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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第一部 第二章
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第13話 第一回異世界講座②

昨日初めてローファンタジー部門の日刊ランキングに入ることができました

読んで下さった皆さんのおかげです。ありがとうございました!

これからも頑張ります

「それで戦う相手が魔王ならファンタジーとして完璧ですね」


 強大な力を持った魔王に侵略され、虐げられている人間たちを救うために、異世界から救世主が現れる。

 大昔からある使い古された物話だ。


「魔王討伐は私の世界での目標だよ」


 冗談のつもりだったのだが、真面目な顔で森羅が手を挙げた。

 どうも彼女の居た異世界は、魔法や異種族だけではなく、目的まで古典的なファンタジー世界のようだ。


「アタシのところはバカみたいにデカい蛇だったな。僅かに残った陸地がそいつの身体そのものだったせいで、その上に住んでいる人ともやり合う羽目になった」


 続いて口を開いたのは、うんざり顔の滴だ。

 口調こそ軽いが、ごく当たり前のように同士で(人魚を人と定義していいのかは別にして)争っていたと言い、誰もそれに驚きを見せない当たり、昨日朝日が言っていた人を殺す覚悟を、ここにいる全員が持っているのだと再確認する。


「小子のところは大鬼だっけ? 送られたのも日本とそっくりな世界だったんだろ?」


 血なまぐさい内容になる前に話を変えようとしたのか、唐突に話題を切り替えた滴が小子に話を振った。


「……」


 しかし、小子は滴の言葉には応えず、視線をどこかに飛ばしたまま注視していないと分からないほど小さく頷いただけだった。

 その様子に滴は不思議そうに首を傾げる。


「僕が行った世界はさっきも言ったが実在のゲームの世界そのものでね。そのゲームのラスボスがそのまま出てきたよ」


 滴が声を掛ける前に朝日が割って入り、同時にハカリに対してアイコンタクトを送る。

 なにかの事情があるのだと察して話に乗った。


「それですよ。さっきゲームの中に入ったわけではなく、そっくりな異世界に転生しただけって言ってましたけど。なんでこの世界のゲームとそっくりの異世界が存在するんですか?」


 元々この疑問から今回の異世界講座が始まったのだ。話を戻す意味でもちょうど良い。


「うん。僕は転生者の本当の役割は薬や医者の代わりみたいなものだと考えている」


 ついさっき、魔王やラスボスを倒して異世界を救うのが目的だと言ったはず。

 疑問を抱くハカリに朝日は淡々と続ける。


「順を追って話そう。さっきも言ったがこの世界とは時間や空間を隔てた異なる世界は多数存在している。その中でも僕らが住むこの世界は特別。異世界に送る側の世界なんだ。実際、僕らのように帰還してくる者はいても、異世界の人間や生き物が転生してきたりはしないだろう?」


「確かに。そんな話聞きませんね」


 そんなものが居たら大騒ぎになりそうだ。

 一つ頷いて朝日は続ける。


「では何が特別なのか。ここからが僕の推論だが、この世界が他の世界に比べ安定しているからだと思う。逆に言うと送られる側の異世界は安定していないことになる」


 一度言葉を切り、朝日はこちらを試すように視線を向けた。この意味が分かるか。と問うているのだと気付き、少し考えてから答える。


「つまり、転生者は異世界を安定させるために送り込まれる?」


「うん。正確には安定させるためではなく、異世界に生まれた不調部分を治療するためという言い方が一番近いかな」


 さきほど薬や医者に例えた意味が分かったが、まだ疑問は残る。


「神……上位存在なら、それくらい自分で治せないんですか?」


 神様という呼び名を嫌っている森羅からの強い眼差しを感じて言い直す。


「これもあくまで推論だが、僕は上位存在を全知全能の完璧な存在だとは思っていない。ただ大きな力を持っているだけの存在で、ミスもすればできないこともある」


 朝日の大胆な推論を聞き、ハカリはチラリと小子を見た。

 ただ一人上位存在を神様と呼び信仰している小子が怒りを覚えないか心配したのだが、彼女は相変わらず無表情でどこか遠くに視線を向けたままだ。


「その上で自分で治せないのは、異世界そのものが上位存在の体だと仮定すると説明が付く。人体でも浅い外傷や、軽微な不調なら自然治癒力で治るだろう? だが、もっと重大な、たとえば一番分かりやすいのは癌細胞かな。あれは時間が経って自然に治ることはなく、基本的には手術で取り除くしか手がない。今はどうか知らないが、少なくとも僕が居た頃はそうだった。それと同じだよ」


 先の全知全能の存在ではないとの発言と併せて、ようやくイメージを捉えられた。


「異世界そのものが自分の体だから、上位存在がどれほど強大な力を持っていようと、自然に治らないレベルの不調には外的な治療に頼るしかないってことですか」


「その通り。ただ、その異世界の癌細胞である不調原因が目に見える形があるとは限らない。そもそも異世界全てがこの世界のように形あるものばかりではなく、この世界で言うビッグバン以前の宇宙のような完全な無の場合もある。そうした異世界の上位存在は転生者を呼び込む前に、まずは自分の体となる世界を構築し、次に不調の原因を物質化する。これが森羅くんの世界で言えば魔王に当たるわけだ。しかし上位存在にできるのはそこまで」


「不調原因の塊である魔王を倒すことができるのは、その世界で生まれた者ではなく、異世界から来た者だけ。それが異世界転生者。そして魔王を倒すことで別世界の上位存在は不調が快復して、同時に転生者もお役御免になるわけですか」


 そうして、この世界に帰ってきた者たちが、自分も含めた異世界帰還者ということだ。


「あちらの世界にそのまま残る選択をする者も居るらしいがね。少なくともここにいるのは皆この世界に帰ることを望んで戻ってきた者だけだ」


 朝日の話をすべて信じるなら、ハカリ自身も単純に異世界に行って戻っただけだけではなく、記憶を失っている間に大騒動に巻き込まれ、異世界を救うなどという大業も成し遂げて来たということになるらしいが、正直スケールが大きすぎで未だにピンとこない。


「……ん? 結局、異世界がこの世界のゲームとかとそっくりな理由はなんなんです?」


 朝日の異世界論と転生者の必要性については納得したが、そもそもの発端に関してはこれまでの話では説明がつかないはずだ。

 ハカリの問いに朝日は慌てない。と言うように両方の手のひらを前に突き出した。


「繰り返しになるが、他の上位存在の身体である異世界が形として存在していない場合、先に世界を構築する必要があるのだが、一から世界を作ろうとしない横着な上位存在もいる。ではそうした相手はどうやって世界を作るのか」


 自分ならどうするか。と考えて一つ思いつく。


「誰かの真似をする?」


「御明察。その場合は呼び出された異世界転生者の知識を土台として異世界そのものが構築される。もっと言うなら、その人物が最も活躍できる世界を作ろうとする。何しろ呼び出した者に魔王なりを倒してもらわないと不調は回復しないわけだからね」


「それでゲームの世界をそのままコピーした異世界が出来上がると。そうなると室長の世界がゲームの世界だったのは、室長がそのゲームが得意だったからですか? あれ? でもさっき……」


 朝日はゲームに詳しくないから人伝に聞いたと言っていたはずだ。


「参考になったのは僕の知識じゃない。世界は一度構築したら何度も造り直せるものではないらしくてね。異世界を作る際に参考にするのはあくまで初めに呼び出した人間の得意分野。それが失敗したら、その世界を再利用して、どんどん別の人間を送り込むしかない。僕はその一人だった」


「それってつまり、最初の一人は得意分野のゲームでもラスボスを倒せなかったってことですよね」


「ま、ゲームと現実は違うからね。ただその人物が攻略本というか、ゲームの知識や進め方を纏めた物を残してくれたから、後発の転生者たちも知識を持ってゲームを進めることができた。最終的にラスボスを倒したのが、ゲームを全くやらない僕だったのは皮肉な話だがね」


 言いながら朝日はポケットに手を入れ、シガーケースを取り出した。

 また館内禁煙を忘れてタバコを吸うつもりなのかと思ったが、朝日は金属製のシガーケースの表面をそっと撫でながら微笑んだ。

 そのまま視線を遠くに飛ばす様を見て、彼女が異世界での思い出を振り返っているのだと悟る。


 何となく場に沈黙が落ち、残る三人も視線を宙に向けた。

 彼女たちもそれぞれ自分が救ってきた異世界での大冒険を思い返しているのだろう。

 手持ちぶさたになったハカリもまた中空に目を向けるが、当然異世界の記憶は蘇ることはなかった。

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