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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
134/1935

図書室の白い魔法使い


うわ…………!


わー!凄。ヤバ!


いっぱいある!綺麗…………。


素敵!雰囲気!

ちょっと古い匂いがするね…………。

そう、本の匂い。でもカビ臭くないな…………。


うっわぁ…………。凄。

触っていいのかな?いや、とりあえず見るだけにしよ。何か、怖いし。

壊したらやだし。



扉を開けて中に入ると、そこは差し詰め秘密の図書室だった。


いや、全然、プレート付いてるんだけどね?

なんて言うか、秘密っぽいのよ。雰囲気が。なんだろな、この…………静けさ。


少し暗い、室内。

しかし不便な程ではなく、遠くまできちんと見える、落ち着いた灯りだ。

深緑の厚手の絨毯は足音を消す為だろうか。

天井までみっしりと繋がる書棚は、憧れの、光景。


うう…………部屋に欲しいよね…天井までの、本棚!


2、3歩進んで、ふかふかの足元を確認するとこの部屋の造りが気になってくる。一体、どの位の本が収納されているのだろうか。


昨日の教室とは同じ建物とは思えない重厚感があるこの空間は、左右を見ても書棚が奥まで続いているのが分かるだけでどの程度の広さなのか想像がつかない。


でも、ここ譲渡室の上、って事だよね?

じゃああの位の広さなのかな………?それにしては、本棚が多くない??


図書室というよりは図書館に見えるその部屋。

正面にズラリと並ぶ、天井までの書棚はエンド部分も扇状の棚になっていて余す所なく本がみっちり詰められている。

その大きな棚が、見える範囲でもかなりの数、左右に其々並んでいるのだ。突き当たりの壁を探そうと目を凝らすが、やはり見えない。

でも何となく、ぼんやりする感じがあるので、もしかしたらまじないなのかもしれないと思った。


部屋の終わりを確かめるのを諦めて、どっしりとした濃茶の書棚に収まる本達を観察する。古いが美しく装幀された本達は、どれも読めない文字が多い。


私が読めるやつ、あるのかな………。


そのまま背表紙を確かめようと近づき目を凝らし、蟹の様に進んでいた。



「来たか。」

「わっ!すみません!!」


声と同時に白い何かにぶつかって、更に大きな声を出した自分に驚き、慌てて口を塞ぐ。


そう、蟹歩きをしていた私は本棚の前で私を見ていた白い魔法使いに気が付かず、そのままぶつかった様だ。

もっと早く声掛けてくれればいいのにっ。


手を口に当てたまま、辺りを見渡す。

とはいっても、通路と本棚しか、見えないんだけど。


白い魔法使いは「大丈夫」と言う様に頷いて、私について来る様、促した。


どこに行くんだろう?


この時点で、既に緊張より興味と期待が上回って、いた。






「まぁ、かけなさい。」


白い魔法使いは本の山の中にある長椅子を私に勧める。とりあえず辺りの本を崩さない様に避け進み、座る。客用なのか、殆ど使っていなそうな毛の寝ていないビロードの生地が張られた椅子は、この部屋の中では何だか異質だ。


長椅子の上に避難して、本の島の様子を観察する。白い魔法使いは奥にある机の上で何か探し物をしている様で、私は彼を待ちながら部屋の様子を楽しんでいた。


その、図書室の奥にある部屋はそこそこ広くて図書室の奥にこんなスペースがあるのかと、またまじないを疑う私。だって、譲渡室の上にこんなに広い空間がある訳が無い。

いや、もしかして一階よりも二階が大きい造りなら、無くはないだろうけど。

そんな事、あるかな?

でもこの世界なら、まじないと考える方が自然だ。


図書室より明るいその部屋は、正面に細長い窓が二箇所あり、そこからの光だけで部屋全体が結構明るい。

左奥に大きな机、壁全体は本棚、中央に大きなテーブルだったと思われる本置き場、その他のスペースにも本の塔が築かれている。


うん、やっぱりウイントフークさんに似てるね。

ちょっと、謎のガラクタが少ないくらい?


その魔法使いの部屋にはウイントフークの家の様な謎の物体とか、おどろおどろしいものとかはあまり無くて、本か、石か、実験道具の様なものしか見当たらない。

そう、結構スッキリしているのだ。


まぁ、ウイントフークさんの家と比べて、だけどね…………。


でも、部屋が明るい所為か、なんだか落ち着く空気の所為か、結構リラックスし出した私はテーブルの上にある本を一冊、手に取ってみる。

白い魔法使いは私の事など忘れているかの様に、こちらを見ない。


うん、多分大丈夫だよね?


朝は部屋を探検に行ったし、ベイルートも何処かへ飛んだ。そう、私は暇なのだ。

部屋をウロウロして塔を倒してはいけない。大人しく、本でも読もうっと。


そうして私が手に取った本は、綺麗なラピスブルーの表紙の本だ。

金の箔押しが、かなり剥がれているが当初はかなり美しかっただろう。背表紙の茶の部分の文字を見ても、やはり解らない。金の紋様が描かれている表紙を、そっとめくる。


やっぱり、中身も読めないのかな…………。


「こんにちは。」

「わっ!」


あ!ヤバ!


驚いて放り投げた本が大丈夫か、急いで椅子を下りる。


ああああぁぁまずい。壊れてないよね?どうしよう、バラバラとかになったら!え?喋ったから生きてるの?!死んじゃう?

まずいまずいまず……………?ん?普通だな?


テーブルの下に落ちている本は、何事も無かったかの様にきちんとそこに、ある。表紙も閉じた、まま。


あれ?気のせい?


しげしげとその本を見つめるが、特におかしな所は、無い。拾い上げて、また長椅子に座った。

膝の上の本は、どう見ても普通の本だ。

表裏、上下、確認をしてちょっと、振ってみたりする。

なにも、無い。


うん、気のせい気のせい…………。


そうしてまた私が表紙を開くと、やっぱり本が、喋り出した。


「落とすなんて酷いわ。寿命が縮んだわよ。三ページくらい。」


え?そりゃ困るな…………。


パチクリしながら、本を眺める。

「これ」が、喋ってるんだよね?


今迄、生き物以外は喋らなかった。もう一度、自分の頭の中を探しても、やはり見当たらない。

そう、喋る「モノ」には初めて出会ったのだ。


「こんにち、は?」


恐る恐る、話しかけてみる。まぁ、噛みつきゃしないだろうけど、そもそも本が喋るなんて聞いてない。まさか、ここの本、全部喋るわけじゃ無いでしょう?いやいや…………まさかね。


「お嬢さん、お困りでしょう?手伝いましょうか?」

「………え?何を?」

「遠くから来たのでしょう?ここの言葉は旧いから…。」


反射的に白い魔法使いの方を見た。

大丈夫、彼はまだ机に向かっている。もしこの本の声が聞こえたとしても、内容は聞こえないだろう。朝と話していたとでも、言えば大丈夫。

こっそりと、私も本に質問する。

何故、そんな事が判るのか。

私が、遠くから来たという事が。


「何故………ねぇ、どうして遠くから来たと判るの?何か、感じるの?」


少しの沈黙の後、その青い本はこう答えた。


「そういう風に、決まっているから。そろそろ来るかと思っていたけど。」

「え?」

「私達の全ては同じ星の下。どの世界にも、同じ様に空は、ある。」

「え…………。全然分かんないんだけど………。」


青い本の話を聞いても、全く、解らない。

いや、解らないというか、信じられない…?



全ては、同じ星の下?



もう一度、その言葉を反芻する。


でも、それは私がこの世界に来てから何度か、感じた事でもある。

ラピスにある、白い森。青い空、夜の星。

シャットの橙の空。橙に染まる雲。灰色に暮れる夜。

空の色が変化するなら、繋がっている可能性はゼロじゃ無い。そう感じた事はあった。

ここも、見えないけれど空はある。光も、差した。

そして、昨日眼下に拡がった紅の、空。


うーん?繋がってるけど、大陸が別れてるみたいになってるって事?


確信は無いけれど、そうなのかもしれない。

ん?でも私が遠くから来てこの本が喋る事と、何か関係あるの?


私がぐるぐるしていると、また青い本がこう言った。


「知りたいのなら学ぶといいわ。青の子。まだ時間はある。」

「まだ………?何、怖いんだけど。」



「待たせたな。」

「わあっ!」


急に声を掛けられた私はまた青い本を派手に落としてしまった。

慌てて再び拾い上げるが、特に変わった様子はなく壊れたり、傷付いたりはしていない様だ。

ホッとして本を胸に抱き、白い魔法使いが持ってきた物を見る。

彼の視線は青い本を見ていない。きっと、気が付いていないだろう。


ん?でもそもそも、この本が喋るのは普通、とかいうオチ、無いよね?



彼は、マラカスの様な、砂時計の様なつるりとしたガラスだろうか。綺麗な物を持っている。

「驚かせたかな?」と言いながらも、それを私に受け取る様に促したので本を置いて、受け取った。

これは、アレじゃない?


そう、多分あのまじないの色を見るやつじゃないかな…………?


思った通り、その砂時計の様なものは私が手に取った側からキラキラと中身が光り出す。

あの、ウイントフークの所にあったものとウィールにあったものに、よく似ているそれは、やはり乳白色から水色に揺れて煌めいていた。

ゆっくりと揺れる中身の液体に、キラキラと遊色が光る。形は違うが、状態はほぼ同じだ。

やっぱりこの道具もとても綺麗で、しばらく揺らして遊んでいた。



白い魔法使いは私の手の中の色を見ながら、色々な本をめくっている。

しかしお目当ての記述が無い様で、次々と積み上げられていく本を見ながら私はまだ揺ら揺らしていた。


そのうち手を止め、少し考えると青緑の目をくるくると動かして彼が何か目的の物を探しているのが判る。

そうして白い魔法使いが手に取ったのは、私がさっき置いたあの青い本だった。




あれ………また喋るのかな………。


少し緊張しながら見守っていると、白い魔法使いは普通に本をめくり、何かを探している。


ん?あれ?黙ってるだけ?それとも…………?


様子が分からないうちは、黙っているしか無い。


そうして真ん中のページ辺りで、手が止まる。

きっと色々変わっているであろう彼の表情を想像しながら、白い眉が上下するのを眺めていた。


少しクセのある長い髪は縛られる事なくそのまま本に向かって垂れ下がっている。自室だからか、彼はこの部屋ではフードを脱いでいた。

一部に茶が残る白い髪は、フードを脱ぐと魔法使いというか仙人の様だ。

私の中で、この白い髪を結びたい衝動が高まりちょっと手を伸ばそうとしたのと、彼が顔を上げたのは、ほぼ同時だった。


引っ込みがつかなくなった手を、また握る白い魔法使い。

そういや、この人、名前は何て言うんだろう?

この手のタイプに慣れている私は、普通に手を握られながら今更な事を考えていた。



「ふむ。やはり少し違う。この色の通り。……しかし銀か?おかしいな。」


何がおかしいんだろう。バレた?

確かに、私は銀の家じゃ、ない。


「しかしあの光とこの色と、これは同じ色を指すか。ふむ。研究のし直しか?」


そこまで聞くと、やはりこの人は私の素性になど興味がないのはハッキリ判る。多分、まじないの色の事を言っているのだろう。

光の色と、多分、私の手から?何か感じている色と、この道具の色と。何が違って、何が同じ?


とりあえず他意が無い事は分かるので、聞いてみる事にした。正直、私も興味がある。


「あの、…………?」


あ、名前。危なく白い魔法使いさんって言う所だった………!


私の言葉を察してか、やっと白い魔法使いは自己紹介をしてくれた。


「いやいや、すまなんだ。すっかり忘れとった。私はウェストファリア。白のネイアだ。お前さんは青の家に親戚はおらんか?」


ん?この人、ネイアだから私の事情を知ってるんじゃないのかな?

でもな………聞いてなかったんだろうな。

容易に想像出来る。とりあえず、私も説明を兼ねて、自己紹介しておいた。きっと、この人にはバレているだろうから。


「青の家………は分かりませんけど、私は銀のセイア、ヨルと言います。でも養子です。」

「うん、まぁ、そうだろうな?………しかし青から銀か?そんな事は…ふむ。」


そう言ってウェストファリアはまた、青い本に視線を戻す。

私には全く文字は読めなかったが、見つめているとまた本が喋り始めた。


「この男はね、中々優秀よ。私の事も、読めるし。」

「ん?」

「あの子は自分の事も結構書いてたから、それを見ているのだと思う。まじないの、色。今はあなたの方が一段上みたいだけれど。」


ん?あの子?自分の事?

もしかして、もしかしちゃう?

そう思って、青い本に訊ねる。きっと、この本もそうなんだ。


「あなた、もしかして?」


「ん?なんじゃ?」

「いや、何でもないです。」


ん?やっぱり聞こえてないっぽいな?


すっかり意識から抜けていたが、青の本は今ウェストファリアの手の中だ。本の声は聞こえなくても、私が話しかける訳にはいかない。

いっその事、話してみる?

いや、それだって相談は必要だよね…バレてないのにバラしちゃ、駄目か。

それなら…………。


私は作戦を変更する事にした。

とりあえず、ウェストファリアに聞きたい事は聞いて、その上でこの青い本を貸してもらおう。部屋で色々、質問すればいいんだ。

うん、それがいい。


えーと?聞きたい事?

そもそも、この人なんで私の事呼んだのかな?


そうしてまた私の口は、どうやら勝手に疑問を垂れ流していた様だ。

彼が嬉々として話し出した様子で、分かる。


「それは、お前さんが空の色を受け取っているからじゃな。」


「え?」


そう言って、ウェストファリアは机の上から大きな紙と、ペンを持って来て、私の隣に座った。








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