第10章 Blanco
こんにちは、こんばんは
ちょっと遅くなりましたが、第10章を投稿します。
やっとバトルシーンに突入です。
エンゼル兄弟のマシーンをどうするかが1番の悩みでした!
ともあれ、久々のバトルシーンをお楽しみください!
第10章 Blanco
レッドブルのエンジン音が高まるにつれ、僕の尾てい骨は心地よい振動を感じた。
先程まで両親のメールを書いていたウィンドウを閉じ、同時に送信ボタンを押す。時間があれば電話で話をしたかったんだけど、今回のレースのせいで時間が無かった。メールではレッドドラゴンに乗る事と、剣撃モーションが欲しい事、『百花繚乱』の事を書いておいた。
ちょっと事務的に処理したのが自分でも寂しいけど、レースが終わったら報告も兼ねて電話しよう。なーに、元気にやっているさ!
レッドブルをゆっくりと前に進める。どこから集まったのか、水着のままの女性たちやドリンク缶を振り上げて何やら叫んでいる日に焼けた男性たち。周りはぎっしりとこのレースを見ようと集まった観客たちで寿司詰め状態だった。
僕は車で轢かないように慎重にレッドブルを進めたけど、そこら辺にいる観客たちはワザとレッドブルのフロントをトントンとノックしてくる。
ガラス越しなので外の騒音はだいぶ和らいでいるが、それでも応援や罵声、関係のない歓声がうるさくてしょうがない。まるで野外の音楽ライブ真っ只中のようだ。行った事ないけど……。
「ロム、二番手のヤヨイさんがスタートしたわ」
ミュートの音声がスピーカーからはっきりと聞こえた。
「了解。差は?」
「2秒よ。ダグのリードをほとんど使っちゃったわ」
「そりゃヤヨイさんはレースの素人だもん。しかも相手は『百花繚乱』元メンバー。善戦だと思おうよ!」
「そうね。一応このペースなら同時にバトンタッチする事になるみたい。私が乗ってないんだから、無茶はしないでね?」
「分かってるよ」
「そう……。ならいいわ……」
やっぱりミュートの様子が少しおかしい。なんだか僕に対する言葉とか態度がぎこちない。
ただ、僕には何故そうなっているのかが分からないんだ。このレースが終わったら話し合うのが良いのかもしれないし、電話で母さんに相談するのも良いかも。そんな事を考えているうちには車外の観客たちがユルユルと道の傍に移動し始めた。
「用意はいい?もうすぐ第二走者が到着するわ」
ミュートの声がメットの中に響く。右隣にエンゼル兄弟のスキンヘッドが乗る真っ白な車体が視界に入った。
挑発しているんだろう、エンジンを唸らせ車体を前後に揺らしている。それの合わせて観客の嬌声が湧き上がった。
「ようレッドブルよ!どうだいこのトランザムってマシーンはよ!」
「いい車だね!ゴツくて速そうだ!」
「余裕じゃないか!コイツはテメエの車をぶっ潰す為に大金をはたいて用意したマシーンだからな!今からテメエを潰せるかと、ウズウズしてるぜ!」
「ソイツは楽しみだね!今回は変形無しのレースだから、手加減しちゃうけど申し訳ないね!」
「……んだとコラァ!手加減とかぬかしやがったな!変形があってもコイツは……」
スキンヘッドが怒鳴り散らしているうちに、ヤヨイさんとミヤザキ氏の車体が肉眼でもみえてきた。
僕らが並んでいる逆の車線を、砂埃を上げて疾走する2台のバイクがみえてきた。
一台は真っ赤なサイドカーだ。サイドカーと言っても、その車体はグランドピアノの天板みたいな形で、車体全体を丸みを帯びた装甲で全体を包んでいるSFマシーンだ。乗っているのはヤヨイさんなんだけど、車体のデザインのせいで、首から上すらも僕からは見えない。
それよりも少し前を走っているのは、これもまた真っ赤なバイクだ。
ヤヨイさんのバイクが横に広いシルエットに対し、こちらは縦に高いシルエットだ。バイクというのは明らかに大きな車体で、力強いデザインとなっている。
出発前に搭乗専用のスーツも見せてもらったのだけど、その姿は中世の騎士みたいだった。コールネームは「ラプター」と言うらしい。
ラプターはその巨体で難なくジャンプ台を飛び、障害物として設置されているカラーコーンを吹き飛ばし爆走している。少しずつヤヨイさんを追い抜き始めている。
スタート目前になったのでスキンヘッドとの通信がブロックされた。僕に話しかけることが出来なくなった代わりに、その大きなエンジン音でスキンヘッドが挑発をしてくる。
Tシャツ姿のウミさんが僕らの前に進み出た。両手にはそれぞれ赤と白の旗を持っていて、それを車体の前に差し出す。これが振られたらスタートだ。
鼓動が早くなり、ハンドルを強く握る。自然と上半身が前に傾く。
左前方のミュートを見ると、彼女も僕をじっと見ていた。身動ぎ一つせずにじっと、僕だけを見つめている。
ミヤザキ氏のラプターがゴールし、嫌味のように爆音を出しながらスキンヘッドがスタートした。そのすぐ後に僕の前の赤い旗が挙げられた。
「行ってくる!」
人混みの中のミュートにそう言って、僕はレッドブルのアクセルを一気に踏み込んだ!
レースのルールはいたって簡単だ。全長1200メートルのほぼ直線を1往復すれば良い。
1走、2走目は片道で、アンカーの3走目だけが往復をする事になる。
ロボットへの変形、アイズの同乗は無し。火器の使用も無し。
使用出来る装備は、全車に共通して配布された「ニトロブースト」の機能のみだ。
これはどうやら一回しか使えないみたいだ。フロントガラスの左上にゲージが表示されるようになり、それを使い切ったら終了という事だそうだ。
全員が初めて使う機能らしく、配布したスターチャートのウミさんが言うには「昔のゲームには良くあるシステムだよ」と言う事らしい。使用はハンドルに新設された赤いボタンを押すだけだ。
説明を聞かされていた時に、何か引っかかるものがあった。なんというか、既視感を感じる。フロントガラスに映るニトロもゲージ、障害物を蹴散らす度に表示される謎の点数、そしてジャンプ台を越える度に表示される「ロール×0」のメッセージ……。
「ミュート……検索を……」
そこまで声をかけて、彼女が同乗していない事に気付き、言葉を止めた。その一瞬の隙をついてスキンヘッドの白い車体がジャンプ台を使い、僕の前に躍り出る。
するとどうだろう、フロントガラスの端に「ニアミス 1」の表示がでる。
それを見た僕は、一瞬だけど何かを思い出した。ハンドルを握る両腕がワナワナし、アクセルを踏む足に力が入る。
そうだ……この感覚は……!
次のジャンプ台がスキンヘッドのマシーン越しにも見えてきた。今までで最大級のジャンプ台だ。
スキンヘッドのマシーンが一気に加速する。排気口から赤いバーストが吐き出される。だけどこれは!
「ニトロは使っていないな!ならば!」
僕は右手の親指で、新造されたボタンをグッと押し込む。ニトロゲージが一瞬輝いたと思うと、炎のエフェクトが表示されて、ゲージを燃やし始めた。
グングンと消えて、短くなってゆくゲージをチラチラと確認しながら、レッドブルにジャンプ台が迫ってくる。スキンヘッドの車体は既にジャンプ台を登り始め、今にも跳ぼうとしていた。
「レッドブルはここでニトロ!いくら何でも速すぎるぞー!」
オープンチャンネルになっている解説席から、僕を嘲笑うような感想が聞こえた。
ただ僕は冷静だ。これがこのレースの正解のはずだ!
レッドブルがジャンプ台を登り始めた瞬間、僕はレッドブルにドリフトをさせた!
ニトロに急激な加速中にドリフトをさせる事で、レッドブルは独楽のようにスピンをする。ジャンプ台から飛び出したレッドブルはまるで投げられたカードのように、急激な横回転をしながらスキンヘッドのマシーンを飛び越えて行った。
「ここでレッドブルがトップに!しかしもうニトロは無いぞー!」
ステアリングとアクセルワークで空中での姿勢を制御し、多少のバウンドをしながらも着地したレッドブルの真後ろに、スキンヘッドが着地する。
僕らの目の前には障害物のないロングストレートが広がっていた。
ここでスキンヘッドはニトロを点火する。そりゃそうだろう。レッドブルはさっきニトロを使い切り、このロングストレートで追いつき、差を広げられればスキンヘッドの勝利はほぼ確実だからね。
スキンヘッドは後ろから僕に並ぶと、嫌味たらしく窓を開けて、顔を見せてきた。
もう勝ったつもりなんだろう、僕に敬礼をして何か話しているようだ。
「ご苦労さん」
とでも言ってるんだろうな。そのまま加速して右前方に出る。ニトロを使っているため、ヤツはすぐにその差を広げ始めた。きっとニヤニヤしているに違いない。
僕はフロントガラスの全ての表示を再確認し、そして確信した。僕の思いつきは間違いなかった。やはり「水平ロール×4」が表示されている!
スキンヘッドのマシーンが、車一台分の距離を空けて、右前方を爆走している。その差が広がりも縮まりもしない所を見ると、ニトロの効果が切れたようだ。どちらもニトロを使い切ったのならば、この差はゴールまで縮まる事は無いはずだろう。
僕は右手のニトロボタンに親指を添える。ロングストレートの向こうに、僕の走る左の車線にだけジャンプ台が見えてきた。先程の物に比べ、小さめのジャンプ台だ。
ニトロボタンを押し込む。レッドブルは応えてくれるはずだ!
体がシートに押しつけられるような急加速と共に、フロントガラスの上に「ニトロゲージ」が空っぽ状態で復活する。同時に「水平ロール×4」の表示がそのニトロゲージに吸い込まれ、ゲージは2色に色分けされて満タンになった!
復活したゲージは、炎のエフェクトでグングン燃やされてゆく。まるでスキンヘッドとレッドブルの距離すらも燃やし尽くすようだ!
あっという間にスキンヘッドとレッドブルは横並びになる。コチラをチラチラ伺うスキンヘッドの表情は、驚き以外の何者でも無かった。
僕がニトリゲージを確認したのは、そのゲージが残り1割を残し、ゲージの色が緑から赤に変わる丁度その時だった。
右手親指で押し込んでいたボタンをさらに押し込む。「カチリ」と、クリックする感覚が間違いなくあった。
「オーバーブースト!」
念のために音声入力でもレッドブルに命令する。恐らく音声の方で受け付けてくれたので、コチラが正解らしい。
ニトロゲージの炎はさらに派手になり、残り1割だったゲージが拡大された。さっきとは減るスピードが断然早まり、3秒もすれば無くなるはずだ。
その代わり、その加速と最高時速は圧倒的だった。レッドブルの速度メーターは完全に振り切り、フロントガラスに補助として映し出されている速度表示は300を超えていた。
ドンドン迫るジャンプ台と、だんだん小さくなるミラーの中のスキンヘッドの白い車体に、僕は満足気だった。
そう、僕はこのシステムでレースをした事があったんだ!古いテレビゲームとして!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
バトルシーンはまだまだ続きますよ!
本当主人公戦以外も書きたかったのですが、分量がとんでもなく増えそうだったのでやめておきました。
あくまでこのレースは中間戦ですからね。
来週もバトルシーンです!勝敗はいかに!
皆さまが楽しんで頂ける事が一番です!
もし宜しければコメントなどでご意見も頂けたら参考にさせて頂きます。
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