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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第二章
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第50話 現状確認

 余所の地域で起こった異世界送りとはいえ、万が一のこともあると適当なところにトラックを止めて市役所に電話を掛けた。

 先ずは応援室に直接掛けるが通話中で繋がらず、続いて森羅のスマホに直接掛けてみる。

 今度は呼び出し音が鳴るが電話には出ない。


 単純に電話中で出られないだけだと思うが、先ほどの世界改変が市内の異世界送りによって引き起こされたもので、その対処に追われている可能性もゼロではない。

 とにかく直ぐに市役所に戻ろうと考えて電話を切ろうとした直後。


『もしもし。はー君?』


 森羅が電話に出た。


「ああ。今大丈夫か? 応援室に繋がらなかったけど電話中だった?」


『ううん、大丈夫。ちょうど今電話朝日さんに代わったところ』


 森羅の声は特に焦っている様子はなく、いつも通りだ。

 滴がじっとこちらを見ていることに気づき、一瞬スピーカーに切り替えようかと思ったが、話の内容が内容なので、滴には後で伝えれば良い。とそのまま会話を続ける。


『さっきの世界改変のことでしょ? やっぱり滴ちゃんも気づいたか』


「ああ。別の地域なんだよな?」


『そうそう。ほら、私たちに異世界サポートを依頼している部署がある地域。またあそこで起こったらしいよ』


 センドウが送り出されてからまだ二ヶ月と経っていないというのに。

 こうなると滴が冗談交じりに立てた、センドウと同じ異世界に別の転生者が送られてサポート対象が増える。というフラグも回収されかねないと恐る恐る尋ねる。


「ってことは、センドウと同じ異世界に送られるのか?」


『転生先は他にもあるから、それは分からないけど……どっちにしろ私たちがサポートを担当することは無いよ』


「そうなの? それならいいけど……」


 だとすると電話の要件はなんだったのか。

 そんな秤の疑問を読んだかのように森羅は苦笑する。


『電話はそれとは関係なく、今回の異世界送りはあっちの役所の近くで起こったとかで、その事後処理の連絡』


「でも、あそこの上位存在が起こす天災は対象をピンポイントで狙うから、被害は出ないって言ってなかったか?」


『うん。今回も目立った被害は出てないみたい。とはいえ、あちらの表向きの仕事も私たちと似たような災害関係らしいから』


「あー、後処理も仕事のうちか」


 とりあえず自分たちに、関係する問題はなさそうだ。

 ほっとしたのも束の間、森羅は思い出したように付け加えた。


『あ。それともう一つ。今日はもう異世界サポートの仕事は休止するって』


「は? なんで?」


 以前は検閲も兼ねてあちらの決裁がなければメールを送ることもできなかったが、今はあちらのパソコンを介してとはいえ、異世界と直接やりとりがすることが許されるようになっている。


 正確にはセンドウから届いたメールは秤のパソコンに自動転送され、逆に秤からあちらのパソコンに送ったメールはセンドウの下に自動で送られる設定に変更された。

 これなら休止にする理由はないはずだ。


『うん。実は……ん? ごめん、少し待って。朝日さんが呼んでる』


 そう告げて、森羅が電話から離れていく。


「まったく」


 スマホから流れる保留中のメロディを聞きながら、ため息を吐く。

 今日異世界で何かあったらどうするつもりなのか。


「ま、大丈夫だろ。異世界とは時間の流れが違うんだから」


 驚いて顔を上げると、滴はニヤリと不敵な笑みを浮かべて自分の耳を叩く。

 読心魔法ではなく、単純に人間離れした人魚の聴力で会話が聞こえていただけと言いたいらしい。

 スピーカーにする必要は無かったようだ。


「確かに一晩程度ならあちらの世界では一時間にもならないか」


 昨日問われた内容の返答は市役所を出る前に送ったばかりだ。

 そこまで心配する必要はないのかもしれない。


「だいたいそいつのチートだっけ? 上位存在にもらった力もとんでもないんだろ? 心配なんて必要ねーよ。むしろ未だに相談ごとがある方が驚きだ」


「まあ、今は相談より愚痴の方が多いけどな。今回は特別。こっちじゃないと分からない他の転生者の話だったからな」


「他の?」


「そう。センドウが今いる街で明らかにチートとしか思えないような力を持ってる奴の噂を聞いたらしくてな。そいつがどこに居るのかと、どんなチートを持っているかの情報も教えてくれってさ。さっさとこっちの世界に戻るためにも仲間にしたいんだと」


「へぇ。どんな能力?」


 出る前にメールしてた奴だろ?

 そう続ける滴に頷き返す。


「ああ。余所の職員が担当している転生者で、魔法系チートというかどんな相手にも通じる無属性魔法が使えるタイプで、防御系チートのセンドウとは相性も良さそうだって送っといた」


 攻撃手段は持たないが、圧倒的な防御系チート能力を持つセンドウは、タンク役として敵の注意を引きつけ仲間を守る役目が向いている。

 対してその魔法使いは、一撃の破壊力は強いが身体能力は低く、詠唱の時間も掛かるためその間守ってくれる相手が必要となるらしいので、その意味では互いの欠点を補いあう良い組み合わせだ。

 しかし、二人が仲間になった場合、異世界サポートの担当は秤とその余所の職員のどちらになるのだろうか。

 そんなことを考えていると。


「それってさ──」


 滴が何か言い掛けたところで、耳元で鳴っていた保留中を示すメロディが止まり、電話口に森羅が戻ってきた。


『はー君? ごめんね。朝日さんから伝言。やっぱり今日はもう異世界サポートの仕事はできないから、はー君と滴ちゃんは適当なところで直帰して良いって』


「本当に!? ラッキー。んじゃさっさと帰ろうぜ」


 森羅の言葉に答え、声を張り上げたのは滴だった。


「いや、直帰ってトラックはどうするんだよ」


 声の大きさに顔をしかめつつ問う。


『一応明日まで借りてるからはー君の家に持ち帰ってもらって良いよ』


 秤が借りている社宅の一軒家は、確かに無駄に広い庭というより砂利を敷き詰めた駐車場があるため、このサイズのトラックでも止めることはできるが、目立ちすぎる公用車を自宅に持ち帰ってはご近所に何を言われるか分かったものではない。


「そんな目立つことできるわけ無いだろ。いいよ、滴を家に送ってから俺だけ市役所に戻るから」


 二人で戻ると言うと滴がうるさそうだったので、そう言っておく。

 実際自宅から市役所までの距離はさほどではないため、大した手間にはならない。


『うーん。そっか、分かった』


 分かった。と言いつつ森羅の口振りは、このまま市役所に来られるとまずいとでも言いたげに聞こえた。

 それを裏付けるかのように森羅は続けた。


『三上さんに鍵預けたら帰って大丈夫だから。私たち応援室にいないから、荷物も預けておく』


「もしかして、異世界係に出張?」


 連絡を取っていた朝日に呼ばれた直後である以上、そう考えるのが自然だ。

 案の定、森羅はうっ。と声を詰まらせてから観念したように息を吐く。


『そうそう。手伝いがいるみたいだから行ってくる。転移で行くことになるけど緊急事態だから怒らないでね?』


 後半で声を落とした森羅の返答で秤たちを市役所に帰させないようにしていた理由が分かった。

 問題なのは秤ではなく滴の方だったのだ。


 朝、裏口で変身魔法を解いて泳いでいた滴を咎めていた朝日自らが万が一人に見られたら、言い訳の利かない転移魔法使おうとしている。滴が知ったら確実に不公平だと騒ぎ出す。


 余計な追及をするんじゃなかった。

 そう思った時にはもう遅い。

 声を落としてもバッチリ聞こえていたらしい滴がニヤリと笑っているのが視界の端に映る。

 秤は自らのミスを取り戻すべく必死に頭を回転させて、どうにかそれらしい言い訳を捻り出した。


「……大丈夫、分かってるよ。緊急事態のときはしょうがないってマニュアルにも載ってるだろ。ただあっちの課長さんは異世界のこと知らないって話だから、そこだけ気をつけてな」


 滴にも聞こえるようにわざと声を張り、軽い口調で言う。

 実際秤の作った現代生活マニュアルには、異世界送りの際には、特に制限や許可なく魔法を使用して良い。との条文があった。

 これは突然新たな神託が降りてくる場合や、天災が起こってしまい、それをくい止めるなど使用許可を取る暇がない場合を想定して作った例外だ。


 今回は余所で起こった異世界送りではあるが、その条文には異世界送りが起こった場所をこの地域に限定するとは書かれていないことを思い出したのだ。

 屁理屈のような言い訳だが、これなら今回の朝日たちの行動はマニュアルには違反していないことにできる。


『うん! そうだよね。ありがとう、はー君。滴ちゃんのこともよろしくね』


「……はいはい。行ってらっしゃい」


 よろしくに込められた意味に気付いてため息を吐きつつ電話を切り、不満顔の滴を振り返る。


「というわけで、先ずは滴を家まで運んでから俺は市役所に戻るけど、それで良いか?」


 あえて先ほどの話には触れずに言う。

 まだ午後三時であり定時にもなっていないが、朝日も許可は出している(先の件でのご機嫌取りの可能性もある)のだから問題ないだろう。


「……いや、アタシも一度市役所に戻る」


 当然即答すると思ったが、滴は少し考えてから意外なことを言った。

 先ほどの件に触れてこないことも含めて不思議に思ったが、その理由は直ぐに判明した。


「さっきは時間が無かったが、三上の野郎にはまだまだ言いたいこともあるからな」


 自分の拳をもう片方の手のひらに叩きつけながら不敵に笑う。

 完全に八つ当たりをする気なのは明白だ。

 しかし、それで滴の機嫌が直るのならば。

 尊い犠牲になってもらうことを勝手に決めた三上に向かって、心の中で手を合わせた。

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