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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第二章
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第45話 一ヶ月後①

「はー君。またメール来てたよ」


「……ああ。うん」


 初めてセンドウにメールを送ってから一ヶ月が経過した。

 少し離席している間にメール新着を知らせられるのももう慣れたものだ。


「あっちとこっちじゃ時間の流れ違うとはいえ、どんどんメール来るね」


 こちらでは数時間経っていてもあちらではほぼ一瞬だ。

 その意味で言うとセンドウ側で数時間程度間を置くだけで、秤たちの世界ではそれこそ何日も経過するはずだが、毎日何度もメールが来るということは、間を置かず次から次にメールを送ってきていることになる。 


「まだ仲間もいないから。話し相手が欲しいって言うのもあるんだろうな」


 実際最初は、異世界で必要な知識や資料集めの依頼ばかりだったが、それらが一通り集まった後は異世界で不便なことを解消するための相談となり、いつしか異世界生活での愚痴を吐き出してくるようになった。

 もっとも、そうした意味のない相談になったことで、当初のメール毎に行われていた他の異世界係による審査と承認が不要となり、一日ごとにどんなメールを送ったのか報告するだけで良くなったのは幸いだか。


「どれどれ」


 早速届いたメールを確認する。

 要約すると与えられたものが防御系のチートであるため、攻撃力が殆どなく一人では敵と戦うことも難しい。

 これでは転生者を呼び寄せる理由でもある、異世界を造った上位存在の不調原因を具現化した存在を倒すことなど不可能。ということだ。

 そして末尾は早く日本へ帰りたい。という言葉で締めくくられている。

 どんな話題からでも、最終的に日本へ帰りたいと繋げてくることにももう慣れた。 


 早く帰りたいのならば、さっさと攻撃力のある仲間を見つけてパーティを組み、不調原因を倒しに行けと言っているのだが、センドウはなかなかその一歩を踏み出そうとしない。

 とはいえこれも双方に流れる時間の違いによるものだ。

 秤の目線では一ヶ月もの間ウダウダと悩み続けているようにしか見えないが、あちらの世界では転生してからまだ時間が経っていない。

 せいぜい五日ほどだろう。


「たった五日でホームシックかぁ」


 異世界で胸躍る冒険という幻想も、一週間も持たないと言うことだろうか。


「気持ちは分からないでもないけどね。私は異世界に着いた瞬間からこっちに帰りたくて仕方なかったし」


 グイと椅子ごとこちらに身を預けるようにしながら森羅が言う。


「ふーん」


「なんでって聞いてよ」


「……なんで?」


 わざわざ聞いてくるあたり答えは想像がついていたが、聞かないといつまでも言ってきそうだったので言われるがまま聞くと、森羅は長いエルフ耳の先端をピンと立ち上げ、にっこりと笑顔の花を咲かせた。


「もちろんはー君がいないから!」


「予想通りの答えありがとう」


「どういたしまして」


 笑顔と余裕を崩さない森羅に秤はそれ以上なにも言えず、ため息を落とすと改めてセンドウからのメールを見る。

 文面を見ながらなんと返信しようかと考えていると、ウインドのスクロールバーが一番下まで言っていないことに気付いて、マウスを滑らせる。

 長い空白の後に記された文章を読んだ秤は破顔した。


「お。ようやく都市に行く気になったか」


 これまでは十分なレベルに達するまで、人が多いところに行ってもトラブルに巻き込まれる可能性を高めるだけだと、異世界に送られた場所の近くにあった小さな集落を拠点に生活していたセンドウだったが、人も少なく、流通もほとんどない外界から隔絶された集落では、情報収集やレベル上げにも限界があると理解したようだ。

 もっとも、その集落が現代人の感覚から見て清潔とはほど遠い生活をしていることから、大都市ならばもう少しマシな生活ができるはずというのが本音のようだが。

 どちらにしてもこれでこの一ヶ月のサポートとは呼べない不毛なやりとりから解放される。


「無事都市に着いたとして。まずは何からさせれば良いんだろう?」


「んー。私が担当した人は、とりあえずギルドってところに行ってたね」


 異世界を知るために呼んだ数多の小説を思い出す。


「あー、冒険者ギルドか」


 特に異世界転生物の小説に於いて、いわゆるお約束でありテンプレと呼ばれるほどよくある設定だ。

 異世界に行くまでの現実世界での話や異世界に行って与えられたチートや能力の説明などがひと段落した後、冒険者と呼ばれるモンスター退治や護衛など様々な依頼をこなす職業に就いた者たちを集め、仕事を斡旋する機関である冒険者ギルドに行き、仲間集めや冒険者という身分を手に入れる話が非常に多い。


 元から異世界転生物の小説を読んでいた者が転生した場合は、それを理解して冒険者ギルドを目指す者も多いそうだが、センドウの場合はそうした小説に詳しくはないらしい。

 異世界転生物の小説を知っていれば、自分が持つチート能力に自信を持って、もっと派手に行動していたかもしれない。

 それこそ森羅が担当している、なにかと調子の良い転生者少年のように。

 彼は今、既に仲間集めを終え、その世界の不調原因の塊である強大な力を持ったドラゴンを討伐すべく、住処であるダンジョン攻略に入ったと聞いている。

 そこまでくれば異世界を救うまでもう少しだ。


 その後転生者がこちらの世界に帰ってくるのか、それとも異世界に留まるのかは不明だが、話を聞いている限り、件の少年はあちらの世界で幾人も恋人を作っているそうなので、戻ってくる可能性は低そうだ。

 その点、異世界に嫌気がさしているセンドウなら、日本に戻ることを選択するだろう。

 そうなれば秤たちと同じ異世界帰還者として、同僚になることもあるかもしれない。


「おっと」


 思考が別の方向に行っていることに気づき、軌道修正をする。

 異世界転生のテンプレを知らないセンドウは冒険者ギルドのことも知らないだろう。

 例え都市に着いたとしてもあの慎重な男を、どうやって冒険者ギルドまで誘導するべきか。

 メール画面を見ながら、秤は思考を巡らせた。

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