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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
171/1941

図書室の赤ローブ


あの後、石に力を込めて、帰る時にはもうハーゼルは見当たらなかった。


結局、「何処に行ったのか」を聞いてあの人が出てきても嫌だった私は帰り道クテシフォンと二人で、ホッとして歩いていた。

少し、彼についての話を聞くか迷ったけど(何だか怪しんでるみたいだったし)とりあえずは気焔とレシフェに聞いてからにしようと、そのまま当たり障りの無い話をして帰った。

………まだ、少し怖かったのも、あるし。


あの人………悪気が無くて「アレ」だったら、かなり問題なんだけど。

違う意味で、気焔に話すのは怖い。

でもレシフェはそうそう、会わないしな………。






珍しく一人で昼食を食べた私は、午後は図書室に行く予定だったのでそのまま向かう事にした。


この前、階段で見物人が出た「あの件」から、そう注目を浴びる事がなくなったので楽は楽なのだが、世間の関心が気焔に行っているのか、それとも「あっち」に行っているのかイマイチ判らない。

今度パミールかガリアに訊いたら知っているだろうか。

でも「あっち」だったらどうしようかな………。

いや、考えるの、止めよ。




そのまま深緑の廊下を歩いて、図書室の扉を開ける。


今日も静かな落ち着くその空間は、古い本の匂いがして違う世界なのだけれど、懐かしさを感じるのだ。

本の匂いは万国共通なのだろうか。


紙とかも、ちょっと違うんだけどね………。



つらつらと本棚の間を歩きながら、お目当ての本を探す。

今日はミストラスに聞いた歴史について、調べる予定だ。祝詞の解釈もイマイチの私は、あの歴史が気になってそこにヒントが有りそうな気がしていたからだ。



どこら辺だろ………。

文字が…………あ、あれかな。


「あっ!」


「あっ…?」

「あ、すみません!」

「……………。」


え。無言。どうしよ。


完全によそ見をして歩いていた私は、ガッツリ誰かにぶつかってしまったのだ。

が、多分彼も前を見ていなかったに違いない。


驚いて目を見開いているけれど、何故か、無言だ。


ん?髪留め、付いてるよね……………?



細く編んだ三つ編みの上に付けている髪留めを触りつつ、その赤いローブの人を見上げる。

とは言ってもそう、背は高くない。

赤いローブから茶色の髪が覗く彼は、赤のネイアだろう、ローブにはラインが入っていない。


とりあえず、私は謝った。

行っても、いいかな…………?


あまりにもその人が動かないので、どうしようかと思ったが私にはどうしようも、ない。

具合が悪そうな感じもしないので、ちょっと会釈をして通り過ぎた。




「あ………これかな?歴史………??」


一応、辞書で文字の形を覚えてきた筈なのだが私のポンコツ頭はさっきの衝撃で忘れてしまったのだろうか??

そう思ってしょんぼりしていると、「歴史ですか?」という助け舟が来た。


ん?でも声が違う。


いつもの、ダーダネルスの声じゃない。

不思議に思って振り向くと、さっきの赤ローブのネイアだ。

この人から声を掛けられて、やはりネイアは私が銀でも声を掛けられるのだと、解った。

まぁ、ハーゼルはその辺気にしてなさそうだけどね…。



赤ローブの彼は結構、若い。

レシフェより少し上か、そのくらいだろう。

親しみのある青い瞳に肩までの茶色の髪。サラサラのストレートなのが、珍しくてついまじまじと見てしまった。


その、まじまじと見ている相手からもまじまじと見られて気が付いた私。

とりあえず自己紹介する事にした。名乗っておかなければ、不便だからだ。


「………あの………?銀のセイア、ヨルと申します。本を、教えて頂いても?」


「あ、ああ、セレベスです。いや、赤のネイア、セレベスです。以後、お見知りおきを。」


ん?

このタイプの自己紹介始めてされた!

なんか、いいな?



この図書室にぴったりの雰囲気で名乗った彼に親しみを覚え、早速質問をした私。


快く引き受けてくれた彼は、図書室のネイアなのだという。

その、図書室のネイアとは何だろう?

それも合わせて聞いてみた。


「大体、力と図書、運営で割り振られているんですよ。ミストラスやウェストファリアなんかは違いますけど。」


ああ。それはなんか分かる。


彼の言葉に頷きながら、本を選んでもらう。

出来れば、読める字のやつがいいんだけど………。




実は、青の本曰く「青の本の中にも歴史の事は書いてある」のだそうだ。


しかし、図書室でペラペラ喋る訳にもいかないし、青の本はセフィラの書いた本だ。

多分、彼女目線なのでもしかしたら一般に知られている歴史と違う部分が多いかも知れない。

多分、ミストラスが教えてくれたのは一般的な方だろう。

まず、みんなと認識を合わせてから勉強をしようと図書室へやってきたのだ。



「失礼ですが、古語が…………?」

「あ、はい。恥ずかしながらまだ勉強中です。」


何故だか嬉しそうに微笑んだ彼は、お薦めの一冊だと歴史本を手に取り、セイアの席に向かって歩き始めた。

多分、あれは古語の本だ。


もしかして、説明してくれるのかな?


少し迷ったが、本人がそのつもりならば有難い。いつもダーダネルスにばかり付き合ってもらって、申し訳ないと思っていたから。



そうして私は自然に席についた彼の、隣に座った。







よく考えると、この人ハーゼルと知り合いだよね………。


ひと段落して、彼が先を読んでいる間ちょっと考え事をする私。

年の頃もそう違わないのでセイアの席に馴染んでいる彼。ハーゼルも、一番若いと言っていたし赤のネイアは若いチームなんだね?二人なのかな?


「おや。絵が上手ですね。」


私がメモ紙に赤ローブ(とは言っても赤ペンじゃない)の絵を二人、落書きしていたのを見られてしまった。

不真面目な生徒だと思われたかな………。

まぁ、いいけど。


「すいません………それで、あの「神」って………。」


この世界ではどういう存在ですか?


そう、訊きそうになって危うく踏み止まる。


やはりミストラスが言っていたのと同じ様に、この本にも

「争いが起こり大地が荒れ、神がそれを平定し大地を無に帰した」

と書いてある様だ。


私の感覚で言えば、「神様がパーっと天から現れて大災害でも起こして全部流す」様な雑な解釈になるのだが、この世界での神様の扱いはどの様なものなのだろうか。

そして、デヴァイの人間全員が自らを「神の一族」と本当に信じているのか。


この人、セレベスはどう思っているのだろう。



返事をじっと、見つめて待つ。



でも、少しワクワクしていた私とは裏腹に彼は少し困った顔になりつつも段々と顔が赤くなってきた。


ん?大丈夫?私何か変な質問したっけ?


また、彼が固まってしまったので少し自分のメモを纏め直しながら返事を待つ。

どんな答えが返ってくるだろうか。




「神は、「別の扉」から現れると言われています。」



思わず「えっ?」と言いながら凄い勢いで彼を見たので、少し退け反らせてしまった。


でも、それどころじゃ、ない。


「別の、扉?」

「そう。まぁ実際どうかは誰も分からないんですけどね?そう、大体の文献には書いてあるんですよ。「他の扉から神が現れて、世界を平定する」とか、まぁ、色々。」

「えっ。その「無に帰す」以外も色々やってるんですか?神?」


「いや、まあ争いを止めて無に帰す、だから一緒かな?その時しか、現れない様ですが。流石にね。」


そうか。

それはよかった…………何でか分かんないけど。


でも、扉って、「扉」?

うちの白い部屋の扉とは、違うんだっけ?



そういえば、何処が、どう繋がっているのか私は知らない。

結局グロッシュラーに来るのだって、中央屋敷から来た。彼処の、神殿の扉。

あれも「扉」では、ある。


白い部屋と、同じなのかな?

何かこの問題で以前も考えた事、ある…?

ん?いや…………無い?でも無いのも、おかしいよね?



「それで、無に帰した土地はまた「空」に祈って再び栄えるんだけど………。」


私がぐるぐるしている間も、セレベスは説明をしてくれている。


うん、栄える………緑があったんだっけ?

それで、何でないままなんだろう?

「無」に帰す?でも、川はあるよね………。

そういや、あの川の始まりって何処なんだろう………?



「最後に神が来た時に、何度も同じことを繰り返す人間に怒って、永遠の無にされ、本当はこの島も消える筈だった。しかし、それを長が安定させてこの島が保たれた、と言うのがここの歴史ですね。」


「………ここの。歴史。」


うん?グロッシュラーだけなの?………でもそうか。他の扉は影響無かったのかな?

あー、でもデヴァイの嫉妬からそうなったんだったら、ここが戦場になったからそうなったって事か………。酷いな、悪の巣窟。


「ヨルは………歴史に興味があるのかい?」


段々敬語が取れてきたセレベスは、私にも少し慣れてきたのか本を置いて、頬杖をついて私を見ている。

フードを脱ぐと、更にストレートの茶色の髪がサラサラと美しく流れて、ちょっと触ってみたくなる。

いや、やらないけど。


「私、ラガシュさんから課題を出されていて。雪の祭祀の祝詞なんですけど、解釈を聞かせてくれと言われています。何だか内容が歴史を知っている方が理解出来そうな気がして、ちょっと………。」

「そうだね。知っているのと、知らないとでは少し違ってくるかもしれない。君は…………。」


何か、言いたそうなセレベスの青い瞳を見ながら祝詞を思い出していた。


戦闘、氷の刃、何かを、斬り開く。


何を、斬り開くんだろう………?




「失礼。ヨル、大丈夫ですか?」


その時、私を見つめる青い瞳と、ぐるぐるしている私の間に割り込んで来たのはいつもの白いローブだった。



今日は見つかるの遅かったね?


私が図書室に行くと、何処からともなく現れるダーダネルスが今日はいなかったので何か用があるのだと思っていた私。

いつもの図書室になった感じがして少し、ホッとした。

やはり初対面の人に教えてもらうのはネイアでも少し、緊張していた様だ。


「セレベス、良ければ代わりますよ?お仕事があるでしょう。」


丁寧にセレベスを追い払うダーダネルスを見ながら、上級生にもなるとローブの色がものを言う様を見せつけられて、少し驚く。


ネイアだとか、年齢関係無いんだね………。



仕方のなさそうなため息を吐いて本を片付けると、セレベスは立ち上がり席を譲った。


「では、ヨル。頑張って下さい。大体、歴史はそんな感じです。」


「ありがとうございます。忙しいのに………。」

「いいえ。こちらこそ楽しかったです。ありがとうございます。」



最後、「楽しかった」の所をダーダネルスに向かって言うと、踵を返した赤ローブは本棚の間に消えて行った。







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