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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
7の扉 グロッシュラー
124/1941

寛げる場所


「遅かったな。」

「うん、そう?」


何処かへ行っているかと思ったけど、意外と律儀に待っていたらしい気焔。

でも差し出した手にある鍵を見て、出掛けたくても出られなかったろう事が分かる。


「ごめんね?」

「いや。分かっていた事だ。」


分かってた割にはしっかり嫌味を言いましたよね?


チロリと睨んでみたけど、勿論効果は無い。

私の頭にポンと手を置くと「部屋に行ってくる。」と立ち上がった。


そういえば?気焔はなんなの?ベイルートさんは新人って言ってたよね?


私の頭の?に応えるように、気焔が捕捉する。

青いローブを見せながら、壁に凭れて話し出した。



「吾輩はそのネイアという教育係の、新人として、いる。元々十二人しかいないらしいが…誰かを消す訳にもいかないから、例外の十三人目だ。まじないで溶け込ませている。まあ、普段は有り得ないだろうがな。」


話しながらチラリと胸元を見る、気焔。


え?もしかしてアレ?山百合?使ったのかな?

…しかも何か物騒な事言ってなかった?


私の目が丸くなった事に構わず、話を続ける。


「青なのは、一番潜り込みやすかったからだ。まあ、下っ端だからお前を迎えに行くという役もやりやすかったしな。もう一人だけ青がいるが、少し何か……気になる奴だ。………まぁ…でもお前はいい。」

「え?何その言っても仕方ないみたいなやつ‥。」

「まぁそう噛み付くな。忘れろ。」


そんな事言っても…。モヤモヤの種だけ蒔くのは止めて欲しいんですけど?


ヒラリとローブを翻して扉の方へ向かい背を向けた、青いフードを見る。

ローブ羽織ると背後からだと判らないな…。


「とりあえず一度、部屋へ戻る。一番身分が高い銀と青の組み合わせだ。あまり一緒にいるのはまずい。何かあれば、呼べ。すぐに来る事は出来るだろう。」

「………分かった。」


不安。


最近、本当にずっと一緒にいたからだろうか。

ここからはあまり一緒にいられない、とこうハッキリ言われてしまうと、分かっていた事だけどそれはずっしりと私の心にのし掛かった。


うん。大丈夫。きっと慣れる。

とりあえず、約束しておけばいい。


「夜は来てね?」

「………分かった。」


そう言って、何だか渋い顔を一瞬した気焔だったが、そのまま部屋を出て行った。




「大丈夫よ。」


そう、朝が言ってくれる迄、しばらくボーッとしていたらしい。

そうだ。お部屋を作るんだった。


ふと我に返り、自分のやる事を部屋の隅に置かれたねこを見て、思い出す。


そうだ。楽しい事、考えようっと!


そうして私はねこから荷物を下ろし始めた。






「まず、ポチッとなじゃない?」

「何それ。」

「まあまあ、見ててよ。」


とりあえず持ってきた荷物を、布団以外はダイニングのテーブルに乗せる。布団はベッドに置いて、まずねこを戻してみたいのだ。

どうやって、この大きなねこが消えるのかとても興味がある。


「いくよ?いい?」

「私はいつでもいいわよ。」


つれない朝の言葉を聞き流しつつ、謎に構えて、その取手の端を、押した。

そう、ポチッと。


音も無く、パッと消えたねこ。


「…………なんか、普通だな?」

「何を期待してたのよ?」


「うん、まあ。うん。」


よく分からないけど、とりあえずいっか。



「何からやる~?ベッドかな?布系?でもな…まず小物からか…。」


既に話を聞いていない朝に、独り言半分で話し掛ける。

しかし私達にとっては、いつもの事。

朝は既に出窓で丸くなっていたし、とりあえずベッドから整える事にした。

ウキウキと独り言を言いつつ、作業開始だ。


「敷布団~♪これってシーツ…ああ、良かった。掛けるタイプね。お布団もフカフカで良かった!寒くはなさそうだね…。ん?………んん?」


そういえば、寒く、ない。


なんで?ここもまじない館なの?

でも気焔もベイルートも何も言ってなかった。

でもな……常識だったら言わないよね?


んー?でもとりあえず、いっか。


今考えても分からないので、保留にしてベットメイキングを始める。

でもそんなに寒くないなら、布団はこれで大丈夫そうだね?あ、そもそも夜は気焔に頼んだんだった。

でも、ずっと居てくれるかは、分かんないんだよね?


またサックリ落ち込みそうになって、慌てて頭を振った。

いかん、私は楽しい部屋作り中。そう。ベッド、ベッド。


そのまま、ベッドを完成させて朝を出窓からベッドへ移動させる。なんだか既にイビキをかいていたから、そっと抱いて移動させた。

朝がイビキをかくのは珍しい。やはり、扉を移動して疲れているのだろう。

煩くしないようにして、また布を広げる。


次は出窓周りだ。


出窓に座っても冷たくないように、フワッとしたウールっぽい生地を敷く。下にも流して足が冷えないようにし、膝掛けも設置。クッションは無かったので、作る用に生地を貰ってきた。

これは隣の棚に入れて置く。


「あ?」


すっかりカーテンの事を忘れていた事に、出窓が完成した後に気が付いた。

そっか………なんか足りないと思ってたら、カーテンか…。


視線を飛ばすと窓の外は、白い、雲。

いや?グレーかな?ちょっと曇り空の、雲だ。


窓は開かないようになっていて出来るだけ周りを見ようとガラスに近づくけれど、やっぱり雲しか見えない。


「じゃあ、いいかな?」


夜、明るくて寝にくかったら考えよう。

気焔に聞けば、付けた方が良ければ教えてくれるかな?この感じだと、外はもう空だよね?


一応、目を凝らしてしばらく見ていたが、何か建物が見える気配は無い。

多分、人が空でも飛ばない限り、見えないのではないだろうか。

まぁ、まじないの世界だから飛ばないとも限らないけどね。実際私達も、飛んで来た訳だし?

そう、一応、気をつけるに越した事はないのだ。


前回油断していて怒られたので、「空に危険は無い」と油断する訳にはいかない。

ま、カーテンは気焔に聞くとして………。

あ。でもやっぱりカーテンレールが、無い。だったら大丈夫かな?


そんな事を考えつつ、仕上がった出窓コーナーを少し離れて眺める。


うん。いいね?


白でまとめられた出窓に、生成りの敷き布、膝掛けはフワフワした白い毛糸で出来た暖かそうなものだ。

クッション用には金糸が入った素敵な白生地と臙脂のモールを貰ってきた。

クッションを縫ったら、縁取りで付けるんだ♪

裁縫が出来る時間が、あるといいけど。


白だけど、暖かく纏められたコーナーに満足してダイニングへ移動する。


食事はしないだろうけど、ちょっとしたお皿とコップ、来客用に同じく食器を見繕ってきた。


お客様、来るかな?お友達も出来るかなぁ?


それも、ちょっと気になる所だ。

しかし譲渡室には結構な品質の食器が沢山あった。

ハーシェルさん、絶対喜ぶよね…。

そう思いつつ、備えあれば憂いなしと、来客用に貰ってきたのだ。まぁ、眺めて楽しみたいのも、ある。クロスを敷いて、簡易キッチンの隣の棚に並べていく。


テーブルにもクロスを掛け、椅子のクッションも後で作るとして…………。


ダイニングにも、窓はある。

やっぱり覗いてみても、雲だけ。

こっちも、このままでいいかな?



そうして貰ってきた物の整理は、大体済んだ。



さて。ここからじゃない?


「フフフ………。」

「なぁに?………怖いわね。」


起きて来た朝に突っ込まれながら、私がやろうとしている事。


寝室に戻り、隠し箱を探る。


「あった。」


そう、ウイントフークに作って貰った、お風呂用の石。これで、完璧なお風呂を作るんだ!


「よっしゃ。どの位の大きさにしよう?」


自分の部屋だから、思いっきりルンルンスキップしながら戻ると何か音が聞こえてきた。



鐘だ。


そうして同時にお腹が鳴った。


「ちょうどいいみたいね?」


朝がクスリと笑いながら言う。


「ごはんだ?」

「そうね。ベイルートは戻って来るかしら?」

「うーん?そういえばいつからいないんだろう?ベイルートさんいないと、どこに行けばいいのか分かんないな…。」


自分のポンコツぶりを嘆きながら、とりあえずベイルートを探そうと部屋を出る。

カチリと鍵を掛けるとポケットに入れて、朝と探してみる事にした。


「下に行ってみようか?」

「そうね。」


多分、予想が外れてなければ深緑の館に食堂はある筈だ。

下に降りるとまた廊下をずっと歩く。

私の部屋は建物の端にあって、入り口は中央辺りにあるからだ。



入り口を出てすぐの所で、一旦立ち止まった。


さて?いいんだよねこっちで。とりあえず行ってみるか…。


向かい側に歩こうかと足を上げると、背後から声がする。

え?私?呼ばれてる?でも知ってる人はいないんだけどな?

……でも、私の事だよね?「銀の君」って言ってるし………?


「銀の君」がむず痒いな、と思いながら振り向く。


そこに立っていたのは、私より少し年上の男の子だった。

ふんわりとした赤毛がフードから出ていて、茶色の瞳に赤のローブ。そしてラインが茶色なもんだから、見事に調和が取れていた。


なにこの、いい感じの人。


本人からも柔らかい雰囲気がする。思わずニッコリして、返事をした。


「銀の、って事は私を呼びましたか?」

「あ、はい。貴女は………新しいセイアですね?」

「はい。」


淡い茶色の瞳を大きく開き、私に尋ねた彼。


なんだか、違和感。んー?


少し、考える。

なんだろな?「君」が「貴女」になったから?それもある。そもそも敬語だよね?私の方が新入りなのに。しかも振り向いたらびっくりしてたし。


んー?…………え?髪?!

大丈夫、付いてる付いてる。

あ、もしかして、男の子だと思ったのかな?


そこまでぐるぐるして、顔を上げた。


するとその赤いローブの男の子はさっきの場所に立ち止まったまままま、ちょっと畏まって私の返答を待っている。


え?ウソ。私何か言わなきゃいけない感じ?

ベイルートさーーーん!

何でいないの?………仕方ない。あの手でいくか。


ちょっと曖昧な笑みを浮かべて、首を傾げてみた。

そう、「ワタクシ何も分かりませんのコトよ?」作戦だ。いや、作戦も何も今、作ったけど。


すると彼は、なんだか楽しそうに笑ってこう言った。


「少し、変わっていると言われませんか?」

「え?…………まあ、たまに…。」


否定出来ない。

まずい。初日から変人確定しそうだよ?こんな時にベイルートさん、どこ行っちゃったんだろう?


キョロキョロしてみるが、飛んで来る気配も無い。

仕方ないので、ちょっと、彼に聞いてみる事にした。きっと、この人もご飯に行くんじゃないかと思ったからだ。


「あの、食堂は何処ですか?私、今日着いたばかりで。」


また、可笑しそうにニッコリしながら彼はこう提案した。

足元で朝が興味深そうにこの赤い人を見ているのが分かる。何か知ってるなら教えて欲しいけど、朝は何も喋らない。


「じゃあ僕と一緒に行きましょう。多分、向こうでも分からない事があるでしょうから。」

「ありがとうございます。助かります。」


彼は私の返答を聞いてまたニッコリ笑うと、「ついて来て」というような動きをして歩き出した。






食堂はやはり深緑の館にあった。


さっきの譲渡室とは反対側の、左に廊下を進む。

すると、開けた場所に出た。

わ…、と言いそうになって慌てて口を塞ぐ。

彼は私の前を歩いているから、バレてない筈。

いかんいかん、大人しくいや、お淑やかにせねば。


でも、大人しくするより難しいよね?お淑やかって。


「今日はお食事をご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」


くるりと振り返った赤いローブの彼は、少しだけ戯けて、そう言ってみせた。

私も頷いて、お願いする。この、広い食堂でどうしたらいいのかが、全く分からないからだ。

きっと教えてくれるつもりでこんな回りくどい事を言っているのだろう。


そう、流石にそろそろ私も気が付いている。

彼は多分、私が銀のローブだからやたらと丁寧に接しているに違いない。

でも、なんとなくお嬢様っぽく無い事はバレているのかもしれない。

普通に喋りたい私は、カミングアウトしたい気分でいっぱいだ。でもまだ、彼がどんな人物か全く分からない。だから、化けの皮が剥がれる迄は一応、フリを続ける事にしたのだ。



頷いて彼にまたついて行くと、メニューやどの皿を取っていいのか等等色々教えてくれる。


カウンターでメインを指定して、サイドは自分で選ぶタイプのバイキングの様な感じだ。

彼に続いてどんどんお皿をトレーに乗せると、最後に指定したメインが用意されていて、それも乗せる。

そのまま席に置くと、「こちらへ。」と案内されたのはドリンクバーだ。


いや、これ完全にドリンクバーよね?

ありがたいけど。ウィールだとお茶しか無かったし?しかも機械のやつ。


ここのドリンクバーは殆ど私達の世界と変わらない。多分、まじない道具のジューサーのような物に、色々な液体が入っているのが見える。


あ!あれアイプだ!


見知った飲み物を見つけて嬉しくなった私は、いそいそとアイプをグラスに注ぎに行く。

満足して席に戻ると、なんだか驚き半分、可笑しさ半分の顔をした彼が椅子を引いて待っていた。


あら。そこまでやってくれるんだ…。逆に落ち着かないな?これ。そっか………ベオ様、ここから来たら「ああ」なのも仕方無いかもね?

うーん。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ。大丈夫です。じゃあ………いただきましょうか?」

「はい。ご一緒出来て光栄です。」


ヤバい。

そろそろサブくなってきた。この後の会話、大丈夫かな?そもそも喋ったら絶対ボロが出るのに、一緒にご飯なんかして大丈夫かな?

まぁ、今更か。


空腹の前には、大した問題では無かった。私的にはだけど。



とりあえずアイプのジュースを飲んで、落ち着く事にする。

うん。美味し~!何だろ?何か、ブレンドしてある、これ。配分教えて欲しい~!

ここも厨房はクマさんかな?いや、無いか…。

メニューは………まぁ普通だね?

でもさ、聞いて?魚があるよ?朝!ちゃんと、食べてるかな?


実は少し心配していたのだが、猫がいる事に対しては、何も注意されなかった。

カウンターで「焼き魚、味付け無し」を頼んだら、ちょっと待たされたけど、出てきたし。

そして朝は、テーブルクロスの下でご飯中だ。

何故かダンマリを決め込んでいる朝は、お皿を下ろすとズイと自分で移動して、下に入って行ったのだ。


とりあえずどうしていいか分からない私は、出来るだけボロが出ないように、話しかけられる迄は食事を堪能する事に、した。



さて、じゃあスープから…う、うまっ!

なんだろ、この味…こっちは…ん?お米っぽいのが入ってる?何だろ、ライスボールみたいなの、ある!朝!米!米かもしれない!

ちょっと分かち合える人いないんだけど…。


この感動を分かち合いたくて、チラリと下を見るけれどまだ朝は出て来ない。仕方が無いので視線を上に戻した。


あ。


気が付くと、向かい側の彼はとてつもなく笑いたいのを我慢している顔をしている。

ヤバい。ちょっと、素だった。いや、全然、取り繕ってなかったな?

え?ヤバい?私、ピンチ?


ちょっと誤魔化すように曖昧に微笑むと、ぐるぐるする為に下を向いた。

すると足元がキラリと光るのが目の端に映る。


「お前、大丈夫か?!」


あ。だいじょばないです。はい。



お説教を聞く前に、この状況をどう打破すべきかを教えてくれるといいなぁ、なんて思いながら、もう一口ライスボールをひょいと、口に運んだ。

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