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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
始まりの部屋 1
4/1929

明かされた新事実

とりあえず、気が付いたらベッドの上だったから良かった。


さて、お喋りしてたのは夢だったのか、否か。



目が覚めたら何やらまた、ベッドの中だった。


そう、さっき迄寝ていた、レースのカバーのベッドである。

私のお気に入りのやつ…………。



なんでまた、寝てるんだっけ…?

二度寝したっけ?


ノソノソと起き出して、階段を降りる。


そのままボーッと考えながら居間へ行ったら、お母さんに心配された。


どうやら私は、庭に倒れていたらしい。



「ちょっと!依る!大丈夫?」


「具合が悪いなら言いなさいよ?お母さん今日仕事だけど、大丈夫?」


「うん、多分。お腹すいた。」


お母さんは私の呑気な答えに安心したのか、置いてあったカバンを持って「お昼は冷蔵庫だから」「何かあったら電話して」と言い残し、仕事に出かけて行った。



「さて……………。」


どう、しようか。

お昼にはまだ早いけど、朝ごはんには遅いよね…。


そう思いつつ、冷蔵庫のサンドイッチを出してきた。

ブランチには丁度いい。

今、食べちゃお。



で、なんで庭にいたんだっけ?と、ボーッとしながらサンドイッチを齧っていると、朝がやってきたのが見える。


いつもの様に、壁につつーっと、しっぽを伝わせながら。

その様子を、私もいつもの様に眺めていた。


「やっと落ち着いた?」

「!?!」


勢いよく椅子を倒して尻餅をついた私に、朝が呆れた目を向けてくる。


「あら。まだみたいね。」


ちょっとの間、目をしぱしぱさせながら考えた。


そういや、この子喋るんだっけ。



フワフワのグレーの毛並を見ながら、考える。


えーと、なんだっけ?確か…………

「私と話せるのは依るだけだけど、依るが話せるのは私だけじゃないわよ」…だ。


そうだ。


何故庭で倒れたのか思い出した私は、もう一つ気になっている事を訊いた。


朝が、知っていればいいけど。


「ねぇ!花は?花はどうなったの??あの喋ってたやつ!」

「気になるなら、糸の部屋に行ってみたら?」


そう答えた朝と共に、おばあちゃんの部屋へ行く事にした。



糸は、おばあちゃんの名前だ。


おばあちゃんの部屋は丁度階段の隣にある。

今は両親と私、朝しかこの家には住んでいないので、そのまま残してあるのだ。


行ってみたら?なんて言うって事は、花達はおばあちゃんの部屋に居るんだろう。



ドキドキしながら部屋へ入ると、写真の隣にいつもの様に花が飾ってある。

多分、私のそばにあった花をお母さんがそのまま生けてくれたんだろう。

ただ、さっき見た様な花が傷んでいる様子は無くなっていた。


なんでだろう?


そして、近付いても別に喋り出さない。


「朝、喋んないけど?」

「多分今は寝てるみたいね」


 え?花って寝るの?


なんだかちょっと楽しくなった私は、調子に乗って花達に耳を近づけてみた。


スースー言ってる!!


ふふっと笑うと、急に耳元でキンキン声に逆襲された。


「まぁまぁ!!」

「おやおや、大丈夫だったかい?」

「お目覚めね!」


「わっ!」


お目覚めなのはお互い様。


そう思いながら耳を抑え、少し花達から離れる。


どうなってるのかな?


単純に興味が湧いて、花の後ろが見たくて覗いてみる。


なんか、付いてたりしてね?


「まぁまぁ失礼しちゃうわ!」

「後ろに何もついてないわよ!」

「おもちゃじゃないのよ!」

「まぁそう言うない。聞こえたばかりだろう。」


また花達がキーキー言い出した。


流石に至近距離でキーキー声を聞くと、どんなに花が小さくても耳が痛い。


「ごめんなさい」と言いつつ距離を取り、ちょっと涙目になりながら、とりなしてくれた花に訊いてみる。


とは言ってもどの花だろう?

わちゃわちゃしていて、よく分からない。


「あなた達はどうして喋れるの?朝と同じで、前からお喋りはしてたのかな………?」


最後はほぼ、独り言だ。


「そうさね。急に通じたみたいだから、びっくりしたのは、こちらも同じ。」


どうやら花達が言うには、元々生き物達は話しているが、私達に通じないだけらしい。



その理屈でいくと、朝と花達以外にも喋れるやつがいっぱいいるって事じゃん…。

私、いちいちビックリしないように出来るかな…。


そんな事を考えていると、1人だけ落ち着いている花がわちゃわちゃしている花達を宥めながら、気になる事を言い出した。


「依るも、もうそんな歳か。早いものだ。」


え?………確かそのセリフ、朝も言ってたよね?


「ねぇ、「そんな歳」って何?どういう事?」


私の疑問に対して、朝と花達が色々説明してくれたのだけど。

みんなが一斉に話し始めたので、ちょっと困った。


要点を、まとめて欲しい。

私は聖徳太子じゃないのだ。


でもみんなが一生懸命話してるのがなんだか可愛くて、ちょっと笑いながら見ていたら朝に怒られた。


「依る、笑い事じゃ無いんだけど。」



そこから一応姿勢を正して、真面目に話を聞く。

朝と花達の話を要約すると、こうだ。


昔、この家を建て替える際、家人は人形神の置き場所に困った。

建て替えの間は、家族が分散して親戚の家にお世話になる事にしていたからだ。

人形は、それなりに大きい。

そして神様なので子供に遊ばれたりしても困るし、ダンボールに入れっぱなしにする訳にもいかない。


困った末に人形神()()に相談すると一時的に避難してくれる事になったそうだ。

神の、国に。


え?

ええ、花達は言いましたよ、「神の国」って。

しかも本人に相談するってどういう事?


まさかあの人形が、喋るって事…?



「滅多な場所には居られないから、建て替えの間は隠れていてくれる事になったみたいね。」


そうして建て替えが終わり、バタバタしている時に家主が亡くなった。

人形神がどこに隠れて、どうやって戻ってくるのか。

それを知っているのは、家主のみ。

家人は詳細を知らず、どうしようも無いうちに忘れ去られている状態が、今、という事らしい。



その家主っておじいちゃんじゃん………?


とっくの昔に亡くなっているから詳しくは知らないけれど、時期的にはおじいちゃんのはずだ。

おばあちゃんは人形神の部屋があった、という事は知っていたけれど、どの様にして建て替えが行われたのかは知らなかったのだろう。


それにしても、なんで笑い事じゃ無いんだろう?


そう思っていたら、朝が本棚から一冊の本を爪で引っ張り出した。


「依る、これに人形神さまが載ってるはずよ。読んでごらんなさい。」


朝が出したのは、おばあちゃんが集めていた民話や伝承の本だ。

なんだか難しそうだけど、目次でそれらしい所を探す。


「なになに…、人形神ね。あったあった、これかな…………。」




 [人形神(ひんながみ)]


◯県の地方に伝わる伝承。

人が多く通る地面の下に埋めて、何千人もの人に踏ませた、人の髪や墓地の土、呪い(まじない)を込めたものから作られる。

神棚に備えた衣服や材料を千日祀ったもので作るなど、祀る目的によって人形も装束も異なる。

目的により、呪いにも家の守りにもなる。


基本的には家を守るものとして作られることが多く、祀るのを忘れていると「次はどうする」と家主の望みを聞きに来るという。

また、約束を違えると家が没落するとも言われている。




 ……………。え。なにこれ。


怖いじゃん。


ゾワリとして思わず本を閉じた。


…だからうちってフツーの家なのにこんなにデカいのかな。

でも立て替えてからずっと祀ってないなら、結構ヤバくない??


「ねぇ、朝。今ってどういう状況?結構ヤバイ?」


「読んだだけで理解してくれて結構だこと。外の景色が変わったのも、気が付いたでしょう??」


朝曰く、さっき外でどんよりとした空気を感じたのも、気の所為でもなんでも無いらしい。

私が気付かなかっただけで、祀られていない皺寄せは確実に忍び寄ってきている様だった。



急に現実味を帯びてきた負の気配に、冷や汗が出る。


「とりあえず、どうすればいいか誰か知ってる?」


頼る相手が合ってるか、微妙な所だけど。


溺れるものは、なんとやらってね。


そう、とりあえずは花の茎と、猫のしっぽを掴む事にしてみたので、ある。








「え~、ちょっとこれって。私に解決できる話かなぁ~。」


しばらく花や朝と話をしても、よく分からない事が多い。


おばあちゃんの部屋に座り込んだままだった私は、力なく寝転がった。


そして、急になんだか話が重すぎる気がして突然全部投げ出したくなった。


だって、私は普通の中学生だし。

お父さん案件じゃないの?これ。



内容が重すぎやしないかとグチグチ言っていると、突然朝がおばあちゃんの引き出しを開けてみろと言う。

何か思い出したのか、心当たりがあるらしい。


少しのヒントでも今はありがたい。

何しろ、どうしたら良いのか全く分からないのだ。


「昔、惣介にもらったものだって言ってたから、何か知ってるかも知れないわ。」


惣介はおじいちゃんの名前だ。


ていうか、もらった物が?知ってる?喋れるの?


そう思いながらも「どの引き出し?」と、探す。



もう何が喋っても驚かないようにしようと謎の決意を固めて、引き出しの中を探り始めた。

思ったよりも中は、ぎゅうぎゅうだ。


ていうか。

これ、全部開けて探すの?


沢山の物が入っている引き出しにゲンナリし始めた所で、2番目の引き出しを開けた時に声が聞こえてきた。


「ここ。ここだ。」


「………。」


ねぇ、無視してもいいかな。


そんなあからさまに呼ばれると、気付かないフリでもしたくなる。


声がするのは、勿論引き出しの中、奥の奥、隅の方。

どう見ても「生き物」がいる場所では、ない所。


だって、私はちょっと投げ出したい気分なのだ。



もう、何が喋っても驚かないと決めているにしても。

多分奥の小さな箱の中から聞こえている声は、やはり少し怖い。


でも、開けないと進まないよね………。


少し躊躇いながら、花達に励まされて箱を開ける。


すると気合を入れて開けた私は、拍子抜けした。


「また箱だ。」


箱の中身はさらに小さい箱だった。

マトリョーシカ状態に緊張が緩んだ私は中身の小さい箱はえいっ、と開けた。



「さぁ、とうとう出番が来たっ!待ってましたっ!」


………。


えーーーー。


ちょっと私達が引いているのをお構いなしに、気合を入れて登場した箱の中身は、濃い黄色の石だった。


石と言っても石ころの石じゃなくて、貴石の方の石である。


綺麗なダイヤモンドカットをされた、内包物の無い、炎のような色の石。


それが、石のくせに「今まさに登場しました!」そんな風に堂々としているのが何故か、分かるのだ。



「綺麗………。」


「そりゃそうさ!私は対の石!その中でも燃え盛る炎!!気焔(きえん)の石とは私の事!!!」



 暑苦しい。


私の気焔に対する第一印象は、その一言に尽きた。


自分の事を気焔の石という彼は、どうやら長い事箱の中で待ちくたびれていたらしい。

どうして早く来なかったのかと喚いている。


どうしても熱血野郎のイメージしか持てない…。


しかし、いい具合に私達のシリアスムードを打ち壊しては、くれた。


「で、皆さまお揃いで何をグズグスしてるんでい?」


江戸っ子かよ、と思いながらも意味が分からないその言葉を繰り返した。


「グズグスしてるってどういう事?」


「そりゃ吾輩が開けられたって事は、シンラ様がお呼びだって事でしょうよ。違うのか?」

「シンラ様?」


「人形神様が、いらっしゃるだろう?」


やっぱり知ってるんだ…。


どうやら人形神の彼はシンラという名前らしい。


名前を知っているって事は、気焔は他の事も知っていそうだ。

この際色々聞いてみるしかない。


「ねぇ、気焔。今はシンラは私の夢の中にしかいないみたいなんだけど。この家を建て替える時に、隠れたままなんだって。どうしたらいいのかな。」


「………………………。」


え?フリーズしてる。


石だから元々動いてないけど、固まってる。


気焔から呆れたような雰囲気と、その後焦っているような雰囲気が伝わってきて、さっきの緊張が戻ってきた。


部屋が、ピリリとした空気に変わる。

彼は打って変わって真剣な声で話し始めた。


「いつから、隠れているか分かるか。」


「私は生まれる前だから正確には知らないけど、この家は築50年以上経ってるはず 」

「52年よ。」


気焔はその年月に驚いていたけど、私は朝が正確な年数を知っている事に驚いた。


「え?朝?朝いつからうちにいるの??」

「私がこの家にいるのは惣介が亡くなる少し前ね。」


ちょっと待って。猫の寿命って………。


私が頭を抱えていると、朝が説明してくれる。


「私はまぁ猫だけど、普通の猫じゃないのよ。この家に来たのはたまたまだけど、人形神がいる家なんて今時珍しいからね。食いっぱぐれないだろうと思って、居ついたのよ。その後建て替えする事になって、そうこうしてるうちに惣介は死んじゃうし。」


朝は人形神を祀り直さなくてはまずいというのは分かっていた。

だが自分だけではどうにもできなくて、困っていたらしい。


………まぁ、猫だしね。



誰も何も言い出さないので、詳細を知っているのは惣介だけだった、と後から気付いた様だ。

どうしようもないまま、この家がダメになってしまうのか…と密かに心配していたらしい。


そうして最後に私が生まれるのを見届けてから、家を出ようと考えていた。


その後お母さんが出産の為に入院し、遠くの病院に行っていたのだが、私が生まれたであろう時間になんだかピンと来たらしい。


あ、大丈夫かもしれない、と。


案の定、病院から帰ってきたお母さんが抱いている私は、ぼんやりとした光に包まれていたそうだ。


「これはもしかして、って思って留まる事にしたのよ。」


「ちょっと気になるんだけど、私が光ってるってどういう事??」


朝が言うには、私を包む不思議なポワポワした光は3歳頃に消えたらしい。

それから急速に家の周りに嫌な空気が漂い始めたので、今度こそ本当にダメだと思っていた様だ。


そうなんだ…。

もしかして今って、思ったよりもヤバいのかも??



すると私の思考をぶった切るように、焦った声で気焔が言った。


「依るはシンラ様の事を知っているな?」


そう、早口で尋ねる。


「あの綺麗な人形の事だよね?でも夢の中にしか出てこないんだよ。」


それもしょっちゅう見れるわけじゃないし………とブツブツ言っていると、気焔に急かされた。


「とりあえず、部屋に行かなければ。」

「でも気焔、あれは夢の中なんだよ。今から寝てみればいい?」

「いや、多分もう夢ではなくなっている筈だ。私達の言葉が聞こえているのだから。なに、恐れる事はない!シンラ様の所に行くのだ!さあ!!早く!」



ちょ、待ってよ、焦ってても暑苦しいな!



そうして、噂話をしている花達を残して。


気焔を手のひらに握った私は、朝と共に急いで階段の下へ向かったのだ。







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