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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
159/1936

気焔との相談


「ホント、寒くなってきたな………。」



灰青色の館も勿論、寒くはないのだけれど、この所のお風呂へのお湯張りに少し時間がかかる事に気がついていた私。


こうしてマスカットグリーンのお湯に浸かっていると、全く感じないのだがやはり雪が降る日は迫っているのだろうと、思う。

手のひらから溢れるお湯を眺めながら、この所の色々を思い出していた。



トリルと仲良くなった事。

パミールやガリアとも友達になって、楽しい事。

午後は造船所にも行って、みんなの顔色も良くなってきたし、少しずつほんの少しずつだけど、グラーツも話してくれる様になってきた。

きっとシリーのお陰もあるだろう。


シリーは、あの後「お友達っぽく」とか、彼女にとってはよく分からない提案をした私に戸惑いつつも良くしてもらっているし、私も行かなくても造船所の事が分かるのが有難い。

結局、ラピスに帰りたいかどうかの質問はまだ聞いていない。


「あの感じ見てたら、言えないよね………思ってても。」


マスカットグリーンの波を起こしながら、造船所の様子を思い出す。

姉の様に、母親の様に慕われているシリー。

多分、訊いても「帰りたい」とは言わないだろう。きっと、帰れない子供の方が多い筈だから。


「やっぱり、扉を繋いでザフラに来てもらう方がいいな………。」


今の所、全く、その道筋は判らないし、見えないんだけど。


「なーんか、ヒントとか、無いのかなぁ。」


ちょっとぐるぐるしていた私の頭の中に、急にウェストファリアが言っていた言葉がパッと出てきた。


「空の、名残」


名残?

って、やっぱり昔は空があった事を言ってるんだよね………?そういやベイルートさんが「文献に残ってる」とか言ってたな………それ系かな………。

全部調べるのは現実的じゃない………ベイルートさんに訊いて、駄目だったらもう白い魔法使いに聞いちゃお………。



「駄目だ。のぼせる。」



ゆっくりお湯から出て、身体を拭き、支度をする。


「何か、今日は色々あったな………。」


階段ではみんなの注目浴びちゃうし、ダーダネルスが祈りの絵の本を読んでくれて、ラレードが絡んできて、ラガシュ………ああ、解釈やってない………。

うん、この話は今日終わり。


両頬を化粧水の手で挟んで、香りを嗅ぐ。


リラックス、リラックス。


目を開け白く綺麗な壁とキチッとした四角い鏡を眺め、小瓶の蓋を閉める。

オイルまでゆっくり、ハンドプレスでお肌に蓋をすると鏡の前に置かれた髪留めがキラリと光った気がした。


そういや、シンは普段何してるんだろう?


礼拝でたまに見るくらいで、授業を受け持っていないらしいシンには殆ど会わないのだ。

忙しくしているからあまり気にならなかったけど、気が付いてみると少し、寂しい。


前みたいに、して欲しい訳じゃないけど何だか少し、寂しいのは贅沢だろうか。


エローラに言ったら、「乙女心が揺れ動くのは当たり前よ!」って言いそうだけど。



一人、クスクス笑いながら洗面室から出ると、月明かりか、薄明るい夜の中に光る金髪があった。


「あれ?今日早いね?」


いつも寝る少し前くらいに来る、気焔にそう言いながら寝室の扉を開ける。

寝室で待ってていいのに、と思いながらもきっと彼なりに何か考えているんだろうと提案するのは止めておいた。

そうしたいのなら、そうしている筈だから。




私に続いて寝室に入ったものの、宝物置き場の前で何故か佇んでいる気焔。


出窓の横にある、私のキラキラコーナーだ。

朝が居なかったので、私も久しぶりに出窓に座った。


うん。フカフカして、いい感じ。

宝物も見えるし、もらってきた生地も可愛いし、キラキラの金髪も綺麗。ローブが無いと、やっぱりよく見えていいな…………。



多分、頬杖をついていたから山百合に触れていたんだと思う。

振り返った気焔がこう言ったから、また私の顔が赤くなってきてしまった。


「お前が好きなのは、この、金の髪なのか?」


そのまま、私の隣に座る。

窓からの明かりで、余計に透ける金髪が綺麗でただ、見惚れてしまう。


こういう時、感じるんだ。


彼が金色の石だって。



凡そ人とも思えない、その美しい瞳と造形、この雰囲気。

何者にも侵されない、この金色の石が羨ましくも思う。

いつも、側に居て、私を支えてくれるこの石。


「人だったら…………。」


いいのに。


そうしたら、ずっと一緒にいられるかな?




「何であっても、変わらんよ。」


私の言いたい事が、分かったのだろうか。



静かな、二人だけしか居ない白い部屋、冬の夜。

窓からの明かりに雲が流れているのが分かる。

白い床に流れる濃く、薄い、影と黄色の光。


いつの間にか金色の石からはまた、瞬く黄色の星たちが飛び出していて、あの彼が燃えた日の事を思い出す。


「綺麗だったよね………。」


そう、ポツリと私が呟くと徐ろに金の石は話し始めた。


「お前は初めから吾輩の事を綺麗だと言ってくれたな。そうしてその瞳で見つめられると、あの屋根の上を思い出す。」


そう言って、私の瞳を覗き込む金の石。


あの時よりも、大分変わってしまった私の瞳の、色。

私は何も、変わっていないのにどんどん変わっていく私の、色。


少し、瞳が翳ったのが分かったのだろう、ほんのり金色に包まれた手が伸びてきて私の髪を梳く。


その手がまた少し山百合に触れて、私は私の、「変わった事」を思い出した。


顔がまた少しずつ、赤くなるのが判る。

頑張って、他の事を考えようとするのだけれど目の前の輝きには抗えない。



え…………どうしよう。



まじないでもかけられているかの様に動けない自分の身体を不思議に思いつつも、目の前の金色の瞳を見つめていた。


そう、金色の、瞳。


金色…………。

金…………黄色の…………。


「あ。」


黄色。あった。


「ねえ、気焔、黄色の光だよね?」

「は?」

「いや、白い魔法使いがさ、祭祀で光が出るって言うからさ………。」


「…………ハァ。」


え。

何で?

そんなため息吐くような内容?


金髪をクシャクシャしながらも「それで?」と私を見る金の瞳がやっぱり綺麗で、何だか嬉しくなった。


「フフッ。私の光が、一番綺麗だよきっと。」


そう言った瞬間、何故か私はフワリと金の光に抱えられてそのままベッドに寝かされる。

「うん??」とか言っている間にスルリといつもの定位置に収まった金の石は、肘をついて私の話を聞く体勢だ。


何で?ベッドじゃなくて良くない??


そう思いながらも、とりあえず私の計画を話して聞かせた。

何か、目的があって運ばれたのかと少し彼の瞳を見ていたのだけど、ちょっと目を細めて「あの瞳」をされたから、早い所話を逸らす必要があった。

うん、また弾かれるといけないし。



「しかし…………。まぁその日は吾輩居らぬでも怪しまれんと思うが。」

「うん。やっぱり、それ以外の色にはならない方がいいんだよね?」

「まぁな…………。」


「しかし…………いや、でも危険は無いか………。」


何かまだ一人でブツブツ言ってはいるが、多分了承はしてくれたと思う。


そう、私は黄色い光を気焔に頼んだのだ。


それは、彼が腕輪の石に戻る事を意味する。



正直、何が起こるか判らない祭祀に気焔がいないのは不安だ。

でも、もし大勢の人の前で私からまじないと同じ色の様な多色の光が出てしまったら。

多分、ウェストファリアはその事を心配しているのだ。基本的にまじないの色がそのまま光として出るのであれば、一色で違う色ならまだしも、多色の光が出るのはかなり、まずい。


多分、イメージでいけるとも、思う。


でも万が一。

万が一、何かがあって失敗したら。


ここの人達全員にまじないをかけるのは現実的じゃ無いし、シンが助けてくれるかは分からない。

確実な手があるのなら、使わない手は無いのだ。



結局、ぶちぶち言ってはいたがやはり気焔もそれが一番だと思ったのだろう。


「何かあれば上手いこと出る。」


そんな微妙な事を言って、私にフワリと布団を掛けた。





「それよりお前、アレを、どうする。」


「え…………?アレ………?」


半分寝る程だった私は、気焔が何の話をしているのか分からない。

何か、出窓の隣の棚を見ている気がするのだけれどここからだとよく、見えないのだ。


全然こっちを見ないので、仕方無く彼の上にヨイショと両手を乗せ棚が見えるよう起き上がる。


もしかして、アレ?


さっきは棚の前に立っていた気焔の陰で見えなかった金色のコンパクト。

あの、銀ローブの彼に貰ったコンパクトを一緒に並べておいたのだ。

結局どうしていいものか迷ったけど、私の中で「コンパクトに、罪はない」という事になり宝物の棚に並ぶ事になったのだ。



下を見ると丁度目が合って、「アレだよね?」と目で言うと「そうだ。」という顔。


やっぱり?

駄目?

でもどうやって返そう??


ぐるぐる一人でそのまま考えていると、くるりと上を向いた彼にそのまま、抱えられる。


ち、近いんだけど…………。


すぐ下で金の瞳に捕らえられて、落ち着かない。


そのまま胸の上にパタリと顔を隠し、ホッとすると頭上から声が響いてきた。

静かな、小さいけれど有無を言わさぬ声。

それを聞いて、怒ってはいないのだろうけど不機嫌なのが分かって何だか胸がキュッとした。



「きっと返すにしても受け取るまでが大変だろう。そのままでも良いが、あまり、愛でるな。」


なにそれ。



急に、この大きな胸が可愛く思えてきて、頰を付け潜り込む仕草をする。


暫く、そうしていた。


猫みたいに。




そうしてもう暫くすると、盛大なため息を吐いた金の石はくるりと私を自分の胸からベッドに下ろし「もう、寝ろ。」と言う。



ブワリと大きな焔で私を包むと、いつもより何だか熱い気がしたけど丁度いい塩梅に感じられてきて、すうっと、眠りについた。








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