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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第三部 第二章
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第98話 交流会後の邂逅②

「……さーて。時間もないし、話はさっさと済まそうか」


(誰のせいだよ)


 口に出かけた台詞を飲み込んで、視線を下げる。

 たっぷり五分かけてから、禁煙室に入ってきた天地は、入ってくるなり、煙草の臭いが気に入らないと言い出し、役場の食堂に移動することになった。 

 秤たちの市役所以上に閑散とした食堂に移った後も、なにを頼むか十分以上悩んだ末、結局ホットコーヒーという無難過ぎる選択をした。

 下っ端である秤が自分たちの分も含め注文し、コーヒーを三つ受け取って戻ってから、ようやく話が始まる。


「まずは謝罪させて下さい。先日の──」


 開口一番、謝罪を行おうと口火を切るが、天地は秤のことなど見もせずに、注文したコーヒーに鼻を近づけると眉を持ち上げ、ソーサーに戻してから、今度はソーサーごと持ち上げて、観察を始める。


「うん。それなり値が張る割に普通のインスタントコーヒーだな。でもカップは高そう。ソーサーまで付いてるし雰囲気代かー。どちらかと言えば中身に拘ってほしいよね」


「そうかな。僕は外見を取り繕うのも意味があると思うよ」


 取りなすように入ってきた朝日の言葉で察した。

 天地は形だけの謝罪などいいから、中身、つまり実利的な賠償から話をしようと暗に宣言している。


 対して朝日はそれに気づいた上で、形式的な段取りで話を進めることを提案している。

 つまり今はどちらが会話の主導権を握るか争っている状態なのだ。


 ここは余計なことを言わず黙っておくべきかと、謝罪を止めて口をつぐんでいると、天地は結局コーヒーを飲まずにテーブルに戻した。


「そんなものかな」


「飲まないんですか?」


「熱すぎるよ。猫舌なんだ」


 舌を出して大げさに顔をしかめた後、天地は気を取り直したように顔を持ち上げ、秤を見た。


「ところで君、さっき何か言いかけてなかった?」


 まっすぐこちらを見ているというのに、何故か視線が合わない。

 いや意識が向けられている気がしないというべきか。


「あー、えっと」


 どうすればいいのか分からず助けを求めるように朝日を見ると、彼女は疲れたように息を吐いた。


「天地さん。まずはうちの部下が迷惑をかけたことを謝罪します。天災対策企画課の仕事で急遽必要だったとはいえ、連絡が遅れて申し訳ない。とりあえずその顛末書は作ってきたので。秤くん」


 異世界転生応援室ではなく、天災対策企画課として謝罪するということは、念のため二種類用意していた顛末書のうち、表向きの方を出せという合図だ。

 市長の話ではすでに上だけで話が付いているはずだが、こうして呼び出された以上、すでに予定とは違う。このまま渡して大丈夫なのだろうか。


 一瞬躊躇したが、天地に関しては初対面の秤より朝日の方が詳しいに決まっている。

 その朝日が指示を出したのだから、すでに主導権争いは終わったのだろう。


 表向きの顛末書を出させるということは、朝日が勝ったに違いない。

 覚悟を決めて、鞄の中に仕込まれた二つのファイルのうち、片方を素早く取り出すとそのまま差し出して頭を下げる。 


「こちらです。ご迷惑をお掛けいたしました」


 差し出した顛末書を受け取った天地は、パラパラと中身を確認すると、小さく首を傾げた。


「んー? 連絡ミス、連絡ミス……あー、なんか、君のところの市長さんから脅されたとかなんとかでそうなったんだっけ。怖いねー、君のところの市長さん目力強いんだもん、うちのボスだって言うこと聞いちゃうよね」


(あ、違う。この人)


 建前が通用しないタイプだ。

 先ほど主導権争いをしていると思ったのも秤の勘違いで、完全に思ったことをそのまま口にしただけなのかも知れない。

 朝日もそのことに感づいたからこそ、早々に確かめるために表向きの顛末書を出させたのだ。


「聞いているなら話は早い。天地さんも納得していただけたってことでいいですね?」


「いいよ。だってほら、木林さんにも言ったでしょ? 転生者のサポート対応に、顛末書の作成、そして今回の交流会。この三つでやってほしいことはおしまい。全部問題なし」


 確かにそう聞いてはいたが、サポート対応や、顛末書はともかく、交流会の開催にはどういう意味があったのか。

 朝日は糾弾するための交流会だと言っていたが、そんなことはなかったし、そもそもこの表裏どころか、なにも考えていないような人物にそうした策を考えられるとは思えない。


「一つ聞いてもいい?」


 朝日も秤と同じことを考えたのだろう。

 少しの間天地を観察するように見つめていたが、直接訊ねた。


「コーヒーが飲み終わるまでならどーぞ」


 そうは言うもののコーヒーには手を伸ばさず言う。


「今回の交流会を開いた目的は何だったの?」


「さあ? 上から頼まれただけだからね」


「さっきの呼称決定会議も?」


「うん。適当なタイミングで話を逸らせってね。どうも上は問題のファーストについては前々から知ってたみたいだ」


「それならもっと早く月白くんを止めれば──いや、問題が起こっていることだけは他の異世界係にも知らせたかったのか。その上でどう対処するかは上が決定すると」


「そう。そしてそっちももう決まっている。ファーストが現れてる場所の規則性には気づいてる?」


 試すような物言いに、朝日は当たり前だとばかりに小さく頷く。


「南から徐々に北上してる。転移魔法が使えないのか、使えるがあえてそうしているのかは知らないけど、この分だと次は僕のところか、君のところか、どっちかだな」


「珍しく距離が近いもんねー。どっちに来ても不思議はないよね」


 確かに天地が課長を務めている異世界転生補助課がある役場と、秤たちが済んでいる地域の距離は近い。

 前回の作戦も、高速道路を使ったとはいえ短時間で移動できる距離だったからこそ、実行できたものだ。


 対して他の異世界関連部署は、それこそ全国各地に点在している。

 一番新しい時間は東京で起こったそうなので、そこからの距離はだいたい同じくらいだ。


「どちらに現れようと、必ず排除しろってのが上の決定」


 きっぱりと告げた後、天地は恐る恐るカップの側面を突いてから顔を顰める。


「まだ熱いな。真夏にホットなんて頼むべきじゃなかったかも。冷房も大して聞いてないし」


「……そのファーストの正体は分かってないの?」


 まだコーヒーを飲まない様を好機と見たのか、朝日が切り込んだ。

 瞬間。

 天地は熱いと言っていたコーヒーカップ本体を直接握って持ち上げると、コーヒーを一気に飲み干した。


「残念、空になっちゃった。話はここまでだね。じゃあ、これで。上からの詳しい指示は後でメールするよ」


 あっけに取られる秤と朝日を余所に、天地はそれだけ言うと立ち上がって、出口に向かった。

 二人そろって空になったコーヒーカップを覗き見る。


「猫舌って嘘だったんですね」


「うーむ。相変わらず読めない人だな……しかし、正体を聞いた途端あれということは、件のファーストは天地課長のところから送り出されたのかも知れないな」


「ああ。その責任を取るのが嫌で誤魔化したと」


 そうだとすれば勝手な話だ。

 名前や顔を教えてもらえば捜索にも役立つというのに。

 朝日にもそれは分かっているだろうに追いかけたりしないところを見ると、無理やり聞き出すつもりはないらしい。

 代わりにため息を一つ落として、コーヒーを飲む。


「確かにまだ熱いな」


 独り言のような呟きを聞いて、秤も一口飲んでみる。

 まだ届いてからそう時間が経過していない為か、それとも陶器性のカップのおかげなのか、コーヒーは冷めていなかった。

 少なくとも猫舌の人間が一気飲みができる温度ではない。


「……どうします? 今の話、みんなには」


 最後に言い残したように、本来メールだけで済む話をわざわざ朝日と秤に直接伝えた以上、この件は二人だけで対処しろと言外に伝えたかったのかも知れない。

 少し前までは天地はそうした服芸ができるタイプではないと思っていたが、猫舌だと嘯いていた以上、それも演技だったのなら話は変わる。


「もちろんみんなに相談するよ。はっきり口止めされたわけでもないしね」


「いいんですか?」


「……こんな僕でもね、実は少し反省しているんだよ」


「反省?」


「この前君にしたことだよ」


 センドウの死に動揺した秤を見張っておくよう、滴に命じたことだと気づく。


「こんなことを続けていたら、部下からの信用がなくなってしまうからね」


「──分かりました。じゃあ、俺たちも戻りますか。予定時間も過ぎていますし」


 そう言って立ち上がろうとした秤の肩に手が乗せられ、朝日は片目を伏せたまま、片唇を持ち上げて言った。


「そんなに急がなくても。これぐらいは飲んでいこうよ。お金ももったいないしね」

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