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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
5の扉 ラピスグラウンド
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中央屋敷のフェアバンクス



数日後、私は諸々の理由で中央屋敷に呼び出されていた。


心当たりは色々ある。

先日の広場での爆発事件、森の変化、街の報告…………。



ヨルがうちに来てから、明らかに私の足は中央から遠のいていた。それを知ってか知らずか、フェアバンクスからは定期的に呼び出しがある。

以前よりも頻度が高いくらいだ。

感付かれているとは思いたくないが、細心の注意が必要だ。



目の前に用意されたお茶を見る。豪華な器。


細かな細工が煌びやかなトレーに乗せられたそれには私が持ってきたイオスのお菓子が添えられている。

柔らかなクッションの効いたソファーに座り、高級なお茶を飲む。


自分もかつてそんな生活をしていた時が僅かだが、ある。しかし懐かしいとは思わないし、なんならウイントフークブレンドの方が美味しく感じられるようになった。

いや、あれは作り手に似合わず本当に美味なのだけれど。


しかし私にのんびりお茶を懐かしむ暇はない。

これからフェアバンクスとの報告会を上手く切り抜ける為、頭の中を整理していると応接室の扉が開いた。



一つに纏めた金茶の髪を揺らして入ってきたのは、グロッタだ。

フェアバンクスの側近で私は彼女をフェアバンクスの(しもべ)、と密かに呼んでいる。


ラピスでは珍しい濃い目の色の肌に、緑の目が映える。ただ、いつも宿っている冷たい光が私と彼女が相入れない事を示していた。


始めは苦手意識かと思っていたが、ヨルが来てから「ああ、人種が違うのだ」と納得した。人としての、立ち位置というか何というか。

多分、根本的な考え方が違うのだろう。


どこから来たのか、急に中央屋敷に現れた彼女はフェアバンクスの手足として色々な種類の仕事を請け負っている。それはもう、色々な。

思うにこれからされる報告の中でもかなりの数に関わっている彼女は私をジャッジする為にここにいる。

主人に忠実であるか。

私がまだ、一族の端くれであるのかどうか。




そんな事を考えていると、急にこの豪勢な茶器を投げつけ何もかもぶっ壊してやりたくなるが、私1人が消されて済むのは何の解決にもならない。


普段、神父なんて落ち着かなければいけない仕事をしているとたまには少しの破壊衝動に駆られる事もある。なんせ私も人間だから。

今まではそれを不徳だと考えていたが、あの子を見てるとそれもまた、当然の事だと思えてきたから不思議だ。

悪くはないのだ。何もかも壊したいと思う事も。抗いたいと考える事も。


ただ、やり方は慎重にしなければ何もかも失う。その方法は真剣に考えなければいけない。




私が自分の破壊衝動に一人小さく笑みを浮かべていると、フェアバンクスが入ってきた。


フェアバンクスは中央屋敷の主だ。特に君主がいないラピスではあるが、実質彼が君主という事になるだろう。とは言っても彼もまたデヴァイの僕ではあるのだけれど。

そう思えば、歯車の一つというのは可哀想なものかも知れない。


ただ「歯車という事に気が付き抜け出したいもの」と「歯車でいる事が幸せで十分実りを享受しているもの」、どちらがいいかそれは各々違うのかも知れない。



ため息を小さく吐き、いつもの真向かいに座る男を見る。

少し老けた気がするが、気のせいだろうか?


フェアバンクスは私よりも一回りと少し年上の、見た目はロマンスグレーというやつだ。薄茶の髪に同じトーンのグレーの瞳。落ち着いた紳士である。外見だけ、見れば。



「ご無沙汰だな?ハーシェル。」

「いえ。叔父上こそお元気そうで何よりです。」


遠い親戚の私達は、戸籍上叔父よりは遠いが便宜上と昔からの呼び方で私は叔父と呼んでいる。

私がラピスの神父としてここにいるのも、フェアバンクスの親戚だから、という事もあるだろう。


だがデヴァイでは血縁関係がないものの方が珍しい。

まぁ要するに近い他人だ。



「先ずは報告を聞こうか。」


私の神父としての仕事内容は、一言で言えばフェアバンクスの耳だ。


神父として持ち込まれた相談、婚約・結婚の事、守り石を鑑定したらその状態など。ここでは生まれた子供の守り石が合うかどうか、教会かウイントフークの所で鑑定をするのが普通だ。

稀に、選べなくてそれにするしかないので決定しているものや、この前のラインの件のような相続する形のもの以外は大抵情報が入る。


当たり障りのない内容を報告として上げるのも、最近の常だ。それをフェアバンクスもいつものように聞き、後ろのグロッタは聞き流している。

私なんかが重要な情報を持って来ると思っていない事がよく分かる。

それが分かっているので、私も白々しく長ったらしい報告をするのだ。




一通り報告を聞くと、フェアバンクスは「さて。」と座り直す。


ここからが本題だろう。

私も気が付かれない程度に気を張る。


「ハーシェルは先日の北の広場の件を知っているか?」


フェアバンクスが最初に切り出したのは、広場の件だ。

これに関してはある意味隠すつもりがない私は、普通に答える。


「はい。私もその場にいましたから。」


何を見ていたか、一番にどの話をするか。

尻尾を捕ませない為には順番に、起きた事柄を述べた方がいい。


「教会で預かっている子が仲間のお店を手伝っているので。その後はすごい爆発がありましたよね。大怪我する人がいなくて良かったです。何か原因は分かりましたか?」


「いや。まだ調査中だ。だが、うちの者ではない。ハーシェルも何か気が付く事があればすぐに報告するように。」


「分かりました。」


屋敷の者ではない、その言葉に驚いたが顔には出さない。グロッタは私を注視しているからだ。


「森の件だが。調査隊5名で組んで行かせたが、1人調子の良くないものがいる。担がれて帰ってきた。かなり白い森の近くに行ったらしいが、少し足を踏み入れたかもしれない、と同行したものが言っている。」


「調子が良くないとは?病気ですか?」

「いや…………。記憶が無いというか。」


フェアバンクスが口籠る。


「廃人に近いです。」

と後ろからグロッタが言った。



「そうですか。それは治せないですね…。」



私は教会で少し薬も作っている。だが、精神系はかなり特殊な調合が必要なので私では無理なのだ。しかし廃人とは…。


「少しまた様子を見る事にする。白い森の侵食もそこまで急な事では無さそうだしな。貴石の件と合わせて小屋の件ももしかしたら移動が必要かも知れん。」

「…………。そうですね。」


貴石。


それを聞くと先程笑って流した破壊衝動が膨れ上がる。まずい。


落ち着かせる為にグロッタの顔を見る。

虫を見るような目を見て、気持ちを落ち着かせた。効果は絶大だが、やり方としてはあまり気が進まない。

そのまま森の話題を流す。


その後教会の相談内容についてフェアバンクスは何やら言っていたが、殆ど私の耳には入っていなかった。



「聞いてるか?!ハーシェル。」


「あ、すいません。相談内容ですよね?」

「まぁそうだが、お前の所で預かっている子供の事だろう。新しい相談員というのは。」


来た。


「はい。よく気がつく子ですよ。優しいのでみんなに好かれています。」


「ふん。何やらおまじないやら、問題解決やらやっているようだな。色はいいのか?」

「いや、濃い灰と茶の瞳ですよ。話を聞くのが上手いのです。」


ニッコリ笑って答える。あくまでお人好しの子供を預かっている、という程だ。


「しかし、どこから拾ってきた。親は?」


「恐らく下町の合住居あたりの子供だと思います。森に薬草採取で行った時、知り合って保護しました。もしかしたら、森の集団から逃げてきたのかもしれません。しかし、情報は持っていませんでした。」


「ほう。」

「生活しながら、また観察してみます。」

「分かった。」


その時、フェアバンクスの背後にある扉が開いた。


来客中に開く事は殆どない為、私も何事かと目をやる。

そこにいたのはシンだった。


「おや、ダメだろうシン。来客中だぞ。」

「間違えました。失礼します。」


シンは私をチラリと見たような気がする。

物凄くいいタイミングで入ってきたけれど、偶然だろうか。



「ハーシェルはあれに会ったことがあったか?」

「お邪魔してる時、チラリと見るくらいですね。」

「そうか。あのナリなので外には出しておらんのだ。しかしそろそろ考えねばならんだろうな。」


そうしてシンの事に上手く気が行ったフェアバンクスを見て、グロッタが私に報告の終了を示す。


安堵した空気を悟られないよう、屋敷を出るまで気を抜かないようにしながら私は外へ出た。



空気が、美味い。









そうして教会へ戻ると、ヨルがまた頭の痛い事を言い出した。



「ハーシェルさん!私、森へ行きたいんですけど。」


は?君は何を言ってるんだ。

自分の立場を自覚しろ!!!


そのままエクスクラメーションを3つ付けて言ってやりたいが、そうするわけにもいかない。


仮にも僕は大人だ。


「ヨル。この前危険な目に会ったばかりだろう?ウイントフークから報告も来てないのに、行けるわけないだろう。」


「フフーン。それが報告が来たんですよ!なんと、情報伝達機能は搭載されてませんでした!て事は、この瞳がバレてないって事でいいんですよね??」


そんな事言ってもダメに決まってるじゃないか!!瞳だけじゃないんだぞ。


「…………ダメだ。なんで君はそうすぐ危ない目にあいたがるんだ。そもそも最初に森で捕まっただろう?」

「それはそうなんですけど…………。だって…………外行った事ないし…………。」


ダメだ。ちょっとウルウルしたってダメだ。ダメなものは、ダメ。


「森の中も味わいたいし…ここ、緑が少ないんですよ。自然の中で分かる事、あると思いません?」

「いや、あるとは思うけど…。何がしたいんだ?本当は。早く言いなさい。それによっては何とかする。かもしれない。」


いくらなんでも、あまりに無茶な事を言う子ではない。きっと何かあるはずだ。目的が。


内容によっては、ついて行くつもりで私は問い詰める。


「私、気が付いたんです。水が足りない事に。ラピスって、雨が降らないじゃないですか。私の住んでた所は雨もそこそこ降るし、海も、川も、池も湖もあるんですよ。水っていいんですよ。見てるだけで癒されるし。森の中なら水があるかなぁって。あと、無ければ作ればいいし。」


「は?作る?」

「はい。水の石があれば作れるでしょう?」


………いやまぁ、可能だとは思うがそもそも池が出来るほどの水が出せるまじない石とまじない力が、ほぼない。

そしてあったとしても池を作る奴なんて、まずいない。


しかし私には分かっている。まだ、あるはずだ。


「で?あとは?」


「なかなか意地悪ですね、ハーシェルさん。さすが見抜かれてますね…。あの、実は落とし物をしたんです。」

「落とし物?いつ??」

「あの、拐われてた時です。」


ほう。そうなってくると話が違うな。

もしかして貴石の小屋だとまずい。手がかりは無い方がいい。


「落とし物とはなんだい?」

「リュックです。えーと、大きいバッグで背中に背負えるんです。」


「りゅっく?」

「あれが無いと多分お兄ちゃんに怒られるんですよね…………。」



たまに失念するが、ヨルは外から来て、外には外でヨルの家族がいるはずだ。

いつか帰るような事を示唆する彼女の言葉に少しショックを覚えながら自分に言い訳をする。


ヨルは、私の娘ではない。誰かの「大切な娘」なのだ。


私は、気持ちを切り替える。



「その、りゅっクという奴は君の持ち物だと見てすぐ分かるか?」


「多分。この世界には無いですからね。」



それは完全にアウトじゃないか。



この瞬間、森に行く事は決定した。

そうなると準備が必要だ。

私が必要なものを思案していると、ヨルがそれを見て浮かれだす。


本当に大丈夫だろうか…。



しかし私の心配を他所に、この後ヨルは一人で森へ行く事になる。






次の日、居間で話石が光っているのを見つけた私は軽く手を触れた。昨日の今日で触れたくはなかったが、無視する訳にもいかない。そう、中央屋敷からの話石だ。


「ハーシェル、報告があった。森で異物が見つかった。もしかしたらそれが白い森の原因かも知れん。とりあえず屋敷に来るように。」


返事をする前に切れた。


私は考えた。

もしかしたら、関係のない物かもしれない。しかし、ヨルのりゅっクとやらかもしれない。いや、関係の無い物かも…………。


頭を抱えているとヨルが下に降りてきた。


もうそんな時間か。


「おはようございます。…?どうしたんですか?」

「うーん。」


この期に及んで私は迷っていた。1人…1人は…………いや、1人。危ない。しかし。



「あ、ウイントフークさんだ。」


私がまた頭を抱えていたので、ヨルがパッと話石を取る。するとモクモクとウイントフークが出てくる。慣れると向こうの様子が見えるので、とても便利だ。

まぁあいつの顔は別に見なくていいが。



「ああ、ヨル。その後大丈夫か?気焔はどうだ?ラインの石のチェックが終わったから、取り替えようと思うんだが。」


「おはようございます、ウイントフークさん。それは是非、今日お願いします!早い方がいいです。」


「ちょ、ヨル森は1人じゃ…………」

「森?」

「??」


私が急に森の話をしたので、2人に訊ねられる。

見える話石は3人で話せるから便利だ。



「という訳でお屋敷へ僕は行かなきゃならない。ウイントフークに森へ行って欲しかったんだ。」


「なるほど。」

「私1人で大丈夫ですよ。ウイントフークさんに「目」を借りれば。」


「確かに。」

「2人とも何でそれで大丈夫だって思えるんだ。全然大丈夫じゃないだろう。」

「お前、だってわたしより気焔の方が役に立つぞ。火薬玉も持たせるから、朝を連れて行ってこい。」

「はーい!わぁ、火薬玉って何ですか??」


もう2人は私の話を全く聞いていないし、ヨルは1人で行く気満々だ。

止めない所はどうかと思うけど、確かにあいつよりは気焔の方が役に立つだろうな…………。


仕方ない。



私は中央屋敷へ行く支度を始め、ヨルにラギシーを大目に持たせてると「お小言が多いです!」と言われても、気が済むまで喋ってから家を出た。



何事も、起こらなければいいが。






そんな心配を見事に裏切ってヨルは次の日の朝に帰ってくる事になる。


あの子は、私をハゲさせる気なのだろうか。



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