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1部8善 りんごも木から落ちる

 昨日投稿した7善の後書きに語群説明を付け加えました。読みやすくなったと思いますので、是非読んでください。

 「おふろ♪おふろ♪ハゲルのおふろ♪」


 最近小さい子の間で流行っているのだろう、妙にリズム感がある歌と共に上機嫌で入ってきたのは、甥のオイちゃんだ。


 「こっちに来なさい。頭を洗うぞ」


 約3年ぶりに甥と一緒にお風呂に入ることになった。もちろん理由がある。弟と弟の嫁さんが両方とも外出しており、先に風呂にいれることになったからだ。


 理由がなければ信用がた落ちの俺が一緒に入るのを許される訳がない。


 「ほら、早『わかった!早くやれ~』」


 甥が突っ込んできた。真っ正面から。受け止めるが、腰が痛む。


 痛みに耐えながらも小さい頭を洗っていく。使うのはツル(づる)というこの村の特産品を絞ってできるオイルだ。とても泡立ちがよく、手触りもいい。


 「ゼンイチのも洗う!」


 丁寧に洗い流すと、甥が洗ってくれるという。折角だし頼むことにした。


 「えっと……これを手につけて、あわあわして」


 ゆっくり手順を確認しながら泡をたてていく甥に頬を緩めていると、優しい手が後頭部から前頭部までスライドしていく。


 「ゼンイチ目、閉じて」


 こちらを気遣う優しさに心を暖める。まるで普段の悪魔ではないようだ。


 「よぉーし!ごしごしごしごし」


 一生懸命洗っていく。


 「痒いところはない?」


 ごしごしごしごし。手つきは優しく、眠くなってしまいそうだ。


 しかし、眠ることはできない。


 「ゼンイチの髪って短いね」


 甥がそう言って洗っているのは、俺の眉毛。眉毛だ!


 洗われる度に瞼が持ち上げられ、目に泡が入りそうでとても怖い。それに徐々に眉毛が抜け落ちている気がする。


 「よし!できた!ゼンイチ、流すよー」


 結局止めることはできず3分ほど洗ってもらった。


 「気持ちよかった?」


 「ありがとう。刺激的だったよ」


 一生懸命やっている甥を止めることが出来ず、眉がヒリヒリする。


 「ゼンイチの髪って不思議だね~じゃあ、おふろ入ろう!」


 甥は悪意のない笑顔を見せながら、浴槽に向かうよう突撃してきた。。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 突然だがうちのお風呂は大きい。浴槽は大人三人が横にも縦にも寝そべって入れる。床は約6畳。寝ようと思えば家族みんなで寝れるだろう。


 田舎の家にそもそも風呂なんてついていないが、弟の嫁さんが建築をある程度できるため、改装して取り付けたらしい。


 だが、大きいものが好きな弟の嫁さんは少し規模を間違えたようだ。


 最もな過ちは、浴槽で寝ると2度と陽の目をみることがないだろう深さだ。


 つまり、浴槽がとても深い。大人が縦に2人は余裕で入る。


 当然浸かることなんてできない、なにせ腰を落ち着ける底がないのだ。浸かるだけで腹筋がつりまくるだろう。


 お陰で老若男女問わずうちは腰に浮き輪(牛の魔物(ハエルバッファル)の腸を繋ぎ合わせたもの)をつかってお風呂にはいる。


 これを子どもが使えばどうなるか、そんなの簡単なことさ。


 「ゼンイチー、足しか浸かってないよぉ」


 そう!こうなる。


 仕方がないので甥と自分から浮き輪をとり、抱えながら浸かることにした。


 もちろん俺は、足が8本あるかのような滑らかさで動かし続ける。沈まないために。


 「ふぁーーーーー」


 全身で暖かい水を感じてリラックスできているのかとても無防備な顔だ。満喫できていて何よりである。


 「ふー、ほー、ふー、ほー、」


 対して中年はそろそろ限界らしい。運動など退職以来めっきりしなくなった体は徐々に水の底に近づいていく。


 甥を沈めるわけにもいかないため、腕はバンザイの状態だ。


 バランスを取るはずの両手を失った視界には徐々に水が占める時間が増していく。


 「ぐぞぉぉぉ!もうこれしか手がなヴィ……」


 それは禁忌。人道を外すことになる一手。が、命と比べれば大したことはない。覚悟を決めろ!!!


 「うぼぉおおぉぉぉぉ」


 決意の雄叫びも水が口に流れ込んでくるため情けなく聞こえる。それでも決意は揺るがない。


 甥を自分の胸に引き寄せ、秘密兵器を頭にくっつける!


 ドンッ!!カチッ 


 「いでぇっっっ………………ててて」


 頭を地面におもいっきり叩きつけたような痛みを感じ、視界に火花が散った。


 収まることのない痛みに目を開けると、床や浴槽を俯瞰していた。


 「うわぁぁ、楽すぅいいい!!」


 甥は無事楽しめたようだ。


 さて、緊急脱出で頭に張り付けたのは磁石。


 もちろんただの磁石では3メートルほど離れた、浴槽から天井の距離を引き寄せる力などない。


 しかし、今頭に着けたのは魔法で強化されたその名も「頭磁石(とうじしゃく)」なのだ。


 それともとから天井に埋め込まれている磁石が引き寄せあうことによって、天井に張り付けた。


 なんでこんなものがあるかというと、うちではお風呂に入る際、常にへそにこの頭磁石を埋め込んでなくてはならない。溺れたときのために。


 浴槽の深さを変えればいいだけだが、嫁さん曰く「剥がしたり、埋めたり面倒です」らしい。


 ふむ。お前が元凶だな。

 

 ところで、これだけを聞くと、とてもいい発明品に聞こえるだろう。


 だが、頭磁石はそんな優しいものではない!これが禁忌だと呼ばれる理由は2つある。


 まず、頭に激しい痛みが襲いかかる。浮上してもまた浴槽に落ちたら本末転倒なので、頭につける磁石の裏には3日熱湯につけなくては取れない接着液がついている。


 つまり、吊るされている間、体重がすべて頭皮の一点にかかるというわけだ。


 最近、激痛を味わい続けている自分でもそう長くは持たないだろう。今にでも目が裏返りそうだ。



 そして、もっとも恐ろしいのが


 「すごい音がしたわよ!どうした……の?」


 お袋が現れた!


 ここでもうお分かりだろう。


 何も纏わない状態で宙に吊るされている状態。自力脱出は不可能。


 つまり、全裸で晒されるというわけだ。慣れ親しんだ家族の前で。


 またしても、人として何か大事なものを溢してしまった。


 「すまんが、降ろして『大丈夫?オイちゃん?すぐ助けるからね』」


 掃き溜めの中に埋もれている鼻咬みティッシュに向けるような目でみられながらも、抱えられてる甥を見てすぐに動き出した。


 5分とたたず、甥ははしごで救出された。



 俺は3時間干物生活をしてから天井をくりぬいて助けられた。


 もっとも、天井から離されれば待っているのは自由落下だが。


 無事着水し、浴槽の底に足がついた。やったぁ!


 







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 さて、この件は甥になにも被害がなかったため、なんとか家を出されずに済んで、一件落着となった。




 俺を除いて。


 今頭には、切り離された時についた木材が磁石と共に接着されている。


 甥を危険にさらした罰として、頭についた木材たちを覆うような、熱湯で満たされた豚の胃壁製の入れ物を頭に巻き付けることになったのだ。テープで。


 「①木材を隠せて、②罰にもなるし、③熱湯で磁石もとれる。熱湯を入れ換える度に頭皮が剥けてるのが気になるが、一石三鳥!」


 頭からやっと磁石がとれた3日後。鏡を見て笑顔の練習。


 もちろん頭には黒いキャップを被っているよ。見えないからね。


 あぁ、いい日だなぁ。


 これを声に出せて言えないくらいは心がボロボロだ。

本日も楽しんで頂けましたでしょうか?

次の投稿は明日18:00です。

みなさんのお越しをお待ちしております。

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