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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第二部 第一章
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第39話 マヨネーズのレシピ

「はー君。マヨネーズの作り方って知ってる?」


 じっとパソコンの画面を睨んで作業していた同僚の木林森羅が突如そんなことを言い出した。


「マヨネーズ?」


 大まじめな顔で何を考えているかと思えば。

 そう言いたい気持ちを飲み込み、自分の作業を一時止めて彼女を向き直ると、森羅もモニターから視線を外してこちらを見た。


「うん。異世界の住人から信用を得るために料理を振る舞うことになって、マヨネーズが必要なんだって」


 なんでそうなるか分からないのだけど。と森羅は訝しげに続けるが、秤の方は逆に腑に落ちた。


「多分それは異世界転生物の小説を読んでた奴だな。異世界人が知らない調味料とか料理の手法とかを教える話が結構あるみたいだから」


「それでマヨネーズ?」


「異世界にありそうな材料で結構簡単にできるからって話だけど。材料は何だったかな? 卵と油に……あー、検索した方が早いな」


 ポケットからスマホを取り出し『マヨネーズ 作り方』で検索するとすぐに結果が表示された。

 レシピを見て、必要な最後の材料を思い出し手を打つ。


「そうだ、酢だ。卵黄とサラダ油に酢を混ぜて完成らしい。けど、異世界に酢ってあるか?」


 卵やサラダ油ならば、そのものでなくても、代用できる物がありそうだが、それ自体が調味料である酢があるとは限らない。


「酢は割とどの異世界にもあるよ。ワインとかを放置するだけでもできるから、世界最古の調味料っていわれてるくらいだし。異世界でも発見されやすいんじゃないかな」


「へぇ」


「とにかく。それなら異世界でも同じようなものは作れるってことね。早速返信しようっと」


 秤から受け取ったスマホの画面に記された材料と分量を見ながらパソコンに向かい直る森羅を後目に、一度作業を止めたことで、何となくそのまま仕事に戻る気をなくした秤は、森羅のデスクの上に置かれている書類に目を留めた。


 現在森羅が行っている仕事である、異世界に転生した相手とパソコンを使用して交信し、異世界で生き抜くことができるように助言するやり方を示した仕様書だ。

 表紙にはシンプルなゴシック体の文字で異世界サポートマニュアルと記されている。


「森羅ー。これ見て良い?」


「いいよー。はー君にもそのうちやって貰うかも知れないし」


「異世界の知識のない俺じゃ手伝えないだろ」


 苦笑しながら、マニュアルを捲る。

 この異世界転生応援室のメンバーは全員が、異世界て世界を救った後戻って来た、異世界帰還者と呼ばれる者たちで構成されている。

 それは秤も同じだが、彼の場合異世界に行っていた間の記憶を失っており、今でも戻っていない。

 そんな自分では異世界で活動する者たちへの助言などできるはずがない。


「そんなことないよ。私たちが行った異世界はもう救われている以上、同じ世界に送られることはないから、助言といっても結局手探りなのは変わらないし、今回みたいにこっちの知識が必要なこともあるからねー」


「……しかし、異世界と交信できるパソコンか。これって森羅たちでも作れるの?」


 話が望まぬ方向に行きつつあったため話題を変えると(森羅がそれに気づいたのかは不明だが)彼女も話に乗った。


「無理無理。これは小子ちゃんの神託みたいな、異世界帰還者の中でも特別な人しか使えない能力だと思うよ。他の異世界係にもそういう人がいるんだろうね」


 異世界係とは異世界転生応援室以外の、他所にある異世界関係部署を示す言葉だ。


「そう言えば前に上位存在の代わりに異世界送りができるのは、ここだけって言ってたな」


 一人の転生予定者を異世界に送るために大規模な天災を起こして大勢の犠牲者を出す、上位存在の代わりを秤たちが行うことで犠牲を最小限にする異世界送りは上位存在の声を聞き、その力を物に宿らせることのできる陰陽師にして巫女である大中小子の存在があって初めて実現できるそうだ。


「うん。ただ、他所では私たちのところを管轄しているアレ上位存在みたいに雑なやり方はしないらしいから。天災を防ぐより異世界に送られた人をサポートすることで、異世界送りの頻度自体を減らすって考えなんだろうね」


「不調原因の魔王とかの討伐に失敗した場合は、同じ異世界に次々人を送ることになるんだったか」


「そうそう。だからこうして死なないようにサポートするってわけ」


 死なないように。という言葉がサラリと告げられて思わず体が硬直する。

 仕事には慣れはじめ、彼女たちが語る突拍子もない異世界での体験談にも驚くことはなくなったが、それでも他人の死に自分が関わることには未だに慣れないし、そもそも慣れるつもりもない。


 そんな秤の感情を、今度は確実に読み取ったのだろう、森羅は明らかに取り繕うように一音高い声で告げた。


「でも、私たちに任せられているのはその中でも難易度の低い異世界なんだって。最初から凄い力を与えられてて、それこそ本来はサポートも必要ないくらい強い力を持ってる人ばっかり。えーっとなんて言ったかな、えっと。ち、ち……」


「チート?」


 以前警備員の三上から貰った小説でもそうした文言が頻発していたが、後に少し調べてみると、最近の異世界転生を題材にした小説ではそうした反則じみた力を最初から持っている状態で異世界で無双する話が流行しているそうだ。


「それそれ!」


 淀みなくブラインドタッチを続けていた森羅の手がキーボード上から外れてこちらに真っすぐ向けられる。彼女は胸のつかえが取れたとばかりに嬉しそうに笑った。

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