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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第五章
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第80話 作戦全容

 その場所を見つけたのは偶然だった。

 窓から見えた看板の文字を見た瞬間、ここしかないとハンドルを切って高速道路を降りた。


 たどり着いたのは、整備の行き届いたオートキャンプ場。

 季節は夏真っ盛り。

 とはいえ、お盆前ということもあってか、飛び入りでもあっさり貸し切り区画をレンタル出来た。



 貸し切り区画はフリースペースから少し離れていた。

 短く刈り上げられた美しい芝生と、それぞれの区画に一つずつ作りものの湖が点在する。

 キャンプ場としては豪勢なのだろうが、その人工的な景観はがんセンターの中庭に似ているようにも見えた。


(しまったな)


 せっかくならもっと自然に近い場所を選べば良かった。

 

 ここを選んだ理由はいくつかある。

 一つは当然トラックで乗り入れられることだ。

 キャンプ場には大型のキャンピングカーで停泊する者も少なくない。

 中には二トントラックを改造してキャンピングカーとする者もいるらしく、このトラックでもそのまま乗り入れることができた。

 二つ目は、区画ごと借りてしまえば、万が一の場合でも周囲に危険が及ぶ可能性が低いこと。

 そして最後の一つは。


「入院着以外の服着るのは久しぶりです。でも、何で長袖?」


 着替えを終えトラックの荷台から降りてきたカガヤが、汗を流しながら困ったように笑う。

 この日差しと長袖を差し引いても、異常なほど汗を掻いているのは病気のせいだろう。

 多少カジっただけの知識だが、ガン患者は常に熱っぽく汗を掻きやすくなるそうだ。


 もっともそれを差し引いても、今日の顔色はこれまで見てきた中でも最悪。

 病院からこっそりと連れ出し、長時間トラックの荷台で揺られていたせいかもしれない。

 今頃がんセンターでは、脱走を疑われて大騒ぎになっているだろうが、騒ぎを嫌うあの病院がいきなり警察に連絡するとは思えない。

 二度目ということも併せて、まずは周囲の林を捜索していることだろう。


 しかし、それもいつまで持つかは分からない。

 大騒ぎになったとしても世界改変で無かったことになるはずだが、あまり大事になると面倒だ。

 そうした考えは悟られないように、小さく鼻を鳴らして答える。


「服も一緒に持っていけるかも知れないからな。それ、薄手の割に防寒制も高い、ついでに丈夫。転生先が雪山じゃない限り役に立つよ」


「雪山だったら?」


「どうするかはもう今までの授業で教えただろ?」


 秤の言葉にカガヤはそうだったとばかりに苦笑した。


「……時間はまだある。少し話そう」


「だったらあの湖の傍がいいです」


 湖に向かって歩き出すカガヤを支えるように横に立ち、チラと後ろを振り返る。

 荷台の扉を閉めようとしている滴が見えた。

 扉が閉まる直前、目で合図を送ると、彼女は小さく頷いた。


 ゆっくりと時間を掛けて、湖近くに設置されていた木製のデッキチェアまでたどり着く。

 周囲には似たデザインのテーブルに加え、バーベキュー用のコンロや木炭、火種用の着火剤、消火用のバケツに至るまで様々な道具が用意してあった。

 荷物を持たずにお手軽キャンプ。

 看板にはそんな標語が書かれていたが、確かにこれはお手軽だ。

 先にデッキチェアの位置を調整してから、カガヤを誘導してそこに座らせる。


 転がるように腰を下ろしたカガヤは荒い呼吸のまま、それでも背もたれに体は預けずに、半身を起こした。

 秤も並んで設置されていたもう一脚のデッキチェアに腰を下ろして、周りを見回した。


 すぐ近くに湖があり、湖畔傍に生えた背は低いが、太く立派な幹を持ったケヤキの木が二本植えてあり、その二つをビビットの利いた黄色のハンモックが繋いでいる。

 そのせいで湖が見えづらく、景観を損ねているが、逆にあのハンモックに揺られながら見る景色は良さそうだ。

 同じように辺りを見回していたカガヤも、感慨深げに息を吐いた。


「覚えていてくれたんですね」


 なにを。とは聞かずとも分かった。

 彼の最期の場所に、キャンプ場を選んだことだ。

 まだ病気が発覚する前は、家族でよくキャンプに行っていたと語っていた。

 それこそが、このキャンプ場を選んだ最後の理由なのだ。


「話聞いてからまだ何日も経ってないんだ。そこまでボケてないよ」


 キャンプ場を見つけたのは偶然なのだが、それは笑って誤魔化す。


「そうですね。まだ秤さんと出会ってから十日ですもんね」


 十日か。とカガヤは再度呟く。

 続く言葉は短かったなのか、それとも長かったなのか。

 その答えを聞く気にはなれず、秤は手を叩いて場の空気を入れ換えた。


「さて! じゃあ、これからについておさらいしておこうか」


 こちらが空気を換えようとしていることを察して、カガヤも表情を引き締める。


「君にはこれからここで異世界に行ってもらう」


「はい」


「既に神託──俺たちの地域を管理している上位存在から、異世界送りの許可は下りているが、俺は自分たちの手で異世界送りを行うつもりはない」


 このキャンプ場を見つける直前、小子から最後の神託が降りたと連絡が入った。

 つまり、トラックや滴のシュシュにマナを込めれば導具として覚醒し、異世界送りが可能な状態になったということだ。


「さて、ここで問題だ。せっかく決まった転生予定者が、いざというときに自分の担当区域からいなくなってしまった上、異世界送りも実行されなかったら、上位存在はどうすると思う?」


「うーん。僕を自分の担当区域に連れ戻す。とかですか?」


 既に概要は話しているため、答えは分かっているだろうに、カガヤは別の答えを口にする。


「残念ながらそれができるならとっくの昔にやっているだろうな。正直、担当区域を出る前にそれをやられないかが、一番の賭けだったんだが、その賭けには勝った」


 もうここまで来れば、秤たちの区域の上位存在には手出しできないはずだ。

 何しろ、ここは別の上位存在の担当区域。

 如何に神が如き力を持っていても、同格の者が支配する場所で無理を通すのは難しい。

 それこそ、各市区町村の役場のようなものだ。

 自分の担当区域内なら、長の鶴の一声などで無理を通すこともできるが、隣の市や町などで活動する場合は正式な手続きを踏まなくてはならない。


「異世界送りが実行できない以上、後は、こちらの担当者に頼むしか手が残っていない」


 ようは自分の代わりに、このキャンプ場がある地域を担当している上位存在に天災を起こして貰うということだ。


「釣合さんのところの上位存在? は大規模な天災を起こして被害が拡大するって話は聞いてますけど、ここの担当者は違うんですか?」


 神のような存在を担当者と呼ぶカガヤの言い回しに、思わず笑って頷く。


「ああ。ここの地域で行われる異世界送りは雷を使った天災がほとんど。ピンポイントで一人だけを狙ってくるから、他に被害は出ないのは調べがついてる。ここにはちょっとした因縁があってな」


 そう。ここはかつてセンドウが住んでいた土地であり、彼の死の一因にもなった停電を引き起こした雷による異世界送りが行われた場所でもあった。


 センドウのときは看板による落下事故だったが、後に詳しく調べてみると、彼が事故にあった当日は酷いゲリラ豪雨が発生し、センドウはそれを回避するためにドーム型のアーケード商店街に入ったところで看板落下事故に遭遇したものと推測されている。


 つまり、あのときも本来は雷で異世界送りをする予定だったが、できない状況になったため、別の手段に切り替えたということだ。

 そのことから見ても、この地域の上位存在が異世界送りを行う際、先ずは雷を使用するのは確実。

 秤はそこに目を付けた。


 カガヤの病気やチート能力のことを考えると、異世界転移ではなく異世界転生を行うしかないが、秤は人を殺す覚悟が未だ出来ていない。

 かといって、上位存在任せにしたのでは、大規模な土砂災害が発生してしまう。


 その二つの問題を解決するために秤が立てた作戦こそが、異世界送り直前にカガヤを別の地域に移動させ、あえて異世界送りを実行せずに時間を稼ぐことだった。

 やがて耐えきれなくなった上位存在が、こちらの地域の上位存在に応援を頼み、代わりに天災を下して異世界へ送り出すというものだ。


 これなら秤や滴が手を下す必要はなく、被害も出ない。

 先ほど話した上位存在の妨害や、本当に担当地域以外で活動できないのか、できないにしても、こちらの上位存在が応援を頼むのか、など。

 いろいろと運任せの要素が多い方法だが、他に方法は思いつかなかった。

 

 途中、森羅を振り切って朝日が動いたり、雷ではない大規模天災が起こりそうになったときは、先ほど滴に宣言したようにトラックを使った異世界転生に切り替えるつもりだ。


(うまく行ってくれるといいんだが……)


 空を見上げる。

 先ほどより雲が多くなってきた気がするが、すべて白雲ばかりで、雨雲らしきものは未だ見あたらなかった。


「雷か」


 秤を真似るように、カガヤも視線を上向けた。

 声は平坦そのものだが、その本心は窺い知ることができない。


「さてと、まだ時間はあるし、最後に復習でもしようか」


 再度、場の空気を切り替えるためにわざと明るく言う。

 口にしてから最後というセリフもまずかったかと思ったが、カガヤは気にした風でもなく、笑顔を見せて強く頷いた。


「はい。よろしくお願いします」

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