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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
130/1937

説明会と同期生


あれ。朝の朝ごはん………どうしよう?



私は食堂まで歩きながら、そんな呑気な事を考えていた。


礼拝堂ではやはり少し緊張していたのだろう。

肩の力が抜けたのは、優しげなブリュージュと一緒だからかもしれない。彼女はとても、お母さんの雰囲気に似ているのでなんだか落ち着くのだ。

後で聞いたら、子供が二人、デヴァイにいるのだと言う。

道理で。でも、残してきて大丈夫なのかな?




廊下はかなり人が増えていて、先刻まで誰もいなかったとは思えない雰囲気だ。

冷たい空間が、歩いている人々の空気で温められた気がして、ホッとする。

誰もいないのも、綺麗だけどね……。



それにしても、礼拝の仕方はそこまで変わってなかったし、言葉は全く分からなかったけど、礼拝堂も普通だったな?


なんとなくだけど、この巨大な神殿の礼拝堂も巨大だと思っていた私は些か拍子抜けしたのかもしれない。

勝手な言い分だが、物凄く巨大で荘厳な空間に神々しい神像か何かがあって、凄く美しい歌でも歌っているのかと思っていたのだ。


うん、全くの想像だけどね?

でもさ、なんかさ。

普通なんだよ。いや、奇抜であれとは言わないんだけど。なんだろな?なんていうか…………あの、その………あの、あれ?



そうだ。

あの、「絵」と「石」。

多分、あれがあそこで祀られているものだろう。


………と、いう事は?


あの、天空の門で感じた違和感の正体が「あれ」って事だよね?


そうすると、旧い神殿のあのバルコニーの下に祀られていたのもきっと、あの二つに違いない。



ふぅん?


神様、取り替えちゃった?

いや?取り替えたんじゃないな………すげ替えた?

うん?祀り直した?


昨日、神殿の裏で感じた、薄ら寒い、感覚。

それは少し、私の中では治まっていた。もしかしたら礼拝堂で実物を見たからかもしれない。


やはり、知らないものは怖いのだ。


でも、正体は「あれ」だった。

私のこの旅の、序盤から登場している「あの絵」。一番初めに聞いたのはウイントフークの所だったか。



「ヨル?」


話しかけられて、はたと気が付く。そう言えば、ご飯に行く途中だった。



私は無意識でもきちんとトレーは持っていて、更にサイドメニューも乗せていた。

うん?セレクトは間違ってないな?凄くない?


この才能をどこかに………。

あ、朝。


カウンターを進み、今日も朝のご飯を出してもらって、思い出す。

そう言えば部屋に置いて来たんだよ。迎えに行ってない。どうしよう………。


「おはようございます。」


そう、声を掛けられて振り向くと既にトレーを持って立っている気焔と朝が、いた。





何だか変な感じ………。


ブリュージュと普通に会話している気焔を見ながら、朝食を食べる。

二人は何か授業内容の様なものを話していて、私はそれを聞き流しつつゆっくり食事をしていた。


だって、話さなくて良くて、話しかけられなくてゆっくり食べれる事はそう、無い。

一人だとちょっと焦るし、気焔だっていつも捉まる訳じゃ無いのだ。

少し周りを見ながらお茶を飲んでいると、キラリと何かが光った。


ん?


じっと目で追うと、それが銀のローブであるのが分かる。

そうして遠くにいるその人がなぜ目に入ったのか考えながら見ていると、キラリと光る銀のローブ以外にも理由がある事が判る。

多分、とても背が高いんだ。


珍しく食事の前から既にフードを脱いでいるその人は、水色の短い髪をしていて銀のローブに映えてとても綺麗だ。

うーん。でも、ラインが茶なのがちょっと惜しいな………。あれで青か…黄もいいかな?


「ヨル。あれがシュマルカルデンよ。気を付けてね。まぁ、彼も家に帰れば婚約者はいるんでしょうけど。」


ブリュージュが唐突にそう言ったので、すっかり忘れていた事を思い出す。

二人は既に話を止めて目線を移していて、私ももう一度、彼を見る。私達は今日も端の席に座っているので、向こうからは気が付きにくいだろう。


「でも、婚約者がいるなら大丈夫なんじゃないですか?」


頭に浮かんだ素朴な疑問を投げてみる。

そう、私はまだイマイチ何に、気を付ければいいのか解っていないのだ。


「もしも婚約者が黄や茶の家なら、すぐに解消するでしょうね。彼がもし、貴女を射止めたらね?」


「えっ。」


何それ…。怖い。


すぐに視線をテーブルに戻し、万が一にも目が合わない様に、する。

でもあの人は、結構年上っぽかった。きっと、今日の説明会では会わない筈だ。



そうしてちょっとドキドキした朝食を終えると、もう説明会の時間になる。

特に持ち物なども言われていないので、そのまま、向かう事にした。






「朝も一緒で大丈夫だよね?」

「何も言われなかったから平気じゃない?」


二人と別れ、教えられた部屋に向かう私達。


場所はなんと食堂の真上の教室だと言う。

深緑の壁を見ながら一旦正面の階段に戻り、そこから二階へ上がる。絨毯が敷き詰められた階段を、よく手入れされた古い木の手摺につかまりながら、上る。

二階も、同じ深緑だ。


ふむふむ、一階とそう変わりは無いね………。


「あれ?子供?」


パタパタと足音がしたので振り返ると、手前の部屋から出てきたのか、階段を下って行く子供が何人か見えた。

子供も、居るんだ?

そう、その時はその位に思っていた。




二階の廊下を進み「これだよね?」という扉の、前。でも奥にももう一つ、扉がある。

どっちだろう?

一応、両方チラリと確認するけど、何も書いていない。

耳を澄ましても話し声もしないので、とりあえず手前から開けてみる事にした。

ま、間違えたら閉めれば、いい。うん。



「とりあえずノックしよ。」

「そうですね。」

「!?」


思わずちょっと、飛び上がったが仕方が無いと思う。急に背後から声がしたのだ。

何だか朝が「フフ」と言っているので、きっと見ていたに違いない。

知ってたなら教えてくれればいいのに!


少し朝にぷりぷりしながら振り向くと、そこに立っていたのは茶のローブの男の子だ。

青っぽいグレーの髪に青い目。

茶色と青かぁ………悪く無いね?うん。

私がまた色についてあれこれ考えている間に、彼は私に少し頭を下げると、目の前の扉を開けた。


そして、閉める。


「どうしたの?」

「ここでは無いみたいです。彼方へ行ってみましょう。」


丁寧な彼の言葉遣いを聞いて、そう言えば…と自分の状況を思い出す。

彼が多分、わざと私を驚かせようとしたのはさっきの表情で分かっていた。だからついつい気安い印象だったのだが、どうやら一応きちんとはしている様だ。


そのまま彼は奥の扉に向かい、またノックする。

すると、返事があった様で私に向かって頷いた。





「失礼します。」


彼に続いて、私も挨拶をして部屋に入る。

そこには既に三人の、生徒であろう子達が座っていた。



女の子がいる!やった!


ブリュージュやビクトリアも「女性は少ない」と言っていたので、ちょっと心配だったけど、ここに居るという事は新入生に違いない。

仲良くなれるといいな………。

そう思いながら、隣に座ろうと後ろの席に歩いて行った。



その部屋はどうやら大きな部屋を仕切って作られている様だ。

きっと手前の扉との仕切りだろう、簡易的に見える壁の前に教卓の様な机があって、その前に生徒用の机が並ぶ。

細長いその机は四列しか無く、一番前に一人、二番目に一人、間を開けて何故か一番後ろにその女の子は座っている。


私はチラッとレシフェの「まじない力の出し方だ」という言葉を思い出したが、まぁ今はまじないの授業じゃない。

女の子の隣に座る方が優先だもんね!



ルンルンと後ろに歩いて行く私を驚いた瞳で見つめる、座っている面々。

先に扉を開けてくれた茶の男の子も「え?」と言っているが、私は何も、考えていなかった。

そう、あの子の隣に座る事以外は。




一番後ろに座る女の子は、青のローブにラインが無い。と、思っていたらどうやら青のラインが入っているのが近づくと判る。

同色もあるんだね…ま、考えてみればそりゃそうか。

今迄出会っていないだけで、他にもいるかもしれない。よく、見ないとネイアと間違えちゃうかもね?


紺色の髪に茶色の瞳のその子は、私の事をおかしなものを見る目で、見ている。

大きく開かれたその茶色の瞳が可愛くて、つい「こんにちは。」と声を掛けた。

ニッコリと、笑って。



「え?なんで?朝?!」

「知らないわよ。何かしたの?」

「いや、こんにちは…って………。」


言っただけなんだけど???


みるみるうちに顔色が変わって、ちょっとブルブルし出した彼女に焦る、私。

朝はいつも通り、他人事で助けてくれない。


え?なんで?私?何かした?

ん?髪留め…………付いてる。え?大丈夫だよね?



全く、心当たりは無いが彼女の顔色はどんどん悪くなり、いても立ってもいられない、という様子になっている。


すると、困り果てている私に話しかけた、人がいた。

一番前に座っている、銀色ローブの男の子だ。


「おい。ちょっと、そこのお前。こっちに来い。」


え?「そこのお前」って、私だよね?


ハテナ顔で朝を見ると、頷いているので私で間違い無いだろう。

周りを見ると、他の男の子も何だか同意見らしい。「早く前へ行け」、そんな空気が漂っている。


じゃあ、行こうかな?


そうして私がその場を離れると、少し彼女がホッとした様な気がする。

振り返りながらも銀色の男の子の所に向かった私は、何と言っていいのか分からなくて、そのまま彼の隣に立った。


私より少し背の高い彼は茶の短髪に青い瞳。銀のローブの青いラインに青い瞳が合っていて、中々いい。

そんな事を考えていると、彼は自分の隣の椅子を引き、私に座る様、促した。


「お前、どうしてあいつを責める?」

「え?!責めてないよ!」


ヤバっ。


声が大きかった。

元々そう広く無い部屋だ。普通に話しても聞こえるくらいの距離なので、彼がわざわざ少し小さな声で話してくれたのに私は驚いて、大声を出してしまったのだ。


アワアワしながら周りを見るが、とりあえずみんな、平静を装っている。どうやら聞かなかった事にしてくれるらしい。

それならそれで………うん。


「え?なんで?責めてないけど。」


今度はちゃんと、小声で話す。

少し近づいて話したので、私の髪がサラリと肩にかかり、何故か彼がそれを見て一瞬ピクッとしたのが判った。

そう、教えられてはいないけど座っている時はフードを脱ぐ、というルールなのだろう。今迄は食事だからなのかと思っていたが、部屋に入ると皆、フードを被っていなかった。だから私も、座ったら脱いだんだけど………?


肩にかかる髪を払って、彼をじっと見る。

何だかこの子は、ベオ様に雰囲気が似てるな?


銀のローブだけれど、威圧感は感じない。寧ろ私に何か教えようとしているのだろう、その続きの言葉をそのまま待っていた。



ちょっと、早く喋ってくれないかな………。


どうしても、私達が一番前に座っているので全員の視線が私達に向いているのが、分かるのだ。

向かいの彼は、まだ私の姿をまじまじと見ていて、段々ちょっと失礼じゃ無いかと思い始めた。


流石に、見過ぎじゃない?


「ねぇ…………。」

「おっ、ああ、だからな………。」


何がだからなのよ?

また、少し近づいて話そうとした私から後ずさって、彼は言い淀んでいる。


何よ?早く言って?


「いや、だから………あんな勢いで行かれたら、何か自分がしたのかと思うだろう?青だぞ?」

「青?」


チラリと彼女を見る。

さっきより大分落ち着いて座っているが、私と目が合うとビクッとしたのが分かる。


ええ?!お友達計画は?嘘…第一印象最悪?


ヤバイ。何とかしなくては、ここでの楽しい生活が………。


とりあえず、どうしたらいいのか全く分からない。

でも、多分彼が言ってるのはローブの色の事だよね?て事は身分?………まさか銀とはお友達になってはいけませんとか言われてるとか?ウソでしょ?


パッと、顔を上げて訊く。

彼は、またのけ反っていたけれど。


「ねえ。もう、駄目だと思う?お友達に、なれないかな?謝ればいいと思う?」

「はぁ?青と友達になるのか?………無理じゃないか?」

「ええ?!私の神殿ライフは…………?」

「何言って…………あ。」



その時、軽いノックの音がして続いて扉が開いた音がした。


「遅くなりました。」



そう言って、入って来たのは多分、見知った彼だった。










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