第8話 ほほえむ富雄
久々の高校の同窓会。ミュージシャンとしてプチブレイクしている者、会社員をしているもの、
さまざまいたが、一番目立っていたのは
『やあ、みんなひさしぶり。げんきにしていたかな?』
金持ちの富雄だった。
小鳥遊富雄
かつての財閥と深い繋がりのあった、大手グループ企業、小鳥遊ホールディングスの社長の息子である。現在は代官山と六本木にある2つの会社の経営者をしている。
『みんなにしばらく会えなくてさみしかったよ』
銀色の、イタリアかどこかの外国で作られたと思われるスーツを身にまとい、サファイアのような色の布地に刺繍がされているネクタイ、シックで黒いハット帽、どこかのセレブが履いていそうな本革のレザーシューズを履いている富雄。
『伸一くんも、久しぶりだね!』
伸一は学生時代、富雄の後ろの席だった。
よく学校に富雄が革製の財布を開いたときに、中に諭吉の顔が印刷された紙幣がいつも10枚以上入っていたのを思い出した。
この同窓会でも席が隣になり、話すことになった。
『最近はどうしてるんだい?』
「訳あってしばらく病院に入院していたんだ。で、目が覚めたらこんな社会になってて」
『そうだったのかぁ。それは大変だったね。』
「なぁ、いまのベーシックという制度はどう思うんだ?金持ちからみたら、税金の無駄使いとか思うか?」
富雄の表情は変わらない。
『そうかな?いい制度だと思うけど。ベーシックのおかげでみんなご飯食べれるし、君だって困らないじゃないか』
「まぁそうだけど」
『なら、もっと前からやってもよかったと思うんだよね~』
やけに肯定的である。
『こうした、困っている人たちのためにお金が使われることは良いことだと心から思うよ』
≪やっぱり、小鳥遊さんって素敵ね!≫
黄色い声援が飛ぶ。昔からこの小鳥遊にハマる女子がおり、小鳥遊ファンクラブもあったほどだ。
金はあるし、顔も悪くないし、言葉も丁寧だし。
人気なのはわかるな。そっか、でもなんかいつも腑に落ちないんだよな。富雄といると。
そう思っていると富雄がボソッと
『まぁ、よかったよね。働けない人も食べれるしさ。やっぱり、会社にとっても能力が足りない人を
雇うのは大変なんだよね』
とつぶやいた。
「能力?」
『そう。いまじゃさ、英語とかプログラミングができるのって普通なんだよね。だから、起業とかしているかどうかがスタートラインだし。ま、実績にもよるんだけどさ。でも、大抵の子は最初お金ないからさ~。起業すらできないっていうね。』
ふと、謙吾さんの姿が浮かんだ。
『ま、そもそも子どもの頃からさ、始まってるのよ。競争ってのはね。どこの塾にいって、どこの学校に行って、どこに留学するのか。とかさ。スポーツ、勉強できるかとか。それも含めて能力でしょ?
だからさ、それらが足りないやつを、なんで会社が雇わないといけないの?』
なんか、すごい上から目線になってきた。俺がむすっとした顔をしてると、富雄はもとの落ち着いた表情になった。
『あー、ごめんごめん(笑)なんか難しい話始めると止まらないんだよね(笑)気にしないでくれよ。まぁ、酒の席なんだからさ。
とにかくさ、よかったじゃん。ベーシックのおかげで生活できるんだからさ』
その表情はやけに、にんまりとしていた。