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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
5の扉 ラピスグラウンド
20/1972

ハーブ万歳


「猫が顔を洗うと雨が降るって、なんでだっけ?」


お出かけから少し経った、ある日の朝。


朝が窓際で顔を洗っていたのでふと、そんな事を思い出した。



「降らない時もあるわよ。」


降らない時もある、という事は降る時が多いという事かな?ん?


1人でグルグルしているうちに、朝は1階へ降りて行ってしまう。

おーい、ここにはスマホないから調べられないよ………。



あれから私は、順調に(?)お手伝いしたり、相談を聞いたり、失敗したりしていた(うん。)。


そして今日はとうとう…。

嫌でもテンションが上がるっ。


「ハーブの日だっ!!」


今日はハーシェルがお休みで、ルシアのお店に連れて行ってもらう約束をしている。

しかも、その前に門の外の畑にも連れて行ってくれるのだ。

「ハーブ育ててないんですか?」と私が以前聞いたのを覚えていてくれて、ついでに連れて行ってくれる事になった。


お父さん、サイコー!!イケメン!


ちなみにハーシェル、31歳。

グレーの髪に緑の瞳のイケメン神父である。

私はマッチョよりは、そんな知的な感じが好みなのだが、こっちでは職人とか「俺についてこい」タイプがモテるらしい。

ルシア談。


そんなルシアも今日はお店が非番らしく、ハーブ畑に同行してくれる予定になっている。

待ち合わせに(家だけど)来たルシアを見ながら「私お邪魔じゃ無いかしら?」と呟いていたら、バシッと肩を叩かれた。


ルシアさん、見た目はフワフワお姉さん(お母さんだけど若いのだ)なのに、結構中身はサバサバ系だ。


お弁当もルシアが用意してくれるという事で、今日は完全にルシアにお世話になる。

何か今度お礼しなきゃ、と思っているうちに支度が整い出発する事になった。




午後から暑くなるようなので、午前中にハーブ畑へ向かう。


教会から細い石畳の道をくねくねと下って行く。上から見ると青と白の街並みの中に所々細い石畳が下っているのが見える。

あれからあまり外へは出ていないので、まだ殆どが知らない道の私はあまりお登りさん感を出さないようにはしているけれど、多分隠しきれていないだろう。

リールと手をつなぎながら、小さい歩幅に合わせて歩く。


今日のメンバーはいつものハーシェル、ティラナ、ルシア、リール、朝、私だ。

朝に朝聞いたら(ププッ)、門の外には普段行かないようなので一緒に行く事になった。


ちょっとした遠足かピクニック気分で、ただ歩いているだけでも楽しい。


周りの景色も青い街並みが綺麗だし。

段々青の分量が少なくなる家々を眺めながら、どんどん下っていく。



門をくぐると久しぶりに森が見える。


ここからだと結構距離あるんだな…。


ぐるっと見渡しているうちに、みんなは右の方向へ歩き始めていた。

少し行った所に、畑があるようだ。



「ハーシェルさん!」


そう声を掛けてきたのは、濃い目の茶の髪にグレーの瞳の細マッチョな若い男の人だ。


他のみんなは知っている人のようで、私だけ「この子はヨルだよ。うちで預かっているんだ。」とハーシェルが紹介してくれる。

私はフードを被っているので、怪しくないようにお兄さんの顔を見ながら「ヨルです。よろしくお願いします。(居候だけど!ハーシェルさんありがとう!)」と自己紹介した。


私と目が合って、何故だかちょっと止まったお兄さんは、気を取り直したように畑を案内してくれた。

ハーシェルが前もって話を通しておいてくれたみたいだ。ありがたい。


「各家庭で小さなハーブや野菜を鉢で育てたりしてはいるけど、基本的には僕らの街の野菜はここで作ってるんだ。」


テレク、という名前だと自己紹介してくれたお兄さんはそう言いながら広い畑を案内してくれる。


その間、子供達は端の方で土遊びを始めた。

リールが入れるくらいの穴を掘っていて、なにやら楽しそうだ。

ハーシェルとルシアはその間、他の畑の人と何やら話し込んでいた。


 

テレクの案内でぐるっと畑全体を回る。


どの野菜も凄くみずみずしくて、美味しそうに見える。

この広さでは水やりだけでもかなり大変だろうと話すと、「僕らは畑のまじないが得意だからね。」と面白そうな事を言う。

どういう意味か聞くと、説明してくれた。


基本的に仕事をしている人はみんな自分の得意な分野のまじない力を使って仕事をする。

テレクは土、植物、野菜などを育てる力が強い。水やりなどもそれに含まれ、水の石があれば簡単に水やりが出来るそうだ。

そして土を良くすることができるので、野菜やハーブ、花などもよく育つ。

そうやって各自得意なものを仕事にしているそうだ。


なるほどね~。

道理で野菜達もイキイキしてるよ…色がアレだけど、そのまま食べても美味しそうだな。


そして野菜達が元気だと思う1番の、理由。


それは本当に元気だからだ。

いや、うるさいと言う方が正解か。


みんな私が通る度に「こんにちは!」とか「どこから来たの?」とか口々にお喋りしている。

それだけならまだ可愛いが、大体は「ヒュー!」とか「キャー!」「わあっ!」とか言っているのだ。なんか、盛り上がっている。なんで?


とりあえずしょうがないので、野菜の相手は朝に任せて大人しくしてくれるようにお願いしてもらう。

流石に私がここで「静かにして!」と言う訳にもいかない。


朝から少し離れた所に移動して、テレクにハーブが見たいと要望した。

本命はハーブ畑だしね。


しかし色とりどりのお喋りする野菜を見ていたら、なんだか楽しくなってきた。


だって、畑がすごくカラフルで花畑みたいなんだもん。

野菜がこんだけ綺麗だったらお花の立つ瀬がなくない?


なんてニヤニヤしていたら「楽しそうだね」とテレクに言われた。

「見たことが無いものが多くて…」と言って、はたと気付いたが、あまり他から旅して来た事は言わない方がいいだろうか。

ハーシェルはとにかくあまり目立つな、みたいなことを言っていたので言葉を濁す。


「それより、ハーブが見たいです!」


とニッコリ微笑んでテレクの目を見た。

ちょっとドギマギした様子で「じゃあ…」と案内してくれる。


「作戦成功。」と小さくガッツポーズをしていたら、朝が「あーいうふうになっちゃダメよ。」とナスのようなものに諭していた。

いや、流石にそれは無いでしょ。



ハーブ畑は期待通りだった。


知らないハーブばかりだけど、そこは近くに来てくれたルシアを捕まえて色々質問する。

テレクも流石に詳しいが、ルシアはハーブショップ店員だけあってどういう使い方をするのかとても詳しい。

他の畑はすごく美味しそうな空気に包まれているんだけど、ハーブ畑はとても爽やかな空気だった。


ルシアにお目当ての桃月草を教えてもらい、使い方も聞く。

しかし、正直案内は要らなかった。

なぜかと言うと、ハーブも喋るからだ。


「わたし!わたしが丁度、オイルにするにはいい時期よ」

「あなた、擦り傷に効く葉をさがしてないかしら?」

「焼く時に刻んで入れると美味しいよ!」


え?刻むことを勧められた………(汗)。


ちょっとこないだのオーレみたくなるのは勘弁………と思って下を見るとワサワサ主張している集団がいる。

ローズマリーに似た葉の彼等は、確かにお役に立ちそうだ。


「採用。」


そんな感じでハーブ達をルシアに怪しまれない程度にアドバイスを受けつつ、摘んでいく。


テレクは「そのくらいならいつでもどうぞ。」とハーブを提供してくれた。なんていいお兄さんだ。

ちなみに摘む時は静かにしてくれるように頼んだら、みんな大丈夫だった。


少し、「…っ。」って言ってるやついたけど。


心置きなく気になるハーブを少しずつ分けてもらったので、一息つくと丁度ハーシェルが呼びにくるところだった。


すいません、全く周りが見えていませんでした。


結構離れた畑まで来ていた様で、ティラナとリールは全く見えない。



そうしてハーシェルの後をついていくと、見えなかった理由がわかった。


なんと、さっきから掘っていた穴が2人よりも大きくなってスッポリ入っていたからだ。

リールなんかもう出れなくなっていて、ハーシェルに助けてもらい土を払う。

私も小さい頃庭に穴を掘って遊んだ記憶があるので穴に落ちている様な2人を見て、吹き出してしまった。


夢中で掘っているところを想像すると、めっちゃ可愛い。うん。


ハーシェルが穴を埋めてくれてそろそろお昼にしようか、移動しようと言い、テレクにみんなで挨拶に行く。



テレクは丁度水の石で水やりをしている所だった。


「わぁ。凄い、こうやってやるんですね。」


さっきのナスみたいな畑で水の石を翳している。石からはホースで水やりをしているように、シャワーのような水が出ていた。

ホースのように繋がっているわけではないので、すごくやり易そうだ。


「これならいいですよねぇ。こうやってパァーっとやるだけで水が出るなんて……………」


そう、私がテレクの真似をして自分の手を上げ、

「パァーっと」と言った瞬間。



ブワーーーーーーッと。


テレクの、何倍ものキラキラしたシャワーが、畑全体に降り注いだのだ。


「え?」


ナニコレ?と呆然としている私の横で焦りながらハーシェルが石を取り出し、私を隠すように前に出る。


「思ったより沢山出たなぁ」なんて言いながら翳すと、誤魔化すようにテレクにお礼を言い、急いでその場を離れた。

まるで、逃げるように。


ん?ん?


まだ「?」になっている私の手を引いて、ハーシェル、ティラナとリールの手を引いたルシア、ため息をついている朝と共に、門へ小走りで向かった。


あらら??






「ヨル…………………………。」


「君は…………」と何か言いたそうに肩で大きく息をしているが、ハーシェルはとりあえずその場に蹲み込んだ。


小走りでもそこそこの距離だと普段あまり運動をしてない身体にはキツい。

着いてから、息を整えつつゲンナリしている。



私達は東門の近く、この前ティラナとお弁当を食べた公園に来ていた。

ここが門から1番近い公園だからだ。


何となくお説教されそうな気配を感じながら、ランチの準備をルシアとする。

とりあえず座れるように整えた方がいいだろう。


みんなで座れるように布を広げ、お弁当の入ったカゴからクロスを取る。

そうしてルシアが用意してくれたパンを見ると、なんだか見覚えが、あった。


「………ピロシキ?」


「あら。ヨルはピロシキ知ってるの?」


ルシアにそう言われ、私の方が驚く。


え?なんでピロシキだけ通じるの??


よくよく話を聞くと、昔少しの間教会に滞在していた人から教えてもらったそうだ。


えー、絶対それあの日記の人だよね……………。


そう考えつつ、みんなが揃って「良い食事を。」とランチタイムが始まった。


中身は完全オリジナルなピロシキを堪能しながら、チラッと腕を見る。

今日もちゃんと長袖を着ている。ちょっと暑いけど。


そんな私を見てハーシェルは食事が済んだら話があると言う。


怒られそう…と思ってビクついていたが、どちらかと言えば心配そうなハーシェルを見ていたらそうでもなさそうだ。

ごめんなさい、お父さん迷惑かけて。



そして食後にティラナとリールが鬼ごっこ的な遊びをしている横で、私達は小会議を開いていた。ルシアも交えて、だ。


「やっぱりこの位の髪の色だと、凄いのね、力も。ヨルの石は水の石なのね?」


この世界では一人一人が持っている守り石にも性質がある。

ハーシェルなんかは守り石以外にもいくつか持っているらしいが、基本的に仕事で使う以外の石は自分の守護石1つだ。


ルシアはさっきの水を見て私の守護石が水の石だと思ったのだろう。

それは間違いでは無い。

だって、水の石もあるし。

問題はそれ以外の石もあるって事。

そしてそれぞれがハーシェルに言わせるととんでもないグレードのものだという事だ。


ルシアの言葉を聞いてハーシェルが言う。


「そうだ。ヨルは見ての通りまじない力がこの年齢にしては高い。石もいい石を持っている。だから狙われる可能性が高い。」


少しヒソヒソ声で、言う。


ルシアは頷いて「早目にウイントフークの所に連れて行った方が良いかもしれないわね。」と聞いた事のない名前を口に出した。


誰だろう、これまた新しい名前の人が出てきた。


なにやらボソボソと2人は言っていたが、とりあえず後日早目にウイントフークさんの所へ行くという事と、火と水については外で使用しないように厳重注意された。

今の状況では、正直どこまでのレベルの事が起きるのか分からないらしい。

私もハーシェルに迷惑をかけるのは本意ではないので、大人しく頷いた。


「もう真似しないように気を付けます。」


ホント、真似しただけなのにーーー!




さて、ランチが終わったら本日のメインイベントハーブショップだ。


少々?やらかしたので大人しくしつつ、お店に向かう。

途中までみんな一緒に向かっていたが、下の2人+猫がお店でじっと待つのも大変だろうとハーシェルがまた途中の公園で遊んでくれる事になった。


きっとまた夢中になってしまう事を考えると非常にありがたい申し出だ。

思わず深々とお辞儀をしている私を見て、不思議そうに苦笑しているハーシェル達を見送る。


「さ、もうすぐよ。」


ルシアの案内で、念願のハーブショップへ程なく到着した。

嫌でもテンションが上がる。


ふぃー!



外観は濃いラピスの石がふんだんに使われた、落ち着いた雰囲気。


ハーブは主産業な為、沢山の店があるがその中でも高級店なんだって!っしゃっ!


主に落ち着いたブルーと茶で纏められた外観と内装からは言われなくとも高級感が漂う。

細かい彫刻の沢山入った大きな扉のガラスにはお店のマークであろう素敵な紋章が見える。


感極まって、ルシアの肩にポンと手を置いた。

うんうん頷いている私を見て「ヨル、まだお店に入ってないんだけど。」と案の定、ルシアに突っ込まれた。それな。



気を取り直して店内へ。


そう広くない店内は落ち着いた木の色の棚がぐるっと壁を埋めていて、沢山の商品が整然と並べられている。

パッケージも落ち着いたブルーで統一され、店内の落ち着いた雰囲気と共に、華やかだが上品な香りが漂う。

この、香りもハーブショップならではの楽しみだろう。


流石高級店、花の香りって安いと臭いんだよね……………。



目でも鼻でも楽しめる店内をぐるりと見渡し、ルシアに化粧水を作るのにいいオイルを紹介してもらう事にした。


「ヨルはまだ若いから、これがいいんじゃないかしら。」


そうルシアが薦めてくれたのは、お肌のサイクルを整える「ルリ」というハーブのオイルだ。


「いい匂い。」


匂いを嗅いで確かめる。

とてもいい匂いだけど、なんだか私には可愛すぎる気がする。

ティラナには合いそうだけど。


少し他の棚も見ていると、すごく気になるコーナーがあった。

オイルの青い小瓶の中に石のようなものが入っている。


「ねえ、ルシアさん。これは?」


ルシアはそのコーナーにあるオイルの説明をしてくれた。

色々なハーブをブレンドしたオイルの中に、稀少な石を入れて効果を高めているそうだ。


例えば「美肌」というキーワードなら、それに沿ったハーブをブレンドし「美」に関した石が入っている。

しかも石が稀少なので、瓶ごとではなく量り売りなのだそうだ。


え。めっちゃ欲しいんですけど。


見ていると、種類が沢山ある。


「美肌」「美白」「楽」「癒」「若」「幸」「愛」「真」


ルシアに文字の意味を訳してもらったらこんな感じらしい。

覚えられないけど。


でも1番気になったやつを少し貰うことにした。


どれだと思います?それは後でのお楽しみ。

あ、ちなみにこの高級店の支払いはハーシェル持ちです。

「ティラナを助けてくれたお礼」って言ってたけど、中々のお値段…。

教会の仕事をもっと手伝おう、と誓いました。

はい。



そんなこんなでお目当てのオイル、ハーブティー、ドライハーブ、化粧水用の小瓶など色々見繕い、気になっていた桃月草も見せてもらったりして。

私は非常に濃密な時間を、過ごす事ができた。


窓際ガーデニングが出来るように、小さいハーブの鉢も購入したし。

お部屋の中が少し寂しいからね。


そうして気付くと、外が少し暗かった。

道理で店員さんが、店仕舞いの支度をしているはずだ。


この世界では大抵の仕事が暗くなる前に終わって、家族でご飯を食べる。


ホントいいよね、そのくらいの生活。

日本人働きすぎだよ。


そんな事を思いながら、急いで教会に帰る。

きっとハーシェル達は、先に家に帰っているだろう。



「今日は私が料理作ります!」


ハーブの勢いも覚めやらぬまま家に着いて宣言したら、「ご飯だよ~。」とニコニコしたティラナに出迎えられました。

惨敗…。



今日、私楽しんだだけで役に立ってないな??






今回は浮かれ過ぎてテンション高め。



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