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誤字脱字報告ありがとうございます。
本当に助かります。
「長、呼んでいた商人が来たようです」
「ふむ、今行く」
長がやって来た商人チェスターの元に向かうとそこには数十のケンタウルスの馬車が停まっており、その周りには護衛の傭兵団が囲んでいた
「ふ~む、呼んた商人は人族の中でも有力商人とは聞いていたが、これほどの数を率いて来るとは・・」
「長、商人の馬車を引いているケンタウルスの様子を見ましたか?」
馬車を引いているケンタウルス達は質の良い軽鎧に身を包み、その手には槍を携えていた
「ふむ、引いているケンタウルス達はどれも健康的な体をしているな」
不自由なく生活している事が伺えるケンタウルス達の姿を見た長達はこれから売る予定の若いケンタウルス達はそれほど劣悪な奴隷生活を送ることはないであろうと安心感が広がっていく
「貴方がこのケンタウルスの長殿ですね」
長達が馬車を引いているケンタウルス達の様子を観察していると後ろから声をかけられる
「私はこの商団代表をしておりますチェスター・デールと申します」
「は、はい!チェスター殿、ようこそおいてくださいました」
チェスターが長に手を差し出すと長も慌てて握手をかわす
「お、長、本当にこの男が商人なのですか・・?」
長の取り巻きの一人がチェスターの顔を見て長に耳打ちをする
ビシッとした背広に片目だけモノクルを掛け、髪をオールバックにしている男
その見た目だけなら紳士のような印象なのだろうか・・
「・・私になにか?」
「いえ!!なんでもありません!!」
モノクル越しに睨まれて・・いやチェスターにしてみれば見た程度の事なのだが、長に耳打ちをしていた取り巻きは今にもチビリそうになっていた
しかし、それは仕方がない事でもあった
格好だけなら紳士のチェスターだが、戦士と見間違わんばかりの筋骨隆々とした体にゴツゴツとした強面、これでは商人と言うよりも盗賊と言われた方が納得するだろう
「申し訳ないチェスター殿、私の連れが無礼な態度をとってしまいまして・・」
「いえいえ、こちらこそすみませんね、私の子飼いの商人と護衛の傭兵団で大人数で押しかけて、威圧するような形になってしまいました」
「あっ、だ、大丈夫ですのでお気になさらず・・!」
大商団代表であるチェスターが移動する場合はチェスターに顔を覚えてもらおうとする商人とともに盗賊等からその身を守るための護衛の傭兵団で固められるためにこの場には数百の人族が集まっていた
「それは良かった、長殿、今回はよろしくお願い致します、ケンタウルスがいっぺんに購入出来る機会などめったにありませんからね」
強面のわりに穏やかで礼儀正しいチェスターの態度に長も安心する
「それで今回、我らにお売り頂けるケンタウルスは何処に?」
「それはこちらに」
そう言うと長はチェスターを草原の方に案内していくとそこにはケンが待っていた
「ようこそおいてくださいましたチェスター様、私は長の息子のケンと申します」
礼儀正しい挨拶するケンだが内心では
(えっ!?何このいかつい顔のおっちゃんは!?本当に商人なの!?)
チェスターの強面に震え上がっていた
「へぇ〜、こいつが・・」
ケンの名を聞いた瞬間チェスターの目が獲物を見つけた肉食獣のようにキラリと光る
「ん?チェスター様?」
「いやいや、失礼しました、よろしくお願いしますねケンさん」
猛獣から草食動物のような温和な目つきに変わり、ニコリと微笑むチェスターだが、その裏に見え隠れする黒いオーラに身震いするケン
「それでケンさん、これは・・なんですかな?」
「あっ、えっーと、ここは競馬場になります」
長とチェスターの前にあったのは以前ケンがポニーを使って競馬をしようとして作った芝のレース場だった
「競馬場って言ってもコースは芝だけだし、コースの寸法も目測でしか測ってないので、納得した作りとは程遠いものですけど、それでも最終コーナーの後に上り坂になるように作られているんですよ」
「は、はぁ?・・それでこの競馬場?それはいったい何をする場所なんでしょうか?」
「それは・・」
「それはこちらで我らケンタウルスの速さを見ていただくためです!」
ケンが何かをいうより早く長がチェスターに説明を始める
「速さを見るとは?」
「今からここでそちらに売る予定のケンタウルス達が競走を行います」
「競走ですか?・・ふむ、確かにそれならそれぞれの脚の速さがすぐに分かりますね」
「それは良いですな、確実に速く走れるケンタウルスを購入する事が出来ます」
長はケンから説明された事をさも自分が考えた事のように胸を張って説明していくとチェスターのお供の商人達もレースを行う利点を理解していく
「それでは早速レースを・・」
「レースを行う前にせっかくですので賭けをしませんか?』
「なっ!?何を言っているケン!」
ケンからレースを行う事のみを説明されていた長は予期していなかったケンの言葉に混乱してしまう
「賭けですか?」
「今からこの一周2200メートル、直線450メートルの右回り、芝、中距離のコースで8人のケンタウルスが同時に走ります」
「ふむ、つまりどのケンタウルスが一着になるかを予想すると言う訳かな?」
「はい、今回のレースは一着を当てる単勝のみになってます」
(本当は初心者向けにワイドや複勝があった方が良いと思っていたんだけど・・)
ワイドというのは購入した2頭の組み合わせが1着から3着までに入っていれば的中というもの、複勝というのは選んだ1頭が1着から3着までに入っていれば的中というものでどちらも初心者が購入しやすいものになっている
(キャロさんにあまり複雑にし過ぎると理解してもらうのに時間がかかってしまうって反対されたからな)
「当たる確率は8分の1ですか・・」
「はい、そうなりますね」
(ワイドや複勝の他に馬連や3複連なんかも入るとさらに確率が複雑になるんだけどね)
「ケン!お前はそんな勝手な事を・・!」
「・・面白れえじゃねえか!」
「「えっ?」」
チェスターの口から漏れたその強面にビッタリの口調に思わず動きを止める長とケン
「失礼・・その賭けは実に面白そうですね、ぜひその賭けに乗りましょう」
「えっ?あっ・・ちょっと・・?」
すぐに口調を元に戻したチェスターが賭けに乗ってしまったために長は何も言えなくなってしまっていた
「ほっほっほっ!ケンタウルスの全力の走りを間近に見れる上に賭けに勝てれば儲かるとは、これは乗るしかありませんな」
「こんな面白そうな賭けに参加出来るとはチェスター様についてきて本当に良かったですな」
チェスターが賭けをする事で当然のように周りの商人達も賭けに参加する事に
「なぁチェスターさん、俺達もその賭けに参加して良いですかい?」
「もちろん良いですよ、こういう賭けは参加人数が多ければ多いほど盛り上がりますからね」
「よっしゃ!さすがはチェスターさんだぜ!」
さらに護衛の傭兵団達もチェスターから賭けに参加して良いと許可をもらって大いに盛り上がっていた
(これは嬉しい誤算だ、人数が増えれば賭け金も増えるからね)
「ケン、何をニヤついている!」
「えっ、顔に出てた?」
「まったく賭けなどと勝手な事を・・何があったら責任はとってもらうぞ!」
「分かってるよ父さん」
勝手にケンが賭けを始めた事に怒りの収まらない長の顔は目に見えて不機嫌になっていた
「それではチェスター様、賭けの参考にこちらにどうぞ」
不機嫌な長にはあえて触れないようにしてケンがチェスター達をコースのとなりに案内する
「ここはいったい?レースをするには小さいですね」
「ここはパドック、レースコースではありませんよ」
「パドックですか?」
コースの横に一周150メートルのパドックが新たに木の板で簡易的に作られていた
「これから出走予定のケンタウルスがパドックで周回をします、その様子を観察してケンタウロスの今の状態を確認出来るようになっているんです」
「・・ふむ、ケンタウルスの様子を観察する事で肉付、緊張の度合いなどの一着を選ぶ材料を手に入れられるという事ですね」
「はい、その通りです」
(こっちが説明するより先に全部理解しちゃったよ、さすが凄腕の商人)
「それでは第一レースを走るケンタウルスがパドックに入ります」
ケンは手を上げるとパドックの横で待機していたアイに合図を送る
「ん、合図」
合図を受けたアイはパドックに入るとパドック内を周回していく
「1番初めに登場したのはケンタウルスレース唯一の女性ケンタウルスのアイです!」
「ふ~む、女ケンタウルスですか」
しかしパドックでアイの事を見ている商人達の顔はどれも難しい顔をしていた
「女のケンタウルスは男に比べて力も弱いからな・・」
「確かに男ケンタウルスに比べると速さとパワーはどうやっても劣っでしまいますからね」
「女ケンタウルスは捨てですかね」
女性ケンタウルスであるアイに人気は集まっていなかった
「ですか、この女ケンタウルスは顔が良いですな、これならマニアに良い値段で売れるでしょうな」
ふくよかな体型の商人はレースとは関係ないアイの顔やら体型を品定めするように上から下まで舐めるように眺めていた
「おい、もっと顔を見せろ!それに胸だ!大きな胸ならマニアの客も喜ぶからな!」
「くっ!」
(このデプ商人!アイをマニアになんで売らせるかよ!)
「・・てめえもチェスター商団の一員だと言う事を忘れるなよ」
「ひぃ!?」
チェスターのひと睨みで震え上がるデプの商人
(怖っ!?絶対にヤクザだよ、この人!?)
横にいたケンも震え上がっていた
「あまり下品な発言はやめて下さいね、あなたの発言一つで我が商団の品位が疑われてしまいますからね」
「す、すみませんチェスターさん」
口調を元に戻したチェスターだが穏やかに諭すような言葉の中にも先程と同じような迫力があり、ガダガダと震えたままのデプの商人はすぐさま謝りそそくさとパドックから離れていく
「すみませんねケンさん、私のところの商人が騒がしくしてしまって・・」
「気にしないで下さい!俺はまったく気にしてませんので!本当に全然!」
ビシリと敬礼をするように答えるケン、その様子をパドックの中から眺めていたアイ
(なんかケンのところが騒がしかったけどアイなんか間違っていた?)
アイはケンから聞いていたパドックでの立ち回りを思い出していく
(そうだ、ケンからパドックでは愛嬌よく手でも振ったほうが良いかもって言ってた・・)
「笑顔で・・手を振る・・」
ケンの言葉を思い出したアイが立ち止まり、結んだままだった唇をグイッと動かして愛嬌のある笑顔を作り、見ている観客に向けて手を振るようにした
「・・あっ・・」
偶然、パドックの前を通り過ぎようとしていた商人見習いの少年がそのアイの笑顔にくぎ付けになる
「・・すごくキレイなお姉ちゃん・・」
手に持ってる大きな箱の存在も忘れ、見惚れて立ち止まったままの少年
「・・名前はアイお姉ちゃんって言うんだ・・」
(ん、これくらいでいいよね?)
笑顔を終えたアイはそのままパドックから出て行くその姿を少年は目で追っていると
「おい!何サボってやがる見習い!」
「あっ!ご、ごめんなさい親方!」
親方から怒られてすぐさま荷物運びに戻る
(けど、アイお姉ちゃんすごくキレイだったな・・アイお姉ちゃんがレースで走るのか・・)
さっきのアイの笑顔が目に焼きついた少年はしばらく赤い顔をしたままになっていた