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1部7善 食べ物の恨み重し

 見たことのない言葉が多数出てくると思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。


 「「恵みを下さるカミ様に感謝を」」


 お袋、親父、自分、反対側に弟嫁、弟、甥が座っている。皆で目を閉じてカミ様に感謝する。


 カミ様が存在するかは知らないが、産まれてから食後の挨拶として教えられてきたものである。


 「それじゃあ、俺が食器洗うから」


 「ん?ゼン。なんて言ったぁ?」


 黙祷に集中していた親父は、話を聞いていなかったらしい。


 親父の方を向くと、目や口を半開きにして、空いた口からは舌が飛び出している。


 話を聞いていない原因は、どこかに意識が飛んでいただけかもしれない。


 真面目に答えると、歳のせいで耳が遠くなっているだけだと思う。


 「何でも無いよ。親父はここで休んでて」


 特に大事な用でもない為、上の空の親父を置いて、テーブル上のからになった食器を持って洗いに行く。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 洗い場にて、最後の皿にこびり付いている頑固な汚れと闘い終えた。


 「ふぅっ。そうだ、俺の当番明日だから残ってる食材見てみるか」


 3年前から週に1回、自分が料理を作る日を設けている。最初はやる気など無かった。職を辞めたのをきっかけに、家での立場が悪くなり、鬼の形相をしたお袋に迫られて、嫌々作り始めることになった。


 今では好きなものを作れるため、数少ない楽しみとなっている。


 「モジャッコリーが結構残っちゃってるなぁ。ゲハゲハの干し肉は多くないな。」


 明日の献立を考えながら、倉庫内を物色する。


 「ひぃっ!?……何故ここに!」


 希少性の高さが売りの頭に乗せれそうな葉が置いてあった。その物体を目にして、一目散に倉庫を離れた。


 入り口付近まで戻った時に、さっきとは別のモジャッコリー群の中に何かが埋もれていることに気が付いた。


 「これは!ハエルゲンではないか」


 自分の大好物であるハエルバッフォルの食用部位ハエルゲンが人目を避けるように隠れていた。


 興奮が抑えきれず、家の中に急いで戻り、家長である親父に許可を貰いに行く。


 「親父!これ食べて良いかな」


 「キエー!!!!!!」


 背後から声をかけたことに親父は盛大に驚き、家族の目線に耐えきれず、少し頷きトイレに駆け込んでいった。


 許可を貰い、喜びから軽い足取りで自室に入った。夕飯を食べたばかりだったが、100g程度のハエルゲンを味わって食した。


 そう、明日の献立の事を忘れて…








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 「ママー、今日はモジャッコリーだらけだね」


 夕飯の時間になり、家族が囲む食卓の上は、モジャッコリーがメインの料理ばかりだった。


 あの後、ハエルゲンを食べた幸福を噛み締めて眠りについた。


 起きてからも何も考えずにぼーっと過ごしていら、「あらま、夕食のお時間ではないですか!」となり、急いで作った結果モジャッコリーまみれの夕飯となってしまった。


 「もう何年も夕食作っているのに、作れる品がモジャッコリー定食。進歩という言葉が頭に無いんですか」


 「本当よ、無いのは髪だけにして頂戴」


 「モジャ、モジャ、うまい!モジャ、モジャ、うまいのじゃ!」


 親父を除き散々な言われようだが、実際にモジャッコリー定食を作った自分としては、受け止めないといけない。


 「まぁまぁ、ヨメもお袋もそこまでにして、兄貴のご飯食べましょう」


 いつものことながら、庇ってくれる弟に心からの感謝を送りたい。欲しいものがあったら買ってあげたい。


 40ヒ、それが全財産だけど。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 色々あったが、そこまで酷く無いモジャッコリー定食を、完食した。


 ただ、あれだけ大食いの弟があまり食べずに、親父が、うまいうまいと、絶賛して食べていたのが気になる。


 「あっそうだ兄貴。オイちゃんにさ、プレゼント用意してあるんだけど取ってきてくれない?」


 後片付けをしているところに、弟が周りに聞こえないように、静かな声で話しかけてきた。


 「分かった。どこにあるんだ?」


 先程のお礼を兼ねて弟の頼みを承諾する。


 「ありがとう。倉庫の中にあるモジャッコリーの中なんだけど…もしかして兄貴気付いてた?」


 弟から出た言葉は、昨日の記憶を叩き起こす。そして、全身に汗が浮き出て、顔が真っ青になった。


 「そ、それは、ハエルゲンか?」


 倉庫内に、モジャッコリーの集まりは二つあった。


 だから、もしかしたら間違いかもしれ……


 「そうハエルゲンだよ。さすが兄貴、いい鼻してるね」


 …口にした大量のモジャッコリーを全て吐き出すところだった。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 「オイちゃん!ちょっとおいで」


 父親の顔に変化した弟が、息子を手招きする。いきなり呼ばれた甥は、好奇心いっぱいの顔つきで、弟に抱きつく。


 「どうしたのパパ?」


 「パパね、オイちゃんのために食後のスイーツ買ってきたんだよ」


 甥の頭に手を乗せた弟は、買った時には布で覆われていなかった”それ”を見えるように剥がしていく。


 「…あれ、葉っぱ?」


 何重にも覆われていた布の中から出てきたにはカツラ草だった。


 弟が買ってきたハエルゲンは、自分の胃の中か便所の中にある。そんなものを出そうにも出せない。


 考えた結果、希少さで勝るカツラ草なら良いのではないかと至った。


 普通に考えて無理があることだが、押しに弱い弟ならば、アレルギーが出た時に教えて貰った、カツラ草の良いところを喋り、誤魔化すことができる。


 そうすれば、感謝する息子、結果オーライな弟、救われた兄貴と、なる算段だ。


 「どうしたのパパ?」


 「いや、ハエルゲンを買ってきたつもりだったんだけどなぁ…」


 自分で見て買った弟からしたら、それがなくなっているのはおかしい。


 案の定、後ろにいた俺に説明を求めるべく顔を向ける。


 「それなんだが、モジャッコリーの中にはなかっ『なんだ何だ、ハエルゲンだってぇ。それなら昨日ゼンが食って良いか聞いてきたぞ。』」


 トイレから出てきた親父が、話を聞いていたらしく、口を挟んできた。


 それを聞いた弟の目が急に鋭くなる。


 その目に気圧された自分は、冷や汗を垂らしながら、親父がボケていることにすれば良いのではと考えた。


 「あぁ、確かに言ってましたねそんなこと。」


 近くを通りかかった嫁さんも、加勢するように入ってきた。


 実際に自分が食べた証拠はないが、親父と嫁さんの証言を元に、判決は悪い方向に向かっていた。


 「兄貴…。食ったのか?」


 冷静で落ち着きのある弟が、怒りに震えている。


 これ以上隠すことはできない。


 「あぁ、俺が食べた!」


 飛んできた拳を避けることはしなかった。見えない拳を避けることなどできないからね。







 意識を取り戻した自分に渡されたプレゼントは、ハエルゲン再購入の借金2000ヒと、優しい弟からの惨めな兄貴を見る目だった。

本日も楽しんで頂けましたでしょうか?

次の投稿は明日18:00です。


語群紹介

・魔物…基本的に人間の敵。見つけると襲いかかってくる。危険度はS A B C D Eの6段階で分けられる。一般人だと武器を持てばなんとかEランクからは逃げることができる。

・ハエールバッファル…4本の髪の毛を持つ牛の魔物。危険度はD級。

・ハエルゲン…ハエールバッファルの人気食用部位(舌)



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