の左側が、右側に比べて急な角度で持ち上がっている。捲れ上がっていると言えば良いんだろうかな。

 まるでゼンマイのバネのような渦を描いたジャンプ台は、最後には天地が逆になるまで捲れている。それが2本、左右対称に配置されている。僕の正面には時計回りの、スキンヘッドは右側にある逆時計回りの渦を描くジャンプ台を使う事になるだろう。

 一瞬2つのジャンプ台は僕達から見るとまるでハートマークを描いているように見えたけど、一緒に渡るのがスキンヘッドの奴だという事に気付いて、その考えを振り払った。

 ニトロでの加速は最高値に達していた。速度メーターは350と351を代わる代わる表示している。最後の1と0が見分けられない速度でチカチカと表示を変えている。

 ニトロゲージの色が変わったところでジャンプ台に差し掛かった。

「オーバーブーストー!!」

 声を張ったところで速度が余計に上がるわけじゃないんだけど、思わずいつもより大きな声で命令し、ボタンも強めに押してしまう。

 レッドブルは機械的に反応し、ニトロに再点火した。螺旋階段のように捻れたジャンプ台を疾走するが、それを物ともせずレッドブルはグングンジャンプ台を登ってゆく。

 側から見れば僕は横転し、最後には上下逆さまになっているのだけど、レッドブルのオーバーブーストと、元々ジャンプ台に仕込まれた加速装置によって車体と僕の体はジャンプ台の路面に押しつけられるようになる。慣性の法則って奴だっけ?スクールで習ったような気がする。

 気の遠くなるような圧迫感と、舌を噛みそうなほどの振動が全身を襲う。頭の上に巨大な削岩機でも載せられているようだ。

 だけどもそんな地獄の仕打ちもほんの数秒で終わった。

 ジャンプ台が終わり、上下逆さまの状態でレッドブルと僕は空中に投げ出された。

 捻りの加わったジャンプ台のせいで、レッドブルにはきりもみ走行の力が加わる。空中でのレッドブルは、まるで真紅の弾丸に見えるはずだ。

 ゴールしてしまえば使わないニトロゲージがグングンと溜まる。僕の前の景色は上下がグルグルと回っている。車体の下方向に力が働いているので、僕から見れば、ゴールを待ち構えている正面の観客たちは洗濯機に入っているかのようだ。

 その観客たちがささぁーっとゴールテープの辺りから離れていったのが僕にもわかった。

 きっとレッドブルのジャンプが、彼らが思っていた以上に距離が出ていたんだろう。もうそろそろ着地だから、安全な所にサッサとどいて欲しい。

 きりもみ回転も緩やかになり、いよいよレッドブルが着地しそうになる。後輪を空中で回す事で回転を操作し、ちゃんと上下が正しい状態で着陸態勢に着いた。ゴールテープ手前で安全に着陸できる予定だ。

 そんな僕が確認のために見たミラーの中では、明らかにおかしな事が起きていた。そしてそれは大惨事になりかね無い、危険の予兆だったんだ。

 

ここまで読んでいただいて、誠にありがとう

ございます。


次回もちょっとだけバトルシーンをして、

その後は…。お楽しみに!


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