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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第二章
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第46話 一ヶ月後②

 結果から言えば、秤の心配は無用の物だった。

 その後のメールのやり取りによって分かったことだが、センドウは冒険者ギルドの存在を、現在拠点にしている集落の住人から既に聞いていたのだ。

 それどころか都市を目指すと決めたこと自体、衛生面だけでなく、冒険者ギルドで名を挙げて、早期に仲間を作るためだと判明した。


 意気揚々と都市に向かって旅立つこととなったセンドウの期待に満ちたメールの文章を見た途端、秤の胸中に言葉では言い表せない漠然としたモヤモヤが広がるのを感じた。


「どうしたの?」


 画面を見ていると、隣から森羅が声を掛けてくる。


「何が?」


「皺」


 トントンと森羅は自分の眉間を指で叩く。

 どうやら知らぬうちに眉を寄せていたらしい。と意識して表情を戻して首を横に振った。


「何でもない」


 そう。何でもない。

 むしろ今回、センドウがこちらに相談せず、自分の意志で行動を決めて動き出したことは、ここ最近のメール攻勢に疲れていた秤にとって喜ぶべきことのはずだ。

 では、この胸に巣くうモヤモヤはなんなのか。

 再度パソコンの画面をのぞき込んでいると、静かに声が掛けられた。


「……はー君。私たちの仕事はサポートであって、仲間になってあげることじゃないよ」


「え?」


 驚いて首を回して森羅を見る。。

 彼女は仕事の手を止め、体ごとこちらを向きながら、まっすぐに見ていた。


「いや、俺は別に──」


 その視線から逃れて顔を動かすと、今度は反対側のデスクからこちらをのぞき込んでいる滴の姿が見えた。


「そうだぞー。お前最近、そのセンドウナンタラに入れ込みすぎだよ。なーシンラ」


 デスクに並べられた書類の裏から、顔を半分覗かせ、呆れたように言った滴はそのまま森羅に同意を求める。


「そうそう。はー君の仲間はその男じゃなくて私たちなんだからね!」


 先ほどまでのまじめな顔を崩して、森羅は子供のように頬を膨らませて秤に詰め寄った。


「別にアイツを仲間とか、そんな風に思ってはないよ」


 森羅の言葉を無視して、そう言って顔を背けたが、内心では痛いところを突かれたと思った。

 異世界サポートの業務自体は少し前から正式に業務委託を受け、森羅から話を聞き、勉強もしていた。

 元々自分の仕事が単なるサポートやアドバイザーであることは理解していたつもりだったが、正式に異世界と交流を持つのは今回が初めてであり、異世界帰還者の中で唯一、異世界の記憶を持っていない秤としては、センドウを通して異世界での冒険を追体験するような気持ちを持っていたこともまた事実だ。


 そんな考えのままセンドウと交流を持ち、相談や愚痴を聞いているうちに、いつの間にか秤自身がセンドウの仲間であるように錯覚し、その秤に何も言わずに行動を決めたセンドウに理不尽な怒りを抱いてしまった。

 滴と森羅はそれに気づいたのだ。

 これはこの中で唯一異世界での記憶がないせいもあるのだろうが、そんな子供っぽい考えも一緒に見抜かれたようで恥ずかしくなる。


「なら良いけどさー」


 その声は、明らかに信じてはいないようだったが、それ以上滴も何も言わず、顔を戻していく。


「だいたいはー君はもう四ヶ月も一緒にいるのに、いつまで経っても仕事以外で一緒にいてくれないし、そろそろデートの一つに誘ってくれても……」


 未だこちらを見ながら、ぶつぶつ言っている森羅の言葉は意図的に聞こえない振りをしながら、秤はイスの背もたれに体を預けるとそのまま後ろに体重をかけた。

 市役所らしい飾り気のない蛍光管に照らされながら、これまでの自分の行いを反芻する。


(入れ込み過ぎ、か)


 滴に言われた台詞を頭の中で繰り返す。

 確かにその通りだ。

 そう気づいた、いや気づかされてしまった以上仕方ない。

 勢いをつけてイスを戻すと、早速届いたメールに返信する。


「了解しました。冒険者ギルドでのご活躍、お祈りしています」


 二人に聞かせる意味も込めながら、言葉に出してキーボードを打つ。

 いつもであれはこの後に、予想される状況や危険性を挙げた後、また何かあればいつでもご連絡を。と続けるのが通例だったが、あえてそれ以上何も書かずに、メールを送信してノートパソコンを閉じた。


「さて、と。偶には精査室の仕事でもするかな」


 市民からの相談件数は減り、相談窓口でほとんど処理できるとは言っても完全にゼロになるわけではない。

 今まではセンドウのサポートに力を入れていたために流し見程度になっていた。

 このサポートの仕事を朝日が回してきたときに、自分が最終的な精査をするという言葉に甘えてしまっていたが、いつまでもそれに甘えているわけにもいかないと思い直し、その日からサポートと並行して表向きの名前である情報精査室としての仕事にも力を入れ始めた。


 朝日から更に別の仕事を頼まれたのは、その数日後のことだった。

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