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そして次の日の朝、レース説明のために集まる事になったケン達の前にちょび髭にまん丸メガネ、そして薄くなった髪で頭にバーコードが出来ている冴えない男性が立っていた
(チェスター様の横にいるおっちゃんはいったい誰なんだろう?)
まさに絵に描いたようなオヤジスタイルの男性がいる事にケンも戸惑いを隠せずにいた
「えっ~と、チェスター様、このおっちゃんは?」
「あっ!名乗りが遅れました、私はラック・アースと申します!どうぞよろしくお願い申し上げます!」
頭を90℃下げてお辞儀をする男性、その名を聞いてケンは首を傾げる
「ラック・アース?・・どこかで聞いたような・・?」
「ラック・アース様はアタイが働いている『空』の代表だよ」
「えーーっ!!?」
グルーヴの言葉にケンは驚きの声を上げる
「こ、この冴えないおっちゃんがラック・アース様なの!!」
「そうなんだよね〜こんな冴えないのにラックの旦那は『空』の代表なんだよね〜不思議だよね〜」
驚き思わず本音を漏らしてしまったケンに同意するように首を縦に振るウララ
「自分のところの代表になんて口を聞くんだい!あんたは!」
「あうっ!?」
「ご、ごめんなさい!」
当然のようにグルーヴから叱責が飛び、その剣幕にウララより先にケンの方が謝ってしまっていた
「いや〜冴えない感じですみません」
ラックの方が逆に申し訳無さそうにペコペコと頭を下げていた
「自分でも冴えないって事わかっているんですよ、それに性格も気弱なもので・・こんなんだから自分の奴隷である男ケンタウルス連中には舐められてしまっていたんですよね・・」
「そうだったんですね・・あれ?けど『空』って女ケンタウルスだけなんじゃ?」
「『空』を作る前に鉱山奴隷になる直前の男ケンタウルス奴隷を購入して配達業を始めていたんですよ、ケンタウルス族の脚の速さならすぐにお客様のところに荷物をお届け出来ますからね」
「実際にラックがはじめに作ったケンタウルス配送は速く荷物が着くって話題にはなっていたんだがな・・一つ問題があったんだよ」
「問題ですか?」
「男ケンタウルス達に配達の荷物を粗末に扱われてしまったんですよ、そのためにお客様からのクレーム処理に追われる毎日を送っていました・・ああ、そういえばその時から髪が抜けはじめたんですよね・・」
その時の事を思い出したのか、バーコードと化してしまった頭の髪に手をやり、悲しげに遠くを見つめるラック
「ケンタウルスに配達をさせるって目の付け所が良かったんだがな、鉱山奴隷になる前の男ケンタウルスって事は貴族連中も購入しなかった一癖も二癖もあるケンタウルスって事だからな」
「はい、チェスター様の言う通り、男ケンタウルス達に私が何度注意しても荷物を粗末に扱う事を直してくれませんでした」
「その男ケンタウルス達ってラック様の奴隷なんですよね?言う事を聞かないのはまずいんじゃ?」
「確かにケンの言うとおり、奴隷は与えられた仕事を放棄するなどしたら処罰の対象になるぜ」
「そうですよね」
(俺がチェスター様に同じ事を言われたら、すぐに直すからね・・まあ、チェスター様の場合は処罰以前にゲンコツが飛んてくるだろうけど・・)
「だが、ラックの男ケンタウルス達の場合は荷物を届けるっていう仕事はきちんとやっていたからな、処罰する事は難しかったんだろうよ」
「えっ!?そうなんですか!」
「はい、荷物を乱暴に扱ったところで処罰されない事も分かっていたんでしょうね、男ケンタウルス達はいっこうに粗末に扱う事を止めようとしてくれませんでした」
もしラックがチェスターのような厳しい主だったのなら男ケンタウルス達も大人しく言う通りにしていたのだろうが、完全に主として舐められていたラックでは何を言っても馬耳東風となっていたのだ
「命令を聞いてくれる男のケンタウルスはいないものかと悩んでいた時に奴隷市でグルーヴ君を見かけたんです」
「奴隷市?なにそれ?」
「奴隷市っていうのは、商人が買った奴隷を集めて売買するところだよ」
アイの疑問にラックが優しく答える
「なんで集めて売るの?」
「ドンスター王国では、幼子や誘拐などの非合法な手段で手に入れた奴隷などの売買は固く禁止されているからね、商人が購入した奴隷を売る場合はきちんとした奴隷契約が行われている事を国に証明した後に決められた場所で開催される奴隷市でのみ売買する事が許されているんだよ」
「へえ〜、ならチェスター様もそこで奴隷を売買しているんですか?」
「はっ?この俺がそんなところに行くかよ」
「けど奴隷売買出来るのは奴隷市だけなんじゃ?」
「あっ、説明不足だったね、チェスター様のような自分で大きな商団を持っている大商人の方は奴隷売買特別許可書といったものを所得しているんだよ」
「奴隷売買特別許可書?」
「奴隷売買特別許可書って言うのは、その許可書を持っている商人は貴族や他の商人と奴隷市を通さなくても直接奴隷売買をする事が出来るモノなんだよ」
「それってチェスター様は自由に奴隷売買を出来るって事!?・・な、なんて恐ろしい・・!」
貧乏家族の借金のカタに高笑いとともに娘を攫っていく悪代官の格好をしたチェスターの姿がケンの脳裏にはっきりと浮かぶ
「おうケン、なんで俺が自由に奴隷売買出来るのが、そんなに恐ろしいんだ、ああん!」
「いや、口が滑ったっていうか・・そうだ!ラックさんは奴隷市でグルーヴさんと出合ったんですよね、それでどうしたんですか!」
「こいつ、露骨に話を変えやがったな・・」
「ははは、グルーヴ君は顔もスタイルも良いから娼館の主や貴族の方からも購入を希望する者が多かったですよ・・ですが・・その・・性格が・・」
「男の相手をするなんてまっぴらごめんだって、暴れてやったのよ」
言い難そうにしていたラックの代わりにとばかりに鼻息荒く答えるグルーヴ
「脅かしただけだったので怪我人もなく、問題にはならなかったのですか・・顔が良くでもそんな狂暴なケンタウルスはいらないと購入希望者がいなくなってました」
(愛玩奴隷になって男に媚び売るグルーヴさんなんて想像出来ないからな〜)
「けど、グルーヴ君の身体付き、特に脚や胴体部の筋肉の付きは男ケンタウルスにも劣らないものがありました、だから私は思わずグルーヴ君に私の所で配達の仕事をやってみないですかって声を掛けていたんですよ」
「最初はアタイも配達の仕事って、何言ってるんだこいつはって思ったもんだよ」
「ははは、手厳しいですね」
「けど、ラック様は他の連中とは全く別の目的でアタイを購入しようとしているってわかったからね、二つ返事で了承したのさ」
「私も〜その時にグルーヴの姉御に誘われて、ラックの旦那のところに行く事になったんだよね〜」
「そうですね、グルーヴさんを慕っている女奴隷ケンタウルスの方々が多かったようで、その後も自分達も一緒にとせがまれまして、その時に多くの女ケンタウルスを購入したんですよ」
(この人、キャバクラ行ったら絶対にカモられそうだな・・)
断れずに次から次にキャバ嬢が来ては高い酒を頼んでいく
そして最後に目玉が飛び出るほどの値段を請求されている悲しいラックの姿を思い浮かべたケン
「ラックさん強く生きてくださいね!きっといつか良いことありますから!」
「は、はあ〜・・?」
なぜケンが目元に涙を浮かべながら自分を力強く励ましているのか意味がわからないながらも、一応返事をするラックだった
「みんなラック様には感謝しているよ、ラック様がいなかったらアタイもあの娘達も今頃は愛玩奴隷が鉱山奴隷になっていたからね」
「いやいや!感謝しているのは私の方ですよ、みなさんのおかげで『空』をここまで大きくする事が出来たんですから」
グルーヴの感謝の言葉にかしこまった態度になるラック
(男嫌いのグルーヴさんも主であるラック様には優しいんだな)
口調こそ砕けた感じでラックと話しているグルーヴだが、そこには信頼感と優しさがあった
「男ケンタウルスと違って、女ケンタウルスの方々はきちんと周りに気配りが出来て、荷物もとても丁寧に扱ってくれますから、それまではクレームばかりだった配達の評判がうなぎのぼりにあがっていきましたからね」
「そんなのは当たり前さね、『空』の女ケンタウルスは自分達に新たな道を作ってくれたラック様の役に立つように頑張っているからね・・まあ、一人例外はいるけどね・・」
その例外はいつの間にかラックの後ろに回り、ラックの肩に手をかけていた
「ねぇねぇ〜ラックの旦那〜私〜もう少しお休みが〜ほしいんだけど〜」
「えっ!?けど、ウララ君はもう有給も使い切っているよね?」
「もう少し有給が欲しいんだよ〜出来れば365日ほど〜」
「さ、さすがに、それは・・」
この世界の一年は太陽暦を元にした日本と同じで365日となっていた
つまりウララは有給1年分を要求していることになる
「お願〜いっ〜ラックの旦那〜っ」
「いや、ウララ君にはこれまでも特別休暇もあげちゃってるから・・これ以上、休みを与えているのは・・」
「お・ね・が・い〜」
「ウララ!いい加減にしなっ!!」
「あいたっ!?」
猫なで声でラックに休みを要求していたウララの頭にグルーヴの鉄拳が炸裂した
「まったくこの娘は・・!」
「あう、あうっ〜・・」
たんこぶの出来た頭を押さえて涙目になるウララ
「いつもいつもサボる事ばかり考えて、あんただってラック様に救われたんだよ!少しは真面目に仕事をしようと思わないのかい!」
「ごめんよ、グルーヴの姉御〜」
「あんたって娘は、本当に・・!」
「まあまあ、グルーヴ君もそのへんで、ウララ君は日夜大変な配達作業に休みが欲しかったのでしょう」
「ラックの旦那〜そのとおりだよ〜」
「ラック様は甘いんですよ!この娘は毎日サボっているんですから!」
「は、はひっ、ご、ごめんなさい!」
強く言われた瞬間に自分の奴隷ケンタウルスに頭を下げるラックだった
「主であるラック様がそんなに甘やかすからウララが増長して有給をもっと欲しいなんて無茶な要求をするんですよ」
「は、はい、私が甘やかし過ぎてました・・」
「そろ〜り・・そろ〜り・・」
「ウララ!あんたどこ行こうとしてるんだい!」
「あうっ!?見つかっちゃった〜!」
グルーヴの注意がラックに移ったのを見計らって逃げ出そうとしていたウララだったがすぐさま見つかり、ラックの隣でグルーヴからの説教を食らう事になるのだった




