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「そうか、冬を越すためとはいえ、若いケンタウルス達を売りに出すとは、ケンタウルスの長も酷な選択を選んだものだね」


ケンとアイからケンタウルスが売られる経緯を聞き、渋い顔をする中肉中背の行商人の男


「はい、それでキャロさんに聞きたい事があって」

「なんだい?ケンくんにはいつも良質な薬草を仕入れてもらっているからわかる範囲で良ければなんでも答えてあげるよ」


彼の名はキャロ・ロット、人族で交易品などを扱っている隊商の一人で移動の際に夏営地に向かうケンタウルスに護衛を依頼した時にケンと知り合いになったのだ


「キャロさんはチェスターって商人知ってる?」

「チェスターって・・ドンスター王国の有力商団会長チェスター・デール氏の事じゃないかい!?」

「ん?だふんそのチェスターって言う商人だと思うんですけど・・そんなに有名なの?」

「有名も何も商売を商う者で彼の名を知らない者はいませんよ!親子3代続くドンスター王国有数の商団代表ですよ!しかも3代目のチェスター・デール氏は柔軟な発想でさらに商団を拡大して今や多くの国で商いを行っている大商団に育て上げた傑物ですよ!」

「そんな凄い人が奴隷売買なんかもしてるの?」


(奴隷商人って小悪党がやってるイメージなんだけど?)


「奴隷売買は国も認めていますからね、チェスター氏のような大商団なら奴隷売買も当然行っているでしょうね」


(国も認めているのか・・さすがは異世界、日本とはまるで違うんだな)


「ケンタウルスってどのくらいの値段で売買されているんですか?」

「うーん、ケンタウルスの相場はだいたい金貨10枚くらいだね」


(金貨10枚・・元の世界の相場でいうと100万くらいかな?)


キャロと薬草の売買をしているため、ケンはこの世界の通貨価値をある程度理解していた


「けど、部下に任せずに代表であるチェスター氏自ら出向くとはね」

「大量の金貨を使うから部下に任せておけないってだけじゃないの?」

「いや、チェスター氏にとっては今回のケンタウルス売買は小規模になるはずだよ」

「えっ、そうなの?俺も含めて30頭以上のケンタウルス売買なのに?」


(1頭100万だとしても3000万の取引って事だよ)


「代表であるチェスター氏が直接交渉するのは金貨1万枚以上の時だけだって話なんだけどね」

「1万枚!?」


(それって日本円に変換すると・・10億円!?万馬券でもそんなのないよ!?)


夢の万馬券を当てたとしてもとても届きそうにない金額に啞然とするケン


「キャロさんの言うとおりだと、なんでそんな人がこんなショボいケンタウルス取引に?」

「なんでなんだろうね・・チェスター氏にはなにか考えがあるのかもしれないけど僕程度の商人じゃわからないね」


キャロは少し考えてみたか、自分では分からないとお手上げのポーズをとる


「けど、チェスター氏ほどの商団が相手なら安心して取引できるね」


この世界には悪徳商人もいる、そうなると奴隷売買の際に安く買い叩かれたり、場合によっては金貨を払わずに奴隷だけを売り飛ばされ逃亡されるケースもあるのだ


「安心出来るか・・ねぇキャロさん、奴隷になったら俺達ってどうなるか分かります?」

「う~んと、ケンタウルスは奴隷として人気があるからね」

「そうなんですか?」

「そうだよ、普通の馬に比べれば力もあるからね、荷物を引いたり人を運ぶのに役立って便利なんだよ」


(確かにこの世界の馬ってポニーのような手足の短い馬しかいないからケンタウルスのような速く走れる種族には需要があるのか)


「それにケンタウルスはもしもの時に護衛代わりになるから貴族達が自分の移動用の馬車にケンタウルスを使うのはよくある事なんだよ」


ケンタウルスは普通の人に比べれば戦闘力が高く、強靭な脚で繰り出される蹴りは鎧すら砕くほどだ

そのためにケンタウルスの馬車というだけで山賊避けにもなっている


「だから有力貴族に買われたケンタウルスは結構な高待遇を受けるらしいですよ」

「へぇ〜、それってどんな?」

「私の知ってる貴族の方の保有しているケンタウルスは、移動するとき以外は広大な庭を自由に駆け回り、食事も一流のシェフが作った物が与えらているそうだよ」

「何その夢のような生活!?」


(奴隷になったらそんな良い生活が出来るの!)


思わず、花の奴隷生活に心が踊るケンだった


「けど、そのかわり力の弱いケンタウルスは人気がなくでね、最悪の場合、鉱山などで鉱物運搬に酷使され、使い潰されてしまうんだ」

「力の弱いケンタウルスって、百パーセント俺がそうなるじゃないですか!」

「いや、それは・・ハハハ・・」


何が慰めようとして、結局何も言えなかったキャロは乾いた笑みだけを浮かべる


「俺って奴隷になったら鉱山奴隷にされちゃうのか・・」

「ならもしもの時はアイもケンといっしょに鉱山奴隷になる、ケンといっしょにいられればアイ満足だから」

「アイ〜!」


アイの優しい言葉にケンは思わず涙ぐむ


「いや、アイさんみたいな女のケンタウルスが鉱物奴隷になる事はないと思いますよ」

「そうなの?けど、女ケンタウルスは男のケンタウルスに比べて力弱いよ?」

「それは・・その・・ケンくんちょっといいですか」

「えっ!?なに!?」


言い難そうにする商人はケンだけを連れてアイから少し離れたところに向かう


「どうしたんですか?」

「ちょっとアイさん本人には言い難いんですか・・女のケンタウルスが鉱山奴隷や運搬用の奴隷にならない理由なのですか・・」

「うん、なんでなのそれ?」

「金持ち連中には亜人愛好家の方も多く、アイさんのように見た目も美しい女ケンタウルスは愛玩目的で奴隷にされるケースの方が多いのですよ」

「愛玩目的・・だと・・」


キャロのその言葉がケンの脳裏を一瞬で真っ白にする


「・・ア、アイが・・愛玩奴隷・・アイが・・」


ケンの頭の中に愛玩奴隷となって金持ちに嫐られるアイの姿がよぎってしまう


「ん?ケン君、大丈夫かい・・?」


ブルブルと震え出すケンの様子にキャロは困惑してしまう


「ふざけるなぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!!」


その光景を想像してしまい怒りで目の前が真っ赤になってしまったケンはドンドンドンッと激しく何度も地面を踏み鳴らす


「ちょわ!?ちょっとケンくん落ち着いて!?」


キャロが必死で宥めようとするのだが・・頭に血が上り目の前が真っ赤になっているケンには止めるキャロの姿が見えないでいた


「なんだよそれ!!なんなんだよ!!」

「・・ケン」


キュッ


「はぁはぁ・・アイ・・?」

「ケン落ち着いて」


暴れるケンをアイがうしろから優しく抱きしめて落ち着かせる


「ごめんアイ、もう大丈夫だから」

「・・うん、分かった」

「キャロさんもごめん」

「いや、気にしないで良いよ、僕の方こそごめんねアイさんと仲の良いケンくんに嫌な話をしてしまって」

「・・?・・ケンはなにをそんなに怒っていたの?」

「気にしないで良いよ、アイ」


(そうだ、アイが気にする必要なんてない)


「アイを奴隷になんか絶対にさせない!」


ケンタウルスの奴隷阻止を決意するケン


「けど、そのためにも食料品を買う資金を手に入れる方法を考えないと・・」

「今から大量の資金を手に入れられる方法は限られてますよ、と言うより奴隷売買くらいしか方法が思い付きませんね」

「まぁ、長がケンタウルスを売ろうとしているくらいだしね」


(けど、それじゃ駄目なんだ)


ケンは頭の中で何が金儲けができる方法を考えるのだが、思いつくのは競馬の事だけだった


(クソ!この世界に競馬場があれば大穴一発当ててそのお金で食料品を買うのに・・なんでこの世界に競馬場がないんだよ・・作ろうにもポニーじゃ競馬にならない、それに騎手もいない・・これじゃ競馬なんで出来っこない・・もっと速く走れる馬とそれに乗れる騎手さえいればこの世界でも競馬ができるのに・・ん?)


一瞬よぎった考えにケンはもう一度、思い返す


(・・馬と騎手さえいれば・・馬と・・人・・はっ!)


ケンの脳裏に生まれ変わる前に出合った女神サイレンスの言葉が思い出される


『馬で人なら問題ないわね!』


ニヤリとケンの口元に笑みが浮かぶ


「ああ、まったく問題ない」

「どうしたのケン?」

「俺にいい考えがあるんだ!手伝ってくれないかアイ」

「分かった!」

「何を作るとか聞かないの?」

「もちろん!ケンが望むならアイなんだってする!」

「ケンくん、僕で良ければ力を貸すよ」

「ありがとうございましたキャロさん!ならお言葉に甘えてもらいますね」


そうしてケンはチェスターがやって来るまでの数日中に全ての準備を終える事が出来た


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