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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第三章
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第69話 海湖沢滴② ~異世界奇譚~

基本的には異世界帰還者が語る昔話は一人語り形式になります

 星の大部分が海で覆われた水の惑星。

 

 アタシが転生したのは、そんな世界だった。

 と言っても、生まれてからしばらくは自分が転生者であることも、その目的すら覚えていなかった。


 当たり前のようにその星で生を受けた人魚の一人。

 そう信じていたよ。


 あの星では、高い知能と生まれながらに魔法を自在に操る力を持っている人魚こそが、人間であり星の支配者だった。

 アタシたちは広大な海の中で、土地を治め、家を造り、狩りをして、物を作り、他者と争う。

 この世界の人間と何も変わらない。


 違うことはただ一つ。


 アタシの世界には大人が居なかった。


 前にも言ったよな。

 アタシたちはエラから吸収したマナを使って、生まれたときから自由に魔法が使える。

 年を重ねればそれだけ吸収できるマナの量も増えて、魔法の力も向上する。

 体の成長と一緒にヒレも成長して、海の中を自由に泳ぎ回ることができるようになる。


 その二つが十全に育った頃、相乗効果でアタシたちは、海に存在するあらゆる種族に勝る力を手に入れるってことだ。


 だけど。

 その全能感もほんのひと時だけ。


 ある程度歳を食うと、ヒレ、いや足に異変が起こる。

 一本だった足が二股に分かれてきやがるんだ。


 それでもヒレは付いてるから泳ぐことはできるけど、推進力は大きく低下するから、海中を自在に泳ぐには魔法の補助が必要不可欠になっちまう。


 さらに年を重ねると、今度は鱗が剥がれて皮膚が露わになり、泳ぐための足ではなく、歩くための足に形が変わっていく。

 最終的にエラが塞がって、魔法を使用するために必要なマナを取り込むことすらできなくなる。

 それどころか、エラからマナと一緒に吸い込んでいた酸素も取り込めなくなる。


 想像できるか?


 それまで当たり前のようにできていた呼吸ができなくなって、海中で溺れ死ぬんだ。

 

 ただ、その星ではそれすら当たり前のことだった。

 年老いたらそのまま死んで、他の生き物たちの餌になる。

 そうやって世界は巡廻していた。


 ん? 大人は大蛇の上に住むんじゃないかって?

 慌てるなよ。


 そうなったのは割と最近の話だ。それまでは今言ったように、短い寿命を理解して、思い切り人生を楽しんで、後はただ死を受け入れる。

 それが人魚の当たり前の一生だった。


 そいつが変わったのはアタシが生まれる少し前だ。

 そもそも遥か昔から人魚たちは、チームで狩りをするために少数のコロニーを作ることはあったが、国と呼べるレベルで集まることは無かった。


 そんな前代未聞の偉業を成したのが、アタシの前任だった異世界転生者だ。

 今考えると、そいつも例のチート能力を持ってたんだろうな。

 圧倒的な武力を背景に、多数の仲間を集め、皆を食わせていくために狩りではなく、罠や網を利用した漁を考案し、大量の獲物を集めることに成功した。

 加えて、これまでは自然にできた海底の岩場とかで暮らしていた人魚たちに建築の概念を伝え、魔法の力も使って安全な住処を作り出した。

 やがてこっちの世界にあった文化も取り入れて、最終的には一代で国を作り上げて見せた。


 だが、結局そいつは世界全てを纏めることはできなかった。

 今までの生活を忘れたくない奴らも大勢いたんだ。

 そいつが対抗するために集まって、国を作ったからな。

 といっても武力だけで言えば、時間の問題だったんだろうが。

 時間の問題なのはそいつも同じだったのさ。

 エラが塞がる時が来たんだ。

 

 結局、その国は一人のチート能力者が一代で作り上げた張りぼての王国だ。

 統治するカリスマが消えればそこで終わり、になるはずだった。

 しかし、そいつはまたしても、世界の在り方を変えた。

 自分と同じエラが塞がる寸前の奴らを集めて、海を出たんだ。


 そのとき唯一、存在した広い土地が世界蛇の上だったわけだ。

 まあ、陸地に上がった以上、そいつは海中の国とは関係なくなったわけだが、知恵を贈ることはできる。

 そうして初代女王の威光も残り、どうにか建国された国が割れることは無かった。

 さっき言ったように、敵国は残っちまったがな。


 その跡を継いだのが、新たに送られた異世界転生者である、このアタシだ。

 まあ、その時はまだ記憶は戻ってなかったんだけどな。


 継いだのは十五の頃だな。肉体的にも魔法能力的にも、最も充実していた時期だ。

 アタシは特に魔法の才に溢れていたからな。


 他の連中が十人単位で集まらないと使えない魔法をあっさりと使いこなし、身体能力でも右に出る者はいなかった。


 特に攻撃魔法に於いては、先代転生者をも超えていた。

 そのまま、先代がやり残した最後の仕事である敵国の長を打ち負かし、全ての人魚を纏め上げた。

 先代も寿命を迎えた連中にヒトアガリって呼び名を付けて、世界蛇の上で暮らせる国を興した。

 人魚は国の中でそれぞれの役割を全うし、寿命が来たらヒトアガリになって陸地へ上がる。

 そんな生き方が当たり前になって、世界は平和になった。


 それでめでたしめでたし。になるような世界だったら転生者なんて必要ない。


 平和が崩れたのは一瞬だ。

 世界蛇が動き出したのさ。


 星の誕生からずっと生き続けていると言われていた、巨大な身体を持った蛇。

 もう何千年、何万年も前から動くことを止めてはいたが、身体が腐ることもないため、死んではおらず、神によって停止の魔法が掛けられていると唱われていたその蛇が突如として動き出し、ある場所を陣取っちまった。


 世界でただ一つしかない、マナを生み出す源泉、生命の泉だ。

 

 そこから吹き出されるマナが海流に乗り、世界中を巡ることで、人魚は魔法を行使できるんだ。

 だけど、その場所を陣取ったことでマナは世界蛇に独占された。


 既に海流で運ばれた分があるから、直ぐにどうこうなることはないが、それでも数年のうちにマナが枯渇するという結論が出た。

 当然、女王だったアタシは決断を迫られた。


 アタシが前世の記憶を取り戻したのはそのときだ。

 日本という平和な国で生まれ、特に不自由なく、そしてなんの刺激もない日常を過ごしていた、自分の記憶が一気に流れ込んできた。


 同時に、転生した際にあちらの上位存在から命じられた仕事内容もな。


 世界蛇の討伐だよ。

 討伐する理由や、世界蛇の正体は知らないまま送られたが、朝日の推測を聞いて納得したよ。


 世界蛇は上位存在のガン細胞の塊で、討伐することで、世界そのものの不調を改善できる。


 アタシが世界を纏め上げたタイミングで、世界蛇が動き出したり、記憶を取り戻したのは、今考えたら全て上位存在の仕組んだことだったのかもな。


 その後。

 アタシは世界蛇を退治することを決断した。

 妙な使命感に燃えていてな。

 覚悟は出来てる……つもりだった。


 そう、つもりだ。

 アタシは本当の意味で覚悟はできていなかったんだ。

 それに気づいたのは──




 おっ。五時のチャイムか。これは変わんねーんだな。

 今日はここまでだな。


 え? なんでって……決まっているだろ、定時だよ定時。

 後十五分で定時なんだ。さっさと帰ろうぜ。

 続き?

 ああ。それは……またそのうちにな。

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