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1部10善 借りは返す主義

本日が1部最終話です。

楽しんでいただければ幸いです。

ちなみに1ヒは十円と同じ価値です。

 さて、俺には借金がある。家族に。2000ヒ。


 流石に返さないとまずい。そう決心したため、内職を始めた。


 もともと知り合いに頼まれた物の修理を無償でやっていたが、それを有料にすることにした。


 理由は簡単。お金ほしいから。


 向こうが納得できるよう修理ではなく若干の改良もすることにした。


 今取り組んでいるのは村長の家の机だ。大きくて家に入らないので庭で行っている。


 依頼の内容はもちろん修理。足が4本とも同時に折れてしまったらしく、上の板部分だけをもらい、足を取り付けているところだ。


 「とんとんとんとん、ハゲの2本♪」


 鼻歌を歌いながら、鉄に木(光沢が金属並の茶色い木)の筒を被せた丈夫な足をとりつけていく。


 お金をとる、いわば仕事である。2000ヒに見合う出来でなくてはならない。


 そのため、やったことはないが、木に柄を掘る。指にヤスリを巻いて擦りながら模様を刻んでいく。


 手を交互に、右手が腱鞘炎(けんしょうえん)になったら逆手にかえて、左手が痛んできたら右手にかえる。これが6セット終わった頃、ようやく模様が完成した。


 「うん!いいできだな」


 思わず自画自賛してしまった。


 使った木の光沢をいかしたツルツル頭のおじさんの笑顔が綺麗に掘られている。ヤスリで掘ったことによって、よりピカピカしている。思わず目を細めてしまう。


 尚、もともとの机の板の方には子どもが徐々に大人になっていく様子が描かれている。大体、15の頃から髪が後退し、16には髪がなくなっているが…。なんと無慈悲な早さだろうか。


 16の少年の顔に陰りがあるように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。


 「よし、日が沈みかけてるが、今から届けて報酬をもらおう!」


 意気揚々と沈みかけの太陽光を反射しながら机と共に村長の家に向かった。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 無事報酬を満額で貰えたため、いい気分で家に帰った。


 「ただいま♪」


 普段では見られないほど俺の笑顔にお袋が口を開けて固まっている。


 それをスルーして、居間にいる弟に笑顔で借金を返して、ルンルン気分のまま、お袋に夕食を尋ねた。


 「お袋、今日の夜ごは…『ゼンイチ!』」


 しかし、甥がいつもどおり突っ込んできた。言葉を遮って。


 突然のことに踏ん張れず、ひっくり返って玄関の段差に頭を打ち付けてしまった。


 「いたた…オイちゃん!あぶな…『遊ぼ!ゼンイチ』」


 甥が聞いてくれない…。頭を触るが、頭皮に裂け目はなくほっとした。


 ズキズキと痛む頭に氷袋をのせながら甥に引っ張られていく。氷袋はなぜか、玄関においてあったものを拝借した。


 しかし、だんだん足がおぼつかなくなっていく。脳がゆれた影響だろう。


 階段に差し掛かったとき、背中に地面を感じた。


 知らぬうちに倒れていたらしい。


 「僕これで買い物してくる」


 弟の言葉を最後に意識を手放した。倒れた衝撃を遅れて感じながら。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 「ゼンイチ!これをクルクルして遊…『兄貴!こっちこい!!』」


 目を開けると、見覚えのある時計を抱えて甥が体を揺らしていた。頭の痛みに顔をしかめながら体を起こすと、怒号が階下から聞こえてきた。


 珍しく、甥の言葉が遮られ、滅多に聞かない弟の怒声に弾かれるように下に降りた。


 「ゼンイチ?どこいくの?」


 すまん、オイちゃん。俺はいかねばならない。


 心の中で謝り、階段の手すりにお尻をのせて滑りながら一階に降りる。これが最速で降りれる。


 「兄貴!!」


 弟がいる玄関まで戻ると、鬼の形相の弟がいた。


 「どうした?オットゥ…『これ!!』」


 そして差し出されたのは紙幣だった。恐らく俺が先程返したものだろう。


 「?どうしたんだ?2000ヒは返しただろ?」


 よくわからず首を捻るが、火に油をそそいだのか、弟の顔がさらに恐ろしくなる。額に血管が浮き出ているのがよく見えるほどに。


 「とぼけるのか!?よく見ろ!兄貴!」


 言われた通りよく見てみる。そして、気付いてしまった。首にナイフを突きつけられたような気分になる。


 「これ、偽札だろ!!」


 そう。元々国王の顔が書かれていたお札にまるで落書きのようなものが書いてあるのだ。


 具体的には国王の鼻毛が飛び出していたり、唾を垂らしていたり、裏面にはよだれが垂れたようなシミができていたり。


 「違う!おれじゃ…『まだ、とぼけるのか!働かないからって偽札はないだろ!がっかりだよ、兄貴』」


 まるで価値がないものを見るような目に言い返すこともできなかった。


 「借金はもういい!ただ、兄貴が働かないなら、これからずっと飯抜き、寝るときは外だ!!」


 足音を立てながら弟は去っていった。今までの積み重ねだろう。今回の件は別にしてもずっとただ飯ぐらいだったのだ。おとなしく外に出ることにした。


 「俺はやってない、やってないのに…」


 今日家族は1日畑仕事をしていたため、机を修理していたことを知らない。信用がもともとないやつが何をいったって信じないだろう。


 それにしても、偽札にしては粗末な、まるで子供のいたずらのようだった。甥は今回関与していないのは明らかだ。


 普段の行いが祟ったのだと、ため息を吐きながら外に出て穴を掘った。もちろん今日の寝床を作るためだ。


 寒さに震えながら疲れが溜まっていたのか、いつの間にか目を閉じていた。


 「仕事しないと……」








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数時間前。村長宅。


 「ここに2000ヒ置いとくからのぉ。ゼンイチが来たら渡しておくれ」


 村長が居間にお金を置いて村の見回りに出ていった。


 「わかったー!」


 元気に返事したのは孫のゴマだ。彼はかつてゼンイチの家に来たことがあり、密かにオイちゃん2号とも呼ばれていた小僧だ。


 「ゼンイチって、あの面白いピカピカおじさんかぁ。よし、いたずらしようっと!」


 まだ幼く、お金に細工をしてはいけないことを知らないゴマはお札に落書きを始めた。


 「鼻毛ボーボー♪ゼンイチ、ハゲー♪

  鼻毛ボーボー♪ゼンイチ、ハゲー♪」


 ゼンイチが聞いたら卒倒するような歌を口ずさみながら、ゼンイチを貶めるような悪行を進めていく。もちろん無邪気故の行為だが、オイちゃん2号の名に恥じない悪魔っぷりだ。


 興奮しすぎたのか、唾が垂れ流し状態だ。


 「できたー!早くゼンイチ来ないかなぁ」


 そこは、ゼンイチを野外生活に追い込んだあの札が2枚あった。


 それを無事見回りから帰ってきた村長に渡し、それからすぐ机を持ってきたゼンイチに村長が渡したことにより、あの悲劇が起きたのだ。


 確認しなかった村長も悪いと言えば悪いが、諸悪の根元はオイちゃん2号。彼である。


 願わくば、裁きの鉄槌がくだされんことを。


 [第1部完結]

1部、家族編はこれにて完結です。

1話から読んでいただき、ありがとうございました。

 明日は、人物紹介を18時に投稿します。また、明後日に、閑話を投稿する予定です。

 二部に入る前に少し準備期間を頂く可能性があります。ご了承ください。

 それでは、第2部でお会いしましょう。バイバイ(/_;)/~~

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