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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第四章
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第70話 週末の午後

 午前中は病院に出向いて異世界サポートを行い、午後はその際カガヤから受けた質問内容の調査を行う。

 そうした生活が幾日か繰り返された週末の金曜日。


 秤は今日も午前中カガヤのところに行ってから、外で昼食を取り市役所に戻ってきた。

 相変わらず朝日と森羅は、出張から戻ってきていない。

 先日届いたメールによると、二人は市長の出張に護衛として着いていくことになったらしく、出張が終わるまでは戻ることができないそうだ。


 それこそ転移で戻ってくることもできるのでは、と思わないでもないのだが、魔法使用の制限を提言しているのは自分なので何も言えない。

 隣の席を見ながら、小さく息を吐く。

 二人というより森羅に話したいことがあったのだが、仕方ない。

 メールすることも考えたが、これはまだ相談と呼べるほどの案件ではないため、できれば雑談と言う形で話を聞いて貰いたかった。

 となると──


 顔は動かさず目だけ動かして、珍しくソファではなく向かい側のデスクに座っていた滴を見る。


「なんだよ?」


「いや? 今日は珍しく仕事してるなと思って」


 当然のようにこちらの視線に気付いた滴は、画面を見たまま鼻を鳴らした。


「はっ。いい加減サボるのも飽きたんだよ。シツチョーと森羅がずっといないからな。サボりっていうのは上司の目を誤魔化してやってなんぼだろ」


「一応今回の件で俺はリーダーなんだけどね」


 独り言のような抗議を無視し、滴は淀みなくタイピングを続ける。

 その様子に軽く息を吐く。見ていた理由は誤魔化せたようだ。

 胸を撫で下ろすとともに、別の思考が混じる。


(あの話の続き。こっちから聞いていいものか)


 先日、突如として滴が語ってきた異世界での御話のことだ。

 今まで断片的な情報以外、誰も話そうとしてこなかった異世界での詳細な話を始めた時は驚いたが、その内容には単純に興味があるだけではなく、これから異世界に行くことが決定しているカガヤにとって(たとえ同じ異世界でなくとも)有益な情報となるに違いない。


 とはいえ、この異世界転生応援室では過去の話はタブーとなっている。自ら話さない限りはこちらからは触れない。という暗黙のルールが存在するのだ。

 今回は滴から話してきた上、続きはまた今度。とこれも自分から言い出したのだから、そのルールに抵触しない気はするのだが……


(いや。あそこで話を切ったのは、それ以上話したくなかった可能性もあるしな)


 五時を知らせるチャイムが鳴って中断となったが、その後滴と秤は市役所に戻るため共にトラックに乗った。

 その中で続きを話そうと思えばできたはずなのに、彼女はそれ以上語ることなく、ぼうっと窓の外を眺めているだけだった。

 それこそ、話をしたことで昔を思い出し、その頃のことを懐かしんでいるかのように。

 ならば、やはりこちらから聞くのはまずい。

 どうしても必要な話と言うわけではないのだから、後は彼女が続きを話したくなる時を待った方が賢明だ。


 そう考えて、秤は本来考えるべきことに思考を戻し、如何にも悩んでいる風を装ってぽつりと呟く。


「チートか」


「ん? 今度はなんだよ」


 再度、こちらの呟きを聞き取った滴は、今度は画面から視線を外してこちらを見た。


「ほら。最近異世界に行く奴は、上位存在からチート貰えることがあるって話あっただろ?」


 センドウのように。とは未だ口にはできないが、それでもこうして思い出しても取り乱すことは無くなった。

 今は何よりカガヤの異世界サポートに集中しなくてはならないのだ。そちらに意識を割いている余裕は──


「あー。はいはい。例のセンドウだっけ? そいつも貰ってたんだよな」


「……お前、わざとだろ?」


「おっ。動揺しなくなったじゃん」


(こいつ。読心魔法使ってないだろうな)

 

 タイミングからして疑ってしまうが恐らくそれは無い。今秤が着ているスーツには、低級魔法を防ぐ障壁を張る魔法の力が込められているからだ。

 あくまで低級魔法なので滴たちの魔法であれば簡単に突破できるのだが、その際でも突破された気配は伝わる。

 やはり偶然か、それとも魔法とは関係がない野生の勘のようなもので気づかれたのだろう。

 どちらにしても確かめようはなく、また滴の言うように心で思うだけでなく、名前を聞いても動揺しないと分かったのは幸いだと自分を納得させる。

 とはいえ、頻発されても面倒なので、釘差しの意味も含め、大きく息を吐いてから話を戻した。


「お前は単純に強かっただけで、能力らしい能力は貰ってないんだよな?」


 意趣返しも込めて、先ほど滴から話すまで聞くのはやめておこうと思った、異世界での話題を使ってチクリと刺すが、滴は気にした風でもなく頷いた。

 

「まあな。アタシは単純にあっちの世界で一番強い存在に生まれただけだったけど、考えてみれば異世界を修復するために呼ばれるんだから、それくらい貰えて当然だよな」


 腕を組み、一人納得して頷いている滴に、秤も内心で同意する。


「最近の異世界転生物小説では定番らしいんだが、現実の異世界送りでも同じみたいでな」


 現実という言葉を使うのは何となく抵抗があるが、実際そうなのだから仕方ない。と話を続ける。


「センドウだけじゃなく、余所が担当している異世界サポートの対象者も殆ど全員貰ってる。だからカガヤの行く世界でも貰える可能性あるし、自分で好きな能力を貰えることも多いから、今のうちに考えておくように言ったんだけど、なんか、あいつの反応が鈍かったんだよな。なんでもありだと逆に難しいのかね」


 チートという言葉自体はカガヤも知っていたようだったので、なにか欲しい能力はあるか聞いたのだが、そのときの反応が悪かった。

 とりあえず、週末をはさんで次の異世界サポートは月曜の予定なので、それまでに考えておくように言っておいたが、あの様子では思いつけるかは怪しいため、何か手助けは出来ないかと考えたのだ。


「あー、それはあるかも。能力を自分で考えろって言われてもなー。他の連中はどんなチート貰ってるんだっけ?」


「資料に載ってたのは──」


 余所の異世界係から借り受けた、異世界サポート業務報告書に載っていた能力をいくつか挙げてみる。

 センドウが貰った防御系チートや、それと真逆の攻撃魔法系チート。といった分かりやすいものだけでなく、中には、相手の現在の強さはおろか潜在能力まで見抜く能力や、どんな大きさや重さのアイテムであっても、無限に仕舞うことのできる空間収納という能力など、便利ではあるが直接敵を倒すのは難しいものまで存在した。


「ふーん。どれも反則(チート)って割には、ぱっとしないというか。結局使い方次第みたいのばっかりだな……小説の方は?」


「小説?」


「さっき言ってただろ。今はそういう異世界転生物の小説でもチート能力が当たり前だって。そっちにはどんな能力があるんだよ」


「さぁ。俺あんまり読まないし」


 元々秤には読書の趣味はない。

 当初はこの仕事に就いたのだから読んでみようという想いもあったが、忙しさなども手伝い結局まともに読んだのは三上から貰った小説ぐらいだ。

 だがあの小説の主人公はチートと呼べるほどの能力は無く、滴のような単純にその世界でトップクラスの身体能力を手に入れただけだったため参考にはならない。


 しかし、そうした本が流行っているという話だけは聞いている。

 少し大きめの本屋なら特設コーナーが設けられているのも珍しくないという。

 その話をすると滴は、興味があるのかないのか、ふーん。と軽い返事をしたのち思いついたように言った。


「だったら今から行って、何冊か買って来いよ」


「今から?」


 突然の提案に思わず、壁にかけられた時計を見る。

 まだ午後二時。定時まではあと三時間以上もあるため買い物をする時間は十分にあるが、行っていいものだろうか。


「……ちゃんと領収書貰って来て」


 これまで一切会話に入ってこなかった小子が唐突に口をはさんできたと思ったら、滴もそれに乗っかった。


「お。いいね。必要経費って奴だな。アタシも読むから、面白そうなやつ頼むわ」


 こちらが何か言う間もなく勝手に話が進み、いつの間にか提案は決定事項になっていた。

 結局、良く分からないまま秤は応援室から追い出され、狐につままれたような思いを抱きつつ、仕方なくその場を後にした。

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