第4話 美恵ねえが気づいた価値
≪私、前から思っていたの。人は働くだけが価値じゃないってね≫
美恵ねぇは子どもに語りかけるように話し始めた。
みえねぇの過去。
みえねぇは以前、企業でバリバリ働いていた。夜中の2時までオフィスにいたこともある。そして、朝は8時前から出勤をしていた。営業売り上げも企業の中でナンバー2だった。どんどん出世もし、幹部候補と言われるまでになった。
だが、そんな働き方は長くは続かなかった。大事なプロジェクトの途中で、みえねぇは過労で倒れてしまったのだ。
起きたときは病院のベッドだった。
医者からは5ヶ月休むようにとの指示が。
でもみえねぇは一日も早く戻らないといけないと医者に頼み込み、
一旦3ヶ月で会社に戻った。
しかし、戻った会社の対応は冷淡だった。みえねぇが抜けたことで、プロジェクトには大きな負担がかかっていた。もう他の人たちがそのプロジェクトを担当しており、自分の元の席には知らない人のパソコンと荷物が置かれていた。
すると、上司からこういわれた。
「君にはもうこのプロジェクトからはずれてもらうから。」
惨めだった。
そして、あっさりと違う部署に移された。朝から晩まで事務作業。医者からやはりもう2か月休養が必要だと診断され、病院に戻った。
≪でもね、休んでいるときに良いこともあったの≫
みえねぇさんは生き生きと語り始める。
≪病院のベッドの向かいに入院している子どもがいてね、あみちゃんっていうのだけど。その子がいつも絵をかいてるの。
でね、毎日私にくれるのよ。それがなんかうれしくって。
それまでの私は日々、いかに売り上げを上げるか、
ライバルや他社に勝つかそれだけだった。仕事がなかなか終わらない人を見下してもいた。
利益と効率。それがすべてだった。
でも、その女の子と会ってから変わったわ。
その子の描く絵はお金は生み出さない。経済は動かさない。
でも、私の心を動かしたの。
たった1枚1枚の絵よ?
紫のバラの絵を描いてたわ。それが本当に綺麗で。見ていると心が和むの。
それからね、この絵を描くのだって価値があるんだって気づいたの≫
みえねぇの顔はほっこりとしていて、聞いているこちらも心が満たされていく。
≪とはいえ、生活するにはお金は必要でしょ。
でも、こうした文化的な活動も大事にしたい。
じゃあどうしたらいいのだろうかって考えたの。
それで、
なら、最低限の生活費は支給されるようになったら、
安心してそうした活動ができるでしょ。
そうした仕組みをつくるためにも学びたいなと思ったの。
だから、私は復帰後、お金を貯めて、大学院にいって経済と経営をもう一度学びなおしたわ。そして、
経済のPh.Dを取得したうえで社会起業家としてスタート。初めは大変だったけど、徐々に実績が認められてね。それからある経済の専門家に誘われて、政府にベーシックの提案をしたの。
そしてついに、ベーシックが始まったのよ≫
みえねぇの顔は誇らしげだった。
≪だからね、人は働くだけが価値ではない。
こうやって絵を描いて人を喜ばせることだって、立派なことなんだって
その女の子が教えてくれたのよ≫
5話へ続く