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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第一部 第三章
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第30話 準備完了

「さて、皆の頑張りによって儀式も無事に終了し、導具が完成した」


 ポンと朝日がトラックに手を添える。


「後は上位存在が天災を起こす前に、彼を異世界に送るだけだ。小子くん、異世界送りの正確な時間は分からないんだね?」


「……はい。ここは私の実家があった場所だから、神様の声が一番聞こえやすいけど、何も」


「つまり、今回の件での神託はもうないってことか?」


「……多分」


「ちなみにこのトラックはいつから使えるようになるんですか?」


 導具がその効力を発揮するのは異世界送りの間だけと事前に聞いている。


「もう使えるよ」


 朝日がトラックに添えた手に力を込めると、同時に車体が一瞬緑色の輝きを放った。


「導具に魔力や魔素、マナ、霊力、言い方は何でも良いが、エネルギーを込めると導具は力を発揮し、その後対象と接触することで異世界への扉が開く。そういう仕組みだ」


「それが今使えるようになっているってことは──」


「そうだ。もういつ天災が起きても不思議じゃない……釣合くん」


 返答した朝日はそのままこちらを見た。ここから先の行動を決めるのは今回の作戦に於ける総責任者であるハカリの仕事だ。


「作戦は今から行います。対象が部活に向かうところを狙う」


「だけど周りに人がいたらどうするんだよ。転生予定者(そいつ)には魔法が利かないぜ?」


 間髪入れずに滴が言う。

 上位存在、つまり神の力である神気を纏った導具同様、転生予定者にも異世界に行くまでの間、微量の神気が宿っている。

 問題なのはその神気に、彼女たちの使用する魔法の力を弾く性質があることだ。


「それは分かってる」


 慌てることなく淡々と頷くハカリに、滴は疑いのまなざしを向けた。


「……まさか周りに人がいても関係ないとか言わないだろうな?」


「言うかよそんなこと。そもそも、こんな面倒なやり方をしてるのは人を殺さないためだ。他に巻き添え出したら本末転倒だろうが」


「だったらどうする?」


 試すような朝日の口振りは、どこか楽しそうだ。


「あの辺りは俺の地元。良い場所を知ってます」


 そう言ってポケットから折り畳まれた地図を取り出すと、森羅がそっとハカリの手から地図を受け取って代わりに広げた。

 目線で礼を言うと、森羅は微笑で答える。


「……仲良し」


 小子がポツリと口にした言葉で、むずがゆさを覚える。


「んんっ」


 咳払いで強引に気を引き締め、昨日寝ずに考えた作戦を伝え始めた。


「まず大事なのは、今回の転生予定者が高校生だってこと。学校までは結構距離があるから自転車では登校しないはずだ」


「ああ。バス通学みたいだな」


 転生予定者の情報は既に共有している。というより彼女たちは内密に調査を進めていたためハカリよりも詳しい。


「そこが重要だ」


 ボールペンを使い、地図に書かれたポイントの一つであるバス停を指す。


「一番近いバス停はここ。家からは一直線で向かえる裏道があるが、ここにはトラックは入らない。だから先ずはこの道を塞ぐ」


 目標の家は住宅が密集した奥まった場所にあり、他の道路と比べ細い線のような道路がいくつか延びていた。その中の一つにバツ印を入れる。


「どうやって?」


「ここと同じ事をやれば良い。目標が来たとき少しの間だから届け出はいらないと思いますけど──」


 朝日の反応を窺うと、彼女はサラリと提案した。


「大がかりな工事では届け出が必要だが、ここは歩道だろう? であれば調査名目の通行止めで十分だ。市役所には事後報告になるが僕がやっておくよ」


「お願いします」


 頭を下げると朝日は無言で頷き返す。


「この道が使えないとバス停に行くには、回り道になるがここを通ってこの道に合流するしかない。で、俺は──」


 別の細い道をなぞりながら、バス停に繋がる通りへの合流地点を指し、そのままボールペンをバス停がある場所とは反対側に延ばしていく。


「ここに待機しておく」


 転生予定者が回り道をして現れることになる、通り奥の行き止まりを指す。

 地図上ではなにもない行き止まりだが、この場所には間違えて上ってきた車が引き返せるようにと設置された幅の広い停車帯があるのだ。


「この場所で停車して目標が通りに入ってくるのを待つ。理想は相手が出てきたところに直接、つまり出会い頭を狙うことだが、もしタイミングが合わなくても、左右に逃げ場はないから、そのまま追いかけて確実に送る」


 この道は山の縁に沿っていてガードレールを挟んで向こう側は基本的に崖、反対側も坂道に家を建てるに辺り水平の地面を作るための高い壁がそそり立っていたはずだ。

 つまり、一度わき道から出てしまうと、次のわき道までの数百メートルは逃げ道すら存在しない。


「地元とはいえ、やけに詳しいな」


「俺が住んでいた施設はこの下にあるからな裏山からよく見てたよ」


 地図上でペン先を真横に滑らせると、小さな林を挟んだ先に児童養護施設コモレビの名前がある。


「……はー君。いいの?」


 これまで黙って話を聞いていた森羅が神妙に言う。

 問われた意味は直ぐに分かった。


 ハカリたちが手を下さなかった場合、異世界送りは上位存在が起こす天災となる。

 そのやり方は土砂崩れが多く、こちらの作戦が失敗した場合、その場で天災が発生する。

 そうなれば当然崖下のコモレビも巻き込まれてしまうが、それで良いのか。と聞いているのだ。


「……」


 確かに思うところはある。

 この場所でなく、もっと別、極端な話反対側の道路に誘導すれば、仮にこちらの作戦が失敗したとしても、天災でコモレビに被害が及ぶことはないだろう。


 だが、そちら側にはこれほど適した道路はない。というより分からない。

 いつも下から見上げていたため、この道が車通りもなく、また通学時間帯の人通りが殆どないことを知っているが、他の場所に関しては地図やスマホのアプリで地形を確認する事はできてもそうした情報までは分からないのだ。

 人通りが多かった場合、多数の被害者が出ることになる以上、危険は犯せない。


「……だから、成功させるしかないんだ」


 僅かな、けれどハカリにとっては永い熟考の末に吐き捨て、顔を持ち上げた。


「小子にはこの場所に待機しつつ式神を使って対象を監視してほしい」


 遠視魔法は全員が使えるが、その中で小子を選んだのには理由がある。

 他の三人が使用する遠視はあくまで魔法であるため、神気が宿っている転生予定者を映し出すことはできないからだ。

 しかし小子の遠視札は紙に自分の目の役割を与える札なので、肉眼で監視している状況と変わらない。いわばカメラを搭載したドローンのようなものなので神気に邪魔されることなく監視ができるはずだ。


「分かった」


「それなら、中継役は滴くんに頼もう。電話を使っての連絡なら車内でもできるからね」


 小子が頷いた直後、もう一人ここに残留する者を選ぼうとしたハカリに先んじて朝日が言うが、その選定はハカリと同じだった。


「ああ」


 小子を特別気にかけている滴も当然とばかりに頷く。


「では、話をまとめましょう。小子ちゃんと滴ちゃんはこの場所に残って対象を監視。動きがあれば私たちに連絡を。現場に出向くのは私たち三人。はー君が運転手と実行役。朝日室長は偽の通行止めをして対象を誘導する役目。私ははー君のサポートとして助手席に座ります」


「お、おう」


 ニコニコと笑ってはいるが、有無を言わさない強い意志を感じる。

 どのみち約束した以上、森羅も連れていくつもりだったので問題はないのだが、あまりの必死さに苦笑した後、改めて全員の顔を見回した。


「そうと決まれば急ごう。もういつ異世界送りが始まるか──」


 分からない。と続けようとした途端、森羅が広げていた地図に空から水滴が落ちてきた。

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