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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第三章
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第66話 海湖沢滴①

「だーかーら。こんなに数あるのに、一個一個歩いて調査できるわけないだろ?」


 始業後始まった会議の席で、滴と秤は意見をぶつけ合う。


 議題は、昨日秤が滴に押し付けてきた、トラックを加速させられる直線を見付ける業務についてである。

 それに適していそうな道路は、地図からピックアップしただけで、二十近く存在していることが判明したのだ。

 ここから一つ一つの場所で交通量を調べるなど、とても一人で出来る量ではない。


 滴の言葉に秤は腕を組んでいたが、直にその手で膝を叩き、ため息混じりに言った。


「なら仕方ない。俺も一緒に行くよ、面会前までに一日三、四ヶ所は回れるだろ。あと十日、休みを除けば八日か? 毎日回ればなんとかなる」


「なんだその仕方ないってのは。こっちはお前が煩いから、転移を使わないでやるんだからそれぐらい当然だろ」


 口では如何にも不満に思っている風だが、内心で僅かに安堵していた。

 実は転移を使わなくても、安全に交通量を調べる方法はある。

 滴たちがどんな魔法を使えるか分かっている秤ならば、その方法も思いつくかもしれないと危惧していたが、気付かなかったようだ。


「じゃあ。そういうことで決まりで良いな?」


「はいはい」


 これで予定通り秤と行動を共にできる。

 軽く答えつつ、滴は内心でため息を吐いた。



 ・



 一台の乗用車が、滴たちの乗るトラックの横を通り過ぎていく。

 同時に時計を確認する。

 前回車が通ってから二分経っていた。


「また二分だ。ったく。なかなか五分超えないな」


 やれやれと頭を掻く秤に、いい加減飽き始めた滴は手に持ったマジックを持ち上げた。


「じゃあ、もうここはバツで良いだろバツで。書くぞ?」


 ダッシュボードの上に広げられた地図ではなく、空中に×印を書くフリをする。

 ここで既に三つ目だ。

 いざ現場検証を始めてみると、病院から近く、トラックが通れる車幅と停車させられるスペースがあり、加えて交通量の少なそうなポイント、その三つを満たしている場所はなかなか存在しないことが分かった。


 問題となるのがやはり交通量だ。異世界転移に必要な六十キロを出すとなると、最低でも五、六分は車が通らない時間が欲しい。

 二分ではまず不可能だ。

 時間について指定したのは彼自身だと言うのに、何度も試そうとする様に、滴は正直辟易していた。


「……一応三角にしておこう。時間も書いといて。二分って」


 悪あがきじみた返答に思わずため息が出てしまう。


「三角ねぇ。なんか、そういう白黒はっきりしないのってあんまり好きじゃないんだよなぁ」


 未だ諦めきれないのか、ガリガリと頭を掻いていた秤がふと、顔を上げた。


「異世界送りの時間帯は分からないんだよな?」


「小子が何も言ってこないってことはそうだろうな」


 何となく投げやりになりながら言った返事に、秤は大まじめにうなずいた。


「だとすれば、朝、昼、夜とそれぞれの交通量も調べないと行けなくなるかもな」


「はあ? んな面倒なことしてられるかよ! そんなことしなくても──」


 突然の提案に思わず声を張り上げ、もっと簡単に調べる方法がある。と言いかけて口を噤む。

 始めから思いついてはいたが、先ほどもあえて言わなかったアイデアだ。


「あー、ほら。前の時みたいに道路封鎖して車通れないようにすればいいじゃん」


 誤魔化すように適当なことを言う。自分で言っていて無茶な言い訳だとは分かっていた。

 前回封鎖できたのは、あくまで古墳公園の中であり、近隣に与える影響が小さいことに加え、部署間の縄張り争いや、朝日が魔法の力、極めつけには市長の権力を併せてやっと封鎖できたのだと、朝日から聞いていたからだ。

 それらのない公道を封鎖するのは簡単ではない。


「前みたいに縄張り争いがあるわけでもない道路を止められるかよ」


 やはりというべきか、秤もそのことは分かっている。


「あー、そうか、うん。そうだな」


 それなのにどうして、滴の考えついた方法が分からないのか。

 そうなるように仕向けたのは自分だと言うのに、理不尽と分かりつつ、苛立ちを覚えてしまった滴に対し、秤はいたずらが成功した子供のようにニヤリと笑った。


「そんなことしなくても、それぞれの時間帯で遠視で確認すれば済む話だもんな?」


 一瞬なにを言っているか分からず、目をしばたかせる。


 それこそが滴が思いついていた安全に交通量を調べる方法だったからだ。

 もっと言うのなら、こうして現地に来る必要すらない。

 小子の遠視には媒介となる式神が必要となるが、滴の媒介となるのものは水、もっと言えば水分だ。

 空気中にいくらでも存在するものであるため、自分が移動する転移と異なり、見るだけなら誰にも気づかれず確認することができる。

 てっきり秤はそのことに気付いていないと思っていたのだが、この言い方だとそうではなかったようだ。


「お前! 最初から気づいてたな?」


「まあな。そっちこそ、気付いてたならなんでここに来る前に言わなかったんだよ」


「……遠視は結構疲れるし、例のガキの件でお前が魔法の隠蔽に敏感になってたらまた煩いこと言われると思ってな」


 こちらは事前に用意していた言い訳を口にすると、秤は疑う様子もなくカラカラと楽しげに笑う。


「少しは分かってきたじゃないか。それぐらい慎重になったなら大丈夫そうだ」


「ッ。遠視に文句ないなら、アタシは帰るぞ。後は応援室で調べる」


 ダッシュボードの上に載っていた地図をつかみ取り、滴は車を降りようとドアを開けた。


「良いけど。帰る時、転移は使うなよ」


「分かってるって!」


 こちらの苦労もしらないで。

 そう言いたい気持ちを抑えつつ、車を降りて乱暴にドアを閉めた。


(まったく)


 朝日から頼まれている面倒な仕事の方はなんとかなりそうだと安堵する。


 滴が頼まれている仕事。

 その始まりは秤が担当していた転生サポート対象が死亡した翌日。神託が降りたことで体調を崩した小子を市役所内の末社に連れて言った直後、朝日から念話が届いたことから始まった。



 ・



『……というわけで滴くん。彼のケアを君に頼みたいんだ。あんな調子ではいつミスをするか分からないからね』


 形ばかりの頼みごとという名の命令が下された。

 一応自分の上司であり恩人と呼べなくもない朝日からの命令ならば聞くしかないのだが、タイミングが最悪だ。


『……アタシの話聞いてた? 今神託が降りたんだよ。アイツのケアなんか後回しで良いだろ?』


 既に異世界送りの神託が降ったことは伝えてある。


『いや。こんな時だからこそだ。こういうときはとにかく仕事を詰め込んでやった方が余計なことを考えずに済む』


『それは……まあ確かに』


 やることが無いと余計なことばかり考えてしまい思考が暗くなりがちだ。

 そうならないよう、考える余裕もないほど仕事を詰め込むというのは一つの手ではある。


『だから今回僕らは異世界送りに参加しない。そっちは君たちだけで何とかしてくれ』


『は? おいおい、シツチョー。それでもし失敗して天災が起きたらどうするんだよ』


 確かに二人がいなければ必然的に秤の仕事も増えるため、余計なことを考えている余裕はなくなるが、その結果天災が起こってしまっては元も子もない。


『僕らが待機するのはそうならないようにするためだ。もし、いよいよ間に合わないと判断したら知らせてくれ。そのときはこちらで対処するよ』


 対処。という言葉が示す意味は理解できる。

 秤が拘っているトラックによる異世界転移ではなく、朝日の持つ名刺型導具を使用して異世界転生を実行するということだ。


『それ。シンラは納得してんの?』


 秤に対し異常なまでに重い愛情を向けている森羅が、秤のケアを他人任せにするとは思えない。


『彼女の説得は僕がする』


 要するにまだ森羅には話していないということだ。


「絶対後で面倒になる奴じゃん。大体なんでアタシが」


『そう言うなよ。君はいつも通りしていてくれればいい。それだけで十分秤くんの負荷になるからね』


『負荷って失礼な』


 ようするに朝日は滴がいつも通り行動するだけで、十分秤の仕事が増えると言っているのだ。

 こうして言い辛いことまで伝えてくるのは、互いに読心魔法を掛け合う念話では隠す意味がないと分かっているからだろう。


『まあね。それじゃ、頼んだよ』


 こちらが返答する前に、一方的に念話が途切れる。


「はあ。あの性悪め」


 思わず悪態を吐く。


「……どうしたの?」


 末社の傍に来たことで、少しは体調が回復した小子がこちらを見上げて聞いてくる。


「いや。なんでもねぇ。とりあえず神託の件はシツチョーには伝えといたからよ。お前はしばらくここで休んでろよ」


「滴は?」


「アタシは──もう一人に伝えて来る」


 トラブルメーカー扱いには言いたいこともあるが、自分のせいで人が死んだのだと自責する秤の気持ちは分からないでもない。


 どちらにせよ、せっかく朝日からのお墨付きが出たのだ。

 こうなったら、せいぜいワガママを言って他のことが考えられなくなるくらい困らせてやろう。


 始めはそんな軽い気持ちで秤とチームを組んだのだが。


 転生予定者の入院。魔法の漏洩。道路捜索。


 まさかこれほど次々とアクシデントが起こるとは思ってもみなかった。

 しかし、とりあえず全ての問題は解決し、秤も調子を取り戻している今、もう滴が傍にいる必要はないだろう。


(流石にこれ以上アクシデントは起こらないだろうしな)


 そんなことを考えながら滴は、市役所に向かってのんびり歩き始める。

 それが秤が良く口にしているフラグであるとは気づきもせずに。

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