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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
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モヤモヤを吹き飛ばせ


「何、難しい顔してるんだ?」


向かいに座る、ランペトゥーザにそう言われ自分がまだモヤモヤしていることに気が付いた。



しばらくそのまま図書室でボーッと座っていた私は、鐘の音で我に返りこうして食堂にやって来た。そのままボーッとカウンターでお皿を取り、座ったら背後にいたランペトゥーザも一緒に座ったのだ。

ずっと後ろで並んでいたらしいのだが、全く私が気付かなかったのでちょっと面白かったらしい。

まぁ、楽しさを提供できたなら、良かったんだけど。


「何かあったのか?図書室だろう?」


大きな口で肉を頬張りながら私を心配する様子が可笑しくて、ついついクスクス笑ってしまう。

ちょっと膨れる彼がまた面白いのだが、とりあえず心配してくれてるのだから、そう笑ったら悪い。


「ごめん。ありがとう。」


ランペトゥーザのお陰で多少気持ちが軽くなった私は、お皿に手をつけていなかった事に気が付き食べ始めた。


今日も午後から造船所だし、きっと窓が出来ている筈。腹が減ってはまじないが出来ぬだよ………。



そんな事を考えながら、暖かいスープを飲んでいた。

そういえば彼は何を研究するか、決めただろうか。向かいの銀のローブに入る青いラインを見ながら、つらつらと考えていると、逆に質問をされてしまった。


「で?ヨルは研究の事で悩んでるのか?何かいい資料は見つかったか。」

「うーん、一応、予言についてやろうとは思ってるんだけど…………。」


「ふん。予言か。あれはしかし研究し尽くされているだろう?何か気になる所でもあるのか?」


ふーん、こっちではそういう認識なんだね………。


「うーん、まだ分かんないけど新しいアプローチが出来たらいいな、とは思ってる。」

「そうか。まぁそれもいいかもな。ちなみに僕は古いまじないについて、研究する。」

「え?古い、まじない?」

「そうだ。何故、ここは空にあって浮いていると思う?僕は今のまじないでは不可能だと思う。だから、昔は今はもう無いまじないがあったんじゃないかと考えているんだ。」


「…………何それ…………凄く、いい。」


ランペトゥーザの言葉に思わず手が止まり、彼の青い瞳をガッチリ、見つめた。

彼は私がそんな反応を示すと思わなかったのか、驚いて手が止まっている。


「えー、ウソ………それめっちゃ気になる‥正直参加したいけど、私には時間が無い………かもしれない?でもな…………。」

「もしかして、ヨルは興味があるのか??」


パチクリして、私に尋ねるランペトゥーザ。

何で、そんな事聞くの?


「当たり前じゃん!誰もが気になる所じゃないの?それ?え~、まじないもいいよね………私の研究が早く終わればそっちも手伝いたいくらいだよ………でもな………終わりが………さっき見えなくなった所で…………。」


「何言ってるんだ?でも、ヨルが手伝ってくれるって言うなら、名前を挙げておいてもいいか?」

「ん?」

「いや、ネイアに提出しに行くだろう?決まったら。ヨルの名前も書いておけば、協力しても何も言われないだろう。本当に手伝ってくれるのか?」

「あの、あんまり時間は取れないかもだけど、やる気だけは凄く、あるよ。」


何だか笑いながらランペトゥーザは言う。


「大丈夫だ。元々一人のつもりだったし、まさか同じ事言う奴がいるとは思わなかった。大体この話をすると鼻で笑われるからな…………。」

「ええ?何で?」


「「そんな荒唐無稽な事あるか」って言われるんだ。このデカい島がまじないで浮いてるなんて。皆、ここはここ、元からある、ってそれしか言わないんだが、そっちの方が意味が分からなくないか?」

「確かに。」


分からない物事に対して始めからサジを投げていたら、何も始まらないと思う。

でも何故だか「考える」事が嫌いな人は、いるのが事実だ。


ま、私達が楽しければ何だって、いいんだけどね。


「それにヨルにはどちらかと言えば………力を貸して欲しいんだ。恥ずかしい事だが僕はあまり力が強くない。僕一人では実験するにもきっと限度がある。」

「ん?力?」


始めは、何の事を言われているのか分からなかった。でも、彼の視線の先が私のローブにある事に気が付くと合点がいく。きっと私の黄色のラインを見ている、ランペトゥーザ。

でもそれはウィールで学んだ、「自分に合わせたまじない」でいい筈なのだ。


「大丈夫。それぞれ役割があるから。ランペトゥーザは細かい制御担当でしょ?私はドーンとやればいい。適材適所よ。」


そう言ってパンを頬張り出した私をポカンとして見つめるランペトゥーザ。

でも私の食べっぷりを見ると笑い出して、「だな。」と言い、また肉をフォークに刺す。


野菜もちゃんと食べなさいよ…………。


そんな事を思い、しっかり注意もしながら、その後も楽しく食事をしたのだった。









「フンフ~ン♫」

「御機嫌だな。」


クテシフォンにそう、言われながらもちょっとスキップしそうな勢いの私。


午前中に図書室で散々ぐるぐるしたので、これから窓を作る事ができるのが、本当に嬉しいのだ。



ここでは、歌うなって言われてるし?

色も隠さないといけないし?

出来ればあまり力も見せない方が、いい。


そんなあれもこれも、駄目と言われている私に突然降ってきた、何だか難しそうな、課題。


古語の翻訳。

祝詞の、解釈。

からの、偶像の、意味…………。


分かるかっつーの!



大きなため息を一つ吐いて、足取りが普通に戻る。

規則正しく足を動かしているうちに、少しだけ前向きになってきた。というか、造船所が見えてきたのだ。

そう、ラガシュも祝詞は訳せば何か分かるって言ってたし、祭祀もやれば意味が分かるって言ってた。今悩んでも、しょうがないよ。そうそう。


とりあえずは、窓だ、窓!


そうしてウキウキ、大きな扉を開けたクテシフォンの背後からついて行った。






「強度はどうですか?」

「ここは殆ど何も降らんからな。大概の事は大丈夫だと思う。」

「流石ですね………この模様は?」

「ナザレに入れてもらって、ここに力が通るようになっている。目隠ししたい時力が弱くても出来るように細かく区切ったんだ。」

「へぇ~!凄い!確かに、暑い日とかは閉じれるといいですよね。そんな事まで考えてくれたんですか?頼んだ以上の事迄やってくれるなんて、流石過ぎます。それに、この区切り方のセンスの良い事。」

「それはナザレだ。」

「流石ですね!ただまじないを通すだけでなく、芸術性も重視!言う事なし!」

「褒めすぎだよ……………。」


「お嬢、その位にしておけ。」


シュレジエンに止められて、まだまだ言い足りなかったけれど全員の手がまた止まっていることに気が付いた私。

チラリとデービスを見たけれど、相当私が褒めたので機嫌を良くしている様子。子供達の事は気にして無さそうだ。


「今日はこれを上に取り付けるんだろう?どうやるんだ?」

「…………えーと。くるくるっと、ヒョイですよ。」

「は?またよく分からん、アレか?」

「まぁそうですね。」



あの後、少し子供達にまじないの使い方を教えた私。

でも私のまじないの使い方はやや特殊な様で、同じ様に「チョチョイと」出来た子もいれば、全く駄目で今迄のやり方でやっている子もいる。

でもどちらかと言えば、小さい子の方が「チョチョイと」やるのは上手い。多分、発想が柔軟なんじゃないかと思ったのだが、いつか研究してみたいものだ。

ウェストファリア辺りに言っておけば、調べてくれないかな?


特に大人達は全然駄目だった。

私が見本を見せて、子供達が出来始めるとそれを見ていた大人達もみんな、真似して試し始めたのだ。

でも、結局誰も出来ていない。



何となく思うんだけど、この世界は自由度が低いから発想力が伸びなそうなんだよね………。


デヴァイ然り、グロッシュラー、然りだ。

閉鎖的なこの島。

人だってそんなに居ないし、神官か、お城か貴石か………あとは下働き?とか?

職業選択以前の問題だ。

そもそも殆どの事が始めから決められている事が多くて、「自分で考える」必要がある事柄が、どのくらいあるのだろうかと心配になる。


良かった………私、ここかデヴァイに生まれてなくて。


そんな事を思ってしまったけど、そう考えるとやっぱりセフィラは凄いと思う。

デヴァイで生まれて、そんなに行動的なんて………お母さんか、お父さんが変わってたのかな?

ん?そういえば青の家問題?…………ま、後にしよっと。



目の前に用意されているのは窓枠に嵌った、まじないで出来たガラスの、窓だ。


大きさは結構大きい。

私のベッドより少し小さいくらいだから、小さい子供なら寝れそうだ。


濃い灰色の窓枠に嵌るガラスにはナザレが入れた網目模様が入っていて、大きな蜘蛛の巣の様な美しい模様だ。どうなっているのか見ただけでは分からないけれど、金継ぎの様な、パーツをつなぎ合わせている様な形に見えるそのガラス。


何だかヨークのガラスにも、似ているなぁと思った。もしかして………と思ったけど、ナザレは知らないかなぁ…。

もうちょっと、人がいない時に聞いてみよう。

今は、結局全員が私達の方を興味津々で見ていたからだ。



「では今から、お嬢が窓を作る。子供達はこっちへ来い。一応、何かあるといかん。」


シュレジエンがそう言って子供達を安全な端の方に誘導する。

私が天窓を作るのは、中央辺りを予定している。

丁度、船の真上だ。


大きな窓を船上へ上げてもらって、あとはみんな少し離れて見ててもらう事にした。

正直、失敗というか何かが落ちてくるとは思えないのだけど念には、念を、だ。


「で?結局、お嬢はここに窓を作って何がしたいんだ?」


そう、シュレジエンが問う。


「え?今更ですか?…………それはできてからの、お楽しみかなぁ。」


天井を仰いでそう言うと、諦めた様にみんなの所へ合流するシュレジエン。

それを確認して、さて。


やるか。



「やっぱり、宙?」

「そうだろうな。」


ベイルートが答える。


「じゃあ宙、お願い。」

「かしこまりました、姫様。ではいつもの様に、作りたい物を思い浮かべて下さい。」



はーい。

作りたいものね………?

窓よ、窓。

とびきりの、優しい光が降り注ぐ、窓。

勿論、耐久性も大事。でもあの二人がきちんと手を入れてくれた。しかも、とても美しくだ。


私はナザレの絵も、仕事も好きだ。

職人の、仕事。きちんと依頼主の事を考えた、合理的で且つ美しさも共存する、品物。

うん、いいよね………。


なんだかんだと嫌そうだったけどきちんと仕事は仕上げてくるデービス。

しかも注文を聞いて、依頼主のニーズを読んだプラスアルファの仕事だ。

プロだね。やっぱり。

今度何か別の物も、頼んでみようかな………。


うん?そういや、報酬………。

何が、いいかな?

後で聞いてみよう。


彼等が何を欲しがるのか、それも楽しみだ。


さて、美しい窓君よ。

時間だ。


あの空に嵌って、私達を明るく照らしておくれ?



「「上がれ。」」



目を閉じたまま手を動かし上昇を示す。

高く。高く、天井迄だ。


さあ、着いた。

次は空を見せておくれ?

どんな空だ。今の、空は?


そうして右手をフイと振り上げ青い光の玉を飛ばす。

身体が軽い。


少し、ステップを踏みながらくるりと回り両手を上げた。


「「開け。窓よ。」」


スッと身体から力が引き出され、とても気持ちが良い。





その時、結構な爆音が響いて私は我に返った。


一瞬、目を開けて確認するとその場の全員が爆音に目を瞑り、手を耳に当てている。


ただ、一人を除いて。


あの子……………。



私とその男の子の目が合った瞬間、もう周りのみんなも目を開き上を見上げていた。


感動して上がる歓声、飛び上がる子供達。

大人達も口々に感想を言っていて「信じられない」と言っている。


ウソだと思ってたのかな………?



柔らかく降り注ぐ、光の下。

明るくなった船の上をぐるりと、辺りに何も落ちてない事だけ確認して、また目線を戻す。


やっぱり、まだ見てる。



辺りの浮き足立つ雰囲気を感じながら、私とその、男の子だけが少し別世界の様に佇んでいた。


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