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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第三章
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第61話 予想外の通話①

 カガヤカオルを背負ったまま、林の中に入った場所まで移動させてから病院に電話すると、あちらも既に彼の脱走に気づいて捜していたらしく、場所を伝えると直ぐに職員がやってきた。

 職員がやってきた後もカガヤカオルは意識を取り戻すことはなく、そのまま同伴したストレッチャーに乗せられて運ばれていった。 


「本当にありがとうございました」


 一人残った職員が秤と滴に深々と頭を下げる。

 取りあえず礼を適当に流しつつ、怪しまれないよう、さりげなく彼を発見したときの情報を説明する。

 その上で秤は自分たちが市役所職員であり、何かあったらここに連絡するようにと名刺を渡した。


 その後、再度頭を下げてから職員は病院に戻った。

 完全に職員が離れてから滴は秤の顔を見て、ニヤリと笑みを浮かべながら親指を立てる古臭いジェスチャーを見せる。


「後は連絡が来るのを待つだけだな」


「しかし、仕事用とはいえスマホを人に預けるっていうのは落ち着かないな」


 楽しそうな滴と対照的に、秤はこっそりとカガヤカオルの懐に忍ばせたスマホの存在を思い出して息を吐いた。

 病院からの礼などがこの場限りで終わってしまい、病院へ行っても中に入れてもらえないことを考え、忘れ物と名刺を渡すことで、病院から連絡を貰い会いに行く口実作りをすることにしたのだが、そのための忘れ物として選んだのが、滴の仕事用スマホだったのだ。


「お前のじゃないんだから気にするなよ。アタシの携帯にはどうせなにも入ってないしな。電話帳すらスッカラカンだよ」


 それはそれでどうかと思うが、確かに滴は仕事で必要な連絡であっても、基本的に秤や森羅に任せて、自分に支給されたスマホを使うところは見たことがなかった。

 現代の常識が染み着いている秤としては、スマホが手元にないのはそれだけで落ち着かない気持ちになるが、彼女にとっては単なる道具の一つでしかないようだ。 こんなところからも世代の違いを感じてしまう。


「ならいいけど。問題はいつ頃スマホが見つかるかだな。別に隠してるわけじゃないから今日中に見つかるだろうけど、アイツの体調が回復しないと、取りに行っても無駄足になりかねないからな。今日電話が来ても忙しいから明日会いに行くってことにしていた方が良いか」


「だったらさっさと市役所に戻ろうぜ。名刺に書いてるのは応援室の番号なんだろ? 転移も使えないんだしよ」


 使えない。にアクセントを置いた言い方は魔法禁止を言いつけた秤に対する非難が込められていたが秤はそれに気づかない振りをして了承した。



 ・



 応援室の電話が鳴ったのは、市役所に戻って数時間経った午後のことだった。

 正直、スマホ自体はカガヤカオルの傷や体調を確認する際に、看護師か医者が見つけるだろうから、連絡自体は直ぐに来ると思っていただけに、午後になっても連絡がないことで、滴は小子と一緒に市役所内の末社に出向いてしまったため、秤は一人で電話番をしていた。

 小子は掃除をしつつ神託が降りてくるのを待つと言っていたが、滴は単純に電話を待つのが飽きただけだろう。

 秤自身今日はもう連絡が来ないだろうと思っていただけに、電話が鳴ったときは驚いた。


「はい。こちら天災対策企画課情報精査室、釣合です」


 受話器を取って室名と名前を名乗る。

 いつもは名前までは名乗らないのだが、今回は病院があの名刺を頼りに電話してきた場合に備えてあえて名乗ることにしていたのだ。

 その効果か、秤の名前を聞いて受話器の向こうでは、一拍息を飲んだ後、おずおずと口を開いた。


『……あの。先ほど助けていただいたそうで。ありがとうございました』

 しゃがれた聞き取りづらい声は、わざと小さな声で話しているようで違和感があった。


「えっと、貴方は?」


 てっきり職員からの電話だと思っていただけに、助けていただいたそうで。という言葉選びはおかしい。

 疑問を覚えたところで、あちらから答え合わせがあった。


『カガヤカオルです。看護師さんから貴方がたが助けてくれたと聞いて。お礼と、このスマホ忘れていたみたいなので連絡しました』


 やはり本人だった。

 そう理解して聞いてみると声は枯れているが幼さがある。

 それは話し方もまた同様だ。

 子供が必死に礼儀正しくしようと背伸びをしているような鯱張った話し方だ。

 このスマホという言い方からして、どうやら滴のスマホを使って電話してきたようだ。


『あの、それで。ちゃんとあってお礼を言いたいのですが、僕は今入院中なので、お手間……あ、いやお手数ですけど、今からもう一度病院に来ていただけませんか』


 使い慣れていない敬語のたどしさとは別に、声からは強い意志が感じられる。


「今から、ですか?」


 チラと時計を見る。

 時刻は午後三時四十分。本人と直接接触できるチャンスなのは間違いないが、今から出ると確実に定時に上がることはできなくなる。

 秤は別に構わないが、滴が文句を言うのは明白だ。

 カガヤカオルの体調に関しても、職員が迎えに来るまでの間、護符を張り付けていたこともあって今日明日で悪化する可能性は低い。

 そもそもまだどうやって説得するのかも話し合えていない以上、今日は終業時間まで話し合いをして、明日朝一番に会いに行く方が得策だ。


「申し訳ありませんが、本日は仕事が立て込んでおりまして。明日の朝改めて──」


『僕に明日がある保証なんてないんです!』


 こちらの言葉を遮った声は、血を絞り出したかのように、強く、悲しい響きを持っていた。


「……」


 思わず絶句する。

 そうだ。

 緩和ケア病棟に入院している彼にとって、明日とはごく当たり前に約束されたものではないのだ。


『さっき言ってた魔法について、話がありますから。絶対に来て下さい』


 何と言っていいのか分からずに絶句したままの秤に、少年は続けて更に衝撃的な言葉を告げ、こちらの返事も聞かずに通話を切った。


「魔法?」


 思わず呟いた言葉に当然返事はない。

 受話器からはツーツーと無機質な電子音が鳴り響いていた。

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