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2部12善 ダウト

今回は割と平和な回です。

 「おはよう」


 「おはようございます」


 今日は村一番の農家アングリカルチャーさんの家に畑仕事の手伝いにきている。


 アングリカルチャー家はこの村の野菜収穫量の約6割を占めている豪農だ。土地は10hα。とても広い。


 その土地を耕作地と休耕地に分けて、土地を枯らさないようにしている。利にかなっていて流石、村一番の農家だと感心した。


 今挨拶を返してくれたのは昨日知り合ったフロケダマさんだ。彼は20歳を迎えたが、定職が見つからずここでお手伝いとして働いているらしい。


 「カレタさんはこの仕事どうですか?」


 フロケダマさんがこちらを伺うように聞いてくる。優しい人だ。


 「いや~、若い頃を思い出します。よく家の畑仕事を手伝っていたんで。実家を継ぐのも悪くなかったなと思ってますよ。今更ですが」


 思い出に浸るようにしんみりと、かつて親父と桑をもって耕していた頃を思い返していた。


 幼い頃は力がなくて、親父に押さえてもらいながらやったものだ。


 あの頃の親父はとても生き生きしていて、憧れもしていた。


 「そうなんですね!キツかったら何でもいってください!」


 横にいる自分に目線を向けることなく、心暖まる言葉をかけてくれた。


 心優しい言葉は言われなれていないため、年甲斐もなくウルっとしてしまった。


 「集合だ!ガォーーーーン!!」


 特徴的な遠吠えが聞こえた。アングリカルチャーさんが来たようだ。さぁ、今日も頑張るぞ!







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それでは、仕事内容を見ていこう。集まった人数は50人。いくつかのグループに分かれて仕事をしている。


 まずは、耕しグループ。


 やることは一列にならんで休耕地を耕していく。ただそれだけだ。


 人数は10人。このグループは初心者向きではなく、ある程度何回も手伝いに来た人がやっている。フロケダマさんもその1人だ。


 俺も出来なくはないが、参加はしなかった。疲れそうだからというありきたりかつクズな理由でだが…。



 続いて収穫グループ。


 これが最も人数が多く、25人だ。


 やることは、5人組、5列になって手で収穫する。ただそれだけ。グループなのには訳がある。


 1人目が取りやすいように穴を手で掘る。


 2人目はパッと見、異常がないかの確認。


 3人目は野菜を引っこ抜く。


 4人目は篭をもってとったものを運ぶ。


 5人目は運ばれたものを台車にのせる。


 正直10人程耕す方に回したほうがいいと思う。確実に無駄な行程が入っているし、1人でやったほうが2倍は速いだろう。


 どうもアングリカルチャー家の信念に基づいている行程らしい。


 「一つ一つの動作を丁寧に、細心の注意を払い、まるで自分の子を抱くように愛を込めて収穫する。これこそが、美味しい野菜を収穫するために最も大事なことだ。」


 最初聞いたときは耳を疑ったが、本人たちは真面目にのたまっていたので、そういうものかと思うようにしている。


 この仕事が最も給金が高く、年配者が行っている。


 間違いなく、不適材不適所だろう。



 3つ目は洗浄グループ。


 全部で10人。運ばれてきた野菜達を水で洗う。その際、鮮度を保つための魔法「シンセーム」を使う。そのため、魔法使いではないと所属できない有能グループである。半分はアングリカルチャー家所属の人たちが占めている。それだけ村では魔法が使える人が貴重なのだ。


 さて、最後は選別グループ。

 

 洗われた野菜一つ一つを己の目で見て、虫がついていたり傷ができていたりしていないか確認する。


 不良品だったもの達は残念ながら捨てられる。


 俺の所属はここだ。なにせ、腰の痛みのせいで力仕事はできないし、高度な魔法は使えないからだ。


 ここに配属された人も不良品だと言えよう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、今日も流れてきた野菜達をよく確認して分別していく。


 「これは大丈夫。こっちも大丈夫。これは……ダメだな」


 きちんと確認していることを示すために、声に出して言うことを義務付けられている。


 「これはオケッケー、こっちはダメデリッシュ!ぽーい、ぽい」


 選別グループは5人編成。座りながら行う。隣で個性的な確認をしているのは、選別グループ60年のベテラン。ゴブさんだ。彼は15歳で成人してからずっとこの仕事をしているという。


 慎ましやかな生活をしているらしく、服は着ていない。腰に死んだ蛇の死骸を巻き付けて尊厳だけは保っている。


 長く仕事をした勲章なのか、爪は緑色。胸毛はモジャッコリーが埋め込まれているように深い緑色の森林だ。


 今は慣れたが、最初隣に座ったときに襲ってきた腐敗臭は一生忘れることはないだろう。


 「いい。だめ。いい。だめ。いい。だめ。」


 覚えたての花占いをするかのように繰り返しているのは俺と同時期にここに配属された女の子だ。名前は知らない。話しかけようとすると、柱の影などに隠れてしまうためだ。他の人も名前を知らないらしい。


 残り2人は非常勤のため、今日は来ていない。


 「廃棄の方、いっぱい溜まっているんで外に出してきちゃいますね」


 女の子はまだしも、大先輩のゴブさんがいるので、ここでは敬語を使っている。


 「いいぞ」


 アングリカルチャー家の使用人であり選別班の監視員の許可を貰い不良品を持って外に出る。向かうはカレタ家だ。


 実は、虫があまり得意ではないため、野菜についている虫を見ると思わず叫んでしまう。


 できれば、虫なんて見たくない。


 しかし、野菜の確認だけで、1日1500ヒももらえるのだ。


 そこで俺は考えた。廃棄を捨てにいくことに時間をかければ虫を見なくてすむと。


 早速、廃棄の袋を捨てに行くという名目の時間潰しを実行する。


 他の人の労力を軽減し、かつ自分も虫を見ずに済む。まさに、一石二鳥だ。


 そういうわけでほどほどに遠く、また、家のごみと一緒に出したほうが手間が省けるので、家の倉庫に放り込んでおく。


 「ふぅ~」


 一息ついてから、また職場に戻ろうと倉庫のカギを閉めた。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


<アングリカルチャー家 使用人 クカッシ.イ.テンタ>


 「廃棄の方、いっぱい溜まっているんで外に出してきちゃいますね」


 「いいぞ」


 私はアングリカルチャー家に5年前から仕えているクカッシ イ テンタ。晴れて、奉公人から現場監督に昇進した。アングリカルチャー家の代名詞、農業部門に配属されたとき、思わず涙が出てしまったものだ。


 配属先は現場の選別部門の監督だ。5人しかいないが、中には60年のベテランもいて、とてもやりがいを感じている。


 しかし、一週間前から入ってきた新入り2人の挙動がとても気になる。


 まだ成人したばかりだろう新入りの女の子は、壊れた人形のように適当に見える分別をしている。そして、なぜか会話をしない。話しかけても全て無視される。特に、新入りもう1人が話しかけると柱まで逃げてしまう。


 一方の男。名前は⋯確かゼンイチだったか。ゼンイチは一見真面目に行っているが、率先して廃棄の野菜の入った袋を捨てにいく。


 元々は当番制だったのだが、この男がきてからはずっと彼が担当している。誰かがやろうとしても、「俺がいきまーす!」と率先してやるのだ。それも必死な形相で。


 女の子の挙動不審さと、ゼンイチの廃棄処理の必死さ。この2つのことに頭を悩ましていると、ふと繋がってしまったのだ。


 あぁ、優秀な自分の頭脳が恐ろしい!


 ゼンイチというやつは女の子を脅して商品として出せる野菜までも廃棄に入れさせているのだ。


 そして、自分がそれをどこかに持っていき、転売かもしくは自分の食料にしているのではないかと。


 それを確認するため、今出ていったゼンイチを追うことにした。ハゲ男が、俺を出し抜けると思うなよ?フフフッ……




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 やはりあのハゲやっていやがった!


 ゼンイチはあろうことか、廃棄の袋を自分の家の倉庫に詰めていたのだ。これは、現行犯として捕らえるべきだろう。


 「ゼンイチ君」


 私がそう声をかけるとゼンイチはびくっとして恐る恐る私の方を見た。そして、目をかっぴらいた。


 「何をしているのかね?」


 「廃棄を捨てようと家の倉庫に⋯家のごみと一緒に捨てれば効率がいいと思いまして⋯」


 わたしが尋ねると、ゼンイチは何か後ろめたいことがあるように目線を下げながらそう言った。


 「取り敢えず職場までついてきなさい」


 ゼンイチに廃棄のごみ袋を倉庫から取り出させ職場へと戻った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

〈カレタ家前  善一〉

 さぼっていることが監視員にばれ、職場へと再び戻った。


 「いったん作業をやめなさい。」


 監視員が選別班に戻って早々にメンバーに声をかけた。


 「ここのゼンイチにある疑惑がかかっている。そのために皆に聞き取りをしたい。では、ゴブさん。こちらに」


 呼ばれたゴブさんは臭いを纏って近づいてきた。


 「ゼンイチについて何か知っていることは?」


 「ゼンイチ?そこのテカ坊のことか?うぅぅぅぅん⋯」


 監視員に尋ねられたゴブさんはなにかをひねり出すようにうなりだした。そして、はっと目を開けてつぶやいた。


 「テカ坊の光が眩しいから席替えをしてほしい」


 それを言ってすっきりしたのか笑み(恐い)を浮かべて席に戻った。


 「はぁ⋯では、君は何か知ってるかい?」


 監視員はゴブさんから何も得られなかったためか、ため息をはいた後もう一人のメンバーの女の子に尋ねた。


 女の子はよくわかってはいないようだが、雰囲気が悪いため若干涙目だ。


 その様子を見た監視員は一つうなずいた後、俺をギリっと睨んだ。


 なぜ睨まれたかわからなかったが、まだ幼い女の子にはつらい空気だろうと思い、きちんと白状して場を収めようと考えた。


 「クカッシ様。すべて私の責任です。私は仕事をさぼろうと遠くまで廃棄を捨てに行っていました。どのような罰も甘んじて受けます。だからこの話はこれで終わりにしましょう。」


 そう言って、泣きそうな女の子を安心させようと近づいた。しかし、俺のことが嫌いなのか腕で目を覆うようにして後ずさっていく。肩が震えて今にも涙がこぼれそうな雰囲気を感じ、どうすればいいか監視員に救いを求めるため振りむこうとすると、急に背中に衝撃を感じ気づけば地面に顔を打ち付けていた。


 「しれ者!論より証拠とはこのこと。お前が女の子を脅していたことはわかっているんだ。おとなしくしろ!」


 よくわからないままいつの間にか村の独房に入れられていた。印象に残っているのは面会に来た家族が俺の心配よりも先に「今度は何をしたんだ?」と聞いてきたことだ。人生ままならないものだ。たださぼっていただけで独房なんて。


 足元を張っているミミズの変わらぬ伸び縮みが世界の理を表しているようだった(?)











◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 〈翌日: 選別班の女の子〉


 昨日、なぜかごみ捨てから帰ってきたおじさんが監視員さんに怒られながらどこかに連れていかれた。私はよくわからないままいろんな人に「大丈夫だった?」と頭を撫でてもらえた。心配してもらったことが少ない私はうれしくて泣きだしてしまった。そしたら周りの大人の人はもっと優しくしてくれた。お仕事もお屋敷で侍女として雇ってもらうことが決まった。とてもうれしくてまた泣いてしまった。大人たちが「もう大丈夫だよ」と言ってくれたがそれだけよくわからなかった。


 昨日捕まったおじさんはとてもやさしい人でなぜ捕まったかはわからない。みんながおしえてくれないからだ。でも今度あった時、いつも心配してくれてありがとうと伝えたい。いつもおじさんの顔を見ようとすると、ちょうど窓から入った光が反射して眩しくてつい目を覆ってしまう。暗いところで会えたらありがとうということにしよう。

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