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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
6の扉 シャット
68/1973

私の立ち位置と目的


「実は…………ヨルは特待生だ。近年まじないの教師が減っていてな。優秀で力が強いものは勧誘して学ばせている。「将来まじないの教師にする為」にな。その関係で先生方とも関わりがある。」


レシフェはチラリとシンを見る。


「だから、白を付けているし力も強い。まぁ、まだまだ学ぶことも多いがな。そういう訳だ。」


今考えたにしては、なかなかの言い訳である。


私は感心して、レシフェを見ていた。



「とりあえず決着はついた。今後、ベオグラードは真面目に授業を受け、仲間とも協力するように。見てるからな?」


わざと「目耳」に一瞬目線を飛ばしたレシフェ。


パタパタとちょっとキモいそれは、ベオグラードの目の前を通り過ぎて彼の身を引かせていた。

確かに、アレには近づきたくないのは、分かる。


「仲間は、大切だそ?いざという時、助けてくれるのは親兄弟より、仲間だ。特にこの世界ではな。」




そうしてレシフェはその後全員に今後の授業の予定を割り振ると、「今日はこれで終了。よく休め。」と言い、私とシン、エイヴォンを連れて教室を出た。


今後は各選択を主に取るのであまり全員は揃わなそうな話ぶりだった。


ちょっと残念だけど、仕方が無い。

私の印象、大丈夫かな??


そう思いながら、多分、お説教部屋にトボトボとついて行った。








行き先は、まじない棟のレシフェの部屋だった。


中々いい部屋じゃない?


入ってすぐ、私はそう思った。

正直、久しぶりに見るまともな教師の部屋。

そんな、第一印象。


どうなの、それ。



あの人達に比べると格段に片付いているその部屋は、臙脂を基調とした応接室と書斎を足して割った様な部屋で、私のまじない袋はこの人の趣味だな、と一発で判る。


応接スペースに促されみんなでソファーに収まると、側にある戸棚から何やら色々出してくるレシフェ。

ペットボトルの様な、容器に蓋の付いた何かを人数分出すと「ほら」と勧められる。


………なに、これ。


この世界に来て初めて見る形態の、飲み物。

私は疑っていた。


「毒は入ってないぞ?」

「今更そこは心配してないよ。味だよ、味。」


飲み物が不味かったら飲めない質の私は、そのボトルを検証していた。

我慢して、飲むということができないのだ。


でも残したくないしな…開けたら。

いや、見ても分からないんだけど、とりあえずね。


でもやっぱり容器には何も書いてないし、見ても分からない。

そうしていると、エイヴォンが最初にいった。

チャレンジャーだ。彼は。


「あ。結構美味い。」

「ホントですか?」


シンを見る。私の視線を感じて、開けてくれる。

そして、飲んだ。


ん?

でもこの人の味覚、普通かな?


「うん。」


ガクッ。 


うんじゃないよ!

うん、期待した私が悪かったよね。


「大丈夫だって!」と笑っているレシフェに蓋を開けられて、匂いを嗅ぐ。


ま、美味しくなかったらレシフェに飲ませればいいか。よしっ。



飲み物一つ、と思うかもしれないが新商品を試せない派の私のハードルは高い。

恐る恐る、ちょびっと、口に入れる。


あら。


「意外。」


ちょっと甘いハーブティーの様な味。


なんか、栄養ありそう。

声に出ていたらしく、解説してくれた。


「そう、お前力をたくさん使ったろう?回復するヤツだよ。疲れてると甘く感じるんだ。」


「え。レシピ寄越せよ。」

「有料。」


また始まった。


私はさっきからの疑問を、二人にぶつける。


なんか凄い仲良いよね?



「二人は、なに?」


「お前、その聞き方。…………ウィールでの仲間だ。入った年も出た年も違うが、ああ、こいつはまだ在籍してるしな。アレだ、薬草仲間。」


ああ。


ポン、と手を打つ。納得。


話を聞くとやっぱり優秀な研究生だそうで、レシフェが戻り次第声を掛けたらしい。


レシフェはまじないが専門だが、カンナビーを扱える事からも薬学もかなりであろう事が窺える。その頃からの付き合いだ。


あわよくばカンナビーの事を知っていれば、と思ったらしいがエイヴォンは知らなかった様だ。



「え?結局レシフェは誰から買ってたの?相手は?」

「道化師だ。」

「?」

「ここに来た時いただろう?入り口の部屋に。」


…………??


「あ!ピエロか!」


「ピエロ?まぁあの人形だよ。アレもまじない道具だけどな。売り手が登録して、相手に知られずにモノだけ売れるんだ。いい手だよな。あれ、俺も欲しいわ。」


おい。


でも、成る程ね。

ある意味ネット販売みたいなものだよね?

カンナビーの様な危険な物を売るにはうってつけ、って訳だ。


「成る程ね…………。で、今更聞くけどエイヴォンさんは巻き込んでいい系?」


それも、気になっていた。カンナビーなんて危険の元に関わらせて大丈夫な訳?


「まぁな。そこそこ。気焔に協力して貰ってる。あいつが探りに行く時に、ヘンリエッタの足止めしてもらったりな。研究者としても優秀だし。」


それを聞いて少し納得する。

確かに内部に協力者がいるのはありがたい。

しかも気焔は一人で薬学に行っているので、心配だったのだ。


「それはそれは。いつもお世話になってます。」


深々とお辞儀をした私を不思議な目で見ていたが、次の瞬間パッと目が輝いた。


「あんたがあの塗り薬をもらったのか。そうかそうか。俺もその森に行きたいな?」

「塗り薬?」


何それ?…………。森…………?

あ。バームか!


「あれ薬でした?長老がカンナビーの調査で使えって…………。ああ、気焔か。」


そういや、一応持って行くって言って出て行ったな…………。

石にアレは必要ないんじゃ、とも思ったけど万が一もある。

持って行かせたのだ。


でもこの様子だと、この人との交渉材料に使ったな?


でも内部の人が協力してくれるなら、本当にありがたい。

カンナビーも解決しなければならない事の一つだ。



「で?あんたは何なの?その人も、気焔くんも、普通じゃないよね?」


………デスよね。


レシフェをジトっとした目で見る。


私はいいけどさ、この人が危険になるじゃん。


出来るだけ、身内で済ませたい私はレシフェがどういうつもりかが判らない。そしてそんな私の気持ちが、一応分かってはいるのだろう。


でも、レシフェはまた私に自覚させるように、こう言った。


「ヨル。巻き込みたくないのは分かるが、本当の、本質的な事を言えばこれは俺たちの問題なんだよ。全部。ベオグラードとシェランの仲も。カンナビーが栽培されている事も。…………お前は、ただの「予言の少女」。そう書かれているだけの、それも、多分そうであろう、というだけの存在。」


座り直して、まっすぐ私を見る。


「勘違いするな?この現状にお前の責任という事柄は何一つ、無いんだ。だから、お前はお前の持論でやりたい事をやればいい。そう、言ったな?」


うん。


「今日の事も、まぁ力はバレない方がいいんだが、別に仕方が無いと言えば、仕方が無い。お前は、守ろうとしただけだからな。ラピスでの事もある。…しかしコイツは俺が全力を出しても消せない存在なんだから子供の火遊びで何とかなるモノじゃないぞ?それは分かってるんだよな?な??」


あれ。雲行きが…………。


「なのにお前はどうしてそうやって…………。だから、言われただろ?モンセラットにも。お前が前に出る方が厄介なんだよ!全く。目立つなって言ってるのに…………。」


はい。その件は本当に言い逃れできません。


心の中で謝っている。


「一応、「教師になる予定」と公表したのも、あれだけの力、もう誤魔化せないからだ。下手すりゃお前、ベオグラードに目をつけられるとはそういう事だぞ?「教師」という枠だって、あいつらにしてみりゃ大した枷じゃない。でもあいつはまだ子供だから効くかもしれない、っていうだけだ。頼むぞ、ホントに…………。」


もしかしたらレシフェは私のせいで老けるんじゃないだろうか。


そんなアホな事を考えていると、エイヴォンがポソっと呟いた。


「青の少女か。」


「…………多分な。言うなよ?」

「ああ。まぁ俺は帰らないからな。」


ん?この感じ、この人って…………。


私の視線を感じたのだろう、エイヴォンは自ら教えてくれた。


「そう、俺はデヴァイの人間だがあそこは好きじゃない。予言もジジイどもの妄言かと思ってたがな。居たのか…青。」


私はそれを聞いて、じっと黙っていた。


すると、この私に興味がなさそうな瞳に、少し楽しそうな色が宿る。

なんだろう?


「青については色々な研究があるからな。今度調べてみるのも良いかもしれないな?」

「何だ?」


「うん、俺も詳しくは知らない。興味無かったからな。でも、青に関して言えば諸説あった筈だ。しかし資料の数が半端ないからな…………。」


そこまで言うと、何か考え込んでしまった。


レシフェは彼を放っておいて、私達に言う。


「とりあえずお前らの中で、ある程度ルールを決めろ。何でもかんでもあの調子じゃ、これから無理だろ?絶対ヤバい時以外、助けるな?お互いかなりの力を持ってるから大概の事はなんとかなる筈だ。勿論、気焔も、俺もいる。シンに関してはお前、何もするな?コイツは一番やばいんだぞ?一番、大丈夫なの。分かってるか??」


す、すごい念押されてる…………。


いや、分かってはいる、つもり…………。


いや、多分、分かってない。

だって、多分無理。


目の前で、シンがまた消える。

それを想像するだけで…………多分、やっちゃうな。我慢するとか無理。

じゃあどうする?

一番良いのは、シンがピンチにならない事だと思う。それしか無くない?

それか、私以外の人が誰かシンを守るか。

いや、だって守ってくれなくてもいいんだもんね…………。

難しいな、この問題。



下を向いたまま、腕組みをする。 


一人でぐるぐるしていると、シンが私の腕を掴んで立ち上がらせた。

レシフェに何か目で合図すると、レシフェは仕方ない様な顔をして隣の扉を示し、そのままシンは私を連れて隣の部屋へ移動した。



パタンと後ろ手に扉を閉めると、真ん中にあるベッドに座らされる。


どうやらここは住居も兼ねているのか、寝室だろう、でもベッドとチェストくらいしか無いけれど。


私の隣に座ったシンはヒョイと私を持ち上げ、また膝の中に入れる。


最近なんかこのスタイル、定着してきたな…。



何も言わずに私を膝に抱いて、そのままシンは髪を撫でていた。


落ち着く様にしてくれてるのかな?


凄く気持ち良くなってきて、このまま寝られそう…………いやいや、考えなきゃいけないんだよ。いつもみたいに、寝ちゃ、駄目。


なんだかレシフェのハーブティーが効いているみたいで、心地良く、眠い。

疲れが取れるみたいだから、眠気の効果もあるのかもしれない。

しかし眠いのを我慢して、考え始めた。




うーん。

いっその事、視界に入れない。

いや、こんな目立つ人絶対無理だし。

近くに来ないでもらう…………これは割と有効かも。でも今日みたいな日は、あるよね。

あとは…鉄の意思で…………それは無理そうだな。咄嗟の時がな…………。


すると急にシンが動いて、私の顔を上げた。


頬に添えられた両手が温かい事に違和感を感じた自分を不思議に思いながら、また赤い瞳を見つめる羽目になった。


そして「無」から「有」になった瞳で、こう提案する。


それは私の望んでいない、提案。



「消える事もできるし、依るの記憶を消す事もできる。」


その提案は、私の暖かかった心の中を急速に冷やす提案だった。


ヒュッと一瞬で寒くなった気がして、思わず自分の身体を抱きしめる様に、腕が動く。


違う。


そんな事は望んでいないし、嫌だ。

やらないで?

ていうかなんでそんな提案、するの?できるの?


駄目。それだけは駄目。

そうしない為に、どうする?


この人は、私の為なら、やる。

私が嫌がっても。多分。

…………信じればいい。信じるしか、ない。

絶対大丈夫だって。


でも脳裏に焼き付いている、あの白い光。


消えたシン。

落ちている青の石。

黒くなった森と、その時の想い。


簡単にレシフェに殺意が持てる自分に少し驚く。

すぐに思い出せるのだ。

あの時の激しい感情を。

そしてまたすり潰してやろうかとも思える。

あの、いい面も知っている彼の事も。


駄目これは違う。

閉まって、この感情は。

そうして蓋を閉じかけて、ふと思う。


でも、待って?


もしかして、開けちゃおうか。

しまっておくから、いけないんじゃないか?



シンの瞳をじっと見る。


私の、守りたいもの。

でも実際には私が「護られている。」、絶対的存在。でも、一度目の前で消えた。

それが、多分嫌なんだ。


失いたくない、それは分かる。

でも大丈夫なんだよ。


でも、だからって、自分の為に何度も消える事を良し、とするような質じゃない。

現に、ラピスでの彼は戻らない。

多分、戻せるなら青の彼がここに居ただろうと思うから。


この、目の前の彼が消えないようにするにはどうするか。

多分、私が危険な目に遭わないようにするのがまず第一だよね?それは、分かる。

それ以外?あるかな?


「ねえ。シンはラピスでどうして消えたの?レシフェより強いよね?」


瞳を見つめたまま、素朴な疑問をぶつけた。


少し考えて、彼はこう答えた。


「あれが持っている石が、最高硬度なんだ。」


うん?もっとヒント頂戴?


やっぱりあんまり喋らないシンを前に、私は頑張って自分の頭で考える。


石が、シンの石より強かったって事だよね?あの青の石。今は…紫なのかな?


髪を見ながら推理する。

多分、何となくだけど髪と同じな気がする。


じゃあ紫がレシフェの石より強ければいい?


そう思ってシンの顔を見たけど、首を横に振った。


違うんだ…………。


でも待って。

この人たち、もう揉めないよね?

それなら大丈夫?


ギュッとシンの腕を掴む、私の手に力が入る。


レシフェに、約束させる。

うん、それはできると思う。

でもなんだろう。何か足りないな。


絶対的に大丈夫っていう、私が納得できる、何か。


うーん。うーん。



私はちょっと思考に詰まって、立ち上がりシンの腕を解いて出る。

目を彼から離さず、考える。


この人、大丈夫。安心…………。



多分無意識に彼の頭を撫で、髪をすいていた。

そのまま手櫛で髪を纏め、三つ編みをしていく。


長い、青紫の髪。相変わらずサラサラ。

うん…………。


何となく、思考が纏まりそうだったところにシンの手が伸びてきてまた戻される。


ぐいっと顔が近づいて来たところで、私は閃いた。


「あっ。」


シンの動きが止まる。


そのまま急に立ち上がった私の頭に強かに顎を打った彼はその場に蹲ったけど、私はそれには気が付いていなかった。


「そうだ。仕返しをしよう!」


ん?


「あっ!ごめん!」


仕方のなさそうに私を睨んだ赤い瞳は怒っていなかったけど、私はとりあえず平謝りした。


「いい?」


隣に戻るのに、手で指しながら一応確認をする。


シンは殆ど話していないから。


私一人ぐるぐるして、なんとなく着地したけど大丈夫かな?


シンは微妙な表情をしていたけど、「依るが大丈夫なら、いい。」と言う。


じゃ、行きますか。



「お待たせ!」


と爽やかに戻ると、部屋にはいい香りが漂っていた。


そうして、私のお腹が鳴った。






「で?スッキリしたのか?」


レシフェはピュイの肉を豪快に頬張りながら、聞く。

「いや、お前じゃなくて、ヨル。」シンを見ながら言っている。


確かに、シンがスッキリしたかどうか私には分からない。

なんか微妙な表情してたし。


でも、私はレシフェにお願いがあった。


いいって言うかな?

まぁ駄目とは言わせないけどね…。


ケチョンケチョンにしてやるぞ!


「ねぇ。…それで、…お願いがあるんだけど。」

「お前、食ってから話せ。」


御行儀が悪いと怒られたけど、口に物は入ってないもん!


とりあえず持っていたパンを置いて、またあのハーブティーを飲む。

うん、これでいい。



「私、レシフェをガツンとやってやりたいんだけど。」


「は?」


「いやだから、ガツンと…………。」

「何それ。面白そうじゃん。」


何をするのか分かっていないだろうが、エイヴォンはなんだかノリノリだ。

ちょっと前のめりになっている。


私はちょっと含みを持たせるように、深めにソファに座り直し、お茶を持ったままゆっくり話す。少しだけ、溜めながら。



「あのさ。…………私、やっぱり森での事が…………ちょっとトラウマになってるっぽくて。」


チラリ


駄目。笑っちゃいけない。

あくまで悲しそうによ。


「シンが消えてから、ずっと泣いてて…………。ハーシェルさんにもウイントフークさんにも…みんなに心配かけて。…………もう、あんな想いしたくない。」


今度は見ない。

下を向いたままがいいかな?


「シンはこうやってここにいるけど、ラピスのシンは居なくて。私は戻ってきたからそれでいいと、思えなくて。」


ヤバい。

言ってて自分で悲しくなってきた。 


涙腺君!仕事して!ここは止めるとこよ?


「レシフェの事は、ハーシェルさんやウイントフークさんがその方がいいなら、私は何も言う気が無かった。だってあなたを消して解決する事じゃないのは、私も分かってたし。」


エイヴォンがチラリとレシフェを見た。

何したんだ、こいつ、と思ってるに違いない。


「でもね。でも、さっき、考えて思ったんだけど私がスッキリしてないんだよね。「そこ」かな?と思って。私が出る所じゃない、と思って押し込めてた、気持ち。このやり場のない想い。消えてしまったラピスのシン。良くなんかないよ。

全然。


「お前は罰を受けるべきだ。」」



え?



ピリリとした空気が流れ、部屋がシン、とする。


私の声が変わったのを全員が気付いていて、そして私が一番びっくりしていた。



何?大丈夫?


喉に手を当てる。

何ともない。


向かい側に座っている、レシフェとエイヴォンをチラリと見る。


固まってるな…………。何でだろう?


隣のシンを見た。


シンはちょっと瞳を丸くして、私の眼鏡に手を当てた。


目を塞がれた形になった私は、少しそれにホッとする。

手が離れると、シンが私を覗き込んで頷いた。



「お前…………。」


「こりゃお前らが必死で隠す訳だ。」


ぬ?


ホッと息を吐いた二人が動き出したので、「なに?」とシンに訊く。


「…………。」


あれ?


二人に向き直ると、レシフェが教えてくれた。


「お前、その眼鏡意味ねーよ。」

「えっ?!困る!」


でも、シンが手をかざして戻してくれたらしい。


さっきのはそれか。


「で?俺をどうするつもりだ?ヨル。ヨル…だよな?」


さっきの声の事を言っているのだろう。 


レシフェの茶の瞳が少し揺れている。

でも、私も分からない。

何故、あんな声が出たのか。


でも多分、あれは紛れも無い私の本心だ。


「ちょっと仕返しさせてもらおうと思ったんだよね…。でも、あの感じだと何が起こるか分かんないかも………?」


危険かもしれない。

でもな……。自分でも怖い。



気が付いてしまった。


私、レシフェを許してない。

むしろやっぱり怒ってるんだ、まだ。

仕返し、って言うと言い方が悪いけどその通りなのだ。気持ちは。


どうしてこんな気持ちになるんだろう。

シンはもうレシフェに対して何も思ってないみたいだし、ハーシェルとウイントフークの気持ちを汲んで、シャットに彼はいる。


私の気持ち一つでこんな事してはいけないのではないか。



悩み始めた私を見て、シンがまた両手で頬を挟んだ。

多分この顔不細工だろうから、やめて欲しいんだけど。


「依るはどうしたい?」


そう言って覗く赤い瞳を見て、思い出す。

さっき、散々ぐるぐる悩んだ事。



そうなんだよ、解ってる。

多分、消化しないといけないんだ。

でもその為にもしかしたらレシフェを傷つけるかもしれない。それは、嫌だ。


自分の中の正反対の感情が渦巻いて、判らない。


何が正しくて、何が間違ってるのか。

どうすれば、正解?


そう、考えている私をシンは何故か柔らかい瞳で見つめていた。

何か、懐かしい物でも見るような、表情。


こんなに感情を表に出しているのは珍しい。

そして彼は「思うように、して良い。」と言った。




少し考えて、その両極端な私の思いを言ってみることにした。

とりあえず、悶々としてても始まらないのは、確か。


「レシフェの事をスッキリしたいのは確かだけど、傷付けたくもないんだよ。多分、私の中の許していない部分を何とかしないといけないんだと思う。」


素直に気持ちを言った私の事を、満足そうに見つめるシン。

何故か、とても嬉しそうに見える。


「分かった。」


そう言って私の頬から手を離すと、くるりとレシフェに向き直ってこう言った。


「モンセラットの所に行くぞ。」


何がどうなって、そうなるのか多分、シン以外は誰も分かっていない。


しかし私達は、素直にその言葉に従う事にした。



でも、残りの昼食を食べた後に、だけど。








ついったーTwitter、始めてみたんですよ?

今更。

昨日新月でしたからね…………



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