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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第五章
85/129

第84話 異世界送り中の天災誘発事故の顛末書

第二部の最終話です

「……それで。天地さんはなんだって?」


 詰め寄られている滴を助けにいこうと決めたところで、朝日が先手を取る形で割って入る。

 森羅は滴に向かって一つ舌を打ってから、朝日の方を向き直った。

 同時に表情も変わり、真剣な顔つきとなる。


「一つは、その未登録転生者の異世界サポートは私たちが担当すること」


 つまり、カガヤのことだ。

 異世界転生応援室のせいで増えた対象者なのだから、こちらで担当しろと言っているのだ。


「まあ、当然だね」


 軽く頷いて次を促す。


「もう一つは、近いうちに全国の異世界係を集めた交流会を開催したいと」


「そこで糾弾するつもりか。はぁ」


 交流会。と聞いて、朝日は頭を押さえて、深いため息を吐く。

 やや時間を置いた後、勢いよく顔を上げ、ほとんど睨みつけるように秤を指さした。


「詳しいことはその交流会、いや査問会のあとだけど、とりあえず秤くんは顛末書を作成しておいて。初めから狙っていたわけじゃなく、あくまで事故だったていでね」


「誤魔化すんですか?」


「どうせ誰も信じないだろうが建前は必要だ。当然、当事者として君にも来てもらうから」


 やけくそ気味にはき捨てる。

 いつも飄々としている朝日のこんな姿は初めて見た。

 改めて自分のしでかしたことの大きさを実感するが、後悔はない。

 ただ一つ、気になることはあった。


「あの」


「ん?」


「カガヤの担当は──」


 自分に担当させて欲しいと言う前に、朝日は唇を斜めにしたまま鼻を鳴らす。


「君が担当しなよ。当たり前だろ」


 すっぱりと言い切られる。


 カガヤを無事に異世界へ送り出すことができた上、もう手を離れてしまったと思っていた彼のサポートを今後も自分が担当できるのだから、秤にとっては最良の結果だ。


「もちろん、了解です」


 今度こそ。と見えない位置で拳を握りしめる。

 センドウの分までと言えた義理ではないが、そうした思いがあるのは確かだった。


「じゃ、早速顛末書づくりに取りかかります」


「そうしてくれ」


「じゃー。アタシも仕事に──」


「君はまだダメだよ。滴くん」

「ダメだよ滴ちゃん」


 ついでとばかりに離れようとした滴を、朝日と森羅は笑顔で封殺する。

 助けるつもりではあったが、仕事を頼まれた今、残念ながらその余裕はなくなってしまった。

 悲鳴のようなうめき声を聞きながら、謝罪は心の中で留め、秤は足音を殺して自分の席に移動した。


 不要となった偽りの報告書を、デスク上に置かれたシュレッダー行きの書類置き場に投げ捨て、ノートパソコンを立ち上げる。

 整合性の取れた偽の報告書を作るのは、それなりに手間をかけたので、僅かに惜しい気持ちがあった。

 朝日が言った事故に見せかけた顛末書の作成や、交流会への出席など、面倒な仕事が増えたせいでもある。

 自業自得と言われれば、一切反論できないが、それを認めることと面倒かどうかは別の話。


 なにより今はカガヤのサポートに集中したい。

 そんなことを考えながら、立ち上がったパソコンに表示された新着メールを知らせるアイコンを見る。

 その相手が誰か理解した瞬間、自然と口元が綻んだ。


 慣れた動作でアイコンをクリックし、メールフォルダを立ち上げると、確かに森羅が担当している異世界転生者が使っているものと、殆ど同じメールアドレスからメールが届いていた。

 内容は几帳面な彼らしい長々しい挨拶と礼の言葉、そして異世界に対する報告が記されていた。


 送られた世界の雰囲気や状況、そこに住んでいる異世界人の文明レベルなどに加え、狙い通り転生時に体を治して貰えた上、それとは別にチート能力を貰うことができた旨が、大人びた文体で書かれている。

 それを読みながらますます自分の立てた作戦が成功したことへの安堵感と喜びが全身に漲り、叫び出したいような、駆け出したいような、なんとも言い難いむずがゆさと高揚感に支配される。

 このままでは仕事になりそうにない。

 いっそ必要な資料があるとでも(うそぶ)いて、外に出て体でも動かしてこようか。

 そんな考えすら浮かんできた。

 しかし、そうした秤の考えも、幾度かの改行を挟んだ後に記された文章を見て吹き飛んだ。


『再会の約束を果たすまで、ナイフを預かっていてください』


 ナイフという文字を見て小さく笑う。

 やはりあれは秤に預けるために置いていったのだと。


『それまで、僕もこっちの世界で頑張ります』


 最後はそんな一文で締めくくられていた。

 そこだけは大人びた彼らしくない、年相応な文章だった。


「頑張る、か」


 年齢を重ねていくと使う機会が減る直情的な単語を口で唱えてみると、体に漲る高揚感は残ったままむずがゆさは収まり、逆にやる気が満ちてくる。

 そうだ。

 今度こそ異世界サポートを成功させて、異世界を救い彼と再会するために。


「よし。俺も頑張るか」


 気合いを入れ直した秤は、送られてきたメールを保護してからメールフォルダを閉じ、始末書のテンプレートを開くと、打ち込みを開始した。



 ・ 



顛末書(下書き)


日時

 ×月×日

部署名

 ××市役所 天災対策企画課 異世界転生応援室 トラック係

氏名

 釣合秤


異世界送り中の天災誘発事故の顛末書

 このたび、私は○○役場 異世界転生補助課の管理しております土地におきまして天災を誘発してしまい、また、そのご連絡が遅れてしまったことで、○○役場のみならず、全国の異世界関連業務部署に多大なご迷惑おかけいたしました。

 異世界転生応援室では、異世界に対象者を送り出す際、トラックを使用することで対象を生きたまま送り出す、異世界転移業務を推進しており、今回は対象が病気療養中だったことも併せ、本人へ事情を説明し協力を要請した上で快諾を頂き、転生を待つだけとなりましたが、本人より現世最後の思い出作りとして幼少時に家族と行ったキャンプ場に行きたいと要請があり、△〇オートキャンプ場に出向くこととなりました。

 異世界転生応援室には、上位存在(※1)より神託(※2)を受け取ることができる職員が在籍していることもあり、天災発生時期を予測することが可能ですが、当日が週休日であったこともあり、連絡に遅れが生じてしまったことで、当市に戻ることができず、やむを得ず△〇オートキャンプ場にて天災を誘発させて異世界へ送り出す結果となってしまいました。

 今後は週休日の連絡網の制定や余裕を持ったスケジュール作成、および万が一、同様の状況が発生した場合、速やかに全国の異世界関連業務部署へ連絡できるよう、体制の見直しを検討してまいります。

 改めまして、多大なご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。

 

※1 異世界転生応援室に於ける異世界転生・転移を実行している存在の呼称

※2 上記存在より、当該職員のみが感知できる転生予定者と氏名と転生時期の詳細情報


コメント・指示

 内容に関しては問題なし。ただし、神託に関してはもっと詳細な情報が必要となる可能性を考え、担当職員に確認しておくこと。また同様の状況が発生した場合、速やかに全国の異世界関連業務部署へ連絡に関しては、市長と可能かどうか相談。場合によっては削除する。

 室長・朝日月夜より

これで第二部は終了となります

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