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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
135/1939

ウェストファリアと青の本


「空の、色ですか?」


私の問い掛けを聞いていないのだろう。

ウェストファリアは紙に何か、絵を書いている。


丸?棒?矢印………丸…。

全然分からない。


とりあえず解読は諦めて、彼が傍らに置いた青い本を手に取りパラパラとめくる。

厚手の薄茶の紙の感触が、何ともいい味のこの本は手書きだろうか。印刷とは違うインクの様子をじっと、検分する。所々の濃淡が美しい、青いインクを何処かで見たことがあるな、と思った。


しかしやはり、文字は読めない。でも途中に絵があって、ピタリと手を止めた。



これ………あの、円窓?


見た事のある、丸い形と雫が組み合わさった様な形。この神殿では、あまりこの形の装飾は見ない。多分旧い神殿のものだろう、見取り図の様なものと円窓の下の階段の図がある。

でも、その絵には私が休んでいたバルコニーは無い。


この本、いつ書かれたものだろう?この時は無かったのかな?


明らかに後から設置されたであろうあの、通路を塞ぐベンチ。あのバルコニーの凹みも祭壇かと言われるとそんな気もするし、違う気も、する。


ただの飾り………?うーん。


またパラパラとページを進める。殆ど文字だが、所々に草花の絵がある。グロッシュラーにも、昔は存在したのだろうか。

そうしてページをめくっていくと、最後の方にこの都市の見取り図の様なものが、あった。


「ようなもの」というのは、今とは違う部分が多いからだ。



その本の中に存在するのは旧い神殿、川、石の城、天空の門だけ。

あとは、小さな丸が点在したり固まっていたり。何の印だろうか。


聞いたら、教えてくれるかな?


顔を上げるとウェストファリアはまだ絵を書いているが、大分出来たようで私の事をチラリと見た。そして「分かるかな?」と言った。


ええ、全然分かりませんとも。


多分、顔に出ていたのだろう。

私の顔を見ると、彼は説明を始めた。



「これはお前さんの力の色と、その変化を表しとる。これは私が感じた色。こちらがまじない道具からの、色。これらはほぼ同じだ。だが、この前の空の光、あれは青が強い。それが空からの力が影響していると証明したいのだがさて、どうするか……………。」


ん?空からの力の、証明?

そんな事、出来るの?

ていうか、それ協力して大丈夫???


でも、断り辛い事は、確か。

多分、ウェストファリアは言いふらしたりする様な人物では無いだろう。ただ、口止めも通用するのかは微妙だ。ついうっかり、何かの拍子に光の事を話してしまう様子が、容易に想像出来る。

しかし「光の秘密を話したら協力しない」という事にしておけば、多分…………。

何とかなる、かな??



その前に私には疑問に思っている事がある。

そもそも何故、手を握っただけで判るのか。

とりあえずそこから聞いてみる事に、した。協力出来るかどうかも、話を聞いてみないと判らないしね?


「あの…………ところで、どうして私だと?何故色が分かるんですか?光が…空の色の影響?」


何だか滅茶苦茶な質問だが、私の頭の中も滅茶苦茶だ。的確な質問が、思い付かない。

だが、ウェストファリアは私の言いたい事が分かったのだろう、彼の特技を教えてくれた。

物凄く、便利そうな特技を。


「ふむ。私の力は特殊での。ずっとその事ばかり考えているからか、石が力を貸してくれているのか。石が二つあるからな。一つはもう取り込まれたが………。意図して触れると、その者のまじないの色が見えるのだ。中々いい力じゃろう?」


「………そうですね!羨ましい…かな?いや?」


考え始めた私を見て楽しそうなウェストファリアは、そのまままた、紙を指して説明を始める。


「して、お前さんの力じゃが多色な事は間違いない。長年力の色について研究しているが、多色についての記載は、この本にあるだけ。通称「青の本」じゃ。他にも複数ある。多分、同じ力を持つものによって書かれたモノじゃろうな………。」

「え?この本?他にもあるんですか?これに書かれている力の色が、多色?………同じ力を持つもの?」


ちょっと待って。情報量が多い。


え?多分、セフィラだよね?

セフィラが書いた本が、「青の本」で、それがここに複数あって、そこにまじないの色が書いてある。

うん。うん??ウイントフークさんが「殆ど残ってない」みたいな事、言ってなかった?

……………でも、それはデヴァイに、って事か。エイヴォンさんが調べて来て、そんな事言ってたんだよね…。


私がぐるぐるしている間に、ウェストファリアは他にも何冊か、青い本を持って来た。


テーブルの上に、積まれた青い本。


私は自分が今持っている「青の本」と、その本を見比べ何か判らないけど何かが違う、と直感的に思う。

なんだろう…。「つくり」が違うんだよね………。



手に持った本を傍らに置き、テーブルの本を手に取る。

五冊あるうちの一冊ずつを手に取り、パラパラとめくった。



「これは違うな…………これは………違う。これも。これは………。…結局、これだけだね。」


五冊のうちの、一冊だけがあの青いインクを使って書かれていて「青の本」と同じ。なんとも言えない繊細さと、古く美しい雰囲気を漂わせている。

他にも青インクの本はあるが、何となく、違うのが判る。なんでかは、分からないけど。


「ふむふむ。ちょっと待っておれ。」


私があれこれ分けているのを楽しそうに見ていた彼は、そんな事を言って部屋を出て行ってしまった。一体、何処へ行ったのだろうか。


でも多分、何か気になる事があって調べに行ったのだろう。

同類な事が分かっているので、私は安心してまた新しく手元にきた、青の本を観察し始めた。


「ウイントフークさん、見たがるだろうな………。」


そんな事を呟きながら。





「依る、それ知らないフリした方が良かったんじゃない?」


また、綺麗な文字や少しの絵が書かれた本を楽しんでいると、ヒョイと長椅子に乗って来た朝に、そう言われる。


「確かに?…………なんで判るのか、って思われたかな?」

「そうね。多分、他の青の本を探しに行ったんじゃない?鑑定よ、鑑定。あんたにやらせるつもりよ。」

「うーん。でも隠しても今更じゃない?あの人は、私の色と、多分この、セフィラの本と、同じだって知ってたって事だよね?」

「まぁ。そうね。」


私達がそんな話をしていると、ベイルートも戻って来た。


「俺は彼には協力してもらった方がいいと思うけどな。さっき、石の話もしていただろう?二つあるうちの一つが、既に取り込まれたと。何にだと思う?しかも、彼は特殊だ。もう一つ持っている石が強いんだろう。他のネイアとは色が違う。」


「え?ベイルートさん、分かるんですか?」


「何となく、だけどな。彼は薄灰色だが、他の奴はみんな薄い黄色だ。」


薄い黄色………?何処かでそんなの見たな…………。

それにしても、同じ色って?あり得ない事じゃないのかも知れないけど、12人も?ん?


私の顔を見て、ベイルートが付け加える。


「そう、アイツらは違うけどな。」


まあ、そうか…………。そうだよね………。


でも、シンと気焔以外がみんな同じ色。

そんな事があり得るのだろうか。でも、ベイルートが嘘をつく訳はない。


うーん。これ、確かめたら泥沼にハマるかな………嫌な予感はするよね?



そう、思っていたら扉が開く音がする。

少し、開いている扉を見るが誰も入ってくる様子がない。


あれ?ウェストファリアさんは?


そう思って見に行くと、うず高く積んだ本を両手に持って、ウェストファリアが入ってきた。

ギリギリ、大きな戸口に当たらないくらいの高さの本がゆらりと揺れる。


いや、これ絶対落ちるから!


「ちょ、持ちます持ちます、ストップ。ちょっと止まってください?」


足を止めたウェストファリアの向かい側に回り、本を受け取ろうとしたが高過ぎて私が取ったら逆に崩れそうだ。取れる高さに手を出すと、重さで私が倒れるだろう。


「えー。どうしよ。」


「何をやっている。」



その時、丁度よく開いた扉から入って来たのは、気焔だった。

すぐに手伝ってもらったのは、言うまでもない。






「お前は何をやってる。また言わなくていい事迄言って、首を突っ込んでるのだろう?」

「そんな事無いよ。ベイルートさんだって、協力した方がいいって言ったもん。」



ウェストファリアが一部を書棚に納めている間、私と気焔の攻防戦は続いていた。

長椅子でコソコソと話す私達をカモフラージュする為か、朝がウェストファリアに話しかけているのが見える。


朝はあのタイプと仲良いからな…………ウイントフークさんのライバル出現だね‥。


「おい。聞いてるのか。」


あ。聞いてなかった。


そうこうしている間に、ウェストファリアがテーブルに戻って来て積み上がった青い本を私に示す。

チラリと気焔の方を見てから、手に取ってまた確かめ始めた、私。

何をしているのか、気付かれないうちに確認しちゃおうっと。


そんな私の思惑を知ってか知らずか、気焔は一応ウェストファリアにここに来た理由を説明していた。

まぁ、その理由を聞いて私はちょっと、お尻が浮いたけども。



「私は依るの婚約者兼、保護者なので。迎えに来ました。もうすぐ鐘が鳴るので。」


!!


「ほうほう、そうなのか。そりゃ失礼。ちょっと借りてましたぞ。しかし…ネイアで?お前さんも二つ持ちかな?ふむ。手を借りても?」


え?気焔の手?ヤバくない?婚約者?!

何それ!!

それもヤバい!こう、なんて言うか、この場を乗り切る為のアレなんだろうけど言葉にされた時の破壊力よ……………………。

ヤバ。絶対、顔赤い。

いやいや、手だよ、手。どうするの?出す?

出さないよね???


頭を振って、顔を上げるのと、気焔が返事をするのは同時だった。


「いや。それは遠慮しておきます。石は二つあるので。」


そう、いい笑顔でかわしている。半分「あの声」に変化しているけど、ウェストファリアはどうだろうか。


視線を移すと、白い魔法使いは少し頷いて「それがいいやも知れんな。」と手を納めた。


…………。何だろう。バレて…る?



見知ったウイントフークと同類、という印象からまた白い魔法使いに変化した彼の雰囲気を感じながら、二人を見る。


え…………どうしよう。この空気。

解決方法が分からない。でも、きっと私は余計な事は、言わない方がいい。



今迄の経験から多少は学んだ私は、とりあえず二人の事は放置して「青の本」の鑑定を続ける事にした。

きっとここは気焔に任せた方がいいだろう。




ウェストファリアが片付けた「青の本」ではない青い本は、既に書棚に収まっている。

新たに持ってこられた本の山を次々捌きながら、私は見分けるコツが段々、分かってきた。

「青の本」は装丁からしてやはり少し違う。

表紙の青が少し他の物より深いし、厚紙も他の物よりも一段厚い。背表紙は大体茶か銀で背表紙下に同じマークがある。他の青い本にもマークがある物はあるが、図柄が違うのだ。


何冊か中身とマークを確かめて、それを確認すると次は山からマークだけで本を抜き出していく。

そもそも、「青の本」はそう多くない。

ここにある物全部で、二十冊無いだろう。

分けた物から、一応確認の為中をめくっていく。

そうして確認すると、仕分けはすぐだった。



「青の本」と青い本をきちんと分けて、満足した私。

頷いて顔を上げると、あの二人は机の所に移動して、何か話をしていた。


あれ?仲良くなったのかな?


それならそれで。


視線を戻し、テーブルの上の山を眺める。

青の本を綺麗に並べて、気が付いた。


「多分、これ番号順だよね…………?」

「そうね。全部でいくつかは判らないけどとりあえず並べてみたら?」


文字の分からない私でも解る、小さな星のような印が表紙に並んでいるのだ。その、星の数が違う事に気が付いた私は、星の数が書かれた番号順ではないかと思った。

これは試しに並べてみるしかないだろう。


「これは2、12345………12ね、これは…………。」


数えて、順に並べていく。其々紋様のように複雑な形に並ぶ小さな星は、一つ一つ数えないといけないので地道に数える。


「1が無いな。」

「ですよね。」


結局、全部をとりあえず順番に並べてみたのだが、1が、無い。そして星は十七まであった。


「だから十六冊って事?でも、これで終わりかは、分かんないよね?」


「ここには、これしか無いわ。」

「わっ!」


また、驚いてしまったが話し始めたのは多分さっきの青の本だ。端から声は聞こえた。

星は、二つ。


すっかり忘れてたけど、これ全部、喋るの?


頭の中の疑問に答えるように、二つ星の付いた本は話し始める。


「あなたが開いたら、話すと思う。開かなければ、沈黙を守る。心配ないわ、青の子。」


「そうなの?良かった…………で、青の子って、何?」


しかし、青の本がその質問に答える前に鐘の音が聞こえた。


向こうで話していた二人がやって来ると、青の本は何事も無かった様に沈黙する。

鐘の音を聞いて、気焔は私を迎えに来たのだという事を思い出した。



「行くぞ。」

「うん…………。ウェストファリアさん、この本借りて行ってもいいですか?」


私が手にしているのは星が二つ、ついた本だ。本当は全部借りたい所だけど持って行くのも無理だし、順に借りればいいだろう。


ウェストファリアは頷いて、私が並べた青の本を見ると「これが?」という目を向けて来る。

私も目で「そうです。」と返事をすると、退室の支度を始めた。



朝はもう扉に向かっていたし、本を持って、ベイルートを確認する。ちゃんと肩に留まっているのを確認すると、気焔に視線を移す。


ん?なに?そんなにバラしてないよ??


金の瞳はまた仕方の無いものを見る様な目をしていたけれど、私は気が付かないフリをして朝の後を追って行った。








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