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異世界転生応援室トラック係・釣合秤の業務報告書  作者: 日ノ日
第三部 第二章
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第102話 木林森羅④

「どう?」

「なんもナーシ」


 窓を開け、空気と共に魔力を取り込みながら、滴は手のひらを上に向け、同時に肩を竦めた。


「そ。まあ、こんな簡単に見つかったら苦労はしないよね」


 いつも乗っているトラックとは車高が違うが、免許を取得したばかりの森羅にとっては、こちらの方が運転しやすい。

 しかし、やはり隣にいるのが秤でない状況と、彼の身に危険が迫る可能性がわずかでもある現状、どうしても余裕ない態度になってしまう。


「シンラさぁ、ピリピリしすぎ。秤のことか?」


 隠していたつもりだが、あっさり滴に見抜かれてしまった。

 彼女の探知能力ならそれも当然だろう。


「はー君は戦う力がないんだから当然でしょ?」


「そう言えば秤の奴、今まで何回か異世界送りを経験してレベル上がってるんだろ? なんで、いつまで経っても強くならないの?」


 記憶を失っているため、秤がどんな世界に行っていたかは不明だが、森羅が使えるステータスを確認する魔法により、秤にもレベルがあることは判明している。

 これは誰であっても見えるわけではなく、レベルの概念がない世界の者であれば、強さ自体は見えてもレベルは見えない。

 滴や小子がそれに当たる。


 対して秤は最初会ったときこそ、レベル一だったが、それから何度か異世界関連の仕事。

 異世界サポートや今回、小子が行った儀式の手伝いなどをする度に徐々に経験値を貯めていた。


 さらに異世界送りでは纏まった経験値が入る仕組みらしく、現在のレベルは十を超えていた。

 だというのに、秤はレベルアップに於ける恩恵(筋力強化や防御力向上など)を一切受けていないようなのだ。

 なにか理由があると思うのだが、森羅の魔法では、そこまで確認できない。


「さぁね。それが分かれば苦労しないよ。多分、他にも条件──レベルが上がるだけじゃダメで、スキルポイントを振り分けるとか、そういうことをして初めて能力が上がる世界に居たんじゃないかな」


 あまりゲームには詳しくないが、そんなシステムのゲームがあるとどこかで聞いた記憶がある。

 施設にいた頃だっただろうか。

 思考を過去に巡らせると同時に思い出すのはやはり、秤と幼い頃の自分の蜜月だけ。


「あの頃は良かったなぁ」


「ん?」


「何でもない。その辺も含めて交流会で情報収集して欲しかったんだけど、朝日さんに断られたんだよね」


 他の異世界帰還者の中には、似たような世界に行っていた者や、他人の詳細なステータスを見ることができる魔法やスキルが使える者も居るはずだ。


「交流会ねぇ。アタシも行きたかったなぁ。またやるかな? 次ん時はアタシが行くから、そこで聞いといてやるよ」


「期待せずに待っておくわ」


 楽しそうに言う滴を適当に受け流し、車を走らせ続ける。

 やがて、車は見覚えのある場所に到着した。


「ここって最初の異世界送りがあった場所だよな」


 停車帯に車を止め、滴と二人で車内から周囲を見回す。

 流石に土砂はもう無くなっていたが、発生源であった停車帯の先にある行き止まりの空き地には、土砂注意の看板が新たに設置されていた、!


「そ。あそこから土砂が溢れだしたから、調べるまでもなくここも龍爪の一つだと分かってるから、念のためね」


 ここからスタートする必要はなかったのだが、一度異世界送りが発生した場所の龍爪と発生していない場所でなにか違いがあれば、今後探索をする上でも役立つかもしれないと考えたのだ。


 それを滴に説明すると、彼女はシートベルトを外して後ろを振り返り、目を凝らして拓けた地面しかない場所を眺めていたが、中天にある太陽のせいでよく見えないらしく、小さく首を横に振った。


「ここからじゃわかんねーな。降りようぜ」


 車を降りて、改めて龍爪である土砂の発生場所に向かう。


「あれ? いつの間に」


 以前は剥き出しの地面しかなかった場所に、いつの間にかアスファルトが敷き詰められていた。


 再び土砂が流れないようにするための処置なのだろうが、アスファルトで固めたとしても、上位存在が天災を発生させれば、こんなものでは防ぎきれないだろう。

 しかし。


「なんだよこれ。これじゃ神気も感じ取れねーよ」


 スカートの裾を捲り、変身後のことを考えてストッキングやパンストは履かない生足を惜しげもなく披露しながら肌感覚で探索する。

 彼女のサーチにも引っかからないとなれば、アスファルトによって完全に穴は塞がっているのだろう。

 ふと、頭の中で閃くものがあった。


「滴ちゃんの探知でも分からない神気を、例のホシは感じ取れるのかな?」


 上位存在と似た力が使えるファーストならば、特有の探知方法があっても不思議はないが、少なくとも同じファーストである小子は儀式を行わなくては、龍脈や龍爪の位置は把握できない。

 ホシだけが、それが可能というのは都合が良すぎる。


「アタシでも無理なんだから、無理に決まってんだろ。ってことは、そいつが使えるのはアスファルトで固められてない、土の場所ってことじゃないの?」


「それならなおさら現れる場所が絞れる。滴ちゃん。小子ちゃんが書いた地図持ってきて。今まで調べた龍爪の位置を地図アプリで照合する」


 地図アプリには、普通の地図以外ではなく、航空写真を用いた実写地図に変換する機能も付いている。

 それを使えば、龍脈や龍爪がアスファルトの上を通っているのか、畑や森林、河川など自然の場所を通っているのか判別できるはずだ。


「いいけどさぁ。シンラってアプリ使えるの? あの指で動かす奴でしょ? 秤に頼んだ方が手っとり早くない?」


「毎回はー君に迷惑かけるわけにもいかないからね。使い方はちゃんと修得済み。滴ちゃんも覚えなさいよ。日常生活でも結構便利よ?」


「イヤだね。画面を直接いじるなんて面倒くさくて仕方ない。やっぱりボタン式がいいよ、分かりやすいし。どうしても必要なときは秤にやらせるから必要ナーシ」


 さもありなん。とばかりに言う滴の態度に、森羅は目を細める。

 ここにいるのは二人だけ。

 ずっと聞きたかったことを聞くチャンスだ。


「ねぇ。せっかくだから聞いておきたいんだけど。滴ちゃんって最近妙にはー君に対して気安くない? いや他意はないのよ。何となくそう見えるだけ。名前の呼び方も妙に親しみがこもっているというか」


 具体的には、二人で組んで転生予定者を異世界に送り込んた直後からだ。

 異世界訛りがあるのか人の名前を呼ぶ際、ぎこちなくなる滴が秤の名を呼ぶときだけは妙に流暢で態度も気安い。

 これまでそうした気安さを見せていたのは、小子だけだったはずだ。


「……地図な、地図。すぐ持ってくるよ」


 森羅の言葉には答えず、滴はその場を離れ、車に向かって駆け出した。

 離れていく後ろ姿を見ながら、森羅はまた排除すべき存在が一人増えたことを察し、警戒と排除の方法を考えることにした。

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