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Fゲーム2nd  作者: 塚波ヒロシ
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第1章 突然の風に吹かれて

Fゲーム 2ndシーズンです。

是非とも「Fゲーム」からお読みくださいませ♪

第1章  突然の風に吹かれて


「もう……私……辛くて……」

 砂浜に膝を抱えて隣に座るミュートが今にも消えそうな声で、僕に訴えかけてきた。

 その涙声にどうしていいのかわからない僕は、ただ目の前の海を見つめることしかできない。

「どうしよう……私、バグっているのかなぁ。アイズだから、故障なんてしたらリコールなのかなぁ……」

 ゾッとした。今更ミュートが居なくなることなんて今の今まで想像したこともなかったし、一瞬想像しただけで心臓が止まるかの様な恐怖が僕を冷たく包み込んだ。

 でも、喉まで出かかった言葉をその先まで発する事が出来ない。どんな言葉にすれば良いのかここまで来て分からない。心ではどんな言葉を発すれば良いのか分かっているのに、口がどう動くのか信号が伝わらない。

 いよいよ呼吸が荒くなり、泣き声をあげそうになるミュートを隣にして、僕は只々月明かりに照らされる静かな海を見つめるだけだった。



「うーみーは白いーなーノーキーアー……」

「ナニ、その歌は……?」

「ぶーしーは踊るーし……へ?知らない?」

「知らないんですが?」

「なんか昔の、海の歌なんだよ。聞いたことない?」

「聞いたことないなぁ。てか、間違ってない?その歌詞」

「昔の歌だからねー。どっかいい加減に覚えてるかもね」

「ミュートのテンションが高いなぁ!」

「そうなんだよ、ダグ!昨日、夜遅くまで予定の再確認に付き合わされて僕は眠たいんだけど……」

「何よ!ロムだって私の新しい水着、楽しみだって言ってたのに!」

「まぁまぁ二人とも。海は逃げはしませんから……」

 助手席のミカに静止されて、ミュートはようやく口を閉じた。まぁ僕を横目で睨んでいるけど。

 僕たち4人……運転席のダグ、助手席のミカ、ダグの後ろの座席にミュート、その隣に僕……ゲームチーム「ブレイバー」の面々は、今海に向かっている車内にいる。

 目的は「慰安旅行と仕事」だ。

 僕たちのチームは「Fスポーツ」と言う、バーチャル空間で行われる何でもありのゲームプレイヤーチームだ。

 何でもありってのは文字通りで、チェスや将棋はもちろん、巨大な火器を抱えて戦車とドンぱちしたり、剣と魔法でモンスターと戦ったり、宇宙艦隊同士で領土をかけた戦争シミュレーションをしたり……おおよそ考えつくありとあらゆるゲームを仮想空間で現実かのように体感できる、そんなゲームのプレイヤーなんだ。

 膨大なカテゴリーがあるFスポーツの中で、僕たちは「カーレース」をメインにしていて、つい先週行われたシーズンラストの地区レースで優勝出来た僕たちは「奇跡の逆転ファイター」とまで呼ばれるぐらい世間の注目を浴びる事となった。

 我がチームが誇る美女二人、ミカとミュートは、レース中の切り抜き動画が100万再生をたった2日で達成し、地方雑誌の巻頭グラビアを飾る予定もある。(当然僕は三冊ほど予約している)

 レーサーの僕とダグもその雑誌のインタビューを受けていて、鼻高々なんだが……。


「で、時にダグさん。今までの賞金とポイントを全部つぎ込んで手に入れたのがこの救急車ってのはどう言うことなのか説明してもらおうかなぁ……」

 僕は、鼻唄を歌いながら運転する我がチームのオーナーにできるだけ低い声で問いかけた。珍しくダグが肩をビクッと震わせた。

「いや……なんだ、もちろん使ったのはオレたちの取り分だけだぞ?チームの運営費には手をつけてないし。それにだなぁ……」

「そもそもなんで救急車なんだよ!今回は飛行ユニットでの戦闘だぞ。この車飛べないよな!」

 僕は斜めに身を乗り出してダグの背後に迫る。するとこう言うことにはいたって常識的だと思っていたミカが僕をなだめにかかった。

「ロム、ちゃんと考えてますから。飛行ユニットも既に用意してますし、この救急車もそのユニットの付属品なんですよ」

「そうそう!そうなんだよ!後でちゃんと見せてやっから、心配すんなって!」

 へいへい、なんだよ2人して大金使っちゃって。仲が良いことで羨ましいなぁ!

「ロム、こっちもそろそろマシーンを決めないと」

 ミュートが膝に置いていたポーチからタブレットを取り出す。もちろんコレは僕の父さんから引き継いだ、地球時代のコレクションを封印した膨大なデータベース「ライブラリー」にアクセスできる端末だ。僕はこの端末のことを「インデックス」と呼んでいる。

 本来はミュートと僕にしか使用できないんだが、特例としてダグとミカにも閲覧許可を出している。今回のダグが用意したユニットもそのデータの一部のはずだ。

 僕はもちろんミュートですらその全部を簡単には把握できないほどの膨大なデータ量で、もし簡単に世に出そうものならFスポーツ界隈での混乱は計り知れない。もしかしなくても僕たちに危害を加えてでも「インデックス」を奪いにくる輩はごまんと居ることが予想できる。その為、4人とも「ライブラリー」のデータを使うのは慎重にならざるを得ないんだ。

 とは言え、このデータを使う誘惑にも耐えがたい。ダグが大金を払ってまでもデータを使用するのもよく分かる。実際に僕だって今回の依頼に対しても「ライブラリー」から新機種を検索することにそれほど躊躇は無かった。

 何となくズルをしている様な、どこか自分の実力ではないマシーンの性能に頼っている様な……。そんな後ろめたさを感じていた。


 とは言え、今回の仕事……今回のって言っても、チームブレイバーとして請け負う初めての依頼……を失敗するわけにはいかないので、そんなわだかまりを押し殺して新しい機体を先日から探していたのだけど、思っても見なかった問題が発生していた。

「どうする?飛行機は諦めて、水上走行か浜辺からの長距離狙撃ができるマシーンにする?」

 右隣のミュートは、顔に掛かってきた長い金髪をかき上げながら僕に問いかけてきた。

「まさかあなたが飛行機に酔う体質だったとはね」

 僕に目をやるミュートは整った眉を少しハの字に歪め、ため息混じりにそう言った。

 僕自身が意外だったのだけど、僕は飛行機酔いが激しいのが先日わかった。

 飛行機が必要になるかもという事で先日、フライトシミュレーションエリアでレンタル飛行機を操縦させてもらったんだけど、10分も立たず気分が悪くなり、着陸した瞬間トイレに駆け込む始末だった。

 コレにはミュートも意外だったらしく、「あんだけロボットで空中戦やっておいて飛行機酔いってどう言うこと?」と空いた口が塞がらなかったみたいだ。

 ミュートはそれまでに今回の仕事と、その後に控えているかなり大きなFスポーツの大会「ギャラクシーウォーズ」用に何機か僕用の機体の候補を立てていたみたいだったけどマンマと台無しになったという訳で。

 まぁミュートも怒るわけじゃなかったけど、結構時間をかけてピックアップしていただけに相当ガックリしていた。

「飛行機の形をしてないなら何とかなるかもしれないよね……」

 ミュートは膝の上に置いた端末「インデックス」

を開き、機体の候補を何個か提示しようとしてくれた。

 小さめの宇宙戦闘艇、UFO、果ては昆虫の外骨格を鎧の様にまとった人型ロボット……スワイプして次々に候補の機体を見せてくれているんだけど、当の僕はそれどころではなかった。

 ミュートの肩の上から膝の上の端末の画面を覗き込もうとした僕は、それよりも先にミュートの胸の谷間に視線が釘付けになってしまったからだ!

 いやだってしょうがないじゃないか?むしろミュートの大きめの胸の膨らみのせいで端末の画面の半分も見えないわけだし。

 だからと言ってここで目線を逸らすってのも、なんだか変じゃないか?

 ほら、僕とミュートは恋人同士なわけだし。折角みんなでバカンスに来ているんだし、スキンシップとかは大切だし。やべー、こう上から見るとミュートの胸ってデカい!素晴らしい眺めだ!

 あ……そりゃ気付きますよね、ミュートさん。すみませんスミマセン!そんな顔を真っ赤にして睨みつけなくても!

 ミュートは僕の顔をジーッと見ながら器用に端末にテキストを書き込んでゆく。

『二人っきりになるまでオアズケです!』

 僕は遠回しのミュートからのokサインに顔を真っ赤にして、今度は窓の先の真っ青な海に目を移した。

 やっと僕にも甘酸っぱい青春ドラマが始まるんだと、心臓の鼓動が高まってゆくのを感じながら、そんな予感が頭に浮かんでいた。

こんにちはこんばんわ、おはようございます。

ファーストシーズンから引き続きお読み頂いて、

誠にありがとうございます!


今回はいわゆる水着回となります。

とは言えただのサービス回ではなく、新マシーンの登場、ヒロインの揺れる恋模様なんかを書いてゆく予定です。


面白いと思っていただけたら幸いです。

高評価ブックマーク、コメントもお待ちしております。


また、こちらとは別に新作「Rゲーム」も投稿しており、人気のある方を書き進めてゆくつもりです。

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