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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第一部 第三章
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第25話 第三の選択

「悪かったね、これを持っていると転移が使えないから少々時間が掛かった」


 滴が連絡を入れて呼び出してから三十分ほどで、異世界転生応援失に戻ってきた朝日は、導具の仕舞われた名刺入れを半分見せながら室内に足を踏み入れた。


「おや」


 直後眉が持ち上がり、次いで唇が弧を描く。


「あの──」

「森羅くん。先ずは中に」


 後ろから怖ず怖ずとらしくない声で話しかける森羅を室内に招くと、朝日が扉を閉めた。


「急に呼び出してすみません」


 応接スペースのソファから立ち上がって二人を出迎える。

 隔てる物が何もない状態で、ハカリは朝日と向き合った。


 そう。


 応接スペースを区切っていたパーテーションは外している。

 これから異世界送りの準備で、あちこち移動することになるため邪魔になると思って移動させておいたのだ。

 しかし、いつもの定位置に座った滴の下半身は人魚のまま。

 つまり誰かが入ってくれば彼女の正体が露見しかねない危険な状況を、自ら作り出したことになる。


「これは覚悟の現れ。ということでいいのかな?」


「正体がバレる危険を高めるのが、どうして覚悟に繋がるんですか?」


 苦笑するハカリに、朝日ではなく滴が反応した。


「背水の陣みたいな感じじゃなかったの?」


「違うよ。むしろ逆だ」


「逆?」


 滴が連れてきて既にソファに座っていた小子も含め、メンバー全員の顔を見回した後、ハカリは強い意志を込めて告げた。


「覚悟を決めずに仕事を全うする方法を思いつきました」


 ハカリの宣言を受け、朝日の唇がより大きな弧を描く。


「詳しく聞かせて貰おうか」


「その前に──」


 話を始める前に、朝日の後ろで隠れるように立ったまま一言も口を利こうとしない森羅に目を向けた。

 それだけのことで彼女は怯えたように身を竦ませる。

 ハカリは即座に深く頭を下げた。


「森羅。昨日はすまなかった」


「え?」


「お前の意図がどうであれ、俺のためにしてくれたことだったのに、あれは完全に俺の八つ当たりだった」


「ううん。私の方こそ、ごめんなさい。貴方の気持ちを考えなくて」


 申し合わせるように森羅も頭を下げ、いや俺が、いや私が、と不毛な責任の奪い合いに移行し掛けた頃、朝日が手を叩いた。


「時間がない、いちゃつくのは後にしなさい」


「むぅ」


「森羅くん、そんな顔をするな。そもそも君が謝る必要はない。あれは僕の指示だ」


 涼しい顔で言う朝日に、やはり焚きつける意図もあったのだな。という思いはあったが、時間がないのは間違いないため、言及せずに黙っていると朝日はこちらに目を向けた。


「だから僕も謝罪しよう。君を試すような真似をしてすまない。だが僕は君が託すにたる人間か試さなくてはならなかった」


「託すって。何をですか?」


「それは、君の話を聞いてからにしようか」


 小さく首を振り、森羅を伴って応接スペースのソファに腰掛けた朝日は、さあどうぞ。と言うように手を差し出した。

 朝日を初め、森羅やまだ詳しい説明をしていない滴と小子、全員からの視線を感じながらも、ゆっくりと息を吐く。


 既に魔法の効果は切れているので、思考を纏めるのに時間が掛かるのだ。

 全員を集めておいてなんだが、自分のアイデアはやはり運の要素が強い。

 それを含め、上手く説明できるだろうか。


 ふと高校の授業を思い出した。

 この手のプレゼンは内容もそうだが、相手を納得させる話術も重要となる。


(ビビるな)


 自分に言い聞かせつつ、ハカリは全員の顔を見回した後、アイデアを話し始めた。



 ・



「以上です」


 高校の授業を思い出していたせいで、ついそんな堅苦しい締めの言葉を吐いてしまったが、皆そんなことを気にした様子もなく、全員が黙り込む。

 ハカリが話したアイデアを各々で精査し、実行可能かどうか考えているようだ。


 とはいえ、それも長くは続かず、最初に滴、次いで小子、森羅と順番に顔を持ち上げ、視線が朝日に集中していく。

 アイデアを実行できるとしても、決断を下せるのは朝日だけだ。

 その朝日は、視線を向けられてもしばらくの間黙って思考に耽っていたが、ようやく顔を持ち上げたかと思うと小子に問いかけた。


「面白いアイデアだとは思うが。小子くん、サイズ的に出来る?」


 これはハカリも気になることだったので、朝日と共に小子を見た。

 事前に滴と似たような話をしていたので大丈夫だとは思うが。


「……祭壇まで運ぶことが出来れば、大丈夫、です」


 祭壇とは神降しの儀を行なっていた水神丘古墳の後円登頂部のことだ。

 あそこの広さと例の導具候補のサイズは事前に調べて、入ることは確認している。

 朝日は一つ頷き、今度は滴に目を向ける。


「物理的な破壊力は?」


「そっちは正直やってみないとなんとも言えないけど、あれなら重量も増やせるし、導具になると基本壊れなくなるから衝撃力は跳ね上がる。なんとかなりそうな気はするな」


「壊れないって。そうなのか?」


 それは知らなかった。


「紛いなりにも神……上位存在の力だからね」


 小子と森羅の二人から睨まれ、朝日は肩を竦めた。

 小子は神を紛いなり。と表現した部分に反応し、森羅はいつも通り神と呼んだことに不満を抱いたのだろう。

 森羅がいつも通りの対応になったことに内心安堵しつつ話を進める。


「なら後の問題は──」


「うん。時間だけだね」


「やっぱり最後はそれですか」


「ああ。古墳の管理をこちらで奪う例の計画は、流石に二日では無理だ」


 市議会を通さないといけないからね。と朝日は言い、こちらの反応を窺うような目を向けたが、ハカリは無言で続きを促した。

 何か抜け道があるのが態度で分かったからだ。朝日もまたハカリが気付いていることを察して、再度肩を竦めてから語り出す。


「ただ、一日だけでいいのなら方法はある」


「というと?」


「現在管理している部署から仕事を押しつけて貰えばいい」


「でも、そうした仕事の押しつけでも縦割りとか縄張りで出来ないのでは?」


 そう言ったのは他ならぬ朝日だ。

 ハカリの問いに朝日はそれまで浮かべていた不敵な笑みを引っ込めると、真顔になってこちらを真っ直ぐに見つめた。


「僕は面倒と言っただけ。慣習であってルールではない以上、僕らがその気になればなんとでもなる」


 何を言いたいのか、直ぐにピンと来た。

 彼女たちの使える感情を操る魔法だ。

 意固地を形にしたような性格の沙月でさえ、完全に初対面の森羅と打ち解けたほどだ。

 縦割りや縄張り争いなどは、個人の感情というよりは慣習が主な理由。

 ルールをねじ曲げるわけでもないのなら、担当部署の課長辺りを操れば簡単に許可が下りると言っているのだ。


 他の三人が困惑しているのが、言葉にせずとも伝わってきた。

 そうした魔法を多用する危険を誰よりも説いてきたハカリが、魔法の使用を納得するのか気にしているようだ。

 それは朝日も同じらしく、周りの困惑した雰囲気を無視して、ハカリをじっと見据え続ける。

 そんな彼女にハカリは強く頷いた。


「ならそれで行きましょう。管理をしている職員に魔法を掛ける」


「……改めて聞くが、いいんだね? 君の案を採用するなら、魔法だけでなく、市役所の服務規程違反、いやそれどころかいくつかの法律も犯すことになる。その上で得られるのは人を殺さずに済んだという君の自己満足だけだ。労力と報酬が釣り合っていないと思うが」


 これが最後だとばかりに告げられ、ハカリは一瞬身を竦ませた。

 そちらの覚悟はもう決めたはずだったが、改めて口に出されると、確かに無駄が多すぎる計画だ。

 だからこそ。にっこりと笑って告げた。


「そうですね。やっぱり止めましょうか」


「は?」


 驚いたように声を上げたのはただ一人、滴だけだった。


「なんてね」


 滴が騒ぎ出す前におどけて言う。


「お前さぁ」


 唇を尖らせる滴に視線で謝罪してから、ハカリは改めて朝日を見た。


「朝日室長、その釣り合いが秤れているかどうか判断するのは俺ですよ。そして、その報酬だけで俺には十分です」


 もう試し試されは必要ない。

 そうした意志を込めて、キッパリと告げた。


「では釣合くん、改めて室長命令だ」


 満足げに頷いた朝日は前方に腕を突き出しつつ、高らかに命じた。


「これより君に、今回の作戦に於けるプロジェクトリーダーとして、僕を含めた異世界転生応援室の指揮を託す。無事成功に導きなさい」


 託すとはそういうことだったのか。

 先ほど朝日が言っていた意味を理解する。


「分かりました。その覚悟は出来ています」


 敢えて覚悟という言葉を使って言い、一度言葉を切ってから改めて指示を出す。


「朝日室長、工事の許可を取る交渉を一緒にお願いします」


 先ずは工事の許可を取らなくては始まらない。


「え?」


 何故か朝日ではなく、森羅が反応した。その声は困惑と共にどこか怒りのようなものも混ざっているように聞こえて不思議に思うが、その真意を問う前に今度は朝日が動いた。


「了解だ。そういうことならうってつけの相手がいる。君たちも少し手伝ってくれ」


 有無を言わさぬ朝日の発言で全員が動き出す。

 リーダーとはいってもやはり室長には敵わないな。と心の中で苦笑した後、ふと先ほどの森羅の態度を思い出すが、彼女はもう行動を開始し、こちらを見ていなかった。

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