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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
5の扉 ラピスグラウンド
13/1938

まじない石


「ぅん………?」


ここ、は?あれ?



目が覚めると、見慣れぬ天井、薄暗い部屋。


少し天井を見て考え、昨日の一件を思い出した。


そう言えば、お世話になる事にしたんだった…。


今が何時なのかも分からず、起きて窓の外を見る。

外の光が白っぽい事を考えると、多分早朝ではないだろうか。


薄暗い中に浮かび上がる、青や白の屋根が美しい。

高い建物でも3階迄くらいか、少し街並みが坂になっていてなだらかに下っている様に見える。


この建物があるのは割と坂の上の方だ。



少し景色を眺めてからベッドへ戻り、腰掛けると朝を探す。


昨日家の中には入ってこなかったけど、どこ行ったんだろう?


キョロキョロしながらベッドから降りると、布団の足元から朝が出てきた。


「おはよう………早いじゃない。」


全然眠そうに、顔を擦っている。

大きなあくびを1つすると、「昨日は街の偵察に行ってきたのよ。」と言い、尻尾をパタパタしながら話してくれた。



街の中は中心が丘の様に高くなり、なだらかに門に向かって下っているらしい。

そう言えば確かに、ここに来る迄も緩い坂を上ってきた気がする。

高い場所にある家の方が青の割合が多く、低くなるにつれて白い壁が多くなり、石よりも塗りになっている部分が増える。


私の好きなものを熟知している朝が、こう教えてくれた。


「1番高い所の家なんて、タイルに装飾っていう凝りようだったわよ。依る、絶対好きよアレ。」


何それ…絶対、見たい。



ダラダラとベッドに寝転んでいた私は、パッと起き上がりヒゲが顔に触れる距離で、訊いた。


「え。どのくらい?青の宮殿?サマルカンド??」


「はいはい、後で自分で行ってみたら?」


勢い付いた私を受け流しつつ、話を続ける。



高級住宅街は本当に街の真ん中の一部らしく、その周りをこの教会や集会所の様な大きな建物など、公的な建物が取り囲んでいる。

その次がお店や綺麗目の住宅、門に近付くにつれて、貧しい家になるらしい。

ある程度ぐるりと調べて、暗くなる前に帰ってきたと言う。


「おうち、入れた?」

「ティラナが入れてくれたわ。私がいなくなったの気にしてくれてたみたい。」


可愛いし、なんていい子!


そう感動していると、ふと、思い出した。


「ねぇ。…ティラナにどこまで見られてると思う?」


とりあえず、朝や気焔が喋るのはバレてないと、思う。

しかし炎を出す所や、木と話してる所などは見ていた筈だ。

怪しさ満載の私は、大丈夫だったろうか。


いつの間にかお巡りさんとか来ないよね?

警備の仕事してる人もいるのかな………?



「猫ちゃんと火が…って言ってたから、依るが炎を出したとは思ってるんじゃないかしら。でも、この世界ではまじない石から火が出るんでしょ?別に怪しくはないんじゃない?」


確かに。


「ねぇ。気焔。あなた、ここに来たから炎を出せるようになったの?この世界の所為??」


「……………。」


おーい。寝てんのかーい。


すると、藍が教えてくれる。


「多分この世界限定ではない筈よ。私達の存在自体はどこでも変わらないし、扱いや持ち主によっては変わるかもしれないけど。現に、白い森で私は浄化出来たものね………」


成る程。


そんな話をしていると、大分外が明るくなっている。

そしてタイミング良く、ティラナが朝ごはんを呼びに来てくれた。





おお、パンだ………。


そう言えば。

ここに来てから何も食べていない事を思い出したら、すごくお腹が空いてきた。


待っていてくれたハーシェルとティラナは、私が席に着くと「良い食事を。」と言って食べ始めた。

こっちの「いただきます」の意味だろうか。


朝ごはんはパンとサラダっぽいものと、果物っぽいもの。

「ぽいぽい」言っているが、だって「それらしき物体」なのだからしょうがない。


実は食べ物で冒険できないタイプの私には、結構ハードルが高い物がテーブルに並んでいる。

コンビニの新商品は、試さないタイプだ。


とりあえず、野菜がものすごくカラフル。

どちらかというと青や蛍光に近いグリーンなどの食欲をそそらない色のものが多い。

しかし、お腹はめっちゃ空いている。


とりあえず手始めに、無難な黄色いキャベツらしきものを食べてみた。


うーん。結構甘味がある。

こっちのやつはどうかな?

あ、コレは馴染みのある味。にんじんっぽい。



1人脳内解説をしながら、今後ドレッシングが必要だ、と考えていた。

野菜自体にかなり甘味があるので、美味しいけれど塩や酸っぱいものを、かけたいのだ。


塩とかレモンあるかなぁ~欲しいなぁ。

うん、パンもなかなか。

しかし味はいいけど、硬い。

…めっちゃ顎疲れる。



締めの果物がなかなか曲者だ。

見た感じ皮であろう外側はアボガドのような色だが、中身が蛍光ピンクで更に紫の種がスイカの様に入っている。


この種は取るべきか。取らざるべきか。


潔癖の気があるくせに、大雑把な所もある私はスイカの種はそのままイケるタイプだ。

しかしさすがにこの色合い、食べてお腹が痛くなったりしないだろうか。


「お姉ちゃん、どうぞ。」


そんな私を察してか、ティラナが私の分を取り分けながら食べて見せてくれる。


あ、食べれるんだ……………。


ちょっとドキドキしながら、意を決して口に入れた。


え。柑橘。


目を丸くしていると、ハーシェルがそれを見て堪えきれない様に笑い出した。

私が食事をしている様子が、かなり面白かったらしい。


「いや、だってうちの近くと全然違うんですよ。食材が。特に色と味が全然違って……すいません。」


この派手なアボガドはアイプというらしい。

その他野菜の名前など教えてもらいながら、「味はとっても美味しいです。」ときちんとフォロー?しておいた。




そうして朝食後。


その日は食後のお茶を飲みながら、ハーシェルが石についての話をしてくれる事になった。


昨日、「ティラナの石」と言っていた事について、私が質問したからだ。


「その前に。」


長い話になりそうだからと、私達はダイニングから居間の座り心地のいい椅子の方に移動する。


場所からして中央に近いからか、教会だからなのか、調度品のレベルは高い。

柔らか過ぎず、座りやすい長椅子に腰掛けるとハーシェルの話は意外な所から始まった。



「ヨル、その腕輪は君のものかい?」


「はい、そうですけど………これがなにか?」


一瞬、ヒヤリとする。


石達が話せる事がバレたのかと、内心ドキドキだ。

やはりティラナが気付いたのだろうか。


しかし当のティラナは、ハーシェルの隣でニコニコしている。


「ちょっと、見せてもらってもいいかい?」


………どうしよう。


でも今のところ、ティラナを助けたとはいえ居候の私が拒否するのは気まずい。


助けを求めて足元の朝をチラリと見る。

すました顔して猫のフリをしている、朝。


でも朝も止めないし、ティラナはニコニコしてるし、多分ハーシェルさんは教会の人だからいい人の筈……!


自分の中で許可する理由を並べ立て、ドキドキしながら腕を差し出した。


………取れないからね、コレ。



私が腕ごと差し出したので、ハーシェルは身を乗り出し私の腕ごと腕輪の確認をし始めた。


上げて、光に当ててみたり、下げて、石の表面を確認したり。

ぐるっと裏側まで見たり。


しばらく確認すると、手を返してくれた。


そうしてじっくり確認したハーシェルが口にしたのは、私に対する忠告だった。



「ヨル。単刀直入に言うと、これだけの石を身につけて外を歩くのは、危ない。」


ハーシェルはここでの石の扱いがとんなものなのか、丁寧に説明し始めた。



まず、子供ができると親が鉱山に行くか「まじない石屋」で、その子の石を用意する。


石は透明度が高い程、高価でまじない力も高く、その子の強い守りにもなってくれるらしい。

この石で、ある程度できる事も違うので選び方が重要だ。


個人のまじない力の強さにもよるらしいが、親は大体子供の石の気配が分かるそうだ。

それでハーシェルは、森の中を探しに来たのだろう。


お金があれば石屋で買うと楽だが、出来るだけいい石をお金をかけずに手に入れたい場合は、鉱山に行くのだそうだ。

鉱山でどんな石が採れるかは自分のまじない力と、運らしい。


「ティラナ、守り石を見せてあげなさい。」


ティラナが首から下げている小さい袋から、石を出して見せてくれた。

髪の色と同じ、赤茶の石だ。

琥珀のような感じの石で、このくらいでも透明度は高い方らしい。


石と子供のまじない力は関係するらしく、出来るだけいい石を手に入れようと、少数のお金持ち以外は皆、鉱山へ行く。


ティラナの髪色は今濃い赤茶だが、年頃になると色が変化する子もいると言う。

変わらない子もいるが、大体親のまじない力と石のまじない力が影響して、石と同じくらいの明度になる。

ティラナの場合だともっと薄い色になる可能性が高いので、この石の明るさを選んだ様だ。

確かに、ハーシェルの髪は薄めのグレーである。


そしてまじない力に拘る家は、結婚相手もまじない力で決めるそうだ。

やはり、強いもの同士が結婚した方が力の強い子供が生まれるという事なのだろう。



「私の石は………。」


自分の腕を見て、何と言っていいか、言葉を切る。


そういう意味の石じゃないんだけど………。

この世界ではアクセサリーとしては使わないのかな??


一人じっと考え込んでいると、ハーシェルは思いの外真剣な顔でまた、話し始めた。


私の呑気な様子を心配しているのか、緑の瞳が翳る。


「正直それだけの透明度の石は、私は見た事がない。職業柄、子供の石について相談される事もあるが、中央の中にもその様な石を持っている者はいないだろう。」


え………?


私がこの腕輪を付けて歩いていると、拐ってくださいと言っている様なものらしい。


更に言えば、あまりにも透明度が高すぎて本物だと思われない可能性が高く、バレた時には即刻殺されて奪われる位の石だそうだ。


「でもこれ、外れないんです。」


私が少し泣きそうになったのを見て、ハーシェルが焦り出した。

ティラナに「お姉ちゃんをいじめないで。」と言われアタフタしている。


その様子を見て少し、ホッとした。

ハーシェルだって、危険を教えてくれているだけなのだ。

脅している訳では、ない。

ただやはり、不測の事態に不安が大きくなる。


すると、いつの間にか隣に座っていた朝がこう言った。


「とりあえず、隠すしかないんじゃない?外すわけにはいかないし、外れないだろうし。」


そんな朝の声が聞こえていない様子の2人。


「服を変えると、どうですかね?」


そう提案すると、ハーシェルは少し考え「少し待っていて」と言って2階へ上がって行った。



実は私が着ているのは半袖のワンピース。

今は丸見えの状態なので長袖を着て、隠せば大丈夫なのではないかと思ったのだ。



2人きりになると、ティラナは目をくりくりさせて楽しそうに尋ねてくる。


「お姉ちゃんもまじない使えるよね?」


うん、気焔の事だよね………。


どう答えたものか迷いつつ、子供に嘘はつきたくないので曖昧に答える。


「私も初めてだったんだけどね………。」

「そうなの?凄かったよ!」


あれだけ派手に炎が出たので、隠す意味がないかと思い2人で盛り上がっていると。

ハーシェルが手にいくつか服を持って、戻ってきた。


「亡くなった妻の服なんだが………。良かったら、着てみるといい。」


「いいんですか?」


躊躇いながら、そっと綺麗に終われていた様子の服を受け取る。


「着てもらった方が喜ぶ。まだティラナは着れないしね。」


そう言ってハーシェルは微笑んだ。


ティラナに「着てもいいかな?」と確認すると、ニッコリ「いいよ。」という。

お言葉に甘えて、着させてもらう事にした。

大人用だから少し大きいけど、ワンピースとブラウスとかなのでなんとかなるだろう。


ただ、着替える前にこれだけは………。


「あの…………お風呂貸してください。」



乙女的には、そろそろ限界なのである。








次回、色気のいの字もない入浴シーン。


の予定。

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