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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
188/1973

決戦は地の日


ここの所、私は何だか忙しい。



ミストラスさんは「ああ、舞があるのを忘れてました。」とかサラッと言ってスパルタだし、まだ祝詞の解釈をラガシュに提出できていない。



秘密基地の事も、そうだ。あの子達が働きかけているとは言え私が何もしない訳にもいかない。

でもみんなが何をすれば喜ぶのか、楽しいのか、気持ちが上向きに、なるのか。

分からなかった私はアンケートを取る事に、した。

しかし開始早々、気焔に「この、阿呆が。」と叱られてしまったのだ。


まぁ、「ちょっと駄目かな?」と思わなかった訳じゃ無いけど、仕方無いと思う。

だって、私が考える事なんて限界があるし、常々しのぶからは「あんたの常識がみんなに通用するとは思わない事」と言われていたから。

「みんなの常識」を知る必要が、あったのだ。

だから、しょうがなくない?


でも、戦果は芳しく無かった。



結局、元々考えていた「光を見せること」以外は


「大きい礼拝堂を見せる」→許可必要

「アイプを地階にも」→これは出来そう

「本を読む」→先生の件を進める

「外出」→許可必要


等等。実現不可能なものも多くて、やはり難しさを実感したのだ。

そして結局、これを実行出来たとしても「もしかしたら自己満足なのかもしれない」という思いは拭えない。


またその問題でぐるぐるしたけれど、とりあえずやってから考える事にした。

だって、やってみなきゃ分からないから。

あの子達の為にならない事でなければ、やってみればいいのだ。


そう、私が出来るのは馬鹿みたいに真っ直ぐ進むことだけ。


うん、開き直ったとも、言う。





そうして私は最大のミッションを迎えていた。


この、地の日。

私が勝手に休みと決めている地の日である。


まず、第一にやらなければならない事。

何よりも実行したい、「光」を降らす為には。


そう、超えなければならない難関が幾つか、あった。



「まずは、第一にして最大の関門よ。気合入れなきゃ。」


そうして朝から支度に取り掛かる。


まず、朝風呂だ。


いや?私が入りたいからじゃ、ないよ?

やっぱり、いい香りがした方が攻略は上手く行く筈だ。うんうん、いい匂いでイチコロ………は、無いか………。

まぁ、やらないよりはやった方がいい。


手早くお風呂に入り、お肌の手入れをして着替える。

「可愛い方がいいかな………。」幾つかの服で迷って、手に取った姫様の服。

でも、やっぱりクローゼットに戻す。

何だか…………まだ、無理。


ふんわりとしたいつものブラウスにオーロラのスカートを選ぶと、洗面室に戻りどらいやーで髪を乾かす。

ふんわりと仕上がった白水色の髪に少し、オイルを付けて落ち着かせると編み込みを始める。

ハーフアップにしているけど、気分によって三つ編みを後ろで纏めるだけの時と、編み込みをする日に分けているのだ。

時間があったり、何か特別な日は編み込みにしている。

多分、あの人は気が付いていないだろうけど。


髪が長いから編み込みをして手を離しても、少し解けるだけで反対側もまた編んでいく。

そうして左右が揃うと、後ろで一つに纏め髪留めを着ける。


サラリと変化した、銀灰の髪。


瞳の色も確認し、一つ頷くと洗面室を出る。


今日の計画は外。

礼拝後に朝食の待ち合わせをしている。

部屋でも良かったが、最近何だか悶々する事が多かった私。

一度、外に出てスッキリしたいと思ったのだ。



「なぁに?おめかしして。デート?」


揶揄う様な声を出しているのは朝だ。

きっと、私がどうしてこんな事をしているのか知っている筈なのにちょっと意地悪だと思う。


「そうだよっ。」


むくれた様に返事をして、ローブを手に取ると「いってらっさい」と言っている。

礼拝堂は寒いから行きたく無いのだろう。

その後も気焔と待ち合わせだ。

分かっているから今日はこの暖かい窓辺でお昼寝三昧を決め込むに違いない。


ま、朝にも休みは必要だもんね。


そう納得して「行ってきます。」と言いカチリと鍵をかけた。

そう、私の部屋の扉には「猫用入り口」が完備されたのだ。

どうやら朝がレシフェ経由でウイントフークに頼んだらしいのだけど。いつの間にか、レシフェが作って帰ったらしい。見たかったのに…。



人気の無い廊下に出て朝の空気を確かめると、少し人の気配がある。

いつもより遅いかもしれない。


灰青の廊下を足早に進んで、礼拝堂へ向かった。









「「舞」とやらはどうだ?進んでいるか?」


そう、私に訊く金の彼は今日も何だか艶々している。


色はいつもの金色に戻った気焔は、あの光を取り込んでから益々艶めいて見えるのだ。

でも、これが困った事に「前より輝いてない?」とか「艶々して見えるよね?」とか誰にも、訊けない。


だって…………無理無理。

朝は…………絶対、揶揄うに決まってるし、ベイルートさんだって何だか生暖かい目で見るに決まってる。

パミールやガリアに言ったら大変な事になりそうだし、トリルに話すと流されそう…。


斯くして一人で悶々とする事になった、私。

でも、ちょっと聞いて欲しい事を喋れないだけなので、困る事ではない。

少し、胸の辺りがモヤッと消化不良になるだけである。


それがまた、食事中だから困るんだけど。



今日も食堂の端の方で、美味しい朝食を頂く。


あの後、下拵えがスムーズになったからか益々美味しくなった食堂のご飯。


サラダを突きながら、遅れて気焔の問いに答える。時差がある事を疑問に思わない彼は、そのままスンと、話を聞くのだ。


「まぁね………なんとかなりそうだよ。それにしたって、忘れてるなんて酷いよね…。」


「だが、そう難しいものでは無いのだろう?」


少し楽しそうにそう言う彼。


思うに、この金の石は教わった事をすぐに吸収し自分のものにする事ができる様だ。

今迄、あまり彼の困った所を見た事のない私はそう思って羨ましくなる。私なんて、脳味噌の大半はベイルート頼りだと言うのに。


しかし今回は「舞」だけあって流石にベイルート頼みをする訳にもいかない。

脳味噌に頼らず身体に覚えさせるべく、頑張っている最中なのだ。


モグモグとパンも頬張りながら、どうやってこの後話を切り出そうかと思案する。

一応、「今日は外に行きたい」という旨は伝えてある。


どこで話そう?

あんまり人が来ない所…それでいて、落ち着く場所。


え。一択なんだけど。まぁ、大丈夫だよね………。



タイミングよく、その話が来た。



「で?今日はまた何処へ行きたいのだ?」

「うん、それがね………あっちの神殿がいいかなぁって。」

「うん?何故?」

「いや、だってあそこ落ち着くんだもん。」


「………何か落ち着かない話でもあるのか。」


鋭い。


多分、返事をしなくても気焔は私の表情を読んだ筈だ。ため息を吐いて「今度は何を持って来た。」と言っている。


失礼な。


「とりあえず、ゆっくり話したいだけだよ。」


そう言って、負けじとニッコリ、笑っておいた。

冷たい目しても無理だもんね。ふんだ。

行くもんね。



そうして食後、私達はムードゼロのお出掛けに出発した。







「やっぱり外はいいなぁ。雲しか見えないけど。」


ぷりぷりしていた事など直ぐに何処かへ飛んでいた私は、スキップをしながら石畳を進む。


姫様の靴はヒールだけれど、やはり感覚は変わらないのでスキップなんてお手の物だ。多分、50M走とかも、出来ると思う。

結構、速いよ?



「こら、前を見ろ、前を。」


相変わらず保護者役の気焔はあの仕方のない目をしながらも少し、楽しそうだ。

最近彼も忙しそうだったから、いい息抜きになるといいのだけど。


そう思いつつ、張り切って進んでいたのでもうアーチ橋に差し掛かる。


上から水面を覗き込んで、灰色に流れる川を観察すれども変化は見えない。

まぁ、急に青くなったりしても困るんだけど。



「ほら、行くぞ?」

「はぁい。今日は急がなくても大丈夫だよ…。」


そう、実は今日はお弁当持参。

テトゥアンに頼んでおいたのだ。

フフフ………だからゆっくり、神殿も見れるよ…。


怪しい笑みを浮かべながら、青ローブの背を追ってアーチを駆け上がった。






「とりあえず、その池が見たい。」

「うん、こっち。」


気焔がそう言い出す事は分かっていたので、回廊横をぐるりと迂回する。


今日もギリギリで雲しか見えない、島の端。

神殿は静かに佇んでいて、その姿を眺めつつ、端の方を気を付けながら歩く。同時に地面の終わりも愉しむのだ。



「よく、これが埋もれなかったな。」


背後の独り言を聞きながら、私はあの池を早く見たくて少しずつ早足になる。

実はあの時、私は石を全て取った訳ではない。

多分、そのままならば(いろどり)の良い石達が私たちを迎えてくれる筈なのだ。

それが気になって自然と早足に、なる。



そのままぐるりと、神殿の円窓の下に急いだ。




「あれ……………?」


私の目は直ぐに円窓の下の水面を捉えたのだけれどそこは何かが、違う。

池は今日も綺麗な水をもこもこと湧き上がらせているが、その水面に色彩は、無い。


「えっ?」


慌てて駆け寄るが、やはり、無い。

そこは、唯の池だ。

いや、水は滑らかに水面を押し上げ今日もこの灰色の大地を潤している事は違い無いのだけれど、色を、失っていたのだ。


「灰色だ……………。」


「うん?何色だったのだ?」


後から来た気焔が覗き込む。



これって………。


どっちだろう?

もし「私が歌った効果が切れた」とかなら、いい。問題無い。

ただ、レシフェが持っていった石を確認する必要はあるけれど。


でも、もし。


「誰かが、持って行った」だったら……………?



くるりと、隣の金色を見る。


フードを脱いだ彼は今日も金髪が煌めいてキラキラと、美しい。

綺麗なもの、在るな…………。


外で見ているから、余計だ。


いや、それは今いい。



え~。

言わなきゃダメだよね?

もし、誰かに持って行かれたとしたら。

どうなる?



私がぐるぐるしているのに気が付いた気焔は、そのまま金の瞳で私を捉えて離さない。

もう、ここに来た目的を話せという事だろう。


とりあえずもう一度、池の中を確認する。


「ねぇ。何も、見えないよね?無いよね?」

「うん?池の中か?………そうだな。」


別に、私に見えなくて気焔に見える、と思った訳じゃ無い。

でも何となくそれを確認して、私は立ち上がりローブを叩いた。



「とりあえず、中で、話そう。なんか、落ち着かない。」


ぐるりと辺りを見渡した気焔は頷いて、私の手を取った。



灰色の瓦礫、灰色の川、変わりなくそこに在る、旧い神殿。

見た目にはこの前と違わぬように見える、その様子。


ここは、大丈夫な筈なのに。



前回と、違う………?



私の前を迷わず進む、青いローブに金の後髪。


不安な気持ちを補う様に、ローブに触れる距離で後へ続いた。









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