第5話 赤髪の誠也と子どもたち
2か月後、病院を退院した伸一。
妹の紗季曰く、眠っていた時に友人の誠也が来ていたという。
久々に会いに行くことにした。
本林誠也は中学の時の俺の同級生である。高校卒業後もたまにあっており、彼は
『俺はぜってー就職はしねぇ!』
が口癖だった。
実際、コンビニや居酒屋、薬局など時には掛け持ちをしながらバイトとしてなんとか食っていたという記憶がある。さて、彼はベーシックの世界になってからどうなったのだろうか。
連絡を取ると、今長野県にいるという。
電車で向かった。
ピンポーン。
玄関のチャイムをならす。
≪はーい!≫
玄関を開けたのは、綺麗な黒髪の女性だった。
≪あ、東京から来られた、木ノ下さんですね!≫
すると、子どもたちもいる。
〔わー、だれだれー?〕
【おなかへったー。】
{あ、それ、ゆきのおもちゃ~}
〔いや、かいとのだよ~〕
日曜の昼間から非常ににぎやかである。
〈ママ―、このひとだーれ??〉
《この人はね~、パパのお友達よ≫
〈そうなんだ!パパー、お友達が来たって~〉
『おう、そうか!よし』
遠くから足音が近づいてきた
『よう、伸一、久しぶりだな!元気だったか?』
相変わらず、髪を真っ赤に染めている誠也は、
結婚し、5人の子どもの父になっていた。
家に上がらせてもらった。
1階は畳10畳の部屋が2つあり、広々とした2階建ての家だ。窓からは遠くに、雪をかぶった山脈が見える。まるで、おいしい水の広告になりそうな景色である。
『遠くから来たから、お腹減っただろう。ほら、お前昔から唐揚げとか好きだっただろう?
だから、今日はなほら、名物の山賊焼きを用意した。』
山賊焼きとは、鳥の肉1羽まるまる油で揚げた料理で、長野県の中部で人気の名物の一つだ。
実際食べてみると、うまい。なんだこの肉汁はあふれてくる。
『あと、これは近所のおばちゃんがくれた野沢菜な。
となりにな、畑があるだろ?いつもおばちゃんが農作業してるんだ。でも、ある日な急に雨が降ってきてな。おばちゃんが雨でずぶ濡れになったら可哀そうだろ?だから、俺が走って畑の泥だらけになりながら傘をもってったんだよ。そうしたらすげぇ感謝されてさ。それからいっつも野菜をくれるんだ。今日は小松菜となすくれたよ』
「すごいな。そうか、農家の人の知り合いができると野菜くれるんだな」
食費も安くなるね。お店で買うよりも新鮮だし。
「ちなみになんで地方に来たんだ」
『そりゃ、物価安いし、景色いいし。飯はうまいし。
いうことなしだろ?』
実際、ベーシックが始まってから地方に移住する人がかなり増えたという。消滅危機と言われていた地方の自治体にも若者世帯が増加しているというニュースもやっていた。
にしても、結婚していたとは。
「結婚してたんだな。知らなかったよ。しかも子宝に恵まれて。」
『そうなんだよ。やっぱ縁だよな。ベーシック始まってからこっち来たんだけど、たまたま、立ち寄ったカフェで出会ってさ。それであっという間に結婚してたな。子どもも5人できたし、本当よかったよ。」
「生活費とかけっこうかかりそうだよね。」
『いや、そんなに?ま、かかっても、毎月支給されるしな。』
「どういう感じなの?」
そっから説明してもらうことにした。
まず、ベーシックは大人が一人8万円もらえるだろう?
そしたら、二人で生活すれば16万円もらえるんだ。
まず16万円あれば生活は普通にできるよな。
さらに、子どもは1人4万円支給されるから
5人で20万円だ。
つまり合計毎月36万円が支給されるってことだ。
家賃が5万円だから、残りの31万円が使えるってわけだ。
ま、食費とか教育費とかいろいろかかるけれど、それ差し引いても十分ゆとりのある生活ができてるよ。
こんなの、あのバイトだけの生活の頃には考えられなかったよな~。
まじ、良い社会になったよ。』
すげぇな。普通に若者が子育てができる時代になったんだな。
『けっこう子どもも最近は多くなってきたしな。そういえば、なんだっけあの、子どもの増えた割合のやつ?』
「出生率のことか?」
『あ、そうそう、しゅっしょうりつよ。あれ、いまいくつだっけ?」
すると、テーブルの端に置いてあった、ネット連動型のスピーカーが答えた。
【今の日本の出生率は2.3%です。この数字は1970年代の第二次ベビーブームを上回る数字です。】